このブログでは「三島由紀夫」のカテゴリーが人気のようだ。
ということで、最近の俳優さんで「この小説の主人公にはこの俳優さんがいいかも」と思える組合せを考えてみた。
◇短編小説『真夏の死』
主人公は、夏の海で二人の子を失った若い母親、朝子。
冒頭でこの不幸があり、日が経つにつれて不幸が日常に溶けこんでいき、新しい子も生まれる。
しかし何を思ったか、再び朝子は夫や子と共に夏の海を訪れる。
最後の場面、海を見つめる朝子に向かって夫は言う。
「お前は今、一体何を待っているのだい」
三島は解説の中でこう述べている。
「或る苛酷な怖ろしい宿命を、永い時間をかけて、ようやく日常生活のこまかい網目の中へ融解し去ることに成功したとき、人間は再び宿命に飢えはじめる。」
再び「苛酷な怖ろしい宿命」を待つ若い母親を、今の若い女優さんで誰が演じられるだろうか。
パッと頭に浮かんだのは、門脇 麦さんだった。
次は浮かんだのは、蒼井 優さん。
悲劇性と底知れなさの感じられる女優さんがいいと思う。
◇長編小説『青の時代』
大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では今、源義経の戦(いくさ)における天才ぶりが描かれているところ。
誰も思いつかない戦略(しかもズルい戦略)を次々に繰り出していく。
演じる菅田将暉を見ていたら、「三島の『青の時代』の主人公にいいかも」と思った。
(関係ないが、義経の非凡さを見て悔しがる梶原景時(獅童さんがイイ感じ)との関係は、天才・モーツァルトと、その非凡さが誰よりも理解できて苦しむ凡人・サリエリとの関係を連想させる。)
『青の時代』は、戦後実際にあった「光クラブ事件」に取材したもの。
東大生が高金利の金融会社「光クラブ」を起業して注目を集めるが罪に問われ、多額の負債を抱えて青酸カリで自殺した事件だ。
三島はけっこう実際の事件から取材した小説が多い。
(『真夏の死』も実際に起こった事故を下敷きにしている。)
小説『青の時代』はあまり評価が高くなく、三島自身も「失敗作」と言っているが、
時代設定はそのままに、戦後の世相を描いた作品にするか、
あるいは現代に置き換えて、IT企業をおこした学生起業家を主人公にしたら、
十分現代性があるような気がする。
自分の才能に溺れて、一時は脚光を浴びるが、破滅していく主人公。
どこか狂気が感じられる菅田将暉によく似合いそうだ。
◇短編小説『孔雀』
遊園地で27羽の印度孔雀が殺される事件が発生。
(これも実際の事件から取材したらしい。)
刑事は、遊園地でよく孔雀を眺めていた男性、富岡の家を訪問する。
孔雀に関連したものがところかまわず置かれた部屋の中で、刑事は「十六七歳の」、「ちょっと類のないほどの美少年」の写真を見つける。
それは富岡の17歳の頃の姿だった。だが現在45歳の富岡には「怖しいほど嘗て(かつて)の美が欠けている」と刑事は思う。
果たして孔雀を殺した犯人は?この小説は幻想小説なので、結末は突拍子もないものだ。三島独特の美的雰囲気を味わえばよいのである。
三島と親交があった美輪明宏がモデルとも言われる美少年。
今これが演じられるのは、これも『鎌倉殿の13人』を見て思ったが、
市川染五郎だ。
大河ドラマに出る前から、その美少年ぶりは言われていたが、
テレビドラマで他の出演者と並ぶと、さすが梨園の御曹司、雰囲気が違う。
ただの美少年ではなく妖しさのあるところが、『孔雀』の美少年にふさわしい。
大島渚が生きていたら、映画『御法度』の主役にしたのではないだろうか。
※ご参考 映画『御法度』 - 美の渉猟 (goo.ne.jp)
映像でなくても、誌上フォトセッションなどで小説の一場面をビジュアル化してほしい。
(『孔雀』は新潮文庫の短編集『殉教』に所収)