hitorigoto 2

  笑顔までの距離

風の色 2

2011-02-05 23:26:41 | 風の色
風の色 2


「コウォーン」  「バシャン」

一発アクセルをあおって、多少荒めにドアを閉める 閉まりの悪いドアの音。
 
それもそのはずオレの車は、1975年モデルの TOYOTA CELICA LB2000GT

最近の車のそれの様にはいかない。

18RG DOHC ソレックスダブルキャブ 吸気音も存在感を感じさせるし、

今の車じゃあない昭和のいい時代の名車だ。



「荒い登場だな」

オレの背中越し大きな声で、少々にやけ気味に声を掛けてくる。

肩を少し越えた長さに若干、天パーの髪がトレードマーク、牧野だ。

学生のころのバンド仲間で、いい感じにしゃがれた声で、オレの透明感のある声と合わせると、いい感じにボーカルの幅ができる、いいデュオだった。

白のTシャツに、色の薄いブルーのデニム。いつものスタイル、学生時代から変わらない。


「どうもこうもあるかよ。」

CELICA LB2000GTの鍵を掛けながら目も向けず言った。

「マジな話かよ さっきの電話の件。」

「どうも本当らしい。」と牧野が髪をかき上げながら話す。

「まあ とにかく入れよ。」


ここはよく集まるベイサイドのカフェバー「Penny Lane」

サーマルが上がってきて店の中を南南西の潮風が吹きぬけていく。

牧野はすでにハイネケンを飲んでいた。

オレもいつもどおりジントニックをオーダー。

ギリで水平線に見える夕日がグラスをオレンジ色に色づける。


「行ってみるしかないよな。あの場所へ。」オレが切り出す。

「オレもそう思う。」


バンド時代の仲間で佐藤というソロでメジャーデビューした仲間がいた。解散後もヤツだけは社会に染まらず自我を押し通し掴んだ栄光だ。羨ましくもあったが、みんな喜んでた。

だが結局こいつが、日の目を見ることなく会社から契約解除になってしまい、何年も実家ににも帰らず音信不通になってるという。

親にとっては、いい歳ブッコいても子供は子供。行方不明の理由が理由だけに、何年も連絡一つないということになると、やはり当然親は心配してる。そうなると親の体調の方が心配にもなるよな。

その捜索願いの連絡を牧野が受け、オレに電話してきたという流れだ。

でも行き先はオレ等にはうすうす分ってる。あの頃よく話してた場所。十中八九間違いない。いつか成功したら最初に行こうと決めてた。


「考えることもないな、他の連中は?」

「自由に動けるヤツなんて他に居るかよ。」

まあそれもそうだ、みんな家庭があって会社の歯車になってしまってる。

会社には、代わりの歯車なんていくらでもあるが、自分という歯車は他に合う場所を探すにはかなり難しい時代だ。仕方ない。


「存在確認と現状報告だけでいいだろ?」ジントニックを飲みながらオレ。

「だよな、まあ気楽にスコッと行って、チョイと楽しもうや。」ハイライトに火を点けながら牧野は言った。

ZYPPOのオイルの匂いがサーマルに乗って広がる。

「Penny Lane」のBGMにハードロック。JOURNYEのレイズド・オン・レイディオが流れてる。

夕日は水平線に沈んで、昼と夜の間の色。

藍の空が広がってきた。
































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