現在身障者割引や学割と呼ばれるものがありますが、国鉄時代の割引を調べてみますと以下のような割引があったようです。
- 定期割引関係
- 学生旅客運賃割引(学割)
- 身体障害者者割引
- 戦没者家族割引
- 被救護者割引
- 戦傷病者割引(唯一国鉄が負担することがない割引)
- 勤労者割引(昭和41年10月追加)
定期運賃割引とは、?割引の割引率は、50%までだが
定期運賃の割引は、法律第百十二号(昭二三・七・七)
国有鉄道運賃法に以下のように定められています。
第五条 定期旅客運賃は、左の各号の規定に従い、運輸大臣がこれを定める。
一 通用期間一箇月又は三箇月の定期旅客運賃は、普通旅客運賃の百分の五十に相当する額をこえることができない。
二 通用期間六箇月の定期旅客運賃は、普通旅客運賃の百分の四十に相当する額をこえることができない。
となっており、、定期運賃は一ヶ月、三ヶ月運賃割引は50%六ヶ月定期運賃は60%迄の割引とされていますが、実際には、政策的な面から、通勤定期で最高83%引、学生にあっては実に92%引きになっており、この超過分が国鉄による独自の負担分と言うことになります。
昭和三三年の実績で、その負担額は年間約308億円もの高額に上ります
なお、定期運賃の割引率は、その後随時改定されており、法定運賃にプラスして、右記のように、中学にあっては更に30%を付加した割引、高等学校等にあっては、更に10%を付加した割引となっています。
ただし、国鉄としては赤字財政であることから、こうした割引に対して、更なる割引等を求める場合は、財政の支援を求めるとされていましたが、残念ながら積極的な財政支援は行われなかったようです。
学割とはこんな割引
学生割引は、戦前から行われている割引制度で、学生の帰省旅行の援助策として制定されたもので、戦前は二割引でしたが、戦後は昭和23年(1948)に大幅値上げの際に考慮されて50%割引となったそうです。
その後は20%割引に変更されていますが、負担額は昭和33年(1958)で、約28億円にもなっていました。昭和34年(1959)10月から制度が改められ、101km以上であれば全区間に渡って割り引いていたものを、101km以上の区間のみ割り引くこととに計算方法が変更されたと書かれています。これにより8億円ほど負担が減るとしていましたが、学生割引証の発行枚数を増やしたので、全体では変わらないとも言われています。
身体障がい者割引とはこんな割引
身体障がい者割引は、定期割引の規定が準用され、昭和34年国鉄線という記事を参照しますと、第一種障がい(概ね一級~三級)までは、国鉄運賃法第五条に基づき割引、第二種障がい(4級以下)は国鉄の独自の施策として運賃五割引を行うとしています。
(個々の障がい等級は別個に確認してください)
歴史的な流れを見ていきますと、厚生省(旧名称・現在の厚生労働省)が、昭和27年(1952)4月4日社乙発第七一号本職通知「身体障害者に対する日本国有鉄道等の旅客運賃の割引について」周知され、身体障害者旅客運賃割引規則(昭和27年4月8日国鉄公示第一二一号)により、具体的な取扱が定められ、現在JR各社並びに私鉄も、身体障害者旅客運賃割引規則に則り、その割引が行われています。
参考:障害等級表
戦没者遺族割引は割引とはこんな割引
戦没者割引とは、靖国神社に新たに合祀される、旧軍人軍属の戦没者の遺族が参拝のため日本国有鉄道の鉄道及び連絡船に乗車船する場合、運賃割引等の措置を講ずるよう要望するというもので、
第15回国会 衆議院運輸委員会 第26号 昭和28(1953)年3月13日に、決定の経緯が記録されています。
戦没者遺族の国鉄運賃割引に関する件
として動議がかけられたもので、影の運輸大臣と揶揄された自民党所属党人派議員の關谷勝利議員で運輸族の一人です。
概要は、当時の新聞に「靖国神社参拝者に対して、国鉄が運賃の五割引をすると意思があると言う記事が出ていたので確認すると、国鉄でもその意思があるとして、これを運輸委員会の決議としたいとして、委員会に諮ったものです。
ということで、新たに合祀される旧軍人軍属の戦没者の遺族が参拝のため日本国有鉄道の鉄道及び連絡船に乗車船する場合、その乗車船に対しては日本国有鉄道においてさしあたり運賃割引等の措置を講ずるよう要望する。としています。
この動議に対して、特段反対はなく、運輸省の鉄道監督局長(植田純一)氏が下記のように答弁しています。
同じくこの割引をするのでありますならば、そういうふうな時期的に適切に間に合うようにしなければならないと存じまするので、この委員会において、これが早急に実現いたしまするように要望書を提出いたしたいと思つて、動議を提出いたします。
○植田政府委員 日本国有鉄道といたしましても、国民全般の輿論に基きますこういう方々の輸送について、昭和28年度(1952)におきましては、五割引(50%引き)で輸送するということになりましたような次第。実施時期は、極力早く実施するようにいたしたいとと回答しており、国鉄当局に対しましても決議の趣旨を十分伝え督励すると回答しています。
この割引が、翌年度以降も行われたか否かは不明ですが、昭和34年にもこの
割引が出ていますので、継続はしていたものと思われます。
参考:議事録該当部分の全文は、「第15回国会衆議院運輸委員会 第26号 昭和28年3月13日」を参照
戦傷病者等割引とはこんな割引
この割引は、唯一、国鉄による負担がなかった割引で、戦傷病者等が鉄道を利用する場合、無償でその利用を認めるとしたものです。
日本国有鉄道無賃乗車に関する法律
この法律は、以下の趣旨にあるように、旧軍人軍属たる戦傷病者の援護として、増加恩給、傷痍年金または傷病賜金を支給されている旧軍人、旧軍属等で、障がいを有する者及び政令で定める介護者が、日本国有鉄道の鉄道及び連絡船を使用するとき、政令で定める回数、等級、区間に限り、運賃を支払わないで乗車または乗船することができるとしたもので、国が鉄道及び連絡船の運賃に相当する金額を負担するもので、昭和31(1956)年4月1日から施行され、ました。なお、この法律は、戦傷病者特別援護法制定昭和38(1963)年8月3日法律第168号に制定されたことから、現在は廃止されています。
この割引は、無賃乗車に関するもので唯一、政府から補償を受けているもので。現在も、戦傷病者特別援護法第九条で、JRに引き継がれ。 「鉄道及び連絡船への乗車及び乗船についての無賃取扱い」として規定されています。
参考:戦傷病者等の日本国有鉄道無賃乗車等に関する法律
被救護者割引とはこんな割引
被救護者割引は、生活困窮者が施設等に移動する場合に、国鉄の定める旅客運賃割引証をもって、その取扱をすることとなっているもので、運賃が50%割引となるものでした。
制度としては、昭和33年(1958)に改正され、救護施設からの証明書印が要るといった内容に変更になったようですが、こうした切符の偽造(救護者割引の印を消して金額も改ざんして正規運賃に書き直し、その差額を掠めると言った詐欺が横行していたという記述もあります。)
元々生活困窮者が、施設等に移動するに際して、被救護者施設の代表者が被救護者旅客運賃割引証を発行する際に、に区間等を指定して発行される切符でした。
普通車のみ利用可能で列車種別の指定はありませんが、特急・急行料金は割引の対象外ですので自ずと普通列車のみの利用となります。
さらに、こんな割引も・・・勤労者割引
学割とは別に、勤労者割引なるものがあった。
学生には割引があって、勤労青年には割引がないのは不公平ではないかと言うことで、昭和41年7月15日から以下のような制度が設けらました。
当時は、大学進学率が20%程度であり、中学卒業後集団就職などで東京・大阪・名古屋などに約100本の集団就職列車が運転されていた時代。
大学は、経済的に恵まれた人だけが進学できた時代であり、学生には学割がある反面。勤労青少年にはそうした割引がなく、帰郷するための費用負担を少しでも軽くしようと言うことで、行われた施策であり、国鉄の負担も少ないものではありませんでした。
手続きは面倒と言う声もあったが
この割引では、事業者が事前に申請するなど、手続きが煩雑で、面倒という声がありましたが、普通車(当時は二等)の運賃が二割引と言うことで、学割と同じ割引が適用されることとなりました。
国鉄線 昭和41年8月号から引用
この記事を見ていますと、この割引のおかげで、5年ぶりに帰省できるという声もあるなど、国鉄にとっては救われることだろうと締めくくられています。
なお、この制度の提唱も私の記憶に間違いが無ければ、田中角栄の発言からだったと記憶しています。
ちなみに、この勤労青少年旅客運賃割引規程は、2003年まで存続していたようですが、交通手段の多様化等により、利用実績もごく僅かとなり、所期の使命を終えました。。
「勤労青少年旅客運賃割引制度」の廃止について
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国鉄があった時代 JNR-era
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