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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

むししぐれ【虫時雨】

2013年04月20日 | ま行
多くの虫が鳴き立てるのを時雨の音にたとえていう語。


 夏のリゾート地のホテルや民宿旅館で「虫の声がうるさくて寝られないので、なんとかしてくれ」という客がいる、という話をときどき聞く。最初は、さもありそうな話をでっち上げたのだろう、そんなアホな人がいるわけない、と思った。飼っていたクワガタが死んで「電池を交換して」と子どもが言ったなんていう話も同類かと。

 でも、実際に夏の田園地帯にいくと、そんなクレーマー話もあながちウソとは言いきれないと思う。都会に住んでいると、虫の声は耳を澄ませてやっと聞えてくるようなかすかなものだ。風情があるなあと感じる。

 ところが田園地帯の虫は大合唱、大音響なのである。たとえていうなら、カヒミ・カリィのウィスパーボイスと、和田アキ子のシャウトするようなソウルの違いぐらいか。ショパンのピアノ曲と、ベートーベンの交響曲といってもいい。

 時雨の雨音のような虫の声の中にいると、大きなお寺の法会でたくさんの僧が経を読んでいるのを聴いているような気持ちになってくる。だんだんと現実感が失われ、まるでドラッグでトリップしているよう(ドラッグの体験はないけど)。