東京の明治神宮外苑地区の樹木の7割を伐採する再開発計画案を都が決めたという(朝日新聞2022-2-10)。この地区は自然景観を維持するため風致地区に指定されており、文化遺産保存に関する日本イコモス国内委員会も、公益性の高い文化遺産であるとして「破壊することなく継承していくべきだ」と提言していたという。都心に残された緑地が次々になくなっていくこと自体面白くないが、再開発の利益が一部の業者に偏っているなんてことはないのだろうか。
そんなことをいうのは、東京都荒川区のJR西日暮里駅前の再開発で、土地の37%の地権者である区が、再開発後の床面積の2.5%しか得られないという事例を読んだことがあるからだ(朝日新聞2021-11-16)。再開発の対象となるのは約2万3000平方メートル、道路などを除いた宅地は1万5000平方メートル。そのうち荒川区は区立中学校跡地など5500平方メートル(37%)を提供し、最大の地権者だ。
計画では、ここにタワーマンションや商業棟などを建てて再開発し、できる施設の床面積の合計は約16万3000平方メートルにもなる。なのにそのうち、区が得られる「権利床」は、商業棟の7階の4000平方メートルだけだという。床面積全体の約2.5%でしかない。
こんなことになるのは、「等価交換」という仕組みのためなのだという。区は、再開発前にもともと持っていた不動産と同じ価格分の「権利床」を、再開発後の施設において得ることができるのだという。もともと持っていた土地の価格と同じ価格の床面積をもらうと思うとたしかに「等価」と思えるかもしれない。だがたとえば3階建てのビルが30階の高層になれば、単純計算で総価格は10倍になる。増えた9倍分がディベロッパーのものになるというのはおかしくないか。ディベロッパーは開発にかかる費用を負担しているとはいえ、もともと土地も何ももっていたわけではなかったはず。増えた9倍分は地権者とディベロッパーで折半するのが筋ではないか。
「等価交換」は、マンション建設などでもよく聞く。だがちょと検索したところでは、地権者とディベロッパーが交渉して分配比率を決めるのが定番らしい。個人の場合、もともと持っていた土地の価格の倍の権利床が得られれば上々、というアドバイスも読んだ。マンションの建て替えなどでは、追加出費なしで建て替えができるとなると住民はそれだけで喜んでしまいがちだが、増えた床分が全部ディベロッパーのものになるというのは納得できない。
たしかに個人が所有したままでは高層化が実現できる見込みはないから、若干ディベロッパーの分け前が多くなるのは仕方ない。だが荒川区の事例は本当に適正な等価交換なのだろうか。小さな自治体では専門知識をもつ職員がおらず、業者のいいなりになりがちだという記事をつい最近読んだ(全く別の文脈だが)。
明治神宮でもどこでも、緑地をつぶしての再開発にはそもそも慎重になってもらいたいが、そうでなくとも、再開発によってディベロッパーだけが得をするのはよくないと思う。
追記:
上記で明治神宮に触れたが、先日、たまたまそれに関するテレビ番組を見た(NHK「首都圏情報ネタドリ」,4/5,4/6(再))。都心に残る貴重な緑地を減らして高層ビルを建てる計画が議論を呼んでいる問題だ。番組では、開発元の三井不動産が全く費用を負担せず、3000億円代の費用の全額を「保留床処分金」で賄うことが明らかになった(自治体に提出された資料から)。ほかに、3棟の高層ビル建築が可能になるのは東京都の「公園まちづくり制度」を利用したためだが、これは「未供用」区域を開発した場合に適用される制度のことで、今回の場合、すでにスポーツ施設となっていた土地の再開発に適用するのはおかしいという指摘もされており、興味深かった。
だが(とりあえず再開発の是非はわきにおいて、「保留床処分金」で資金を賄うこと自体も問わないこととし)本項での論点に絞ると、「保留床処分金」で開発費用を賄った後、三井不動産にはどれくらいの利益を懐に収めることができるのだろうか。番組によれば、「公園まちづくり制度」を利用しないと高層ビルを1棟しか建てられず、それだと費用が賄えない。3棟なら費用を賄えるということだが、たとえば2棟ではだめなのか。高層ビルの階数を減らしてはだめなのか。
再開発の原価というものを開示させることができるのかどうかわからないのだが、それを知らないと再開発事業を担ってもらうためにどのくらいは認めてもいいかを考えることができない。これは上記の荒川区の事例にしても、一般的なマンション建て替えにしても同じなのだが、原価を開示させる枠組みがないと、保留床/権利床の分配比率の交渉が成り立たないと思う。
参考:
神宮外苑の再開発に反対する活動をしているRochelle Kopp氏による解説(change.org 2024-4-7)によると「保留床処分金」についてももっと複雑な事情があるようだが、不詳。
そんなことをいうのは、東京都荒川区のJR西日暮里駅前の再開発で、土地の37%の地権者である区が、再開発後の床面積の2.5%しか得られないという事例を読んだことがあるからだ(朝日新聞2021-11-16)。再開発の対象となるのは約2万3000平方メートル、道路などを除いた宅地は1万5000平方メートル。そのうち荒川区は区立中学校跡地など5500平方メートル(37%)を提供し、最大の地権者だ。
計画では、ここにタワーマンションや商業棟などを建てて再開発し、できる施設の床面積の合計は約16万3000平方メートルにもなる。なのにそのうち、区が得られる「権利床」は、商業棟の7階の4000平方メートルだけだという。床面積全体の約2.5%でしかない。
こんなことになるのは、「等価交換」という仕組みのためなのだという。区は、再開発前にもともと持っていた不動産と同じ価格分の「権利床」を、再開発後の施設において得ることができるのだという。もともと持っていた土地の価格と同じ価格の床面積をもらうと思うとたしかに「等価」と思えるかもしれない。だがたとえば3階建てのビルが30階の高層になれば、単純計算で総価格は10倍になる。増えた9倍分がディベロッパーのものになるというのはおかしくないか。ディベロッパーは開発にかかる費用を負担しているとはいえ、もともと土地も何ももっていたわけではなかったはず。増えた9倍分は地権者とディベロッパーで折半するのが筋ではないか。
「等価交換」は、マンション建設などでもよく聞く。だがちょと検索したところでは、地権者とディベロッパーが交渉して分配比率を決めるのが定番らしい。個人の場合、もともと持っていた土地の価格の倍の権利床が得られれば上々、というアドバイスも読んだ。マンションの建て替えなどでは、追加出費なしで建て替えができるとなると住民はそれだけで喜んでしまいがちだが、増えた床分が全部ディベロッパーのものになるというのは納得できない。
たしかに個人が所有したままでは高層化が実現できる見込みはないから、若干ディベロッパーの分け前が多くなるのは仕方ない。だが荒川区の事例は本当に適正な等価交換なのだろうか。小さな自治体では専門知識をもつ職員がおらず、業者のいいなりになりがちだという記事をつい最近読んだ(全く別の文脈だが)。
明治神宮でもどこでも、緑地をつぶしての再開発にはそもそも慎重になってもらいたいが、そうでなくとも、再開発によってディベロッパーだけが得をするのはよくないと思う。
追記:
上記で明治神宮に触れたが、先日、たまたまそれに関するテレビ番組を見た(NHK「首都圏情報ネタドリ」,4/5,4/6(再))。都心に残る貴重な緑地を減らして高層ビルを建てる計画が議論を呼んでいる問題だ。番組では、開発元の三井不動産が全く費用を負担せず、3000億円代の費用の全額を「保留床処分金」で賄うことが明らかになった(自治体に提出された資料から)。ほかに、3棟の高層ビル建築が可能になるのは東京都の「公園まちづくり制度」を利用したためだが、これは「未供用」区域を開発した場合に適用される制度のことで、今回の場合、すでにスポーツ施設となっていた土地の再開発に適用するのはおかしいという指摘もされており、興味深かった。
だが(とりあえず再開発の是非はわきにおいて、「保留床処分金」で資金を賄うこと自体も問わないこととし)本項での論点に絞ると、「保留床処分金」で開発費用を賄った後、三井不動産にはどれくらいの利益を懐に収めることができるのだろうか。番組によれば、「公園まちづくり制度」を利用しないと高層ビルを1棟しか建てられず、それだと費用が賄えない。3棟なら費用を賄えるということだが、たとえば2棟ではだめなのか。高層ビルの階数を減らしてはだめなのか。
再開発の原価というものを開示させることができるのかどうかわからないのだが、それを知らないと再開発事業を担ってもらうためにどのくらいは認めてもいいかを考えることができない。これは上記の荒川区の事例にしても、一般的なマンション建て替えにしても同じなのだが、原価を開示させる枠組みがないと、保留床/権利床の分配比率の交渉が成り立たないと思う。
参考:
神宮外苑の再開発に反対する活動をしているRochelle Kopp氏による解説(change.org 2024-4-7)によると「保留床処分金」についてももっと複雑な事情があるようだが、不詳。