もう少しマラッカに逗まり未訪のポルトガル村を見ておくべきか、それとも次の街に向けて歩を進めるべきか―― そんな葛藤があったのだが、結局は日程に余裕がないことで先へ進むことを選択した。 目指すは首都クアラルンプール(以降KL)。 今回の旅の最終目的地である。 最終目的地ではあるが、これといって訪れたい場所はない。ただ、どんなカレーを食わせてくれるか、急激に成長するアジア有数のメガシティとイスラム文化はどう共存しているのか、人々はどんな表情で街を行き交っているのか、そしてマレー系と華僑のパワーバランスはどうなのか、といった“街の貌”に強い興味を感じる。いつものように、まずは適当に街をブラつき、地元客に賑わう店でカレーを食いつつ、街に溶け込むことから始めようと思う。 マラッカからKLまではバスで2時間30分ほど。 本当はシンガポール以来ずっとバス続きなので、そろそろ鉄道を使ってみたいのだが、生憎とマラッカから出る電車はない。もっとも、中長距離バス網がこれ以上ないほどに発達しており、どのバス会社も乗り心地のいいバスを運行させているので、不便や不満などは全く感じない。ただ、ガタゴトとした質の悪い振動が少しだけ恋しくなっただけだ。 マラッカセントラルバスターミナルからKL行きのバスに乗車。旅の終盤ということとバス移動に慣れてきたこともあり、ジョホールバルやマラッカへの移動の車中で感じたワクワク感みたいなものは湧いてこない。カーテンを閉めていても瞼が腫れ上がるほどに強い日差しに差し込まれ、前頭を中心に締め付けられるような頭痛に起因する体調不良に苛まれていたせいもあるだろう。 KLのバスターミナル『バンダー・タシック・スラタンバスターミナル』。立派なフードコートやショッピングフロアを備えており、バスターミナルというよりは大規模なGMSといった感じである。なにか食べようかと思ったのだが、カフェ風のスカした店ばかりなのですぐに街へ向かうことにした。 KLの街並み。モスクがいたるところにあって良い感じ。マラッカに負けず劣らずに暑い。きっと美味いカレーと巡り会えることだろう。 ホテルはロイヤルパークホテル。日本でもお馴染みのホテル。以前、汐留のロイヤルパークホテルに宿泊したことがあったっけ。「KL一の繁華街であるブギッビンタン駅の目の前」という立地条件を優先してのチョイスだ。 さっそく街へ出ることにする。相方がジャメ・モスク(マスジット・ジャメ)を見に行きたいというので、タクシーを使ってやってきたが、誠に残念なことに保守工事中。もちろん中には入れない。1909年建造というKL最古のモスクで、その荘厳な美しさはマレーシアの中で1、2位を争うほどだという。ううむ、残念すぎる。 裏手にまわるとマスジット・ジャメがもう少し開けた状態で見える。確かに美しいモスクだ。このタイミングで保守を行なうのは、11月~2月にかけての雨期が終わったばかりだからか。重ね重ね残念……。 街にはイスラム様式の歴史建築物が至るところにあり、それらを眺めているのも面白い。 教会のようだが、ファサードを残して崩壊している。火事で焼け落ちてしまったのだろうか。 歴史的建造物がいたるところにあるが、先のファサードのように修復が追いつかず、廃墟になってしまっている建物も少なくない。歴史的建造物を徹底的に蔑ろにする虚構の都市の住人としては、「わたくしの私財をなげうってでも修復・保存しなければ!」という使命感に駆られてしまう。が、あくまでも駆られるだけだ。 情報・通信文化省のセントラルオフィス(たぶん)。 つーことで昼飯を食おう。とりあえずいい感じの露店街があったので冷やかしてみる。が、あまりに暑く、空調のない屋台でものを食う気にはなれない。本来なら俺の中で屋台メシはあらゆる食の選択肢における筆頭候補なのだが、この暑さでは食欲そのものが減退しきってしまう。クーラーガンガンとは言わないまでも、熱風と強烈な日差から逃れられる場所でカレーを喰いたいのだ。 炎天下の中、数区画を歩いてカレーが食えそうな店を探す。今までの経験上、激しくカレーを渇望しているときほどカレー屋と巡りあえないものなのだが、さすがはマレーシア。労せずいい感じのカレー屋を発見することができた。ファンも回ってるし、店内には地元客で賑わっている。よっしゃ、ここで決定! これまでのマレーシアカレーの店同様、複数種のカレーが保温トレイに容れられ、好きなものを選んでライスにぶっかけるスタイルのカレー屋さんだった。 マレーシアに来てすっかり魚のカレーの美味さに開眼してしまったので、今回もそれに倣う。選んだのは大ぶりの切り身(サワラかな?)が入った赤色の強いカレー。それだけだと寂しいので、鋭利な骨の入ったチキンカレー(人気メニューらしく、骨以外はほとんど先客に食いつくされていたのだ)もひとすくい。それとマイルドそうな黄色み鮮やかな茹で卵のカレーもアクセント用として追加。野菜も欲しいので、肉厚の青菜の炒めものも載せたぜ(お気に入りのインゲンのサブジがなかったのは残念)。 赤味の強いカレーだが、店の兄ちゃんに「かなり辛いよ、それ」と忠告されるも、「Very hot welcome.」と言ったらニヤリと返してくれた。 チリと塩味がしっかり効いた魚のカレー、スパイス感が強めの骨カレー(本当はチキンカレーだろうが)、まろんとして優しい味の茹で卵カレーと、それぞれテイストの異なるカレーなので味のアクセントが愉しめてパクパク食い進めていける。魚のカレーは確かに辛いが、俺的にはわりかし余裕。もう少し辛くてもいいと思うが、これ以上辛いと味とのバランスが損なわれてしまう気もする。絶妙な味付けといったところか。いや、美味かった。満足! 店内は地元の年配客で賑わっている。カレーが生活に根付いている国だということをあらためて実感する。最高だぜ。 ということでKL初めてのカレーを喰らった後は文化に触れよう。向かうは国立モスクだ。 タクシーでやってきたぜ国立モスク(マスジット・ネガラ)。シンガポールのスルタン・マスジット同様、礼拝時間以外に見学することができる。 見学時間までに少し時間があるので、周囲を散歩。しかしあまりの暑さに近くの日差しがある公園に避難。 国立モスクの対面にあるイスラム建築の立派な建物。宗教関連の施設かと思いきや、実はマレー鉄道(鉄道公社)のヘッドクォーター。 そして入館時間。靴を脱ぎ、国籍と名前を記入して館内へ。 事前に服装チェックがある。女性は例外なくローブの着用が義務付けられているが、男性も肌の露出が多い場合はローブの着用を促される。4~50名ほどの見学者の中で、セーフだったのは俺と欧米の若者の計2名だけ。ほほ全員がローブを着用したおかげでこちらが目立ちまくりになってしまった。 しかしなんと美しいモスクだろう。外は猛暑だが、館内はひんやりとしており心地良い。 殆どの場所で撮影も自由。しかも各国向けのパンフレットまで用意されている。もちろん日本語バージョンもあったので、ありがたく頂戴する。 礼拝堂。ここだけはムスリム以外立ち入ることは許されない。驚くことに一度に3,000人が礼拝できる広さがあるという。 大理石の床はひんやりと冷たく、猛暑の外界からやってきた人間にとっては実に心地良い。だが、果たしてこの男性がそんな涼を求めて昼寝の最中なのかは不明。もしかしたら床に身体を横たえ、五感を研ぎ澄ませてアッラーの存在を感じようとしているのかもしれないのだ。 大理石の床がどこまでも続く。裸足なので心地良いことこの上ないぜ。 霊廟。マレーシアの独立に貢献した人々が眠る聖者廟。構造美と装飾美がバランスよく共存する美しいデザイン。これを見られただけでもここに来てよかったと思う。 風の吹き抜けを考慮して設計された熱帯雨林気候の国ならではの風通しのよいモスク。イスラム礼拝所としての厳粛な雰囲気がありつつも、自然との調和がバランスよく採り入れられた、優しさと安らぎを感じさせるモスクだった。いや、イスラム建築の粋、存分に堪能させてもらいました。 ジャメ・モスクを見学できなかった無念さを補って余りあるモスク見学だった。おどろくべきことにこれらは無料で見学できるのだ。「素晴らしい」と言うほかない。 国立モスクを後にし、やってきたのはクアラルンプール駅(旧クアラルンプール中央駅)。まるで宮殿のような外観。それもそのはず、20世紀初頭にマレー鉄道がマラッカ海峡に面した港町クランから、クアラルンプールまで開通した時からの駅舎で、100年位上の歴史がある。 優雅なアーチ曲線とアクセントとして配される尖塔、そして白亜の優雅で贅沢な佇まい。なんと美しい駅よ! せっかくだからコンコースに行ってみよう。構内も歴史を感じさせる重厚感があり、旅情を強く掻き立ててくれる。 ちょうどホームに電車が入線してきた。かなり洗練されたモダンな車両。ストレートシート仕様である点や、Yシャツ姿の男性客や軽装の女性や若者が多く乗り込んでいくところを見ると、通勤電車らしい。 さて、次は地下鉄に乗ってペトロナスタワーを見に行くことにしよう。 |
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