80年代は好きなアーティストが多過ぎて、語り出すとキリがないのだが、稲垣潤一も当時好きで良くアルバムを聴いていた。シングルというよりも、アルバムという形でCDやテープに録音したものを良くウォークマンや車の中で聴いていたのが懐かしい。
そんな稲垣潤一の数あるアルバムの中で一番思い出に残っているのが1986年にリリースされた『Realistic』と、1987年にリリースされた『Mind Note』の2枚だ。この頃はまさに稲垣潤一人気もピークだったと思うが、個人的にも、この時期ちょうど米国でハイスクールを卒業して、5年ぶりに帰国したばかりの頃でもあり、この2枚のアルバムは全曲とても印象深い作品として記憶に残っていた。
まずは『Realistic』だが、このアルバムは日本に住んでいた友人がカセットテープに入れてくれて、アメリカに送ってくれた中の1枚だったように記憶している。松田聖子や中森明菜などのアイドルをどっぷり聴いていた中で、稲垣潤一はちょっと大人の世界というか、少し背伸びをした感覚にさせてくれる、洗練されたポップスという位置付けで、都会的なセンスも妙にカッコよくて好きだった。このアルバムに収録されているシングル『1ダースの言い訳』、『April』、『バチュラー・ガール』の3曲と、『愛のスーパーマジック』、『ロング・バージョン』の2曲が特に思い出深い。今聴いてもいい曲ばかりだが、アルバム全体としてのクオリティも高い。このアルバムで、稲垣潤一は初めてオリコン1位を獲得した。
続いて翌年リリースされた『Mind Note』は、僕が日本に戻ってきて近所の家電量販店で初めて買ったCDだったと記憶しているが、1986年にと言えば、CDセールスが初めてレコードセールスを超えた年でもあり、ちょうどレコードやテープからCDへの移行が急速に進んでいた時代というのも懐かしい。今でも家に『Mind Note』のCDがあった筈と思って先日も探してみたが見つからず、結局Apple Storeでダウンロードしてまた聴いているのだが、所有していたCDを大量に断捨離してしまった時期があったので、恐らくその時に売ってしまったのかもしれない。
『Mind Note』で一番思い浮かぶのが、やっぱりシングルヒットの『思い出のビーチクラブ』だろう。しかし、『Just the same・・』と『僕は君の味方』も個人的には思い出深い。『Realistic』に比べると、『Mind Note』は“シングル“という印象よりも、アルバム全体を聴き込んだという印象の方が強いかもしれない。そのせいか、アルバム全体としての記憶が鮮明に残っており、今聴くと”タイムカプセル“として当時の記憶を呼び覚ますスイッチというようで何とも懐かしい。
稲垣潤一も既に71歳だが、2008年から2015年にかけてはデュエット・カバーアルバムの『男と女-Two Hearts』シリーズなども精力的に取り組んでおり、今でも精力的に歌手活動をしながら、変わらず素晴らしい歌声を届けてくれている。そして今改めて稲垣潤一絶頂期のアルバムを聴いてみると、時代に左右されない普遍的で耳に馴染む懐かしいサウンドがとても心地良いことに気が付く。当時はそういう認識は無かったが、今で言えば極上の“シティポップス”としてのクオリティの高さを再認識することが出来るので、こうして聴き直すのもまた格別である。