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永江朗のオハヨー!日本語 ~広辞苑の中の花鳥風月

短期集中web連載! 手だれの文章家・永江朗が広辞苑を読んで見つけた自然を表す言葉の数々をエッセイに綴ります。

にじゅうしばんかしんふう【二十四番花信風】

2013年09月13日 | な行
二十四節気の小寒から穀雨までの間の各気の花の開くのを知らせる風。


 たんに「花信風」ということもある。

 1年を24等分したのが二十四節気。春夏秋冬をそれぞれ6つに分ける。さらにそれぞれを3つの候に分けたのが七十二候(しちじゅうにこう)。

 2014年の小寒は1月5日、穀雨は4月20日。

『広辞苑』には二十四節気と対応する花が細かく載っている。たとえば小寒は梅・山茶(つばき)・水仙。それぞれの候にひとつの花が対応する。

 立春は迎春(おうばい)・桜桃(ゆすら)・望春(こぶし)。春分は海棠(かいどう)・梨・木蘭(もくれん)。

 ぼくはまだ亭主としてお茶事をしたことがないけれども、お茶事で難しいのは道具合わせとともに花の選び方だ。こんな便利なものがあるじゃないか。お茶事の日に合わせて、この花を選べばいい。あらかじめ花屋に頼んでおこう。問題は立夏から後だな。

 というか、どうして花信風は小寒から穀雨までなのだろう。花は春だけのものじゃないのに。
 

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にじゅうさんや【二十三夜】

2013年09月12日 | な行
陰暦23日の夜。この夜、月待をすれば願い事がかなうという信仰があった。二十三夜待。


 星に願いをならぬ、月に願いを。

『大辞林』によると、23日でも特に8月の23日の夜の月をいうそうだ。

 2013年の旧暦8月23日は新暦の9月27日。この日は下弦の月が真夜中に出る。

 中秋の名月、すなわち十五夜から8日しか経っていないのに、早くも月待である。

「月待」の項を読むと、23日だけでなく、13日にも17日にも月待をしたらしい(どの日も素数だ)。供物をそなえて飲み食いする。昔の人はイベント好きだったのだな。]

 藤原道長の『御堂関白記』や藤原定家の『明月記』を読んでも、昔の人、とくに貴族たちの日常は、カレンダーにしたがったイベントで占められている。そしてそのカレンダーは月の運行によって決められている。

 もっとも、こういうイベントは呪術的な意味もあるから、ちゃんとしきたり通りにやらないといけない。わからないことはいちいち調べたり、けっこう面倒くさかったのかも。


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ならい

2013年09月11日 | な行
冬、陸や山に沿って吹く強い風。三陸から熊野灘まで、方位は地域により異なる。


「ならい風」ともいうそうだ。

「ならい」は「倣い」だろうか。陸や山に「沿って」ということを、陸や山の形状に「倣って」と考えたのだろうか。三陸から熊野灘までというから、ほとんど東日本の太平洋岸全体といっていい。方言ではなく、広く使われた言葉だ。もっとも、ぼくは『広辞苑』を読むまで知らなかった。

 昔の人は風にいろいろな名前をつけた。「あい/あゆ」は東の風。春に東から吹くのは「東風(こち)」。「あなじ」は冬、北西から吹く風。「いなさ」は海から吹く南東・南西の風。

 いまは「北よりの強い風」なんていうふうに方向と強度しか言わないから、どの風も似たように思ってしまう。でもひとつひとつ呼び名が違えば、風の吹きかた、湿っているか乾燥しているか、いつごろ吹くかなど、細かいところまでよく分かる。

 特別な名前をつけることで性格がはっきりする。いわゆるキャラ立ちだ。強い風は害を及ぼすこともあったわけで、キャラ立ちさせることで「警戒しよう。準備しよう」と呼びかけるところもあったのかもしれない。ネーミングとキャラ立ちは昔の人の防災の知恵だ。



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なつのつき【夏の月】

2013年09月10日 | な行
夏の涼しい感じの月。


 たんなる夏の月ではなく、涼しい感じがする月なのである。

 もっとも、暑苦しい月というのは、あまり見たことがないけれども。

『大辞泉』にも『大辞林』にも『日本語大辞典』にも載っていない。あまり一般的ではない言葉なのかもしれない。俳句では夏の季語だそうだ。

 地球から見ると涼しそうだが、それはあくまで見かけの話。実際は月の表面はものすごく暑い、いや熱いらしい。なにしろ大気がないので、太陽の光がストレートに当たる。NASAが無人探査機で測定したところ、赤道および中緯度地方の昼間の温度は106.7度、夜間はマイナス183.3度だそうだ。これからは満月を見上げて「あそこは100度か。熱いだろうなあ。やけどしちゃうよな。地球の35度ぐらい、たいしたことないなあ」と思うことにしよう。

 もっとも、月の極地方は、昼間でもマイナス30度からマイナス70度ぐらいだというから、夏の月を眺めるときは、なるべく上下の端のほうを見るようにするといいかもしれない。


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なごりのしも【名残の霜】

2013年09月09日 | な行
八十八夜の頃に、これを限りにして置く霜。忘れ霜。別れ霜。


 八十八夜は立春から88日目。だいたい5月のはじめ頃だ。

「八十八夜の別れ霜」という言葉も『広辞苑』に載っている。「この頃が最後の霜でこれ以後は降りないといわれる。茶や桑に害を与える」のだそうだ。

 気候変動のせいか、それとも昔からなのか、大都市では霜が降りることはめったにないし、ましてや5月のはじめなんて。気の早い人はTシャツに短パン姿だ。

「季節はずれ」といってしまうと味気ないが、「名残の」というと哀愁がただよう。

「名残の月」は「夜明けの空に残った月」という意味と「一年中の最後の名月、すなわち陰暦九月十三夜の月」という意味がある。

「名残の雪」は「春になってから冬のなごりに降る雪」。

「なごり」の項を読むと「ナミ(波)ノコリ(残)の約という」と書かれている。だから「余波」とも書く。風がやんだ後も波が立っていることや、波が引いた後に汀に残る波などを「なごり」という。

 過ぎ去るものを惜しむ気持ちが「なごり」だ。


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