明治38（1905）年刊行、監修山縣有朋元帥「陸軍省沿革史」によると有栖川熾仁親王が江戸入城した直後に「軍防裁判所」を設置しています。
四月六日 天皇諸藩兵ノ操練ヲ大阪城中二觀給フ。
江戸城ヲ収ム 十一日 東海道先鋒總督橋本實梁（さねやな）江戸城ヲ収メ、叉幕府ノ軍艦ヲ収メントス。
十五日 大總督有栖川熾仁親王江戸二入ル。
十九日 軍防裁判所ヲ設ケ、頭取、助役、吟味役、取筆、追捕手ヲ置キ、大橋慎三ヲ 頭取トナス
現在の第一生命館がある場所に「陸軍裁判所」が出来ました。日比谷図書館所蔵「江戸ー東京市街地図集成」明治9年より
その後「東京鎮臺軍法会議」となります。平凡社刊「江戸東京大地図」明治16年より
当ブログ表紙の「お薦めの書籍」にあります「日本陸海軍事典」から、「軍防裁判所」以降の「軍法会議」関連事項を抜粋します。
陸軍軍法会議
陸軍軍法会議は陸軍軍人・軍属等および俘虜の犯罪について裁判する陸軍所管の裁判所である。その歴史は古く、一八六九年（明治二）の糾問司に始まり、海陸軍糾問司、陸軍省糾問司、陸軍裁判所を経て、一八八二年（明治一五）陸軍軍法会議が設置された。
陸軍軍法会議には常設の高等軍法会議・師団軍法会議および特設の軍軍法会議（後に常設になる）・独立師団軍法会議・独立混成旅団軍法会議・兵站軍法会議（以上三軍法会議は後に廃止）・合囲地軍法会議・臨時軍法会議があった。合囲地軍法会議は戒厳令の布かれた合囲地境に、臨時軍法会議は戦時または事変において必要により陸軍の部隊に特設される。この他満州・朝鮮・台湾にそれぞれ関東軍軍法会議・朝鮮軍軍法会議・台湾軍軍法会議が常設されていたが、一九四一年（昭和十六）廃止され、朝鮮と台湾は軍軍法会議となった。
軍法会議には判土・法務官・録事・警査の職員が置かれ、判士には陸軍将校が任命された。裁判は判士と法務官で構成された五人の裁判官の会議で実施された。検察官には陸軍法務官が任命された。裁判は公開されたが、上告は常設の師団軍法会議と軍軍法会議にのみ認められた。陸軍軍法会議は一九四六年五月に廃止された。
軍律会議
軍律会議は、軍の作戦地域・占領地地域において作戦の遂行上、作戦軍司令官 （陸軍は軍司令官、海軍は司令長官）が公布した軍律に違反した一般国民および敵国人または第三国人等を審判するために特設されたものである。軍律会議はその構成や訴訟手続き等が概ね軍法会議に類似していたため、また軍律会議の検察官・審判官に軍法会議の法務官・判士が任命されていたため軍法会議と混同されるが、全く別個の組織である。
軍律として、軍に対する反逆行為・間諜行為・軍事行動を妨害する行為等を為した者は軍罰に処すと定められ、これを犯した者は軍罰として死・監禁・追放・過料・没収等に処せられた。戦後の戦犯裁判で、第一三方面軍司令官兼東海軍管区司令官の岡田資中将が、B－二九の搭乗員を軍律会議で死刑に処したことが国際法違反であるとして絞首刑になったことは有名である。
陸軍監獄（陸軍刑務所・陸軍拘禁所）
陸軍監獄は懲役・禁固・拘留の執行をに受ける陸軍軍人・軍属等および死刑の言い渡しを受けた者ならびに刑事被告人を拘禁する所で、陸軍軍法会議の所在地に設置された。
陸軍監獄には、懲役に処せられた者を拘禁する懲役監、禁固に処せられた者を拘禁する禁観監、拘留に処せられた者を拘禁する拘留場、刑事被告人および死刑の言い渡しを受けた老を拘禁する拘置場が置かれた。一九四五年六月陸軍監獄は、懲役監・禁固監・拘留場・拘置監を置く陸軍刑務所と拘留場・拘置監を置く陸軍拘禁所に二分され、陸軍刑務所は東京・大阪・小倉に、陸軍拘禁所は旭川・札幌・弘前・仙台・宇都宮・長野・金沢・名古屋・京都・広島・善通寺・福岡・久留米・熊本・羅南・京城・台北その他陸軍大臣の指定する地に置かれた。陸軍監獄とは別に各部隊に営倉、各署兵隊に留置場が置かれ、これらは陸軍監獄の代用として使用することができた。
【海軍軍法会議は陸軍に準じているので略します】
海軍刑務所
海軍監獄官制によって設置され、各軍港と徳山、馬公を除く要港ならびに大阪 に置かれていた。横須賀海軍刑務所などと所在地名を冠して呼称され、海軍軍法会議によって懲役、禁固の執行を受ける海軍軍人、軍属等を拘留した。太平洋戦争中の一九四二年五月三〇日以後はシンガポール、マニラ、ラバウル等、戦地または占領地にも臨時に海軍刑務所を開設していた。
