田中きなこ 校注 『源氏物語』より 「須磨」の巻
津の国、須磨には、ひとしお物思いにふけらせる秋の風が吹くようになりました。
海は少し離れてはおりますが、あの、須磨に流された行平の中納言さまが「関
吹きこゆる」とお詠みになったという浦風に荒れる波音が、夜ごとに近く聞こえて
、またとなく心にしみるものは、こういう所の秋なのでございます。
古女房一人がはべるこの陋屋で、きなこ源氏は窓辺にたたずまれます。そのお姿は
不吉なほど気高くお美しく、場所が場所だけにこの世のものとも思われません。
白き綾ひとつだにお召しにならず、窓辺でゆっくり目をお閉じになり、「釈迦牟尼
仏の弟子にモンプチゴールドを与えたまへ」とゆっくり唱えられます。おのづから
濡るる袖をお隠しにもならず、野分の音をお聞きになるさまは、どんな方がごらん
になってもそぞろあはれを催され、モンプチゴールドを買いに走られるのでござい
ます。
(新全集本より、ちょっと谷崎源氏ふうの現代語に換骨奪胎しました。なお、国文学研究資料館教授のI先生によると、新大系は版が変わるたびに細かなところが訂正されているそうで、十分気をつけて読む必要があると感じた次第。ちなみに、きなこ源氏の本当の好物はささみなんですが・・・)
津の国、須磨には、ひとしお物思いにふけらせる秋の風が吹くようになりました。
海は少し離れてはおりますが、あの、須磨に流された行平の中納言さまが「関
吹きこゆる」とお詠みになったという浦風に荒れる波音が、夜ごとに近く聞こえて
、またとなく心にしみるものは、こういう所の秋なのでございます。
古女房一人がはべるこの陋屋で、きなこ源氏は窓辺にたたずまれます。そのお姿は
不吉なほど気高くお美しく、場所が場所だけにこの世のものとも思われません。
白き綾ひとつだにお召しにならず、窓辺でゆっくり目をお閉じになり、「釈迦牟尼
仏の弟子にモンプチゴールドを与えたまへ」とゆっくり唱えられます。おのづから
濡るる袖をお隠しにもならず、野分の音をお聞きになるさまは、どんな方がごらん
になってもそぞろあはれを催され、モンプチゴールドを買いに走られるのでござい
ます。
(新全集本より、ちょっと谷崎源氏ふうの現代語に換骨奪胎しました。なお、国文学研究資料館教授のI先生によると、新大系は版が変わるたびに細かなところが訂正されているそうで、十分気をつけて読む必要があると感じた次第。ちなみに、きなこ源氏の本当の好物はささみなんですが・・・)