「外伝 黒衣の伯爵夫人」には、さりげなく描かれているけれど、なかなか深くて面白いなあと思う場面いくつかがある。
気位の高いカロリーヌは、常にオスカルのそばにいるロザリーに嫉妬し、何かにつけ彼女がパリの下町育ちであることを見下しいじわるする。そしてオスカルに、ロザリーがいかに自分に対してひどい仕打ちをしたか訴える。
オスカルたちは森の中で道に迷い、あわや一晩野宿になりかけたところを、偶然ロザリーがモンテ・クレール城を見つけ、泊めてもらうことになる。豪華な部屋に通され、ホッとしたカロリーヌは皮肉をこめて言う。「わたし 誰かさんとは違って どこででも寝られるようには育っていませんもの。」
すかさずアンドレが返す。「それは 俺への あてこすりのつもりか」
ロザリーのプライドを傷つけまいと絶妙のタイミングで、自分が平民の出であることをカミングアウトするアンドレ。カロリーヌは自分の失言に気づき「そ…そんなつもりじゃ…」と弁解するがあとの祭り。本当に口は災いのもと。もちろんこの場にオスカルもいるが、この件について何も言わない。アンドレの一言がとても男前というか、自分が盾になってロザリーを守っているのが何ともかっこいい。
この外伝で、オスカルはカロリーヌとロザリーの中間地点に立っている感じがする。どちらの味方にもならない。これはオスカルの賢さだろう。おそらくカロリーヌの嘘は見抜いているだろうが、それについて彼女を問い詰めることはせず、さりげなく自分が感じていることを伝える。カロリーヌから「オスカルさまは ロザリーさんがお好きなの?」と尋ねられこう答える。「長い間一緒に暮らしているとね 相手の人柄まですっかりわかるものだよ。」この一言に「ロザリーは、カロリーヌが言うようなことをする娘ではない。」との確信が込められている。カロリーヌの立場を危うくせず、かといってロザリーに肩入れするわけでもなく、オスカルは上手に二人の間に立っている。池田先生の他の作品には、カロリーヌに似た性格のキャラが時々登場する。
ロザリーとカロリーヌの共通点。それはオスカルに対し恋愛感情にも似た想いを寄せていること。
二人に対し場面は異なるけれど、「私は女だ。」とはっきりと伝えるオスカル。
一時避難したモンテ・クレール城内で、王家の紋章の入った由緒あるレジャンス式猟銃を見つけ思わず手に取るオスカル。「武官の哀しさだな。こういうものを見ると、つい手にとってみたくなる。」この時のオスカルの横顔が、とても女性的で美しい。銃を見つめる表情は、まるで愛しい幼い我が子に向けるかのよう。そのオスカルを少し離れたところから見つめるアンドレの視線。先生はなぜここにアンドレを描いたのか?「武官の哀しさ」という言葉に、アンドレも哀しみを感じたのか?オスカルには猟銃でなく、宝石類を手にしてほしかったのか?読むたびに「この時のアンドレの想いは何だったのだろう?」と考えてしまう。
「外伝 黒衣の伯爵夫人」は、本編以外の作品の中で一番好き。細かいところに、オスカルとアンドレの微妙な心の動きが描かれていて面白い。
読んでくださり、ありがとうございます。
いかがお過ごしでしょうか。
ご無沙汰しております。
「黒衣」は偶然にも昨夜読んだばかりです。
私は、オスカルがカロリーヌ嬢に求められ、騎士道から敬意の意味を込めて手に接吻するシーンが一番好きです。
この外伝は、オスカルが本編よりもより男性的に描かれていて胸が高鳴るのです。カロリーヌ嬢を抱いて連れ帰ったり、レジャンス様式の銃をかまえたり、オスカルの男前なシーンが沢山です。
アンドレも目の損傷以前ですし。
>そのオスカルを少し離れたところから見つめるアンドレの視線。
私の考えなのですが、アンドレってオスカルの内面の一部が玻璃の城のごとく脆く、オスカル自身すら、その事に気づいていないと知っている唯一の人だと思うんです。軍服で武装され封印されたオスカルの女としての脆い芯の部分を見抜いている人です。アンドレがオスカルに見せて欲しい顔は、真にその弱く脆い女の部分に他ならないのに、それすら気づかず銃を嬉しそうに手に取る様子は、アンドレにとって切なくもあり、可哀想と思い、ゆえに愛しさが込み上げてくる瞬間ではないでしょうか。オスカルが男性的に行動する時こそ、アンドレのオスカルに対する守り包んであげたい気持ちが強まると思います。(酒場で喧嘩した後など)
アンドレにとってオスカルは完全に女で、それが無理して男と同じになろうと自分を痛めつけている姿が、けなげでもあり、可哀想であるから、一層愛おしいのでしょうね。守ってあげたいと思う。
剣術も馬術もオスカルの方が優れているけど、決断したり、腹をくくったりする精神力は、男であるアンドレの方が優れていて強いのです。その部分が、アンドレがオスカルを守る動機なのではないでしょうか。
アンドレって、普通の可愛く弱く甘え上手な女性を好きにならない感じがします。女ながらに、男と互角になるため必死に自分と戦っているような女が、あるとき自分にだけ見せる涙、外界には突っ張っているのに自分にだけは弱さを曝け出す時、その女を抱擁したい、征服したいと感じるのでしょう。じゃじゃ馬ほど調教し甲斐があり、調教後は従順な馬になるのに似ています。
アンドレには柔和で穏やかに見える性格の陰に、容易に従う女よりも強く激しい女を組み敷きたい猛々しい征服欲があると感じます。高い山でなければ、登る意味が無いと思っている。その征服欲の強さが、アンドレが性的な魅力を発する根源かも知れないと感じています。
私はアンドレの魅力って、外見の柔らかさに対する芯の強さと内面に潜む猛々しさにあると思います。
それに対して、オスカルは外見は強く、中身は柔らかく脆いので、アンドレと逆なんです。
だから、この二人は破れ鍋に綴蓋なんでしょう。
少し前に香水の記事があったので、読ませていただきました。
Bal à Versaillesって、ベルサイユの舞踏会って意味通り、少しレトロで格調高い貴婦人の香りです。動物性の香りとバラの香りが中心の、代表的な香料がすべて入っている厚みのある香りで、嗅いだときに少し喉と鼻の奥にいがさが残ります。
実はこれ、私が10歳の時に初めて父に買ってもらったオーデコロンでした。大きな四角い瓶でした。私は1963年の生まれなので、1973年当時です。
二本目は、母がフランスに仕事で行った際に買ってきてくれた本物のパルファムでした。山吹色のサテン地の中敷き、縦開きケースの外側は白地に金色の縫い取りがしてありました。
難しい香りで、当時の私は未熟過ぎて無理でした。
気品に優れた人でないと纏うのは難しいですね。円熟した大人の女の香り。相応しい方でないと下品なオバサン一直線の雰囲気をたっぷり醸し出してくれます。
私はさっさとゲランのVol de Nuit(夜間飛行)に逃げました。今もこの香りです。
それから、ポップの王様のマイケル・ジャクソンさんの愛用した香水が、Bal à Versaillesでした。意外ですよね。
持っていたのに、私には一生似合わない感じで、トホホです。
昔読んだ記事に拠ると、マリー・アントワネットは、毎日の入浴の習慣から、体臭が大変弱かったと聞きました。しかし、香水は大好きで、お抱え調香師ファージョンに、「プチトリアノンを香水にして。」と注文したそうです。アントワネットの好きだった香りは、菫、ネロリ、ジャスミン、バラ等です。
余談ですが、ナポレオンの好んだ香りは、凡庸にも柑橘系だったそうです。一方、ジョセフィーヌはムスクやアンバーなどの動物性を好んだとか。お風呂嫌いだったんですかね?
私は時々、オスカルやアンドレに似合う香水を香水のサイトで探しては妄想して遊んでいます。
もう、こち(東風)は吹きましたか。
早く良い季節になると良いですね。
お読みくださって、ありがとうございました。
お久しぶりです。お元気でしたか?
>私は、オスカルがカロリーヌ嬢に求められ、騎士道から敬意の意味を込めて手に接吻するシーンが一番好きです
本編でもアントワネットの手にキスする場面がありましたね。オスカルにとってきわめて日常的で、当たり前のことなのかもしれませんが、東洋人の私たちには結構心を射抜かれるしぐさです。
>アンドレにとってオスカルは完全に女で、それが無理して男と同じになろうと自分を痛めつけている姿が、けなげでもあり、可哀想であるから、一層愛おしいのでしょうね。守ってあげたいと思う。
幼いころから常に行動を共にしてきた二人。アンドレはオスカルの心の内がすべて読めていたことでしょう。だから彼女の心がフェルゼンに向いていることに、長年苦しみました。衛兵隊に異動して間もなく、アランたちがオスカルが女であることを痛く思い知らせようとして、とんでもない企てをしますが、あわやのところでアンドレが危機を救う。自分の命に代えても、守り抜いて見せる…そう思わせほど、オスカルはアンドレにとって唯一無二の女性でした。
>私はアンドレの魅力って、外見の柔らかさに対する芯の強さと内面に潜む猛々しさにあると思います。
それゆえ、ブラビリ事件やワイン毒殺未遂など、思い詰めて暴走してしまう時もありました。
>Bal à Versaillesって、少しレトロで格調高い貴婦人の香りです。動物性の香りとバラの香りが中心の、代表的な香料がすべて入っている厚みのある香りで、嗅いだときに少し喉と鼻の奥にいがさが残ります。
幼いル・ルーには早すぎる香水ですね。残念ながら私はこの香水を嗅いだことがありません。From Windy Cityさまの文面から察するに、結構濃厚で大人の香りのようですね。上手に付けないと、下品な印象を与えそうです。たくさん付けたからいいってものでもないし…。マイケル・ジャクソンが愛用していたとは意外でした!
ゲランというと真っ先に思い浮かべるのが「Mitsuko」です。しかしこれも試したことがありません。「夜間飛行」も有名ですね。今回発売の香水「王妃の花束」は、高価で買うことはできませんが、どこかで香りを嗅いでみることができたらなあと思います。
アントワネットは植物性の香りがお好きだった・・・彼女の好んだインテリアの模様などを見ても、それが表れています。自然の風物がとても好きな女性だったとお見受けします。肖像画のモデルになる時は、ばらを手にしていることが多いですし。
>ジョセフィーヌはムスクやアンバーなどの動物性を好んだとか。お風呂嫌いだったんですかね?
ルドゥーテに「植物図鑑」を刊行させるほど、ばらが大好きだったジョセフィーヌが、動物性の香りが好きだったのは意外です。あの方こそ、ばらの香水を求めそうな気がするのですが…。
>私は時々、オスカルやアンドレに似合う香水を香水のサイトで探しては妄想して遊んでいます。
とても優雅で楽しい妄想ですね。オスカルとアンドレに似合う香水って、何だと思いますか?TPOに応じて使い分けそうですね。
「外伝 黒衣の伯爵夫人」年月がたっているので全く無理なことですが、ずうっとこのときのような絵で見たかったですね。
本当に男前のオスカル。アンドレも目が見えるのにLOVELOVEで、当時のオスカルロス、ずいぶん癒やされました。本編では見られなかったオスカル、見たいオスカルを先生は再現してくださったのですね。
これだけメジャーになったキャラだから、この外伝、宝塚とかでもやられたらよいのにとおもってしまいます。エリザベートヴァートリもずいぶんはまりました。
>年月がたっているので全く無理なことですが、ずうっとこのときのような絵で見たかったですね。
池田先生の「ベルばら」の絵のタッチが、最高に美しく輝いているのが「黒衣の伯爵夫人」ですよね。新作エピソードは、こんな感じのお話がいいなぁと思う時があります。ちょっとしたコマに、それぞれのキャラの想いが熱く語られている。何度読み返しても飽きません。
>この外伝、宝塚とかでもやられたらよいのにとおもってしまいます
宝塚がこの外伝を上演しないのが、むしろ不思議なくらいです。何か劇化できない理由でもあるのでしょうか?