【 閑仁耕筆 】 海外放浪生活・彷徨の末 日々之好日/ 涯 如水《壺公》

古都、薬を売る老翁(壷公)がいた。翁は日暮に壺の中に躍り入る。壺の中は天地、日月があり、宮殿・楼閣は荘厳であった・・・・

現代の探検家《田邊優貴子》 =70=

2017-03-02 10:11:34 | 冒険記譜・挑戦者達

○◎ Great and Grand Japanese_Explorer  ◎○

○ 北極・南極、アァー 素敵な地球のはて =田邊優貴子=  ○

= WEB マガジン ポプラビーチ powered by ポプラ社 より転載 =

◇◆ ラングホブデをあとにして = 2/3 = ◇◆

  さて、今日は久しぶりの風呂だ。そう思うとなんだか口元が緩んでしまう。 楽しみでしかたないのだ。 風呂など、昨日まではどうでもよかったのだが、いざ、もうすぐ入れるとわかると、かなり待ち遠しい。 きっと、他の二人もそう思っているに違いない。 しかし、それよりももっと楽しみなことが私にはあった。 それは、明後日から1か月間滞在する、スカルブスネス露岩域へ行けることだ。

  スカルブスネスは、ラングホブデよりもさらに南、昭和基地から約60kmの位置にあって、この昭和基地周辺にいくつかある露岩域のなかで最も広い。 スケールの大きさ、観測小屋から見える景色、いくつも点在する湖。 どれをとっても素晴らしく、ワクワクする。 私が一番好きなエリアである。

 迎えが来るまでのあいだ、朝食をとり、ゆったりとした空気が流れる中でそれぞれの時間を過ごしながら待った。 いつの間にか、雲はほとんど消え、白夜の晴れ上がった青い空が広がっていた。 向こうには長頭山がくっきりと見える。 その横には、波のような羊のような、帯状の雲が白く光り輝いている。 恐ろしいほどに穏やかな空気だ。 気温はなんと8℃、風もなく、本当に気持ちいい。

 ずっとこんな天候が続けばいいのに。 なんだか急に寂しくなってきた。 さっきまでは荷物の準備でそんなことを考える間もなかったが、ラングホブデと今日でお別れなのだ。 たったの3週間。 短かったが、クリスマスも年末も正月もここで過ごした。 初日の出がない元旦を小屋の外に出て迎え、隊の旗を持ってみんなで笑いながら記念撮影をした。

 まさかこんな正月が来ることなど、こどもの頃は想像もできなかった。

 雪鳥沢、ヤツデ沢、平頭氷河、その途中途中で暮らしている生き物たち。 この小屋をベースにして、毎日のようにいろいろな場所へ足を運び、歩き回った。それでも、時間がなくて、行けなかった場所もある。 できることなら、ヤツデ沢のもっと南側、ハムナ氷瀑(ひょうばく)という氷河の近くまで足を運んでみたかった。 しかし、それはまた今度。 いつかまた、この雪鳥沢小屋に来たら絶対に行こう。

  長頭山がよく見える岩の上に腰掛けていると、ふと、一羽のナンキョクオオトウゾクカモメがすぐ横に飛んできた。 特にいたずらする様子もなく、こちらをじっと見ている。 少しゆったりとした雰囲気とその顔。 間違いない、いつもの水汲み場で水浴びをしているあのトウカモだった。

  「じゃあ、またね」

  小さな声で彼に別れを告げた。 すると、水かきの付いた足でトコトコと歩き、翼を羽ばたかせて去っていった。 あのトウカモはなぜ、私の目の前に飛んできたのか。 トウカモが何を伝えようとしていたのか、私には知る由もない。 彼はただ、黙ってポカポカ陽気を浴びたかっただけなのかもしれないし、なんとなく地面を踏みしめたかっただけなのかもしれない。

 けれど、一瞬だが、あの時、私とトウカモが共有した時間があった。 ただそれだけのことなのに、その時間は私の中である輝きをもっていた。 またここに戻ってくるまでの1か月間、いや、もしその時遭えなければきっと数年間、彼はこの先毎年ここに来て夏を迎え、秋になるとどこかへ旅立っていく。 私が日々の暮らしに追われているのと同じ時、彼もそんないつも通りの時間を生きているのだろう。
 決して交差することのないはずの二つの時間が、あの時、確実に交差していた。

  ゴゴゴゴゴゴゴ…………

  来た!  午前10時15分、予定より約2時間遅れで、迎えのヘリコプターの爆音が聞こえてきた。 発煙筒を焚き、オレンジ色の煙でこちらに誘導する。 久しぶりに見るCH101。 そばに並べておいた500kgの荷物の上で体を伏せ、フードをかぶり防御態勢をとった。 轟音と爆風とともにバチバチと砂粒が全身を打ちつける。 何度経験しても嫌な時間だ。

 

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・・・・・・山を彷徨は法悦、その写真を見るは極楽  憂さを忘るる歓天喜地である・・・・・

森のなかえ

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