心の準備ができてないのに、
電話を取った。
もしもし?
久しぶり。
とても照れ臭かった。
何も、恥ずかしがらなくていいのに、彼には、理解できないみたいだった。
電話で繋がったのは、いつ以来だろう。2週間ぶり? もう、わからない。
彼の声を聞くことなんて、いつでも、当たり前にできると思っていた頃とは違って、
すごく緊張するの。大切な時間だから。
何を話していいのか、わからないぐらい。
仕事をしながらなのね。
声の向こう側から、作業している気配を感じた。
会話は、
他愛も無い、
子供達の習い事の話から、
趣味の話になった。
彼には、素敵な趣味があって、
今はもう、それをしていない。
なんで?
私は、もう一度、始めてもらいたいな。って思ったけど、
彼には、それなりの理由があって、
もうできないみたい。
私の知らない彼の歩んできた道を
一言では、言えないだろうし、
理解するのも、難しい。
私は、ただ、話してくれるのを聞くだけだけど、
同じ気持ちになって、彼に寄り添うことならできると思った。
そしたら、その趣味を
一緒に始めようか?
と、彼は言った。
そんなこと、本当にできたらいいな。
夜の散歩が、もうすぐ終わりに近づいて来た。
ごめんね。もう家に着いちゃうから。
そっか、残念。
これからが、いいところなのにな〜。
ここまでは、緊張をほぐすための会話だったのに…。
彼は、いちいち、私の胸をときめかす様なことを言う。
そう、これが彼のいいところ。
その時、私は、彼のことを本物の紳士だと感じたの。
全ての行いの前戯に、とても時間をかけてくれる人。
きっと、抱かれる時だって、そう。
そして、私は、いつの間にか、
とてもリラックスできていることに気がついた。
電話をかけてくれて、ありがとう。
私は、そう言って、何事もなかったかのように、スマホをしまった。