今日は1月23日(土)にさいたまスーパーアリーナで行なわれたグリーン・デイのライブレポートをしようと思います。私は23日、24日と参加しましたが、セットリストは大幅には変わらなかったにも関わらず、1日目と2日目では受けた印象が大きく異なりました。1日目は最新の、まさに2010年のグリーン・デイを目撃したという思いでした。アルバム『Kerplunk』(1992)からの楽曲”2000 Light Years Away”という古い曲まで演奏されましたが、それを含めてすべての曲がまるで『21st Century Breakdown』という物語の一部として再構築されているように感じたのです。
理由の1つはステージが『21st CB』のアルバム通り、”Song of the Century”、”21st Century Breakdown”、”Know Your Enemy”で幕を開けた事で一気にその世界に取り込まれたという事です。”21st Century Breakdown”はオープニングに相応しく、だんだんと盛り上がる曲であり、シンガロングする事でクリスチャンと自分が一体化するような感覚を覚えました。この始まりは本当に良かったです。曲が展開する瞬間にニューヨークにも見える都会の煌めく高層ビル群が背景に映し出されます。私達はポスト9.11という現代に生きているのだという事をふと感じさせる演出でした。また、かなり早い段階で演奏された”Static Age”はアルバムの中ではクライマックスに向けて疾走していくような曲なので、まるで物語が終わるところからこの日のライブ、という新たな、そして1日限りの物語が展開する事を予感させる素晴らしい演奏でした。2つ目の理由としては背景のスクリーンとデザインが一貫して『21st CB』のアルバムアートワークを意識したものになっていた事だと思います。

序盤は『21st CB』と前作『American Idiot』(2004)の曲で固められていました。どちらも物語形式をとった作品であり、多くの共通点が見られる事から2つのストーリーが不思議に、絶妙に交差しているのが感じられるのはライブの構成ならではの面白みでした。ライブアルバム『Bullet In A Bible』(2005)では反戦歌として歌われた”Holiday”は戦争、暴動が起きる寸前の緊張感のある現代という背景を『21st CB』の物語に効果的に提供しているようだったし、”Are We the Waiting”は何となくクリスチャンの子ども、或いは少年時代を歌っているようでした。そして、”St. Jimmy”は中でも不思議な感じを受けました。セイント・ジミーは『AI』の主人公、郊外のジーザスの破壊的で怒りに満ちたオルター・エゴですが、彼には明らかにクリスチャンには無い愚直さがあるのです。高速で演奏される音楽のストレートさによって気づかされました。堕天使のようなセイント・ジミーの絵が背景に映し出されていたのが印象的でした。続く”Boulevard of Broken Dreams”はまるで郊外のジーザス/セイント・ジミーがクリスチャンに至るまでの歩みでもあり、グリーン・デイが『AI』から『21st CB』に至るまでの長く厳しい道のりのようでもありました。
中盤は過去のヒット曲を次から次に打ち出す流れで、全く息つく暇が無い寸分の隙も無い演奏でした。そして、最初に述べたようにどの曲も『21st CB』の物語に合致するように思えたのです。特に『Dookie』(1994)からの楽曲がそうでした。『Dookie』の中でまっすぐすぎるほどに歌われているのは、退屈な日常、孤独、(したい)仕事が無い事、逃げ出したい事、などでした。何が価値のある事なのか分からない。まるで現代の中で迷子になり、地団駄を踏んでいる。それは今から考えてみれば現代社会の構造的な問題のせいでもあり、21世紀はそれに拍車がかかっているだけのこと。だから、今でも1994年の楽曲がこれだけリアリティをもって訴えかけてくるのだという事を、この日のセットリストは明らかにしていると感じました。特に印象的だったのは”She”の演奏です。背景にうつむく女の子の白いシルエットが映し出され、それはまるでグロリアであるかのようでした。グリーン・デイは語る術を知らない「彼女」を陰から救い出し、声を与える事で「彼女」をグロリアにした。それはグリーン・デイが私に対してしてくれた事でもあるかもしれません。
定番”King For A Day”とIsley Brothersの”Shout!”のカバーの際にはBen E. Kingの”Stand By Me”、The Beatlesの”Hey Jude”、Rolling Stonesの”(I Can’t Get No) Satisfaction”のメドレーまで披露してみせました。この日は他にもThe Whoの”My Generation”をフルでカバーし、その前にはBlack Sabbathの”Iron Man”のさわりを弾いてみせるなど、自らのルーツであるパンクを大切にしながらも古典ロックからソウル、メタルと幅広いロックの伝統をグリーン・デイが踏襲している事を示していました。
本編最後は再び『21st CB』に戻り、”21 Guns”、”American Eulogy”というアルバム通りの流れで2曲続けて演奏されました。この2曲は私にとってこの日のハイライトの1つでした。私はやっぱり今回は『21st CB』からの楽曲がどれも本当に素晴らしかったと思います(それだけにもう少しいろいろ聴きたかった・・)。特に”American Eulogy”は最も聴きたかった1曲だったので嬉しかったです。アメリカの問題を追究する曲でありながら、日本にいても共感できる部分も少なくありません。特に”I don’t want to live in the modern world”というラインを一緒に歌う事がとてつもないカタルシスでした。『21st CB』の楽曲の多くがドライブ感のあるものであっても、一抹の哀しさのような雰囲気を持っていて、それはまるで、最後のチャンスに賭ける、という切迫感と真剣さを表しているように思えます。この曲からもその事を強く感じ、ライトが落ちた時には胸がきゅうと痛む気がしました。
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ここからは2度のアンコールでした。”Minority”は私がグリーン・デイに出会った曲で、とても感慨深かったです。また、これも最初に述べた全ての楽曲が『21st CB』の物語と呼応している、という事を強く感じさせる曲でした。私はこれを今までずっと個人的な文脈だけで聴いてきました。中学1年生だった私に少数派でいる事をこれ以上ないほどストレートな言葉で肯定してくれた曲だったのです。でも、改めてこの日聴いているとこれが必ずしもそれだけの曲ではない事に気づかされました。「マイノリティ」というのはアメリカでは極めて具体的なイメージを喚起する言葉です。白人カトリック教徒以外の人々であり、有色人種であったり、異なる信条や性的嗜好を持つ人であったりします。そして1990年代はこうしたマイノリティの権利を強く主張する流れとそれに対する激しい批判が戦った時代でした。また、サビに出てくる”Down with the moral majority”というフレーズも示唆的です。「モラル・マジョリティ」は”East Jesus Nowhere”の記事でも書いた宗教右派の代表的な団体の名前でもあるのです。アメリカにいれば、この曲を聴いた途端に歌詞が持つ含意というのは感じられるようになっている。グリーン・デイは10年も前からきっちりとアメリカと向き合い、あるべき姿に導くために闘う心意気を見せていたのでした。しかも、それがロックに目覚めきっていない、ティーンエイジャーにもなっていない日本の女の子にも勇気を与える楽曲にも仕上がっている事は魔法としか言い様がありません。会場全体の一体感も素晴らしく、感動的でした。最後のアコースティック3曲での終わり方もグリーン・デイが最早パンクの域に留まらない、21世紀を牽引するロックバンドの1つである事を雄弁に物語っていました。最新のグリーン・デイとはつまり、正真正銘のロックバンドとしてのグリーン・デイだったのです。
SET LIST for 2010/01/23 Green Day Live @ Saitama Super Arena
1 21ST CENTURY BREAKDOWN
2 KNOW YOUR ENEMY
3 EAST JESUS NOWHERE
4 HOLIDAY
5 THE STATIC AGE
6 !VIVA LA GLORIA!
7 ARE WE THE WAITING
8 ST.JIMMY
9 BOULEVARD OF BROKEN DREAMS
10 2000 LIGHT YEARS
11 HITCHIN A RIDE
12 WELCOME TO PARADISE
13 WHEN I COME AROUND
14 MY GENERATION (/IRON MAN)
15 BRAIN STEW
16 JADED
17 LONGVIEW
18 BASKET CASE
19 SHE
20 KING FOR A DAY/SHOUT! (/STAND BY ME/ HEY JUDE/ (I CAN'T GET NO) SATISFACTION)
21 21GUNS
22 AMERICAN EULOGY
ENCORE
23 AMERICAN IDIOT
24 MINORITY
25 LAST NIGHT ON EARTH
26 WAKE ME UP WHEN SEPTEMBER ENDS
27 TIME OF YOUR LIFE
rockin' on 編集部日記より引用。
理由の1つはステージが『21st CB』のアルバム通り、”Song of the Century”、”21st Century Breakdown”、”Know Your Enemy”で幕を開けた事で一気にその世界に取り込まれたという事です。”21st Century Breakdown”はオープニングに相応しく、だんだんと盛り上がる曲であり、シンガロングする事でクリスチャンと自分が一体化するような感覚を覚えました。この始まりは本当に良かったです。曲が展開する瞬間にニューヨークにも見える都会の煌めく高層ビル群が背景に映し出されます。私達はポスト9.11という現代に生きているのだという事をふと感じさせる演出でした。また、かなり早い段階で演奏された”Static Age”はアルバムの中ではクライマックスに向けて疾走していくような曲なので、まるで物語が終わるところからこの日のライブ、という新たな、そして1日限りの物語が展開する事を予感させる素晴らしい演奏でした。2つ目の理由としては背景のスクリーンとデザインが一貫して『21st CB』のアルバムアートワークを意識したものになっていた事だと思います。

序盤は『21st CB』と前作『American Idiot』(2004)の曲で固められていました。どちらも物語形式をとった作品であり、多くの共通点が見られる事から2つのストーリーが不思議に、絶妙に交差しているのが感じられるのはライブの構成ならではの面白みでした。ライブアルバム『Bullet In A Bible』(2005)では反戦歌として歌われた”Holiday”は戦争、暴動が起きる寸前の緊張感のある現代という背景を『21st CB』の物語に効果的に提供しているようだったし、”Are We the Waiting”は何となくクリスチャンの子ども、或いは少年時代を歌っているようでした。そして、”St. Jimmy”は中でも不思議な感じを受けました。セイント・ジミーは『AI』の主人公、郊外のジーザスの破壊的で怒りに満ちたオルター・エゴですが、彼には明らかにクリスチャンには無い愚直さがあるのです。高速で演奏される音楽のストレートさによって気づかされました。堕天使のようなセイント・ジミーの絵が背景に映し出されていたのが印象的でした。続く”Boulevard of Broken Dreams”はまるで郊外のジーザス/セイント・ジミーがクリスチャンに至るまでの歩みでもあり、グリーン・デイが『AI』から『21st CB』に至るまでの長く厳しい道のりのようでもありました。
中盤は過去のヒット曲を次から次に打ち出す流れで、全く息つく暇が無い寸分の隙も無い演奏でした。そして、最初に述べたようにどの曲も『21st CB』の物語に合致するように思えたのです。特に『Dookie』(1994)からの楽曲がそうでした。『Dookie』の中でまっすぐすぎるほどに歌われているのは、退屈な日常、孤独、(したい)仕事が無い事、逃げ出したい事、などでした。何が価値のある事なのか分からない。まるで現代の中で迷子になり、地団駄を踏んでいる。それは今から考えてみれば現代社会の構造的な問題のせいでもあり、21世紀はそれに拍車がかかっているだけのこと。だから、今でも1994年の楽曲がこれだけリアリティをもって訴えかけてくるのだという事を、この日のセットリストは明らかにしていると感じました。特に印象的だったのは”She”の演奏です。背景にうつむく女の子の白いシルエットが映し出され、それはまるでグロリアであるかのようでした。グリーン・デイは語る術を知らない「彼女」を陰から救い出し、声を与える事で「彼女」をグロリアにした。それはグリーン・デイが私に対してしてくれた事でもあるかもしれません。
定番”King For A Day”とIsley Brothersの”Shout!”のカバーの際にはBen E. Kingの”Stand By Me”、The Beatlesの”Hey Jude”、Rolling Stonesの”(I Can’t Get No) Satisfaction”のメドレーまで披露してみせました。この日は他にもThe Whoの”My Generation”をフルでカバーし、その前にはBlack Sabbathの”Iron Man”のさわりを弾いてみせるなど、自らのルーツであるパンクを大切にしながらも古典ロックからソウル、メタルと幅広いロックの伝統をグリーン・デイが踏襲している事を示していました。
本編最後は再び『21st CB』に戻り、”21 Guns”、”American Eulogy”というアルバム通りの流れで2曲続けて演奏されました。この2曲は私にとってこの日のハイライトの1つでした。私はやっぱり今回は『21st CB』からの楽曲がどれも本当に素晴らしかったと思います(それだけにもう少しいろいろ聴きたかった・・)。特に”American Eulogy”は最も聴きたかった1曲だったので嬉しかったです。アメリカの問題を追究する曲でありながら、日本にいても共感できる部分も少なくありません。特に”I don’t want to live in the modern world”というラインを一緒に歌う事がとてつもないカタルシスでした。『21st CB』の楽曲の多くがドライブ感のあるものであっても、一抹の哀しさのような雰囲気を持っていて、それはまるで、最後のチャンスに賭ける、という切迫感と真剣さを表しているように思えます。この曲からもその事を強く感じ、ライトが落ちた時には胸がきゅうと痛む気がしました。
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ここからは2度のアンコールでした。”Minority”は私がグリーン・デイに出会った曲で、とても感慨深かったです。また、これも最初に述べた全ての楽曲が『21st CB』の物語と呼応している、という事を強く感じさせる曲でした。私はこれを今までずっと個人的な文脈だけで聴いてきました。中学1年生だった私に少数派でいる事をこれ以上ないほどストレートな言葉で肯定してくれた曲だったのです。でも、改めてこの日聴いているとこれが必ずしもそれだけの曲ではない事に気づかされました。「マイノリティ」というのはアメリカでは極めて具体的なイメージを喚起する言葉です。白人カトリック教徒以外の人々であり、有色人種であったり、異なる信条や性的嗜好を持つ人であったりします。そして1990年代はこうしたマイノリティの権利を強く主張する流れとそれに対する激しい批判が戦った時代でした。また、サビに出てくる”Down with the moral majority”というフレーズも示唆的です。「モラル・マジョリティ」は”East Jesus Nowhere”の記事でも書いた宗教右派の代表的な団体の名前でもあるのです。アメリカにいれば、この曲を聴いた途端に歌詞が持つ含意というのは感じられるようになっている。グリーン・デイは10年も前からきっちりとアメリカと向き合い、あるべき姿に導くために闘う心意気を見せていたのでした。しかも、それがロックに目覚めきっていない、ティーンエイジャーにもなっていない日本の女の子にも勇気を与える楽曲にも仕上がっている事は魔法としか言い様がありません。会場全体の一体感も素晴らしく、感動的でした。最後のアコースティック3曲での終わり方もグリーン・デイが最早パンクの域に留まらない、21世紀を牽引するロックバンドの1つである事を雄弁に物語っていました。最新のグリーン・デイとはつまり、正真正銘のロックバンドとしてのグリーン・デイだったのです。
SET LIST for 2010/01/23 Green Day Live @ Saitama Super Arena
1 21ST CENTURY BREAKDOWN
2 KNOW YOUR ENEMY
3 EAST JESUS NOWHERE
4 HOLIDAY
5 THE STATIC AGE
6 !VIVA LA GLORIA!
7 ARE WE THE WAITING
8 ST.JIMMY
9 BOULEVARD OF BROKEN DREAMS
10 2000 LIGHT YEARS
11 HITCHIN A RIDE
12 WELCOME TO PARADISE
13 WHEN I COME AROUND
14 MY GENERATION (/IRON MAN)
15 BRAIN STEW
16 JADED
17 LONGVIEW
18 BASKET CASE
19 SHE
20 KING FOR A DAY/SHOUT! (/STAND BY ME/ HEY JUDE/ (I CAN'T GET NO) SATISFACTION)
21 21GUNS
22 AMERICAN EULOGY
ENCORE
23 AMERICAN IDIOT
24 MINORITY
25 LAST NIGHT ON EARTH
26 WAKE ME UP WHEN SEPTEMBER ENDS
27 TIME OF YOUR LIFE
rockin' on 編集部日記より引用。
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