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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

いさな【鯨・勇魚】

2012年09月04日 | あ行
クジラの古称。いさ。

 勇ましい魚、いさな。昔の人がクジラをこう呼んだことを、ぼくはC・W・ニコルの小説のタイトルで知った。

 子どものころ、クジラが魚ではなく哺乳類だと知ったときはおどろいた。クジラの肉は肉屋ではなく魚屋で売っているのに。

 メルヴィルの『白鯨』では怪物のように描かれているが、クジラを凶暴で恐ろしい動物だと思っている人は少ないだろう。ゆっくりと泳ぎ、ときどき潮をふく。あの巨体なのに、餌は小魚やエビ。シロナガスクジラなんて最大体長記録が33メートル以上、体重160トン以上というのに、食べるのはオキアミという小さなエビのなかまだ。ホエール・ウォッチングが人気なのもわかる。

 アメリカからペリーがやってきたことが徳川幕府の瓦解につながった。ペリーが来たのは、捕鯨船の寄港地を日本に確保したかったからだ。ヨーロッパでは産業革命がはじまり、灯油としてマッコウクジラの鯨油を使っていた。欧米の工場を動かそうとしたら明治維新が起きた、というわけである。『白鯨』の一等航海士スターバックの名前をつけたカフェが日本各地にできるとはメルヴィルも予想しなかっただろう。