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アフタヌーン・コンサート・シリーズVol.7 美しき女神たちの饗演!
川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ
2012年2月15日(水)14:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 2列 15番 4,300円(会員割引)
ヴァイオリン: 川久保賜紀
チェロ: 遠藤真理
ピアノ: 三浦友理枝
【曲目】
エルガー:愛の挨拶(ピアノ・トリオ版)
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(編曲: 山田武彦)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出」
《アンコール》
ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番(ピアノ・トリオ版)
ジャパン・アーツ主催のアフタヌーン・コンサート・シリーズVol.7は、「美しき女神たちの饗演!」と題して川久保賜紀さん・遠藤真理さん・三浦友理枝さんのトリオの登場である。曲の合間に3人がマイクを持ってのご挨拶&若干のトークがあり、3人がおっしゃるには「トリオで東京でのコンサートは初めて」とのこと。…え? まさか。何度も聴いているのに…。しかし、よくよく考えてみると、2009年のトリオ結成時、CD「RAVEL」をリリースした際に、東京銀座の山野楽器の店内イベント(ミニ・コンサート)で聴いただけで、その他は2010年7月のサンシティホール(埼玉県越谷市)や、2010年10月のフィリアホール(神奈川県)など、いずれも東京ではなかったのである。トリオのコンサートでなければ、2011年1月の東京フィルハーモニー交響楽団との共演でベートーヴェンの三重協奏曲を演奏しているし(文京シビックホール/響きの森シリーズと東京フィル午後のコンサートシリーズ)、2011年8月には読売日本交響楽団の「3大協奏曲」と「みなとみらい名曲シリーズ」で、各自が同じ日に協奏曲を演奏しているが、これらは3人が共演しているだけで、トリオのコンサートというわけではなかった。
というわけで、しばしば「女神(ミューズ)トリオ」と呼ばれるこの3人による都心での初の単独コンサートは、東京オペラシティで平日のマチネーであった。1階の後方には空席があったものの、平日の午後にしてはよく入っていたと思う。
いつもドレスをカラー・コーディネートしてくる3人だが、今日は赤。若干の色の違いが美しいグラデーションになって、見た目にも最強の美女トリオがより一層華やいで見える。にこやかな表情も会場を明るくしてくれる。
さて、1曲目はエルガーの「愛の挨拶(ピアノ・トリオ版)」。この曲はサンシティホールでも聴いた。本当に挨拶のような感じで、優しくほほえみかけるような演奏である。以前よりも遠藤さんがまろやかになったような気がする。3人のトーンがほどよく合っていて、結成以来3年以上の時を経て、熟成してきたといった風情だ。
2曲目はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。こちらはフィリア・ホールで聴いている。このトリオの最初のテーマがラヴェルだったから、CDにも収録されているし、技巧ではなく表現重視の編曲である。演奏は3人の息がぴったり合って、繊細優美、とてもエレガントな演奏である。
前半の最後は、ラヴェルの「ピアノ三重奏曲 イ短調」。これまで、このトリオが常にメイン・プログラムにしてきた曲であり、今日が集大成というところだろうか。3人の役割どころはあまり変わっていない。遠藤さんのチェロが時折グンと突っ込みをいれるが、それを川久保さんのヴァイオリンが優しく受け止め、三浦さんのピアノは控えめに二人を支えるといったところ。遠藤さんの伸び伸びした明るい音色は相変わらずで、聴いていても気持ちが良い。また、川久保さんのヴァイオリンは、いつものように流麗でエレガント。演奏している時の表情が豊かで、微笑みを浮かべたり、眉をひそめたり、曲の表情がそのまま現れている。三浦さんはよく見えない位置だったが、ピアノの音の透明感はこの人ならではのもの。
曲の全体を通して、女性的な優しさに溢れた演奏で、尖ったところがなく上品であったが、音楽の構成は緻密であり、アンサンブルの精度も高い。よく弾き込まれた素晴らしい演奏であった。
後半はチャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出」のみ。とはいっても演奏時間50分に及ぶ大曲であるために、4大ピアノ三重奏曲に数えられる名曲ではあっても、あまり聴く機会(演奏機会)のない曲だ。長大な曲ではあるが、けっして退屈するようなことはなく、憂愁を帯びた叙情的な旋律が美しい。2つの楽章から成り、第1楽章は伝統的なソナタ形式を採るが20分に及ぶ。第2楽章は変奏曲形式になっていて、まずピアノで主題が提示され、ヴァイオリンへ、チェロへと変奏しながら引き継がれていく。短調に転調したり、ワルツのリズムになったり、バロック風になったりと、曲自体は古典的ともいえる変奏曲の展開が続く。最終変奏とコーダが10分に及び、第3楽章に位置づけてもよいほど充実した内容を持つ。標題にある「偉大な芸術家」とはチャイコフスキーの親友だったニコライ・ルビンシテインのことで、その死を悼んで作曲されたものである。
この女神トリオは結成以来およそ3年、全国をコンサートで回り、NHK-BSプレミアムでのテレビ放送もあったりしたが、最後の東京でのコンサートに臨んで、チャイコフスキーのこの大曲に取り組んだということは、いよいよラヴェルを卒業(?)して、次なるステップに踏み出したということだろう。今日が本邦初公開だという。結論から言ってしまえば、初公開という意気込みも手伝ってか、ラヴェルのトリオよりもこちらの曲の方がより熱の入った演奏だったといえる。3人とも音のダイナミックレンジが大きくなり、全体に力感が漲る演奏になった。
第1楽章は、憂いのある第1主題を中心に、3人のアンサンブルの呼吸がピッタリと合い、ダイナミックに音楽を構成している。歌うような旋律の美しさがラヴェルとはかなり味わいの違った
第2楽章は、変奏(バリエーション)の展開によって、ヴァイオリンもチェロもピアノも様々な色彩感を描き出していた。楽しいこと、悲しいこと、嬉しいことなど、「偉大な芸術家」の生涯における様々な感情が次々と、明瞭な音色の違いで描き分けられて行く。基本的には明朗闊達な遠藤さんのチェロも、時には湿り気を帯びて哀愁を誘う。流麗な川久保さんのヴァイオリンは、様々な曲の表情を映像的に描いているようでもあり、聴き方によっては純音楽的な緻密な構造感も持ち合わせている。三浦さんのピアノはすっと控え目でいたが、最終変奏では目が覚めたような輝かしい音色で存在感を主調した。
確かに、室内楽としては長い曲だと思うし、ヘタな演奏だと聴くのも大変かもしれないが、今日のトリオは、まったく飽きさせることもなく、緊張感を保ちながら、暗くなりがちなところを持ち前の華やかな演奏で、非常に充実した演奏だったと思う。3人にBravi!!を送ろう。
アンコールは「お疲れのところを…」という三浦さんのお言葉通りに、ブラームスのハンガリー舞曲 第6番を。
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終演後のサイン会は、随分多くの人が並んだ。3人それぞれに固定ファンがいっばいいるし、トリオとしての完成度の高さが、とくにチャイコフスキーの演奏は存在感抜群で、新たに多くのファンを獲得したに違いない。昨年2011年11月にリリースされた川久保さんのワシントンでのライブCDにサインをいただいた。また、遠藤さんには「サリー・ガーデン」というCDにサインしていただいた。三浦さんは今回はゴメンナサイ。川久保さんには、プリントした写真にもサインしていただき、こちらは額に入れて飾ることにしよう。
平日のマチネーという禁断の音楽会。皆さんが働いている時間に、このような女神トリオの音楽を、目の前たっぷり2時間も堪能することができるなんて、これほど幸せなことはない。とても素敵な午後だった。
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川久保賜紀・遠藤真理・三浦友理枝トリオ
2012年2月15日(水)14:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 2列 15番 4,300円(会員割引)
ヴァイオリン: 川久保賜紀
チェロ: 遠藤真理
ピアノ: 三浦友理枝
【曲目】
エルガー:愛の挨拶(ピアノ・トリオ版)
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ(編曲: 山田武彦)
ラヴェル:ピアノ三重奏曲 イ短調
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲 イ短調 作品50「偉大な芸術家の思い出」
《アンコール》
ブラームス: ハンガリー舞曲 第6番(ピアノ・トリオ版)
ジャパン・アーツ主催のアフタヌーン・コンサート・シリーズVol.7は、「美しき女神たちの饗演!」と題して川久保賜紀さん・遠藤真理さん・三浦友理枝さんのトリオの登場である。曲の合間に3人がマイクを持ってのご挨拶&若干のトークがあり、3人がおっしゃるには「トリオで東京でのコンサートは初めて」とのこと。…え? まさか。何度も聴いているのに…。しかし、よくよく考えてみると、2009年のトリオ結成時、CD「RAVEL」をリリースした際に、東京銀座の山野楽器の店内イベント(ミニ・コンサート)で聴いただけで、その他は2010年7月のサンシティホール(埼玉県越谷市)や、2010年10月のフィリアホール(神奈川県)など、いずれも東京ではなかったのである。トリオのコンサートでなければ、2011年1月の東京フィルハーモニー交響楽団との共演でベートーヴェンの三重協奏曲を演奏しているし(文京シビックホール/響きの森シリーズと東京フィル午後のコンサートシリーズ)、2011年8月には読売日本交響楽団の「3大協奏曲」と「みなとみらい名曲シリーズ」で、各自が同じ日に協奏曲を演奏しているが、これらは3人が共演しているだけで、トリオのコンサートというわけではなかった。
というわけで、しばしば「女神(ミューズ)トリオ」と呼ばれるこの3人による都心での初の単独コンサートは、東京オペラシティで平日のマチネーであった。1階の後方には空席があったものの、平日の午後にしてはよく入っていたと思う。
いつもドレスをカラー・コーディネートしてくる3人だが、今日は赤。若干の色の違いが美しいグラデーションになって、見た目にも最強の美女トリオがより一層華やいで見える。にこやかな表情も会場を明るくしてくれる。
さて、1曲目はエルガーの「愛の挨拶(ピアノ・トリオ版)」。この曲はサンシティホールでも聴いた。本当に挨拶のような感じで、優しくほほえみかけるような演奏である。以前よりも遠藤さんがまろやかになったような気がする。3人のトーンがほどよく合っていて、結成以来3年以上の時を経て、熟成してきたといった風情だ。
2曲目はラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」。こちらはフィリア・ホールで聴いている。このトリオの最初のテーマがラヴェルだったから、CDにも収録されているし、技巧ではなく表現重視の編曲である。演奏は3人の息がぴったり合って、繊細優美、とてもエレガントな演奏である。
前半の最後は、ラヴェルの「ピアノ三重奏曲 イ短調」。これまで、このトリオが常にメイン・プログラムにしてきた曲であり、今日が集大成というところだろうか。3人の役割どころはあまり変わっていない。遠藤さんのチェロが時折グンと突っ込みをいれるが、それを川久保さんのヴァイオリンが優しく受け止め、三浦さんのピアノは控えめに二人を支えるといったところ。遠藤さんの伸び伸びした明るい音色は相変わらずで、聴いていても気持ちが良い。また、川久保さんのヴァイオリンは、いつものように流麗でエレガント。演奏している時の表情が豊かで、微笑みを浮かべたり、眉をひそめたり、曲の表情がそのまま現れている。三浦さんはよく見えない位置だったが、ピアノの音の透明感はこの人ならではのもの。
曲の全体を通して、女性的な優しさに溢れた演奏で、尖ったところがなく上品であったが、音楽の構成は緻密であり、アンサンブルの精度も高い。よく弾き込まれた素晴らしい演奏であった。
後半はチャイコフスキーの「偉大な芸術家の思い出」のみ。とはいっても演奏時間50分に及ぶ大曲であるために、4大ピアノ三重奏曲に数えられる名曲ではあっても、あまり聴く機会(演奏機会)のない曲だ。長大な曲ではあるが、けっして退屈するようなことはなく、憂愁を帯びた叙情的な旋律が美しい。2つの楽章から成り、第1楽章は伝統的なソナタ形式を採るが20分に及ぶ。第2楽章は変奏曲形式になっていて、まずピアノで主題が提示され、ヴァイオリンへ、チェロへと変奏しながら引き継がれていく。短調に転調したり、ワルツのリズムになったり、バロック風になったりと、曲自体は古典的ともいえる変奏曲の展開が続く。最終変奏とコーダが10分に及び、第3楽章に位置づけてもよいほど充実した内容を持つ。標題にある「偉大な芸術家」とはチャイコフスキーの親友だったニコライ・ルビンシテインのことで、その死を悼んで作曲されたものである。
この女神トリオは結成以来およそ3年、全国をコンサートで回り、NHK-BSプレミアムでのテレビ放送もあったりしたが、最後の東京でのコンサートに臨んで、チャイコフスキーのこの大曲に取り組んだということは、いよいよラヴェルを卒業(?)して、次なるステップに踏み出したということだろう。今日が本邦初公開だという。結論から言ってしまえば、初公開という意気込みも手伝ってか、ラヴェルのトリオよりもこちらの曲の方がより熱の入った演奏だったといえる。3人とも音のダイナミックレンジが大きくなり、全体に力感が漲る演奏になった。
第1楽章は、憂いのある第1主題を中心に、3人のアンサンブルの呼吸がピッタリと合い、ダイナミックに音楽を構成している。歌うような旋律の美しさがラヴェルとはかなり味わいの違った
第2楽章は、変奏(バリエーション)の展開によって、ヴァイオリンもチェロもピアノも様々な色彩感を描き出していた。楽しいこと、悲しいこと、嬉しいことなど、「偉大な芸術家」の生涯における様々な感情が次々と、明瞭な音色の違いで描き分けられて行く。基本的には明朗闊達な遠藤さんのチェロも、時には湿り気を帯びて哀愁を誘う。流麗な川久保さんのヴァイオリンは、様々な曲の表情を映像的に描いているようでもあり、聴き方によっては純音楽的な緻密な構造感も持ち合わせている。三浦さんのピアノはすっと控え目でいたが、最終変奏では目が覚めたような輝かしい音色で存在感を主調した。
確かに、室内楽としては長い曲だと思うし、ヘタな演奏だと聴くのも大変かもしれないが、今日のトリオは、まったく飽きさせることもなく、緊張感を保ちながら、暗くなりがちなところを持ち前の華やかな演奏で、非常に充実した演奏だったと思う。3人にBravi!!を送ろう。
アンコールは「お疲れのところを…」という三浦さんのお言葉通りに、ブラームスのハンガリー舞曲 第6番を。
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終演後のサイン会は、随分多くの人が並んだ。3人それぞれに固定ファンがいっばいいるし、トリオとしての完成度の高さが、とくにチャイコフスキーの演奏は存在感抜群で、新たに多くのファンを獲得したに違いない。昨年2011年11月にリリースされた川久保さんのワシントンでのライブCDにサインをいただいた。また、遠藤さんには「サリー・ガーデン」というCDにサインしていただいた。三浦さんは今回はゴメンナサイ。川久保さんには、プリントした写真にもサインしていただき、こちらは額に入れて飾ることにしよう。
平日のマチネーという禁断の音楽会。皆さんが働いている時間に、このような女神トリオの音楽を、目の前たっぷり2時間も堪能することができるなんて、これほど幸せなことはない。とても素敵な午後だった。
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予習なしでも十分に楽しめるとても素敵な曲ですよ。ちょっと長いですけど…。