「もののあはれ」の物語

古き世のうたびとたちへ寄せる思いと折に触れての雑感です。

いい話

2008年01月16日 | みやびの世界
 先日の新日曜美術館でも紹介されていましたが、今、大分県立芸術会館で「首藤コレクション展」が開催中されています。(2月3日まで)
 大分出身の大実業家、首藤定が旧ソ連に譲渡した絵画や陶磁器の里帰り展です。
 
 彼は満州、大連に美術館の建設を念願して、日本から多くの美術品を蒐集していました。
 ところが、敗戦で困窮する在留日本人の窮状を見かねて、その蒐集品と引き換えに難民を救済し、食糧を確保する資金に充てたという話です。
 目録記載の点数は中国画24、日本画226、の他、書、洋画、骨董など計561点がソ連に渡され、雑穀100トンの提供を受けています。

 今回の展示はロシア国立東洋美術館所蔵品の中からの120点です。横山大観、川合玉堂らの日本画を中心に、肉筆浮世絵、陶磁器、漆器などと報じられています。首藤が大連で集めた2千点に及ぶ美術品の全容は謎のままながら、同郷の福田平八郎のパトロンとして、平八郎の作品を買うと同時に、蒐集の助言も受けていたようで、蒐集品はかなりなレベルのものだったと思われます。
 藤田嗣次、梅原龍三郎などの名品の行方も依然不明のままです。(1月16日朝日新聞朝刊の記事に基づいた記載です)

 富を築いた人のその富の使い道に関しては、その人の風格が現れます。どう消費するかの道はさまざまなのは、紀国屋文左衛門の昔から、平成の若き富者たちに至るまで各人各様です。
 首藤のように、優れた芸術家をパトロンとして支え、美術館を設立するという高い志を持ってその蓄財を費やし、更には全力を注いだ苦心の蒐集品を、同邦人の困窮を救うためには投げ出すという行為は、感動的です。
 昔はこのような金持ちがいたのですね。久しぶりに快いいい話を聞きました。


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4 コメント

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心の温もり (香HILL)
2008-01-17 10:03:23
”いい話”と言えば、儲け話で老人を騙すのが毎年繰り返される時代ですが、本当のいい話、心の温もりを覚える話題が少なくなりました。主宰もこの男性に惚れてしまいましたね。
アップ文体そのものに暖かい眼差しと恋心が溢れています。

寒い冬、冷えた体は熱い風呂に入り、湯豆腐でも食べて温もりますが、心を暖める妙薬はこんな”いい話”を聞くことかもしれません。

昨晩、アンコール再放送で幕末・維新の激動時代に生きた
薩摩藩”篤姫”のその時歴史が動いた・・に心揺さぶられました。
和子さんの名前は知っていましたが、篤姫さん知らなかった。
実家の支援を受けず、大奥の女性のその後の世話をした後、
亡くなった時の遺産は現金40円と桜島が描かれた掛け軸一つだったと。
大河ドラマは過去見なかったが、今年はズット鑑賞し
彼女にエールを送りたい気持ちが沸々と・・。

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温まる話 (boa)
2008-01-17 13:26:46
うまい話にはつい乗せられてしまいがちな年寄りの一人ですが、最近はそんな声もかからなくなりました。

上手い話、美味い話には毒があるかも知れません。毒食らはば皿までの気概も血気も遠い世界。そんなエネルギーも残ってはいない今は、心が温まる話には耳を傾けたいものです。

江戸を生き抜いた薩摩おごじょの潔い生き方はどんな時代にも受け入れられるものでしょう。今の人が、たとえどんな大義があったとしても、自らの恋を封印して、与えられた境遇で最善を尽くすとは思えませんが。それだけにエールを送る香HILLさんに関心があります。

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メセナ (metabo)
2008-01-17 19:03:07
日曜美術館、見ました。昔はこんなすごい人がいたんですね。最近は企業メセナも不況になるとすぐに打ち切られる寂しい時代です。朝日新聞もチャリティー(名士名流展)を廃止してしまいました。
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朝日新聞のチャリティー (boa !)
2008-01-18 07:36:26
そういわれて、気がつきましたが、いつのまにか、開催されなくなっていました。
昔は、博多や小倉の会場に出かけたものです。

富は優れた才能と、果敢な行動力に運が味方すれば、だれにも蓄えられるものでしょうが、使い方は難しいものですね。

何があったにせよ、首藤流の使い方には頭が下がりますね。

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