風の色 5
「まいったなあ。小さい島なのにな。」
牧野が言った。捜索始めて5軒目のガイド事務所。
「あいつ、ガイドじゃないのかな。」
二人とも黙り込んだ。昨日は浮かれてたのもあるが・・・
小さな島だすぐに見つかると思ってた。
その後のバカンス気分が崩れ落ちそうだ。
「まあ、ゆっくり行こうや、始めたばっかりだしな。」
オレも少々当て外れ気味に言った。
気分が逸れてきたオレ達はビーチサイドのバーでBUDを開ける。
「まあ、そのうち見つかる。一日目で焦ることもないな。」
水着の女の子の歩調に合わせて視線が流れていきながら、牧野は続けた。
「いっその事、路上ライブでもするか。」
なるほど、いい考えだな。いるならきっと出てくるな、あの頃のナンバーにつられて。
「いいよな、そうするか。見つかるな、間違いなく。」
オレもワクワクしだしてる。見つけることより牧野とのセッションが楽しみになってる。
「どうせなら ホワイトヘブンあたりでどうだ?」
「バリバリの観光地より空港なんかがいいぞ。ガイドの本拠地だろう。」
「そうだな、その日のうちに現れそうだな。」
「帰ってスコアの打ち合わせしようか。」オレは少し楽しんでる。
「それよりせっかくだし、冷えてるビールは冷えてるうちに。目の保養は見えてる間にってね。」
ビーチでハシャぐビキニの小さい三角に釘づけになってる。視線の行く先は同じもののようだ。
フィンの擦れそうな波打ち際でレイダウンジャイブを決めて、また沖へ出ていくウインドサーファーのセイルがハミルトンの太陽を反射しながらスピードを増してゆく。
次の日 リゾート内にある空港でTakamineを出す。
一本のアコギとブルースハープだとできる曲も絞られる。
ナンバーはとりあえず Randy VanWarmer の「Just When I Needed You Most」。
邦題でアメリカンモーニング。
Ray Parker, Jr 「A Woman Needs Love 」など耳覚えのあるナンバーを7,8曲チョイス。
オリジナルも3曲ほど混ぜ込んだ。
観光客目当てにやってるような感じで、どうも気になってきたが人は集まってくる。
日本の路上ライブのように、聞かすためにやってるんじゃない。
傍らには Cinzano。曲の合間や、間奏の間にグラスに注ぐ。気が付けば気分はヘブン。
こんな調子で3日目になる。もう捜索ってな感じではない。
顔見知りもできて、毎日見る顔もいる。
なんだか受けも狙って、レゲエバージョンにアレンジ。
アロハのシャツのポケットからハイライトをくわえる牧野。それに火をつけるギャラリー。
BUDを煽るオレ。なんだかパーティ気分。
そんな時、ボーカル合わせる奴が。
オリジナルナンバーだ。知る奴なんていないはず。
懐かしいセーラムライトの香り。
「次はオレがギターだ。」
佐藤だ。見つけた。