Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/7(木)フランクフルト放送響/ヒラリー・ハーンの迸るメンデルスゾーンVn協奏曲とブルックナー8番

2012年06月11日 01時36分52秒 | クラシックコンサート
フランクフルト放送交響楽団 2012年日本公演

2012年6月7日(木)19:00~ サントリホール・大ホール S席 1階 2列 21番 17,000円(会員割引)
指 揮: パーヴォ・ヤルヴィ
ヴァイオリン: ヒラリー・ハーン*
管弦楽: フランクフルト放送交響楽団
【曲目】
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
《アンコール》
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から「グラーベ」*
 J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から「アレグロ」*
ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調(ノヴァーク第2稿版)

 昨日に続いて、パーヴォ・ヤルヴィさんの指揮するフランクフルト放送交響楽団の来日公演を聴く。今日のゲスト・ソリストはヴァイオリンのヒラリー・ハーンさんで曲はメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲である。後半のメイン曲はブルックナーの交響曲第8番。ノヴァーク第2稿版での演奏である。

 さて今日はソリスト正面の2列目で聴くことになったが、前列に座っておられた方が小柄だったおかげで、ハーンさんの演奏する姿が遮られることなく見えた。もちろん、音は残響音なしでダイレクトに届く至近距離。ナマの音をたっぷりと体感できた次第である。
 誰かが言っていたのだが「ヒラリー・ハーンで今さらメンデルスゾーンなんて…」。つまり曲がポピュラーすぎて新鮮味がない、というような意味だ。むしろ私としては、知り尽くしたこの曲を、ハーンさんがどのように料理して「新鮮味」を出してくれるかが期待のポイントだったのである。
 ハーンさんは、昨年の来日予定は東日本大震災の影響で中止となってしまったために、2010年6月のフィルハーモニア管弦楽団の来日公演でチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いて以来、2年ぶりとなった。そんな彼女も、もう32歳。演奏家としてはもっとも充実した年齢ではないだろうか。どんな演奏を聴かせてくれるのだろうか。

 曲はやや遅めのテンポで始まった。主題をソロ・ヴァイオリンが固い調子で弾き始める。そして曲が進むにつれてテンポが上がって行き、徐々に協奏の緊張が高まって行く。ハーンさんのヴァイオリンはけっこう鋭い音だ。その音色は緊張感が高いもので決して柔らかい音ではない。協奏曲のためにある程度以上の大きな音を出す必要もあるので、弓を強く張っているのだろうか。音が固いのはやむを得ないがけっしてギスギスした感じでもなく、豊かな音量で思ったより押し出しの強い演奏。トーンを落とすべき第2主題でも、弱音ながら、立ち上がりの鋭い音で、甘い感傷を許さない。芯が強く、なにものにも妥協しないぞ、という主張が込められている感じだ。
 ハーンさんの演奏は、ひとつひとつの音が、アクセントが前に置かれているという感じがする。要するにキリッと立ち上がる弾き方で、フワリとした柔らかさは感じられないが、明瞭で引き締まっていて、キレ味が鋭い。それでも微妙なニュアンスの付け方が美しく、音質に豊かさが感じらるところがとても素敵だ。
 また、曲全体を通して、1拍目の入りが早く突っ込みがちになる。オーケストラよりもほんのわずか前に出る。その瞬間瞬間の繰り返しがヤルヴィさんをあわてさせ(?)、結果的に終始オーケストラをリードしている印象だった。
 さらに旋律の歌わせ方にも独特のフレージングがある。テンポの揺らぎも自由闊達で、演奏表現は意外に伸び伸びとした印象でもある。一見して自由度の高い演奏だが、わがままに演奏しているわけではなく、天性のものなのか、計算し尽くされた結果なのかは定かではないが、曲の持つ枠組みを多少はみ出してでも、瞬間に湧き上がってくる感性のまま演奏しているように感じられた。そしてそれがハッとするほどの新しさがあり、名曲の演奏も、どんどんこういった新しい演奏スタイルを盛り込んでいけば、とても新鮮なものになるのだと思った。
 一方のヤルヴィさんは、この曲に関してはサポートに徹していたようだ。いかに協奏曲といえども、この名作はいかにもドイツらしい憂愁と浪漫に満ちたシンフォニックな響きを持っている。フランクフルト放送響という、この上なく豊潤でドイツ的なサウンドのオーケストラを、極限まで抑制してソロ・ヴァイオリンを浮かび上がらせつつ、要所要所でドーンと聴かせてくれるオーケストラ・ドライブは見事なものだ。
 今日の演奏は、独奏ヴァイオリンとオーケストラが1対1の比率でぶつかっていたというイメージでもあった。ぶつかるといってもそれぞれが戦闘的なわけではない。芸術的精神の発露を楽しみつつ、共演者とはがっぷり四つに組む。音楽を演奏する楽しさが、両者のエネルギーがぶつかり、あるいは程良く混ざり合って、至福の音楽空間を生み出していたといっていいだろう。ハーンさんも、演奏中に時折笑顔も見せたりし、本当に楽しそうな演奏であった。そして2年前とは違って、今日はパッション溢れる熱い演奏でもあった。それは聴衆にも確実に伝わって、Brava!!の声もとても多かったのである。
 鳴り止まない拍手に応えて、アンコールはお得意のバッハの無伴奏ソナタから2曲も。日本語(?)で曲名を伝えるのもお馴染みの光景である。前半はハーンさんの一人舞台だった。

 後半は、ブルックナーの交響曲第8番。ここでまた力尽きてしまったので、簡略なレビューでご勘弁を。
 もともとブルックナーの交響曲第8番はあまりよく知らない曲でもあり、聴く機会も少なかった。昨年2011年6月、ダニエル・ハーディングさんの指揮する新日本フィルの演奏を聴いて以来の1年ぶりである。インタビューに答えてヤルヴィさんは、この曲は「他のブルックナーの交響曲とは性格が違う」と語っている。他の曲は神に捧げられた信仰心が強いものであるのに対して、8番は7番の成功を受けて、万民(聴く人)に愛される曲作りを目指したのだという。…素人の私にはその辺の分析は分からないが、さてさて、曲自体は他の交響曲とそれほど違うようには思えないのだが…。
 同じような音形のフレーズ(というかモチーフというべきか)が無限旋律のように繰り返され、徐々に変貌を遂げ、大きなうねりのような壮大な曲の流れが延々と続く。とにかく何度聴いても、そんなイメージの曲だ。今回演奏されるのは「ノヴァーク第2稿版」。第1稿版よりは短いというが、やはりこの曲は長い。早めのテンポで演奏されたとしても、とにかく長い。いや、そう感じるのである。この日、同会場で聴いていた友人達も皆「いや~、長かったね」というのが最初の感想だった。繰り返しの多い無限旋律のような曲だから、心理的に余計に長く感じるのだ。実際の演奏は75分くらいで、普通よりは短かったそうだが…。
 演奏の方は、何もいうことはない、素晴らしいものであった。壮大にして華麗なオーケストレーションの醍醐味を味わわせてくれた。3管編成+ホルン8本から繰り出される管楽器群の分厚い咆哮は、音圧となって伝わってきた。大音量ではあっても音質は乱れることがなく、極めてクリアなサウンド、晴れやかな金管である。それにからまる弦楽の分厚いアンサンブルも見事で、全体のバランスも素晴らしい。金管が時折揺れるように感じられたのやはりワグナー・チューバで、まあこれは、それが特性だと思えば味わいの内である。
 この大曲を、見事なオーケストラ・ドライブで熱演したヤルヴィさんは、本当に全身全霊を傾けての演奏であったらしく、終了後はかなり疲れたご様子。従って、アンコールもなかった。もっともこれだけの大曲の熱演に対して、アンコールなど不要である。

 終演後は例によってサイン会。今日も二手に分かれてということらしい。私はハーンさんの方に並び、今日の曲目であるメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を収録したCDのジャケットにサインをいただいた。「アリガトウゴザイマス」と一人一人に日本語で語りかけてくれるのも、お馴染みの光景だ。

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