飛翔の残像

僕は川辺からそれを見ていた。

ある名も無き一羽の鳥が飛び立とうとするところを。



不慣れな羽ばたきは水面を叩き。

まだ小柄とも思えるその体に水しぶきを纏い。

しかしその眼差しの先にある天空の一点を見つめ。

辺りの騒々しさとは無縁の、一直線の軌跡に導かれるかのように。



その姿を目の当たりにした僕は。

あたかもその名も無き鳥が飛び立ったかのように見えた。

しかし改めて見るとその鳥は。

依然水面でもがき続けている様だった。



僕は何を目撃したのだろうか。

僕の眼底にはなぜか、その名も無き鳥の飛翔の残像が色濃く残されていた。

天空の一点に吸い込まれるような一直線の軌跡を描いて。



また明日、来てみよう。

そしてこの目で確かめよう。



僕の不確かな残像が現実となるその日は。

そう遠くはない気がした。