Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/26(水)ドレスデン・フィル/ザンデルリンク+川久保賜紀+上原彩子でドイツの2大協奏曲を快演

2013年06月29日 01時44分46秒 | クラシックコンサート
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団 2013年 日本公演
Dresdner Philharmonie / Japan Tour 2013


2013年6月26日(水)19:00~ 東京オペラシティコンサートホール S席 1階 3列 14番 12,000円(夢倶楽部割引/最前列)
指 揮: ミヒャエル・ザンデルリンク
ヴァイオリン: 川久保賜紀*
ピアノ: 上原彩子**
管弦楽: ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「エグモント」序曲
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64*
《アンコール》
 クライスラー:「レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース 作品6」より「スケルツォ・カプリース」*
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第5番 変ホ長調 作品73「皇帝」**
 クライスラー/ラフマニノフ編:「愛の悲しみ」**

 ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団は、2011年の来日公演ツアーが東日本大震災の影響で中止になってしまったため、その2年後に実現したのが今回の来日である。指揮するのは2011/2012年シーズンから首席指揮者に就任したミヒャエル・ザンデルリンクさん。名匠クルト・ザンデルリンクさんのご子息であり、元はチェロ奏者としてベルリン放送交響楽団の首席などを務めていたが、現在は指揮者に転向している。中止になった2011年の来日公演は、指揮者はラファエル・フリューペック・デ・ブルゴスさんの予定であり、川久保賜紀さんもソリストとして参加することになっていた。その公演も1階の最前列のチケットを持っていたので非常に残念な思いをしたと記憶している。
 そして実現した今回のツアーでは、川久保さんに加えて上原彩子さんもソリストとして参加することになり、一層華やかなツアーとなった。2013年6月20日を皮切りに、山口、東京/武蔵野市、東京/江戸川区、所沢、東京/サントリーホール、東京/オペラシティ、東京/昭和女子大学(非公開)、奈良、大阪と、会わせて9公演が行われる。
 中でも今日の公演は、二人のソリストが登場する「協奏曲の夕べ」とでも呼ぶべきプログラムであり、ドレスデン・フィルの魅力がどれくらい発揮できるかは別として、日本を(いや世界を)代表するヴァイオリンとピアノのトップ演奏家が共演するという超豪華版プログラムだ。川久保さんの大ファンであると自認する私としては、もちろん上原さんも大好きなビアニストのひとりであり、当然のごとくというか、いつもの通りというべきか、最前列ソリスト正面の席を発売日に確保して、ずっと楽しみに待ち焦がれていた今日のコンサートというわけだ。
 ご承知のように、川久保さんと上原さんは、2002年のチャイコフスキー国際コンクールでヴァイオリンとピアノのそれぞれの部門で最高位を獲得した。その後お二人は共演することがなく、初共演となったのがコンクールから10年後の昨年2012年6月26日(ちょうど1年前!)、お二人のデュオ・コンサートだった。今日は別のカタチだが、2度目の共演(いや競演?)となった。

 1曲目はベートーヴェンの「エグモント」序曲。ベートーヴェンの永遠のテーマである「苦悩を通じての歓喜」をギュッと凝縮した傑作である。重々しい「苦悩」の序奏に始まり、思索的に第1主題と「歓喜」を想起させる第2主題で構成されるソナタ形式がしっかりとした構造感を打ち出し、相反するテーマが解決されていく再現部を過ぎると、コーダは華やかな「歓喜」に包まれる。
 スラリとした長身のザンデルリンクさんは、長い手足(?)を使ってこの長い歴史を持つオーケストラを、ごく自然な感じでドライブしている。古典的というか伝統的な解釈と言うべきか、この曲はこういう風に演奏すべき、という誰しもが思い浮かべられるような自然さがある。
 そして特徴のひとつにオーケストラの配置がある。第1と第2のヴァイオリンを対向に配置し、第2ヴァイオリンの奥にヴィオラ、第1ヴァイオリンの奥にチェロ、その後方にコントラバスがいる。ザンデルリンクさんによれば、これはベートーヴェンの時代の配置であり、ベートーヴェン自身がこの配置を前提に曲を作っているはずだということと、この配置だと向かって左側には高音部と低音部が集まり、右側に配置された内声部(第2ヴァイオリンとヴィオラ)が浮き上がり立体的になるという。ベートーヴェンを演奏する時はいつもこの配置にするそうである。
 もう一つはオーケストラの音色が良い。ちょっとくすんだ、いかにもドイツの伝統を色濃く残したサウンド。いわゆる「燻し銀」というやつだ。その根源のひとつに弦楽器群がヴィブラートをかなり少なめに演奏していることがあるようだ、これにより弦楽が艶のない音色になり渋く聞こえるのである。また指揮法も伝統的なタイプで、指揮者のタクトに対して半拍遅れて演奏されるような感じ。これによりピッタリ合わなくなるからこそまろやかなアンサンブルが生まれるのである。
 オーケストラだけの曲は「エグモント」序曲のみだったので、結果的には、この曲が今日のコンサートの中で最もドレスデン・フィルらしさを現すことになった。

 2曲目は川久保さんをゲスト・ソリストに迎えてのメンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲」である。川久保さんによるこの曲の演奏は、2年前の夏、2011年8月19日20日、読売日本交響楽団の恒例の「三大協奏曲」の時に聴いて以来となる。
 鮮やかなブルー系(群青色とでもいうべきか)のドレスで登場した川久保さんは、いつものようににこやかでエレガントな佇まいだ。やがて曲が始まる。第1楽章、哀愁を帯びた旋律が川久保さんのヴァイオリンから流れ出る。いつものように、艶やかで流麗な響きが際立ち、オーケストラの音の中からくっりと明瞭に主題が浮かび上がってくる。テンポはやや速めというところか。快調なテンポとリズム感で、音楽性は若々しいイメージだが、それに対比してオーケストラの音は「燻し銀」の渋さが増している。見れば、弦楽はほとんどノン・ヴィブラートで演奏している。若さと渋さが同居したような感じ。それと協奏する川久保さんのヴァイオリンは、逆に1音1音に細やかにヴィブラートがかけられていて、女性的な柔らかさが特徴的な艶っぽい音色。この色彩感の違いが、独奏ヴァイオリンとオーケストラとの間で明瞭な対比となって描き出されていた。
 第2楽章もやや速めだろうか。淡々としたテンポと渋いオーケストラの音の中で、川久保さんは感傷的な旋律をむしろサラリと弾いて行く。過度に思い入れを含ませるようなことはない。しかし旋律の流れに沿って、こまやかなニュアンスが与えられ、サラリとしているようで抑制されたロマンティシズムが描き出されて行く。ここでも独奏ヴァイオリンはクッキリと明瞭にオーケストラを従えている。
 第3楽章の軽妙で諧謔的な主題では、弓が弾むような躍動感を打ち出してくる。弱音でありながらもキレ味鋭く弾くかと思えば、所々にハッとするとようアクセントを付けて、彩りを鮮やかにする。上昇下降を繰り返す装飾的な速いパッセージも、川久保さん特有の流れるようなレガートで、まさに「流麗」な音楽。コーダに入ってテンポが上がり、低音部から一気に駆け上がるフィニッシュも、音を荒らすことなく、秘めたる情熱を感じさせる大人のエレガンスであった。
 今日の演奏は、ノン・ヴィブラートの渋い弦楽と独奏ヴァイオリンの艶やかな音色の対比が見事に構築されていて、ザンデルリンクさんの音楽性に非凡なものを感じた。川久保さん自身はそれほどいつもと違った弾き方をしているようには見えなかったが、オーケストラとの対比によって、女性的なエレガントさや抒情性の豊かさが浮き彫りになり、やはり最後は川久保さんでなければ出せない華のある音楽になっていた。贔屓の引き倒しと言われるかもしれないが、やはりBraaava!には違いない。
 川久保さんのアンコールは、クライスラーの「レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース」の後半部分の「スケルツォ」。協奏曲の日のアンコールに時々聴かせてくれる曲だ。わずか2分程度だが、超絶技巧を楽しませてくれる。今日はオール独墺系のプログラムなので、クライスラーということなのだろう。


 後半は、上原さんをソリストに迎えて、ベートーヴェンの「皇帝」。豪壮でシンフォニックなこの名曲ではあるが、今日のドレスデン・フィルの演奏スタイルだといったいどういう風になるのか、興味津々である。ザンデルリンクさんの音楽作りは、スタンダードなテンポ感で安定している。ところが全体の雰囲気は若々しく新鮮な印象なのだ。その指揮で、オーケストラは「燻し銀」の音色を出す、モダン楽器でピリオド奏法っぽい演奏する。伝統と新鮮さが一緒になったような感じである。それと協奏する上原さんのピアノといえば、豪快かつ繊細なヴィルトゥオーソ的なところがある。さてさて…。
 第1楽章は、冒頭のオーケストラの和音がいかにもドイツっぽい渋い音で、それに続くピアノのカデンツァは金属的な硬質な音色で、いかにも現代的である。この対比も面白い。オーケストラのみによる雄壮な主題提示も今日の特徴的な演奏スタイルで新鮮な感じがする。提示部が終わり階段を駆け上るようにピアノが入ってくると、空気が一変して現代的な音楽世界になる。硬質でダイナミックレンジの広いピアノ。縦横無尽に鍵盤上を上原さんの指が駆け巡る。体重を乗せた重低音も、ただ重いだけでなく、立ち上がりの鋭い音で非常に明瞭に響くし、高音部での弱音の分散和音などの煌めき感など、上原さんのピアノの表現の幅は広く多彩である。
 第2楽章の緩徐楽章では、弱音器を付けた弦楽のモヤーっとした音が、ウィーンの音楽に比べていかにもドイツ的。またそこに乗るピアノが、美しい旋律を繊細な弱音で美しく弾く。この感じは女性的なロマンティシズムとでもいうべきか、男性ピアニストでは出せない味わいである。
 第3楽章のロンド主題になると、俄然ピアノのパワーが宿り、重低音を豪快に鳴らしながら、ハギレの良いリズム感で、上原さんがオーケストラを引っ張って行く。この楽章は最後まで上原さんがノっていて、素晴らしい演奏を叩き出した(まさに叩き出したというイメージ)。最前列ソリスト正面の役得だと思うが、今日の上原さんの乗りの良さが良く分かった。旋律を口ずさみながら演奏している内に、歌い出した声までもが聞こえたくらいである。
 上原さんの力感溢れるダイナミックな演奏とは裏腹に、カーテンコールの時ははにかんだような笑顔で楚々とした振る舞い。このギャップも彼女の魅力のひとつだ。
 上原さんのアンコールもクライスラーから。ラフマニノフ編曲による「愛の悲しみ」。あたかもジャズのような即興制に富んだ洒脱な編曲の曲を、サロンで弾いているような粋な演奏でコンサートを締めくくった。

 終演後は恒例のサイン会。今日はザンデルリンクさんも参加して下さり、川久保さんと上原さんと3人が並んで華やかなサイン会となった。CDは全部サイン入りのものを複数枚持っているので、プログラムに3人のサインを、川久保さんには写真にサインしていただいた。あまり大勢並ぶこともなかったので最後まで待っていて、川久保さんに記念写真を撮らせていただいた。初めて川久保さんとのツーショットも撮らせていただいたが、コチラはもちろん非公開です。


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1 コメント

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奈良公演から帰宅しました (こみ)
2013-06-29 15:42:22
同じく最前列で川久保さん聴きましたよ。因みにサイン会無しでした。
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