北アルプス 槍ヶ岳(3,180m)・笠ヶ岳(2,898m) ((11)のつづき)
「~ 明治になってからの初登頂者はウェストンであった。この山好きの宣教師は明治二十五年(一八九二年)から二年続けて不便な山麓までやってきたが、迷信深い村民に拒まれて登ることができず、ようやく三年目の八月一日念願の頂上に立った。若い猟師が村人の迷信をあざ笑って、こっそり案内してくれたのであった。ウェストンは素朴な日本の山村を愛したが、麓の蒲田の人たちは、笠ヶ岳の絶壁や渓谷には魔力を持った山の精が住んでいると信じていた。そしてよその人を神聖な山に案内すると、恐ろしい嵐が村を襲うと信じていたのである。明治二十年代の奥深い村は、大ていそんな状態であったのだろう。 ~」(『日本百名山』深田久弥(新潮文庫))
今日は3泊4日の山行最終日です。まだどこも痛くない、もっと歩けると思いますが、今日帰らなければいけません。新穂高温泉に下山して温泉につかった後バスを乗り継ぎ、夜には松本駅から最終の上りあずさ号の乗客となります。人のたくさんいる新宿駅のことなど考えたくもありません。
昨晩はとてもよく寝ました。気が付くと朝5時半で、朝食の時間を30分も過ぎていました。大部屋には誰もおらず、食堂のテーブルに自分の食事だけが置いてありました。
バツの悪い朝ですが、食事の後気を取り直して山頂へ向かいます。槍ヶ岳と穂高岳の間から太陽が昇ってきました。石のガラガラした急坂を20分登ると、屋根がえんじ色をした小さな祠が建っています。風雪を耐えた祠には、1824年に播隆上人がおさめた仏像があります。
ここから、ハイマツの間を進めば頂上です。祠から頂上まではすぐの距離ですが、祠から見た頂上は均整な台形で、まるで富士山を小さくしたようです。「どこから望んでも笠の形を崩さない」(『日本百名山』)笠ヶ岳は、大きな笠の中に小さな笠が隠れている山でもあります。
山名の標識は小さなものが1つあるだけで、あるがままの山でした。「絶壁や渓谷には魔力を持った山の精が住んでいると信じていた」時代は終わっても、頂上の様子はそのままのように思えました。槍ヶ岳は、頂上だけが雲に隠れて平坦な山に変わっています。南の方角には焼岳・乗鞍岳、そして御嶽山までが直線状に並んでいます。北には薬師岳、北ノ俣岳、黒部五郎岳と聳え、3つの山頂を結ぶと正三角形になりました。星図が地上に降りてきたような眺望を楽しみました。
(登頂:2013年9月上旬) (つづく)