夏への扉、再びーー日々の泡

甲南大学文学部教授、日本中世文学専攻、田中貴子です。ブログ再開しました。

きなこ日本文学全集 (第20回配本)

2009年08月10日 | Weblog
田中きなこ 校注 『源氏物語』より 「須磨」の巻


津の国、須磨には、ひとしお物思いにふけらせる秋の風が吹くようになりました。

海は少し離れてはおりますが、あの、須磨に流された行平の中納言さまが「関

吹きこゆる」とお詠みになったという浦風に荒れる波音が、夜ごとに近く聞こえて

、またとなく心にしみるものは、こういう所の秋なのでございます。

古女房一人がはべるこの陋屋で、きなこ源氏は窓辺にたたずまれます。そのお姿は

不吉なほど気高くお美しく、場所が場所だけにこの世のものとも思われません。

白き綾ひとつだにお召しにならず、窓辺でゆっくり目をお閉じになり、「釈迦牟尼

仏の弟子にモンプチゴールドを与えたまへ」とゆっくり唱えられます。おのづから

濡るる袖をお隠しにもならず、野分の音をお聞きになるさまは、どんな方がごらん

になってもそぞろあはれを催され、モンプチゴールドを買いに走られるのでござい

ます。

(新全集本より、ちょっと谷崎源氏ふうの現代語に換骨奪胎しました。なお、国文学研究資料館教授のI先生によると、新大系は版が変わるたびに細かなところが訂正されているそうで、十分気をつけて読む必要があると感じた次第。ちなみに、きなこ源氏の本当の好物はささみなんですが・・・)

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