国鉄があった時代blog版 鉄道ジャーナリスト加藤好啓

 国鉄当時を知る方に是非思い出話など教えていただければと思っています。
 国会審議議事録を掲載中です。

偉人伝 石田礼助総裁物語 第10話 国鉄は専売公社とは仕事の内容が違うと国会で発言、物議を醸すことに

2021-09-30 00:31:31 | 国鉄総裁

ほぼ一ヶ月ぶりですが、石田礼助総裁物語を更新したいと思います。

むしろ政府委員がハラハラする、国会での言動

この話は、非常に有名なのでご存じの方も多いかと思いますが、専売公社の職員の待遇と国鉄職員の待遇が殆ど同じと言うことは怪しからんとして、国会で発言したものですから。
専売公社の全専売労働組合からクレームが来たという曰くの話。

この時の様子は、「粗にして野だが卑ではない」でも語られていますが、参議院の運輸委員会で堂々としたもので、以下のような話が残されています。

衆参両院での石田の率直な発言は続いた、事務当局は政府委員ははらはらのし通しであった。
そして、3月5日、参議院予算委員会。
この日離れた席とマイクの間を度々往復する石田の姿を見かねて田中角栄が見かねて、空いている総理大臣席に坐るようにと、すすめた。
石田は遠慮なく、そこへ腰を下ろした。
その石田に黒金官房長官がメモを渡してきた。
「低姿勢、低姿勢」
大きく書かれている。
「総裁、なんだい」
田中が訊くのでそのメモを見せたところ、田中は
「構わない、やりなさいよ」
石田にしてみれば、言われるまでもないことであった。
「私は低姿勢は嫌いだなあ、低姿勢を取る必要ないもんな、私の柄に合わないですよ。変に威張るなんと言うことはないけれども、何も自分を卑下して下げなくても良いところを下げるなんてことは出来ませんよ。」
と言う考え方である。

いかにも石田総裁らしい言動ですが、総理大臣席に堂々と坐って、堂々としている点などは中々出来ることではないでしょうね。

物議を醸した、専売公社の口撃

専売公社はたばこを作って売れば良いが、国鉄の職員は命をかけて働いているのに、殆ど同じ給料というのはおかしいではないかという発言ですが、この背景には過密なダイヤと言われた鶴見事故の件があったことは言うまでもありません。
議事録を探してみますと、当時の第四六回通常国会3月7日開催の「参議院予算委員会」で発言されたものでした。
該当部分の発言を抜粋してみたいと思います。

○亀田得治君(元日本社会党参議院議員・左派)
 前略
 そこで、最後に、あと五分でありますので、多少違った角度から総裁に御検討を願いたいという点があるわけです。それは、いろいろな設備関係というものが、安全運転を完成するのに、もちろんこれは必要なことでありますが、そこに働く人ですね、人の関係というものを、もっと研究する必要があるのではないか。そういう点が案外抜かっておるのではないかという感じがするわけですね。中略。大事な人命を扱っておる乗務関係の人なんですから、ほかの人命を大事にしてくれと要求する以上は、まずその人たちの人命を国鉄総裁が、これだけ考えているのだと、そういうあたたかいものが私は出てこなければいかぬのじゃないかという感じを持っているのです。そういう点について、基本的に、どう考えておられますか。

○説明員(石田礼助君) 私はこれは、ごもっともの質問だと思います。やはり事業は人なり、いかに運転、保安の設備を整えてみたところで、あるいは踏切の問題を解決してみたところで、やはり結局は人なんです。中略
 それから、その次に私が考えておることは、これはまだ総理大臣の了解を得てないんですが、待遇の問題です。私は、いまの国鉄の職員に対する待遇というものは、いわゆる三公社並みということになっておりますが、これははなはだ不公平だ。一体、専売公社の人間と国鉄の人間と、同じように取り扱うなんていうのは、これは職務給というものを全然無視した考え方だ。
 これは、私は、今度の仲裁裁定に持ち出す考えであります。とにかく運転士なんていうものは、これは命をかけておる。専売公社の仕事なんというものは、たばこをつくって売れば、それでいい、これは、政府はやはり考えてくれにゃいかぬと私は思う。大蔵大臣がここにいらっしゃいますから、まず第一に私は、こういうことを言ってさしつかえないと思う。国鉄の総裁と専売公社の総裁と同じ給料なんて、そんなことがありますか。こういうことは、私一文ももらってないから言うんですよ。私はほしいから言うんじゃない。決してこれは、公平な取り扱いじゃないと思う。たとえば、専売公社の給与と国鉄の給与と比べてごらんなさい。ほとんど変わりありません。ところが、向こうは、男八〇に対して、女二〇でしょう。国鉄は、男九七に対して女三だ。その平均が、ほとんど変わらぬ。
 しかも、その仕事たるや、とにかく運転士やなんかの仕事を見てごらんなさい。夜よなか弁当を下げて、そして夜と昼間と間違えてやっておるような仕事だ。これを全然、無差別悪平等式の取り扱いをするというところが、人を使う道として間違っている。これは私は、国鉄総裁の責任において、ぜひとも是正せにゃならぬ問題だと考える。
 それで、たとえば運転士が引き継ぎに行って、泊まってくる、そしてまた帰ってくるという場合の休養設備その他の点についても、着々として改善をして、できるだけ彼らが、ほんとうに気持よく責任をもって仕事をできるようにしたいと、こういうようなことに考えておる次第であります。

以上、引用終わり

ここで、改めて国鉄の昭和30年代から40年代前半までの職員の死傷者数をグラフ化したものが下記になります。


グラフを見ていただくと判るのですが、昭和30年代は特に、多くの事故が発生していることをご理解いただけるかと思います。
実際、こうした死傷事故で多いのが操車場における入換作業であり、走行中の貨車に飛び乗ってブレーキを掛けるわけですが、当然のことながら列車の到着と到着の合間に処理をせねばばらず、24時間休み無く続けられる仕事でした。
作業自体は比較的単純とは言え、走行する貨車に飛び乗るわけですから、非常に危険ですし、足を踏み外して、もしくは、飛び降り損ねて怪我をするなんてことは十分あり得るわけで、その結果、車輪に足を挟まれるという悲惨な事故が後を絶たなかったのです。

そうしたことを知ったうえで、国鉄職員の給与を改定せよと迫るわけです、それが以下の発言でした。

「私は、いまの国鉄の職員に対する待遇というものは、いわゆる三公社並みということになっておりますが、これははなはだ不公平だ。一体、専売公社の人間と国鉄の人間と、同じように取り扱うなんていうのは、これは職務給というものを全然無視した考え方だ。」

となるわけです。

質問した社会党代議士がむしろ石田をフォローすることに

こうした発言には質問をした社会党の方がびっくりしてしまって、社会党の藤田進議員がいかのように取りなしたと記録に残っています。
あくまでも、石田総裁の発言は、専売公社の給与が高いと言うことではなく、大蔵省所管の専売公社と比して低いのだと、むしろ質問した側がそれを取りなすという羽目になってしまったわけで。

この発言は、むしろ国鉄にしてみれば痛快であったでしょう。

当時のその発言を、当時の参議院運輸委員会ら引用してみたいと思います。

○藤田進君 関連。特に、国鉄総裁の石田さんの発言というのは非常な影響を持つわけでございますが、先ほど御発言の中に例示されて、三公社五現業の中で、特に大蔵大臣所管の専売公社を取り上げられまして、内容を説明せられ、これと比較して国鉄は低いということを言われた、その真意は、大蔵大臣、非常に敏感な人でありますから、所管の専売がどうも給与が高い、それをこれから、ひとつブレーキをかけなければならないという作用を期待されているのじゃないだろうと思うのであります。今日、いわゆる可処分所得について論じられ、最底生活ということが、むしろ論争になっているときで、専売公社の職員なり、あるいはまあ総裁を含めてもけっこうですが、これが高いのだ、下げろという趣旨じゃなくて、そういう比較論から見ても、なおかつ国鉄のほうが劣る、質的にも危険率から見ても。
 したがって、国鉄のあなたの傘下の待遇について論じられたのであって、専売が高くて困るというのじゃなくて、そういう点に力点があったと私は思うわけですが、非常に将来問題を残しますので、この点の真意をひとつ明確にしておいていただきたいと思います。
○説明員(石田礼助君) 私がさっき申し上げたことは、これは言い過ぎかもしれぬ。決して私は、専売公社を下げて国鉄を上げるというのではない。いずれにしても、国鉄の給与というものは、いかに三公社に比べて劣っているか、要するに、これを上げにゃいかぬということのために、はなはだどうも専売公社を佐倉宗五郎のように言って、相済まなかったのですが、申し上げたのであります。どうぞその点を御了承願いたいと思います。

斯様に、社会党としては想定していた以上の返ってきたわけで、それ以上言うことはなくなってしまったのでした。

最初に質問した、亀田得治は、

総裁から、人の問題について、ずいぶん積極的なあたたかい御答弁を伺いましたので、実は多少準備しておったわけです。人の問題について、あなたが非常に人というものを無視しておられるようなことをおっしゃれば、もう少しお伺いしなければならぬと思っておったのですが、どうも逆のようでありますから」ということで、むしろ石田の発言をフォローするようになってしまったわけですが。
いかにも石田礼助らしい、堂々等した人であったと言えそうです。

こうした発言は、国鉄職員には励みに

ある意味で爆弾発言的な言動でしたが、国鉄職員には大きな励みになったようで、国鉄部内紙の交通技術や、国鉄線という雑誌でも名古屋駅長と石田総裁の対談でも感謝の言葉が書かれています。

以下は、国鉄線の記事、「仕事を楽しみ、熱をもとう」から引用したものです。

山内 かって総裁が、専売公社の職員と、ウチの職員とは仕事の内容が違うんだと、あれだけはっきり、しかもずばりと事実をうったえていただいて、非常に職員自体意欲を燃やし張り切ってやっております。
石田 実際、専売局の仕事と国鉄の仕事はまるでタチが違うんですよ。仕事の難易から言えば問題にならない。専売局は単に国家の収入をふやすだけのことで、タバコなんでものは百害あって一益なしだ。それに比べると国鉄の仕事はこれがうまくいくかいかないかで、国の経済の発展に影響するという大問題ですよ。
山内 それにもかかわらず、いろいろ国鉄は劣勢下に置かれておったが、それを総裁、が、それこそ信念と勇気、そして迫力をもって、政界といわず、財界といわず、報道関係あるいは労働界といわず、積極的にPRされて、今度の第三次長期計画を実行されたということで、非常に明るい希望で、新しく入ってくるものと共々によろこんでおります。

続く

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