リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

片側空けしないほうが効率的? エスカレーター輸送効率の常識と非常識

2019-10-12 | 一般
エスカレーターの片側を歩く人のために空ける慣行があるが、そんな片側空けをしないよう促すのをよく見るようになった。「空ける」側に立たざるを得ない事情のある人への配慮だとか、事故防止だとかの理由もあるにしても、やはり客同士のトラブル防止というのが施設側の本音ではないか(現に、2012年に東京・渋谷駅で刺傷事件があってから、歩かないようにとの案内が増えたように思う)。
2015年にはイギリスの地下鉄ホルボーン駅で、片側を歩く人のために空けずに「両側立ち」したほうが輸送効率が上がるという、意外な実験結果が発表されて話題を呼んだ(The Telegraph)。
だがエスカレーターの輸送効率については、ちょっと前提条件を変えれば正反対の結果が出ることもある。輸送効率だけで割り切れる問題でないのはわかっているが、少なくとも間違った(または一面的な)データをもとに議論することのないよう、エスカレーター「片側空け」「両側立ち」それぞれの場合についての輸送効率の常識と、見落としがちな事実について紹介しておく。

●まず、歩かない側に行列ができているのに歩く側がガラガラな場合、片側空けをやめれば輸送効率が倍になる。

●ただし、歩く側がすいていても、エスカレーターの入り口で歩かない側に行列ができていない場合には、片側空けをやめても輸送効率は上がらない。ここまでは問題ないだろう。

●立つ側、歩く側の両方が混んでいる場合、歩くのをやめて「両側立ち」にしたら、輸送効率は落ちる…というのが直感なのだが、実は「両側立ち」のほうが効率がいい…という実験が話題を呼んだことは上記のとおり。ただし、これは前提条件によってどちらにもなりうるので注意が必要だ。

エスカレーターの典型的な速さは分速30mらしい。ステップ幅が60cmとすると、1分当たり50ステップがエスカレーターから出ていく。これを使うと、
●エスカレーターの全ステップに1人が立っていれば、毎分50人を繰り出せる。
●前の人との間に1段空けることが多いようなので(過去ブログ)、その場合、半分の毎分25人ということになる。
(以下では人数ではなく速さに着目するので、これらの数字は使わないが。)

では歩くとどうなるか。私がためしてみたら、立っていた場合に30秒かかるエスカレーターが歩くと12秒くらいになった。つまり、30/12=2.5だから、
●エスカレーターを歩くと、立ったままに比べて速さは(個人差もあるが)2.5倍くらいになる。
私が歩く速さがエスカレーターの速さ(分速30m)の1.5倍だったことになるが、これは時速2.7kmに相当し、上りだったことを考えるとそれほど的外れな数字ではないだろう。
それなら、歩く場合の輸送効率は立ったままの場合の2.5倍ではないか、ということになるが、実は「〇段空け」の問題がある(「乗り込み率」という用語があるようだ)。立ったままの場合は前に1段空けて、「2段当たり1人」が乗っているが、歩いていると間隔が開いて「3段当たり1人」になるなどという人もいる。だから、「歩くと2.5倍」という仮定を使うと、
●「両側立ち」「片側空け」どちらも「2段に1人」であれば、「片側空け」の輸送効率(歩く側のみ考えることにする)は、「両側立ち」の場合の2.5倍になる。
●「両側立ち」が「2段に1人」、「片側空け」(歩く側)が「3段に1人」であれば、「片側空け」で歩く側の輸送効率は、2.5×(1/3)÷(1/2)≒1.67倍にしかならない。
それでも歩いたほうが効率がいいことになるが、「歩かないほうがいい」というデータは、歩かない側は1段空けをせずに全ステップに人が立っている、と仮定しているようだ。
●「両側立ち」が「各段に1人」、「片側空け」(歩く側)は「2段に1人」であれば、「片側空け」で歩く側の輸送効率は、「両側立ち」の場合の1.25(=2.5÷2)倍でしかない。
●「両側立ち」が「各段に1人」、「片側空け」(歩く側)が「3段に1人」であれば、「片側空け」で歩く側の輸送効率は、「両側立ち」の場合の0.83(=2.5÷3)倍となって、「歩かないほうが効率的」という結果になる。

このように、「乗り込み率」をどう見積もるかで「両側立ち」「片側空け」の輸送効率の評価は逆転してしまうのだ。私が駅の混雑時に観察した限り、「両側立ち」「片側空け」どちらも「2段に1人」が最も近いような気がするが、それでも歩く人の速さにむらがあると、遅い人の後ろはその人の速さに合わせて歩かざるを得ないので、「2段に1人」は現実的になる一方、「2.5倍」という倍率は小さくなるだろう。
一方、平地で普通に行列して歩いている人の間隔は「1ステップ分」よりは広いかもしれない。だとすると、エレベーターに乗り込むときにそのまま進めば、自然に「3段に1人」くらいになる可能性がある。もちろんエレベーターの入り口前で滞留した列ができているような場合は「2段に1人」くらいにになると思うが。

さて、ここまでは歩く側にも人が途切れずにはいってくることを前提にした。だが歩く人が少ないとやはり歩く側に空きステップが多くなる。「両側立ち」が「2段に1人」、「片側空け」(歩く側)が「n段に1人」であれば、「片側空け」で歩く側の輸送効率は、歩かない場合の2.5×(1/n)×(1/2)=5/n倍ということになるが、nが6以上になればこの倍率は1より小さくなる。つまり、
●「両側立ち」が「2段に1人」の場合、歩く側に人がいるのが「6段に1人」以下になれば、(そして歩かない人が十分多くいるのであれば)「両側立ち」にしたほうが効率がよくなる。

結局、「歩く側」「歩かない側」の込み具合を見て「両側立ち」「片側空け」を切り換えるのが輸送効率の観点からだけでは最善と言えるのだろう。例のホルボーン駅では電光掲示板で時間帯によって片側空けをするかどうかを示す試みがあったようだが(The Telegraph)どうなっただろうか。イギリスでうまくいったからといって、日本でも定着するとは限らないが。









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