今、東京で
メトロポリタン美術館展が開催中だが、
私は1月15日に大阪で見た。
( ↓ 大阪市立美術館のロビー)

最終日の前日の土曜日ということもあってか
混んでいて、りっぱな「密」状態だった。
メトロポリタン美術館と言えば、
NHK「みんなのうた」で
「タイムトラベルは楽し
メトロポリタン・ミュージアム
大好きな絵の中に 閉じ込められた」
と歌う大貫妙子の優しい歌声を思い出す。
「そんなところの絵なんて、
一生見られないだろうな」
と思っていたら、大挙してやってきた。
しかもまず大阪へ。
人間、生きてみるものである。
宗教画がメインの中世から
人間そのものを描いた近代まで
有名どころが、てんこ盛り。
中でも心に残ったのは、
子供の絵だった。
ゴヤの「ホセ・コスタ・イ・ボネルス」。
著名な医者の息子を描いたという。
4、5歳だろうか。
横山大観の「無我」を思わせるような、
まだ視線の焦点が定まっておらず、
足も「ドン」と開いたままの
無防備な姿。
木馬の手綱や、
赤い羽根飾りがついた帽子を持つ
小さな手の表情がかわいらしい。
背景はグレーだけれど
うすい桃色が透けて見えて
それがこの絵に独特の温かみを
与えている。
かわいい盛りの男の子の
かわいらしさを
あのゴヤが
こんなふうに描けるとは。
(ゴヤと言えば
「我が子を食らうサトゥルヌス」だもん。)
そのとなりに、ほぼ同じ大きさの、
これまた子供の絵が並べてあった。
今度は、マネである。
「剣を持つ少年」。
10歳の誕生日を前にした
男の子の絵。
鑑賞者に向けられた視線、
剣を持つ手、革靴を履いた足にも
明確な意思が宿る。
男の子の母親は、長い付き合いを経て
マネと結婚したという。
この2枚が並べられた空間には、
何とも言えない幸福な空気感があった。
本当にうまい画家が描いた
子供の絵って、いいな。
もう一枚、次はモネ。
モネが自分の息子ジャンを描いた作品、
「木馬に乗るジャン・モネ」。
木馬といっても、
三輪車に木馬が乗っているような、
乗りこなすにはちょっと技術が
いりそうなシロモノ。
5歳のジャンは必死で
ペダルを漕いでいるように見える。
小さな茶色い帽子、
白いブラウス、
ベージュ色の袖なしのスーツと、
なぜかチュチュのようなスカートを
はいている。
黒白しま模様の靴下に
パリの小粋さを感じる。
図録では縮小されていて
よくわからないが、
帽子の下の白い小さな顔が
とてもきれいに描かれている。
白い小さな顔は透明感にあふれ、
美しい我が子へのモネの愛情が
ひしひしと伝わってきて、
泣きそうになった。
それはジョン・レノンが
オノ・ヨーコとの間の息子
ショーン・レノンのことを歌った
Beautiful Boyという曲を
思い出させる。
サビの部分の歌詞は
Beautiful, beautiful, beautiful
Beautiful boy
ジャン・モネと同じく5歳の
ショーンに捧げられた曲。
親がこんな曲を書いてくれたら、
親がこんな絵を描いてくれたら、
もう一生、何があっても
生きていけるだろう。
あと2枚、感銘を受けた絵。
一枚はセザンヌの
「リンゴと洋ナシのある静物」。
画面の壁や机はゆがんでいて
平衡感覚がおかしくなる感じ。
その上のリンゴも
机から落ちそうで
不自然なのだが、
でもリンゴなのだ。
リンゴの存在感がズシッと
見ている者の目に質量をもって
迫ってくるのである。
「これがセザンヌか」と
ようやくわかった気がした。
これも図録では、
リンゴの重量感は伝わってこない。
(でも図録は印刷がとてもきれいです。)
最後の一枚は再びモネ。
「睡蓮」である。
だが、よく見る「睡蓮」ではなく、
パステルで描いた抽象画のような
睡蓮だった。
けれど、
力強く胸に迫ってくる睡蓮だった。
この睡蓮を描いた時、
モネの視力はかなり衰えていたという。
見えないからこそ心の目で描いたような。
ターナーの、晩年の、
光だけを描いた絵のような睡蓮だった。
(ターナーの絵も、来てます。)
こんなふうに
すばらしい絵がたくさん来ている
メトロポリタン美術館展。
まだの方はぜひどうぞ。