東北見聞録~点在する奇岩・怪石
奇岩・怪石と言えば秋田県男鹿半島のゴジラ岩が人気。釣りポイントのすぐ近くに見られ、最近はガメラ岩も見つけたそうで、今後どんな怪獣岩が出現するのか楽しみだ。
さて、古来から石や岩への信仰の歴史は深く、神が降臨する御座所いわゆる「磐座(いわくら)」等がその代表格と言っても良い。東北では岩手県盛岡市の三ツ石神社の鬼の手形石と呼ばれる巨石、同じ岩手遠野市では巨大卓石のドルメン「続石」も見られる。この様にいわく付きの岩や石は探し出せばあちらこちらに存在する。今回は東北以外も含めた奇岩・怪石がテーマ。
①能登の奇岩・奇祭
まずは北陸の石川県能登町の怪石を紹介しよう。
能登半島の東側国道249号を走るとやがて能登町に到着する。ここに60メートル程の高さの「石仏山(いしぼとけやま)」がある。毎年3月1~2日にかけて「山の神」と「田の神」を祀る祭礼が行われる。この山に巨大な立石があると言うので、現地を訪ね山に登った。
古くから女人禁制の山で、中腹には大きな注連縄(しめなわ)が張られていて、俗世界と神聖地域の境界が示されていた。注連縄をくぐってややも進むと・・・驚嘆である。目の前に高さ3メートル程の巨大な石棒状の立石が屹立している。それも剣の様な鋭さを持った石棒だ。
秋田県鹿角市の大湯環状列石に見られる立石の5~6倍もある。その胴にはしっかりと注連縄が巻かれていて、信仰の厚さを感じさせた。祭礼はこの巨石の前で行われるそうだが、実はここはほんのスタート地点で、その奥の山斜面には組み合わせた様な巨石群、更に巨大な石棒状の石がズラリ。女人禁制のいわれが良く分かる気がした。あいにくの雨で斜面が滑りやすく、山頂部までは到達できなかったが、怪石が群をなしている状況は確認出来た。巨石が運ばれたのか、もともと存在した物を利用したのかは定かで無いが、山岳信仰は修験道との結びつきが深いので、年代的にも相当古い歴史を持つと感じた。
②奈良明日香村周辺の巨石
筆者が感激した巨石の多くは奈良県明日香村周辺にある。紙面に限りがあるので羅列に止めるが、歴史に登場する代表的な巨石は石舞台古墳だ。更に「鬼の俎板(まないた)」「鬼の雪隠(せっちん)」「亀石」「岩船石」などが点在する。そして写真の岩は「酒船石」で、松本清張も歴史探求に没頭した謎の巨石だ。同志社大学の故小川光陽教授は古代の生贄用の台座で、刻まれた溝から血が流れ落ちると自説を展開した。近畿地方に出向いた際には是非自らの眼で確認して欲しい。
③田沢湖を見下ろす鏡石
田沢湖こそ「奇岩・怪石」が集中する面白スポットなのだ。湖の辺り赤鳥居の御座石神社の背面には高鉢山がそびえ、その中腹に伝説の辰子姫が髪を結ったと言われる「鏡石」がある。かつては神社の裏手から急斜面伝いに登るしか手段は無かったが、今では立派な散策道が設置されている。それでも急斜面の登りはかなりキツイ。100メートルほど登ると「かなえる岩」の案内板、そして「鏡石まで後100メートル」とある。息が切れる思いでようやく鏡石の眺望台へ到達。鏡石を右手に臨むが、少々見えにくい。かつて斜面伝いに登った時は正に間近で、圧倒的迫力の巨石を見た。さてさて、その鏡石の鏡石たる所以は、巨石の中心部にポンとはめた様な正に鏡の様な丸い石が在る事からだ。人口説を唱える方も居る様だが、火山の麓ゆえの自然形成と筆者は思う。熱い火山弾の違う岩質が冷却時に分離して偶然に鏡の様な丸い形になったのでは無いだろうか。いずれにせよ信仰の深さは今も連綿と続いている様で、眺望台の手すりには多くの賽銭が積み重ねられていた。古来より修験の場として深い信仰を重ねて来た歴史の重みを感じる。
③キツネ岩に坂上田村麻呂の試し切り岩?
国道から田沢湖を目指すと途中で川沿いの山居地区で「キツネ岩」を見る事が出来る。これも火山地帯ならではの自然が生んだ偶然の産物と思うが、山の斜面に見事な形の白いキツネが見られる。質の異なった成分が、こうした偶然を生んだとすると「鏡石」のケースに近いのかも知れない。古くから「稲荷岩」として地元の信仰が続いている。そして太陽光線の当たり具合によっては、キツネから遠吠えする狼に見えると言われる。取材時、幸運な事にキツネと狼の両方を見る事が出来た。
次は十丈の滝に向かう途中の平牧野地区にある「坂上田村麻呂の試し切りの石」。4メートル程の巨石中央部が見事にスッパリと切られた様に割れている。蝦夷と7日間争った田村麻呂が大刀で切ったとの言い伝えが残る怪石だ。代表的な怪石・奇岩を紹介したが、この他にも石神地区の巨大な龍の形をした「青龍大権現」など、田沢湖周辺の自然の驚異を是非ご覧いただきたい。