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遊びをせんとや

人生総決算!のつもりで過去・現在のことなどを書きます
といっても肩肘はらずに 楽しく面白く書きたいと思います

永井荷風#43摘録 断腸亭日乗~荷風と戦争その13 さらば浅草オペラ館ほか

2024年03月14日 | 日記
 浅草公園六区 左端の建物が浅草オペラ館 

1944/S19年 荷風66歳
 開戦からほぼ2年 足かけ3年を迎え 荷風は年初に現況を総括している
時局総括】
 政府方針は未だ一定しない 何が国是かも不明
 文学雑誌が一括発売禁止となったが 学術文芸は無用の長物なのか
 無用とすれば文化の進歩を損ない 欧州中世の暗黒時代に戻ってしまう
 この愚挙暴挙が成功するなら 国の衰亡を必ず招く
 単に武力のみで支那印度南洋の他民族は治められない 現政府の命脈は短い

・・・荷風は街談録ほかでこんなことも綴っている
古書店主から四迷・鴎外・漱石・逍遥・藤村らの書簡等を見せてもらった
これら文献を見て 猪武者らの我武者ら政治を憎まずにはいられない
 
さらば浅草オペラ館】
3月末日 浅草オペラ館取り壊しにより最後の公演舞台に出かける
終演後 館主が一座の男女を舞台に集め告別の辞 楽屋頭取が答辞読上げ
答辞を読むうち感極まり泣き出す 男女の芸人4、50人も一斉に涙を啜る
楽屋へ戻っても泣いたり 互いの所番地を交わして別れを惜しんだりする

思い返せば 初めてこの楽屋に来て 踊子の裸など見て喜んでから早7年
オペラ館は 浅草らしい遊蕩無頼の情趣を残す 最後の別天地だった
ある時は殆ど毎日来て遊んでいたが それも今は還らぬ夢となった
踊子らは無知朴訥 瑶蕩無頼だが 表に立つ人の狡猾強欲傲慢さは無い
だから時事に不満の時は ここに来て共に飲食雑談をして心を慰められた
その晩年の慰安場所も無くなると思うと 悲しく切なくなる

・・・オペラ館の場所を当時の地図で調べてみたが分からなかった・・・

浅草公園六区地図 G-dirive ここをクリックで拡大


・・・六区は地図左下 凡例近くの一角 この何処かにオペラ館があった筈
眼についたのが丸に囲まれたパノラマ デカそうだが何だろう?


 浅草公園 日本パノラマ館 正面図 by Wikipedia

 ・・・パノラマ館は劇場の1種で パノラマ像や映画などを入場者に見せた
全国各地に作られたという 一種のブームだったのだろう

【物の値段】
・・・荷風は 4月11日の日誌に 食物の闇値を書いている
因みにこの頃の大卒初任給=70~80円 1升=1.8ℓ 1合=1/10升 1貫=3.75Kg 
白米1升=10円 酢1合=1円 食パン1斤=2.4円 鶏肉1羽=25円
鶏卵1個=0.7円 砂糖1貫目=120円 するめ1枚=1円 沢庵1本=5円
醤油1升=10円 バタ1斤=20円・・・

阿部定事件】
1月18日 数年ぶりにお歌(※)が訪ねて来た 
  ※お歌は荷風の交情16女衆の一人 本名は関根うた
今は芸妓に戻り柳橋に出ているという 夜8時過ぎまで話尽きず
老後戦乱の世に逢えたというのは涙するほど嬉しい
 
お歌 阿部さだという女と知合い今も往き来しているという
谷中アパートに年下男と同棲 どこか足りないところがある女だという
(以下朱書き) 松過ぎて思はぬ人に逢ふ夜かな
   
 ・・・荷風は 阿部さだには関心が無かったようで 上記以外の記述は無い
阿部定事件が起きたのは1936年(昭和11年)5月
坂口安吾が彼女と対談し 印象を書いている・・・

 阿部定 逮捕直後の新聞写真1936年5月20日(by Wikipedia)~みんな笑顔なのはなぜ?

今日は戦争動画へのリンクは無し
それでは明日またお会いしましょう
[Rosey]


永井荷風#41摘録 断腸亭日乗~荷風と戦争その11(冗談剰語ほか)

2024年03月12日 | 日記
1943/S18年 荷風65歳
 この年の日誌から 街談録・流言録・冗談剰語と名付けられた部分を紹介する 
 日付・箇条書き等は順不同 例によって超要約記述する
 
【冗談剰語より】
 ◆大東亜(共栄圏)とは何のことか
  極東の替言葉である 支那・印度・赤道下の諸島が広いことは知っている
  今更なぜ大か
 Greatest in the worldなど 大をつけたがる北米人の癖だ
 今どき北米人の真似をするとは滑稽笑止の沙汰である

◆東京府をなぜ東京都に変えるのか
 何のためか意味不明 京都の東とか西とか言うように聞こえて滑稽

◆日本人が口にする愛国とは何か
 田舎者のお国自慢である その短所欠点を口外してはならない
 歯の浮くような世辞を言え
 腹にもない世辞を言えば 嘘八百とわかっても 軽薄とは言われない
 この国に生まれたら 嘘で固めて 決して心情を吐露してはいけない
 富士の山は世界に二つとない霊山 二百十日は神風の吹く日
 桜の花は散るから奇妙だ 楠と西郷は偉い偉いとさえ言っておけばよい
 そう言っておけば押しも押されぬ愛国者である

以上 7月5日日誌より抜き書き
・・・荷風 端的に急所を突く 今時の政治家・役人・メディアら見習え・・・


 敵性語抹殺を呼びかける記事~これ日本文化の一側面なり と荷風は書いていないが・・・

【戦争に関連する話題その1】~NHKアーカイブスにリンク~
「桃太郎の海鷲」 日本初のアニメ映画封切
 
【街談録より】
◇昭和12年~今年迄の日本の戦費を 支那軍戦死者の人数で割ると2千円
 この戦争の愚劣さを推察するべし

◇山本(五十六)大将の死 北方での日本軍全滅の報に一部の愛国者が言う
 「楠公の遺訓を実践したものだ」と
 だが一国の興亡は 一時の勝敗と一将の生死で決まるものではない
 自分の名誉と刹那的な感情で 多数の兵卒を犠牲にするのは利己主義だ

突然実施の徴用令 犠牲となった人々の悲惨な話は聞くに堪えない
 軍需工場の職工などが多く 苦役で病死 負傷して廃人になる者も多い
 3か月の訓練中は日給2円 一人前でも120、30円止まりと言う
 この戦争は奴隷制度の復活である 軍人のみ大東亜共栄圏の美挙という

【戦争に関連する話題その2】~NHKアーカイブスにリンク~
▷学徒出陣(6分頃から それ以前は米軍撮影の南太平洋海戦のフィルム) ^

【流言録より】
 ◇或る日 貨物自動車が馬車と衝突 白米2俵が路上に散乱
  巡査が見咎め運転手を尋問する 山梨県警察部長の東京転勤の荷物の由
  これにより山梨県知事以下の役人らの 国禁の白米を横領した事が露見
 関係者は南洋や満州に左遷されたが公罰は無く 秘密裏に葬り去られた

【戦争に関連する話題その3】~NHKアーカイブスにリンク~

今日はここまで 次回は1944(S19)年へ
それでは明日またお会いしましょう
[Rosey]

永井荷風#40摘録 断腸亭日乗~荷風と戦争その10(無謀な侵攻)

2024年03月11日 | 日記
 1942/8月7日 ガダルカナルに上陸する米軍海兵隊 

1942/S17年 荷風64歳 
 以下 ▷は該当月の戦況など~何れもNHKアーカイブス動画にリンク

07/07 腹痛治らず病院に行き 検査と治療の為入院 11日午後に帰宅
07/28 向島から寺島町を歩く 「濹東綺譚」を書いてから6年が経つ


08/12 灯火管制 夜空に頻りに飛行機の音が響く
08/27 電車内で元タイガーの女給と会う 伊太利大使の妾になったはず
 30代半ばになるが20代半ばに見える 西銀座の酒場勤めとか
 境遇や時代の変化に心を労するふうもなく・・・無智の女ほど強い者はない


09/08 人の話で 憲兵が土地を安く入手とか職権乱用とか聞く
09/29 10日間ほど両脚両腕麻痺して起き伏しや歩行が不自由
 診察受けるが病因不明・・・終局近いか 乱世に死は救いの手 喜んでいい
09/30 文房具の店 墨が品切れの由


10/01 広告にソロモン海戦記・陸軍大将講演会などあり
 停車場入口に「弾丸債券」というものを売る小役人が通行人を呼び込む 
 (欄外朱書)「都」「国民」の2新聞併合して「東京新聞」となる
10/11 時間の呼び方が午後1時を13時 2時を14時と軍隊風になるという


11/12 政変以来 文壇より引退同様となって来客も無し 最も喜ばしい
11/24 かつてなく晴天続く 乱世のさま忘れ人間生命の嬉しさを味わう


12/05 夜酔客の話 日本橋高島屋で奢侈禁制の金銀縫取の呉服買い上げ
 刑事調べたところ東条首相の妻女と解る そのまま手を引いたとか
12/12 出版社より 小篇「軍服」の掲載中止の知らせ


 ・・・開戦から1年経ち 雲行きが怪しくなってきた所で今日は終わり
明日またお会いしましょう
[Rosey]

永井荷風#38摘録 断腸亭日乗~荷風と戦争その8(戦線拡大)

2024年03月10日 | 日記

1942/S17年 荷風64歳 
以下 ▷は「摘録 断腸亭日乗」には記載されていない太平洋戦争関係の記述

01/01 旧暦の暦を売ることが禁じられた
 年賀状が1枚も来ないのも法令のため 人民の従順さに驚き悲しむ

連合国共同宣言~米英ソ中など26ヶ国から成る連合国が枢軸国「日独伊」と単独での講和・休戦を行わないことを誓約した宣言(01/02)
 連合国のポスター(アメリカ戦争情報局制作) 


01/23 塵紙石鹸歯磨 配給切符制の風説 昨夜中に全て町から消えた


02/03 この夜節分 まく豆が無く鬼は外へ行けない 次の歌を詠む
    豆まきといへど豆なき家の内 福は来たらず鬼は追われず


 

03/12 昼日中より酔漢が多い 戦勝第2回祝賀のためという
03/16 数日来街の灯無し 日比谷で海軍中佐某 自動車にひかれて死ぬ


04/18 敵国飛行機弾丸投下(※) 火災場所は早稲田・下目黒・三河島・浅草他


04/19 大井町鉄道沿線の工場に爆弾2,3百人死亡の由 新聞は沈黙
04/26 慶応の卒業生で2・26の叛乱に従った者 銀座で偶然会い話を聞く
 南京攻撃部隊に2年半 南京は3度の攻撃で漸く占領した由
 中華人多数殺されたと話す 戦争を考えない無神経な帰還兵がこの頃多い

05/07 徴用された映画会社文芸部員 南洋で紙芝居を作り 日本は神国だ
 と現地住民に見せるという

ミッドウェー海戦の悲劇(日本ニュース) (06/05ー07)
 空母4隻と艦載機390機を失い 戦況が暗転する

06/20 町会役員新しい者多く 偏奇館を去る時が来たかと思う

今日はここまで 明日またお会いしましょう
[Rosey]