アンクロボーグの世界

世界の存在すべてはSFです。
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ショートショート 【世界に一つだけの…】

2008年12月27日 23時41分38秒 | ショートショート
《 自動創作プログラムが作製したショートショート作品です 》

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【世界に一つだけの…】

部屋の中は、静かだった。聞こえるのはわずかな医療用装置の作動音。
それと患者が呼吸する音。時折早くなる呼吸…
そう、これは、この世で残されたわずかな時間を惜しむように繰り返される命の抵抗なのか。

「父さん…」
この病室で何度この問いかけをしたかわからない。それももうすぐ終わる…
92歳の生涯を終えようとしている意識の無い父が何本ものチューブを接続され、生かされ続けていた。
男性の平均寿命が100歳を過ぎた今、父は早すぎる死を向かえようとしている。
尊厳死、安楽死の明確な国家基準が決められてから2年を過ぎ、父の場合も淡々とこの制度に照らしあわされ、正式に今日、認定がおりてこの時が来た。

「あなた…」 「お父さん…」 「おじいちゃん…」 
家族みんなが集まり見つめる中、担当医が立ちあい、装置が静かに動きを止めた。
いつもやさしく、そして時には厳しく接してくれた、いい父親だった。
私の脳の中には父の思い出が駈けめぐった。私の感情を揺さぶる数だけ何度も何度も涙が頬をつたわった。

皆が悲しみ、涙を流していた時、「カチャ」と、病室のドアが静かに開いた。
若い2名の男性、1名の女性が入ってきた。
家族と亡くなった父に深々と一礼した後、3人は慣れた手つきで持参した特殊なコードが付いた装置を父の頭部へ接続させる作業をはじめた。
「パパ、この人たちは何をしてるの?」
一連の見なれた行為をはじめて見る娘の《友果》が聞いてきた。
「あれはね。おじいちゃんの頭の中から音楽を取り出しているんだよ。」

二日後、父の葬儀が行われ、斎場の複数のスピーカーから曲が流れはじめた。亡くなった直後の父の脳内を解析しその人が持つ独特のパターンから採取された思考波をもとに作曲された曲。
世界で一つだけ存在する曲が奏ではじめられた。
私もこの会場に集まるすべての人達も、父のメロディに魅了されていた。
父の92年間の人生を証明する生きた証に誰もが耳を傾けている。

最近になって行われるようになったこのサービス。
死亡が確認された直後、脳の活動残像を解析出来る技術が開発された。
不思議なことに生前どんな凶悪な事件をおこした人間も虫も殺めたことの無いような善人も、生前の地位、名誉、財産の有無、に関係はなく、どんな人生を過ごしてきたとしても、最後に残すこの一曲は無条件に素晴らしい音楽を産みだすことがわかっていた。

その中でも特に素晴らしいと認められた曲は、パッケージ化され販売契約が結ばれる事も有った。
しばらくの後、私の父が残した曲も何百曲ものライフミュージックの音楽データの仲間入りを果せた。父の曲が世界中のネット網に飛ぶのだ。
死後50年間は使用権が発生し、販売額に見あった収入が得られる仕組み。

はたして100年後、200年後、父の曲は名曲として後世に生きる人々の心に感動を与え続ける事が出来るのだろうか…

《 お わ り 》