80年代は聖子ちゃんなどのアイドルにハマっていたのと同時に、ロックバンドの全盛期でもあった。特にBOOWYとTM Networkは当時良く聴いていたし、BOOWYは解散後も布袋のファンとして今でも布袋のライブに毎年通っている。そしてTM Networkも当時武道館のライブなどに行ったのが良い思い出である。
TM Networkのアルバムの中で特に好きで今でも思い出に残っているのが、1987年にリリースされた5枚目のアルバム、『humansystem』だ。この頃はちょうどTM Networkとしても絶頂期に差し掛かった頃で、このアルバムもオリコン1位などを獲得して大ヒットしていたのを良く覚えている。当時小室が使っていた初めてのフルデジタルシンセサイザー/Yamaha DX-7が空前の大ヒットとなり、また小室自らプロデュースしたYamaha EOSというシンセが一般向けに販売されていたのも懐かしい。僕も当時影響され、Roland、カシオのシンセやYamahaのドラムマシーンなどを購入して音楽制作を楽しんでいたものだ。
TMと言えば、最近『Get Wild』のリバイバルヒットなどでまた注目されているが、『Get Wild』がリリースされた頃発売されたこの『humansystem』には収録されず、同年にリリースされたベストアルバム『Gift for Fanks』に収録された。しかし、それでも僕はこの『humansystem』がTMのアルバムの中で一番好きで、今でもTMとしての大きなターニングポイントだったと思っている。
TM Networkはロックに、シンセを融合させた音楽として、当時結構斬新であった。それまでシンセと言えばYMOのようになってしまいがちだったが、シンセだけでやり過ぎず、ロックサウンドの中にさりげなくシンセも織り交ぜることで新たなサウンドを創り出していた。米国では既にVan Halenが名曲『Jump』でやっていたのがある意味先駆けだったかもしれないし、ジェフ・ベックなどのロックギターアーティストがシンセなどをフィーチャーしたフュージョンサウンドなどもどんどん生まれていた時代に、日本ではTM Networkが独特なシンセ&ダンス&ロックサウンドとして華々しく登場したのであった。
話を『humansystem』に戻すが、このアルバムには下記11曲が収録されている。
- Children of the new Century
- Kiss You (More Rock)
- Be Together
- Human System
- Telephone Line
- Leprechaun Christmas
- Fallin’ Angel
- Resistance
- Come Back to Asia
- Dawn Valley (Instrumental)
- This Night
オープニングを飾る『Children of the new Century』は、翌年にリリースされた6枚目のアルバム、『CAROL~A Day in a Girl’s Life』にも通ずる戯曲的でスケールの大きなサウンドで始まるあたりが未来を感じさせてくれる。そして、ロック曲としても秀逸な『Kiss You』もまた良い繋がりで、カッコいいロックサウンドを聴かせてくれる。
アルバムの中でやっぱり特に印象深いのが何曲かあるが、後に鈴木亜美がカバーして大ヒットした『Be Together』の原曲が収録されているのは必聴だろう。見事なロックとシンセサウンドの融合で、今聴いてもノリが良くて気持ちいい。この曲でギターを弾くのは、後にB’zとなった松本孝弘ということも特筆すべきだろう。また個人的にアルバムで気に入っているのが、アルバムタイトル曲ともなっている『Human System』だろう。この曲は、あのモーツアルトの名曲『トルコ行進曲』のメロディーが、冒頭とラストにシンセサウンドで流れるが、クラシックを引用するあたりが当時かなり斬新であった。
また、バラードとしては『Telephone Line』も宇都宮隆の切ない声が今聴いてもなかなか秀逸である。『Leprechaun Christmas』も楽し気なクリスマスソングのように始まるが、サビがいきなりロック調になる変化も改めて聴くと斬新でもあるし、後に小室が多投する転調パターンの原型でもある。『Fallin’ Angel』はなかなか見事なシンセサウンドでとなっており、これも後の華々しい小室サウンドへの展開を予感させるもので、かなりお気に入りの曲だ。
そして『Resistance』はシングルカット曲としても有名だが、小室印のメロディで何とも懐かしい1曲だ。後に渡辺美里に提供する曲(『My Revolution』など)にも通じるサウンドがここで既に完成していたと言える。『Dawn Valley』はアルバム唯一のインスト曲だが、美しいピアノの生音を、まるで映画音楽か金曜ロードショーのテーマか何かのように楽しむことが出来るという意味では、珍しい小粋な曲である。そしてラストを飾る『This Night』は、色々なシンセの音を上手くフィーチャーしたバラードとなったウィンターソング。
こうしてアルバム『humansystem』を改めて振り返って聴いてみると、各曲のクオリティも素晴らしいが、アルバム全体としての統一感や世界観も見事に完成の域に達しており、アルバムとしてもなかなかの傑作であったことが良くわかる。
TM Networkとしてヒットを続けた後、1990年代に入って小室はプロデューサー・作曲家として“小室サウンド”でまた一時代を創ったことは周知の事実だが、この構図は、1970年代に自らヒットを飛ばし、次の10年で作詞や作曲でまたその時代を動かして行った松本隆、大瀧詠一、松任谷由実、財津和夫のパターンとも良く似ていることに気づく。つまり小室は1980年代は自らTMで世にヒット曲を飛ばし、1990年代は新たなブームの仕掛け人に徹することで、改めて一世を風靡したのだ。しかも日本の音楽史的に凄いスケールとインパクトで。この歴史を振り返る上で、この『humansystem』のサウンドは後の小室サウンドの原点が既に見えているという意味で感慨深いものがあり、今でも時々むしょうに聴きたくなる、そんな名アルバムである。