年度末モードに引っ張られ、なかなか更新できませんでした。
が、年度内に情報提供制度については終わらせておかないと、中途半端すぎて新年度に入れないぞ…。
ということで、漏れがありそうな気がしますが、メリット・デメリットをそれぞれ5つ挙げてみました。
◆情報提供をすべきか否か(付与前)◆
【情報提供するメリット】
(1)権利化阻止
他社の特許出願について、権利化を阻止するか、仮に権利化されるにしても小さい権利にすることが可能。
権利化前の方が権利化後よりも否定されやすい(かも)という見方もある。一概にはいえないことだし時代により変化があるけど、権利化後は権利の安定性というキーワードが発生する結果、権利化後に審査段階と同等の判断になるかは微妙。また、権利化後は権利者は請求項毎に勝負できるが、権利化前は出願全体で判断されて1の請求項がアウトなら全部アウトになるため、メインクレーム(一番でかい範囲のもの)で権利化できなければ、全てがパーになる。そんなこともあり、出願段階ではまとめてアウトにでき、まとめてアウトにならないために第三者に嬉しい限定がサクッと入ることも期待できる。
(2)早期に結論
付与後にあれこれ考える場合と比べ、早期に(審査段階で)証拠に基づく結論が出て、事業方針の確定等に有利。
情報をもっているけど、確実に権利化を阻止できるかどうか、こればかりはなかなか判断しにくい。
実施形態等から一部の構成を限定すれば権利化後でも生き残る可能性があるし、その全てを精査することは時間も労力も半端なくかかる。
そうであれば、先手を打った方がいいという判断もあり得る。
(3)匿名性
無効審判等では匿名での請求はできない。
これに対し、情報提供制度によれば、匿名での提示が可能なので、本願の動向を気にしているのが自社であることを知られにくい。
企業さんは多くの場合、やむを得ない場合を除き、当事者として表に立つことを避ける傾向にあると思われるので、匿名性はメリットといえる。
なお、匿名の場合、特許庁からの状況報告(情報提供内容の利用結果)は受けられないが、経過をウォッチングしていれば簡単に知ることができるので、特にデメリットというほどではない。
(4)低コスト・低労力
印紙も不要、情報をだせば審査官がなんとかしてくれる、審査官が拒絶理由・拒絶査定する場合に使い易いように記載個所を提示すれば十分、特許事務所に依頼しても比較的安い、などなど、コスト・労力面ではメリットが大きい。
(5)審査官にプレッシャー
これが特許になったら困るという第三者の存在を、審査官に知らせることになる。
その結果、進歩性有無が微妙なときなど、審査官に心理的な影響(プレッシャー)を与えられる(かも?)。
【情報提供するデメリット】
(1)存在のアナウンス
権利化されると困る第三者がいることを、特許出願人に知らせてしまう結果となる(特許出願人には情報提供があった旨の通知が届く)。
その結果、特許出願人の真剣度に拍車をかけてしまうかも?少なくとも私は情報提供があった場合にはかなり力が入る。下位クレームにまで神経をかなり尖らせて。
なお、仮に出願審査請求前に情報提供をしてしまうと、困る第三者の存在を知り、審査請求着手へのインセンティブになってしまい、逆効果。そのため、最低限、出願審査請求後に情報提供を行なうのが普通かと思われる(それでも拒絶応答に普段よりも全力を尽くされる逆効果は残る)。
さらに、特許出願人は、競合他社の製品を当該特許出願内容に基づいて調査する可能性もあり(普段にも増して)、拒絶対応に際しても調査結果に基づいて対象製品となり得るものをカバーしようと行動するかもしれない。
(2)かわされ易い
審査段階では、補正、分割出願、拒絶査定不服審判請求、面接など、特許出願人に与えられる方策(回数も含め)が多いので、付与後に何らかの手立てをする場合と比べ、かわされる可能性が高い。
競合製品が存在するかもしれないのであれば、各種手立てを駆使してでも対応してくる可能性が高まる。
また分割出願を利用されると、なかなか権利内容や権利化有無が確定しないという問題が生じ、早期決着を目論んでいたとすればその目的を達成できない場合も。
(3)強い特許に
まんまとかわされて設定登録されると、強い(潰れにくい)特許になっていることから、権利化後に難儀する可能性が高い。
特に、審査段階では(2)のとおり補正・分割等、方策の自由度が高いので、特許出願人を刺激して「よい特許」の形成に役立つだけであることも考えられる。
(4)十分に主張できない
単なる情報提供者であるため、意見を言う機会が限られる。もちろん、再度の情報提供によって実質的に意見を述べることはできるが、特許出願人のとり得る方策と対等ではない分、不利。
(5)人的リソースを割く必要
いくら情報提供が無効審判請求等より簡易な手続だとはいえ、公開段階からの監視負担増、補正・分割の自由度が残されている状況での判断負荷はかなり大きく、権利化業務その他の日常の知財業務にかける時間が減る。
多くの場合、人的リソースに余裕はないので、色々と弊害が大きくなる(そのため、とりあえず付与前では審査官頼みとし、登録されたら人的リソースをかけるという戦略をとった方が費用対効果の面で有利な場合が多い可能性も)。
◆情報提供すべきか否か(付与後)◆
年間で100件も利用されていない制度ということを知ったこともあり、メリット・デメリットをあーだこーだ考えるのはやめ(というか、ここで息切れということもあり(汗))。
自分が企業側だったら、やはり『有事の場合の切り札として情報は握っておく』(証拠集めはしても情報提供しない)という方針をとることが多くなるだろうと思う。警告を受けた場合に交渉が有利に進むわけだし、対世効を求めていない(なので、無効審判をわざわざ請求するのは労力もコストも見合わない)、という感じ。
誰かが無効審判請求、訂正審判請求、今後復活する付与後異議申立をしたときに、それに匿名で便乗する形で情報提供をするくらいが企業サイドとしては使ってもいいかなと思える場面かも。
情報提供制度を利用するか利用しないかはそれぞれ考え方がありますが、以上のメリット・デメリット(本当は利用しない場合のメリット・デメリットという見方も必要なんですが…)等を天秤にかけて、利用検討時の判断に使ってもらえれば嬉しいなと思います。
なんとか、年度内ギリに送信~。
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