心が満ちる山歩き

美しい自然と、健康な身体に感謝。2019年に日本百名山を完登しました。登山と、時にはクラシック音楽や旅行のことも。

北アルプス・折立から新穂高への縦走(4) 黒部五郎岳

2019年10月15日 | 北アルプス


薬師岳(2,926m)・北ノ俣岳(2,662m)・黒部五郎岳(2,840m)・三俣蓮華岳(2,841m)・鷲羽岳(2,924m)・双六岳(2,860m) (つづき)

 北ノ俣岳から黒部五郎岳まで3時間半は、4日間の縦走の中で唯一天気が悪く、記憶に残っていることが少ない道のりです。
 登山道はほとんど濃い霧の中でした。時おり霧が晴れると、北ノ俣岳の広大な斜面が見えました。雨は降りませんでしたが、遠くから雷のような音が聞こえてきました。
 あとは、途中で薬師岳山荘で作ってもらったお弁当を食べたこと、1か所だけ道に迷ったこと、途中ですれ違った人が1人だけだったことしか覚えていません。


 『~ 中村さんがいかに黒部五郎ビイキであるか、その登山記の一節を引こう。「連嶺中の山は往々にして高さは高いながら、比隣の峰との関係上、境域が曖昧であつて、嶄然頭を抜くことが出来ず、徒らに大連嶺を形造るためのみじめな犠牲になつてしまつて、一個の山としては総てが貧しく、一言に言へば個性を失つた態があるのに比べて、わが黒部五郎岳は、連嶺中に位しながら、連嶺の約束に囚はれず、立派に自らの個性を発揮した天才の俤がある。自分はこの山が実に好きで耐らないのである。」 ~』(深田久弥『日本百名山』(新潮社版))


 中村さんとは山岳画家の中村清太郎(1888~1967)で、個性的な山はあれど、山を「天才」と表現しているところがとても画期的だと思います。
 長い長い道のりを経て頂上へたどりつくと、霧に覆われていた突然空が晴れ始めました。頂上に立ってカールの底を眺めたとき、視野に入りきらない程の大きさにはびっくりしました。この山を目標にしてよかったと思いました。
 そして、下ったところから山頂を見上げると、またしてもその大きさに驚かされました。単に高いとか大きいとかいう言葉では言い表せないスケール感を持つ、極めてユニークな山だと思います。


 地図を見ると、黒部五郎岳が源流となって赤木沢という小さな沢が流れ、あの黒部川へと流れ込んでいます。沢水の流れる音を聞きながらカールを下る登山道には、いくつもの巨石が横たわっていました。すべて氷河時代の名残です。

 黒部五郎小舎の建っている場所も個性的です。北アルプスで小屋を「小舎」と書く山小屋は、剱御前小舎とここだけだと思います。玄関には沢水がひかれ、美味しそうなビールが冷やされています。
 小屋の外で、熊本から来たという人と話しました。「おおくえやま」という、よく登る山があり、登る途中は本当に楽しいが、山頂は大したことがないのでいつも頂上まで行かずに引き返すとのことでした。漢字で大崩山と書くことは、帰ってから調べるまで分かりませんでした。「くえ」という、魚の名前のように風変わりに聞こえた響きのその山に、一度登ってみたいと思いました。
 日が暮れると、空は紫色に染まり、間に白い雲の太い線が一本通っていました。


 (登頂:2012年7月下旬) (つづく)



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