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普段色々考えていることの日記です。

フィギュアスケート日本人選手を語る4

2008年08月01日 | スポーツ
 前々回、浅田真央をリリコ、安藤美姫をドラマティコと表現したのですが、この表現の仕方は結構はまると気付いたので、もうちょっとフィギュアの選手をオペラの歌声の区分で表現したいと思います。
 ついでに、前回語れなかった荒川静香とキム・ヨナについてもちょっと語ろうかな、と。

 まず触れなくちゃいけないのは、リリコとかドラマティコとかは声の質であって、声の音域のことではないと言うことです。
 当然ですがソプラノ音域にリリコやドラマティコがあるように、メゾ・ソプラノやアルトにもあります。当然男性の音域であるテノールやバリトン、バスにもあります。
 そして私は浅田真央や安藤美姫を語るとき、ソプラノのリリコとドラマティコを前提で語りました。
 まぁぶっちゃけ、オペラで主役を歌うのはソプラノ歌手かテノール歌手かなので、リリコとかドラマティコとかいう表現は主にソプラノ歌手かテノール歌手で使われます。そしてこの歌声はさらに細分化され、レジェロ、リリコ・レジェロ、リリコ、リリコ・スピント、ドラマティコと分けられます。
 あ、もちろんですが、メゾ・ソプラノやアルト、バリトンやバスも同じように細分化されますが、何せ主役がソプラノとテノールなのでまったく目立ちません。ですので、今のところはソプラノとテノールの話をしていると思って下さい。
 ふっふっふ。だんだんわけが分からなくなりましたね。実は私もそうです。
 ということで少しずつ整理しながら説明したいと思います。
 もちろん、フィギュアの話もしていきます。

 え~と、まず声の音域には高音から順にソプラノ、メゾ・ソプラノ、アルトとあります。男性声ならテノール、バリトン、バスとなります。
 これは義務教育期間に習うんじゃないかなと思います。合唱とかの時、「ハイ、声の高い人はこっちに来て」、と言われて男女それぞれ2つぐらいのパートに別れませんか? この時高い声の人のパートで主メロディを歌うパートが女性ならソプラノ、男声ならテノールの音域となります。そして低い声の人が女性ならアルト、男声ならバスと呼ばれたりしますが、まぁだいたいはメゾ・ソプラノとバリトンの音域を歌っています。そして小学校の時は男子もソプラノかメゾ・ソプラノの音域を歌っています。
 これが高校のコーラス部とかになると男女それぞれ3つのパートに別れます。そして、ソプラノとアルトの中間の音域であるメゾ・ソプラノやテノールとバスの中間の音域であるバリトンがパートとして登場します。高校生になると女性も男性も声変わりをし、より幅の広い音域を歌えるようになったからですね。
 この音域を縦軸に捉えていただくと、横軸となるのがリリコ、ドラマティコという声質です。
 前に言いましたが、リリコは叙情的な歌い方、ドラマティコはドラマティックな歌い方です。
 リリコは正統派ヒロインの歌声で、「椿姫」とか「ボエーム」のヒロインはソプラノのリリコ。ドラマティコは情熱的なヒロインの歌声で、「トゥーランドット」のトゥーランドット姫とかワーグナーオペラのヒロインたちはソプラノのドラマティコとなります。
 リリコはどっちかというとか弱い女性を表現し、ドラマティコは気が強い女性を表現するため、リリコよりドラマティコの方がじゃっかん声が低めとなりますが、音域として考えるより声質として考えた方がこれからの話が分かりやすいです。(か細い声はどうしても高い声になり、力強い声は低い声となるのだ程度でリリコとドラマティコの音域は考えておいて下さい)

キム・ヨナ
 オペラの高音域にレジェロという音域があります。
 最も高い音域ですね。
 これのソプラノがいわゆるコロラトゥーラソプラノの音域です。
 コロラトゥーラソプラノって? と言うと、「魔笛」の夜の女王がその音域にあたります。彼女のアリアは有名なのでどこかで聴いたことはあると思いますが、まるで人間の声ではないキンキン声の音域です。
 レジェロとはそこまで高い音域なのですが、ヒステリックなばあさんのキンキン声だけではなく、可憐な乙女の歌声などにもこのレジェロはあてられます。
 14,5歳の女の子って鈴の音を転がしたような声をしますよね。あの声です。(下手したらキーキー声ですが)
 さて、このとっても甲高い音域のレジェロを少しばかりドラマティックに歌うとリリコ・レジェロという音域になります。
 ドラマティックに歌おうと思えば少し低い声になってしまうと前述しましたよね。ということでリリコ・レジェロは音域的にレジェロとリリコの中間の音域となります。とはいえ、平行な中間ではなく、ちょっとばかりドラマティコに傾いた中間音域です。
 この歌声はレジェロが持つ軽やかな印象と共にリリコが持つ叙情的な印象もあるので、主にメイドの声に当てられます。
 代表的なところで「フィガロの結婚」のスザンナ、「コジ・ファン・トゥッテ」のデスピーナ。どちらもクルクルと機転が利き、時には主人すらも手玉に取るのだけれど決して憎めない、とっても可愛らしい女性です。しかもレジェロやリリコのヒロインと違ってどこか一本筋を通す気丈さも持っていて、簡単に主人のいいなりにはなりません。
 特にスザンナは一流の人が歌うと、本人が60歳だろうが70歳だろうが愛嬌たっぷりの可愛らしい女の子になります(私のお薦めは1973年グラインドボーンの「フィガロの結婚」を収録したDVDです。是非是非スザンナ役をしているイレアナ・コトルバシュの愛らしさを堪能して下さい)

 このリリコ・レジェロにぴったりだなと思うのが韓国のキム・ヨナ選手です。
 彼女はスピンでもジャンプでもステップでも、クルクルと小気味よく動きます。しかもその一つ一つがとってもコケティッシュで、愛嬌たっぷりです。
 例えばSPの「こうもり」。
 実はこの「こうもり」にリリコ・レジェロの声のアデーレというメイドが登場します。
 彼女は女優志望で主人に内緒でこっそりパーティに忍び込みますが、そこでばったりご主人様に出くわしてしまいます。しかし彼女は持ち前の演技力で主人を煙に巻き、最後はロシアの公爵に女優としてその才能を買われます。
 その彼女が女優になりきって主人を煙に巻くシーンや女王や村娘、パリ・ジェンヌに扮して自分の演技の才能を見せるシーンは見せ場の一つでもあります。
 ある時はメイド、ある時は女優、そしてある時は女王というアデーレの七変化は、音楽が変わるたびにクルクルとその表現を変えることが出来るキム・ヨナにぴったり。
 さらにFSの「ミス・サイゴン」で見せた表現力は、可憐な乙女でありながらどこか気丈な部分を持つ、まさにリリコ・レジェロの役柄そのままです。
 彼女は普段は普通の高校生なのに、リンクの上に立つとまるでベテラン選手のように印象がガラリと変わってしまうことに、いつもながら舌を巻いてしまいます。あの貫禄はどこから出て来るのでしょう?
 とにかく全体的に軽やかな印象がありながら、風にそよぐ柳の枝のようにしなやかさを持つキム・ヨナの演技は真央のライバルとしてではなく一スケーターとしてその成長に目が離せない選手です。

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