心が満ちる山歩き

美しい自然と、健康な身体に感謝。2019年に日本百名山を完登しました。登山と、時にはクラシック音楽や旅行のことも。

北アルプス・折立から新穂高への縦走(9) 鷲羽岳

2019年11月15日 | 北アルプス


薬師岳(2,926m)・北ノ俣岳(2,662m)・黒部五郎岳(2,840m)・三俣蓮華岳(2,841m)・鷲羽岳(2,924m)・双六岳(2,860m) (つづき)


 「 黒部川の源流地は、日本アルプス中、最も僻遠深奥の境をなしている所で、東は鷲羽岳、蓮華岳の高峰をもって信州北安曇郡と界を接し、南は同じく蓮華岳と黒部五郎岳、上ノ岳の連嶂をもって、飛彈国吉城郡に接している。
  わずか数歩の差で、国境山稜の水は一つは高瀬川の源をなし、遠く信濃川に入り、一つは双六谷の幽谷を繞って高原川に合し、やがて神通川となって日本海に注いで行く。 ~」
 (冠松次郎『黒部峡谷』(平凡社))

 自然の摂理は巧みに隠されているものですが、もしとても立派で神々しい山がこの世に1つあるとしたら、それは人里から最も離れ、すぐにはたどり着くことのできない場所にそびえているべきだと思います。


 三俣山荘から岩のガラガラした、およそ400mの標高差を登ると、鷲羽岳の山頂です。短い飛行機雲が、山の斜面と垂直の方向にさっと現われて消えます。さっきまでコーヒーを飲んでいた三俣山荘は、みるみる小さくなっていきます。
 三俣蓮華岳から間近に眺めた鷲羽岳が立派だったのと同じくらい、鷲羽岳の頂上から眺める山も皆立派に見えます。
 一番目をひくのは双六岳と三俣蓮華岳でした。緑色は濃い緑・自然そのものの緑で、そこに残雪が散りばめられた姿は筆舌に尽し難いほどでした。薬師岳の表情はいよいよ彫が深くなり、陰になって黒い水晶岳(別名は黒岳)も凛々しく、硫黄尾根を従えた槍ヶ岳も素晴らしいです。黒部五郎岳と同じ「五郎」の野口五郎岳は、山頂に灰色の岩を抱えた大きな山でした。一度登ってみたいですが、未登です。野口五郎岳の大きさに感嘆するのは、鷲羽岳の頂上から眺めた時だと思います。
 真下には小さな鷲羽池が濃い藍色の水面を見せています。


 「 登山者として鷲羽岳に最初の足跡を印したのは、明治四十年(一九〇七年)の夏、志村烏嶺さんであった。志村さんは烏帽子の方から縦走して来て、鷲羽の絶頂を踏み、「南方眼下に、一小湖水を発見す、こは全く一噴火口なり、……鷲羽の噴火口、恐らく何人の耳にも新しき事実なるべし」と記している。日本アルプス探検時代には、こんな思いがけない発見が至る所にあったのであろう。昭和の今日、登山はしごく便利になったが、もはやこういう驚きはなくなった。 」(深田久弥『日本百名山』(新潮社))
 
 しかし、7年前に初めて鷲羽岳に登った時には、どの方角の眺望にも驚きがありました。
 北アルプスの一番遠くて大事な場所に、こんな山がそびえているのはほとんど奇跡です。
 もう一度、長い道のりを歩いて山頂へたどり着くことができたら、天の配剤をまた目の当たりにすることができるに違いありません。


 水晶岳


 野口五郎岳


 (登頂:2012年7月下旬) (つづく)



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