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黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

会社法施行規則に関する意見(の一部)

2005-12-13 20:47:27 | 司法(平成17年)
 会社法施行規則に関する黒猫の意見の一部ができました。せっかくなのでブログで公開します。
 パブコメの結果を踏まえて実際の省令が公布されたとき,現在公表されている原案とこの意見とを読み比べると,黒猫の意見が反映されたか,あるいは全く反映されなかったかが分かると思います。

第1 『株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令』関係
1 総論
 株式会社の業務の適正を確保する体制に関する法務省令(以下「体制令」と略記する)は,平成17年2月9日法制審議会総会決定『会社法制の現代化に関する要綱』第二部・第三・3(5)において株式会社の内部統制システム構築に関する法規制が提言され,これを受けた会社法の関係各規定により,大会社においては取締役(会)が「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」に関する事項を決定しなければならないものとされたことを受けて,当該取締役会が定めるべき体制等に関する事項を定めるものである。
 会社法の規定に基づき当該事項に関する法務省令が定められるのは当然のことであり,会社法による法務省令への委任事項が極めて多岐にわたること,及び株式会社の内部統制システムに関する委任事項の社会的重要性に鑑みれば,「体制令」が会社法施行規則から独立した省令として定められることにも相当の理由があり,特に異論を差し挟む余地はないと考えられる。
 しかし,企業の内部統制システムに関する法規制は,従来委員会等設置会社について商法特例法の規定が若干存在したのみであり,大会社一般に関する規制という意味では今次の会社法がわが国最初の立法例となることに加え,具体的に企業が定めるべき内部統制システムの内容については事実上法務省令に一任されていることから,当該法務省令に該当する「体制令」は,内部統制システムに関する法規制自体の成否を分けるほどの重要性を有するものであり,その内容については法規制の実効性を確保するとともに,内部統制システムの趣旨等について関係者に誤解を与え,若しくはこれが曲解されることが無い様,十分慎重に検討される必要がある。
 特に,企業の内部統制システムについては,わが国では企業会計基準などのように「いかなる体制が適切であり,いかなる体制が不適切である」といえるような明確な基準が未だ確立されておらず,そのような基準は今後の制度運用に伴い慣行として形成されていくことを期待する外にないことから,「体制令」の内容については,今後における当該慣行の形成を促進するという観点からも検討される必要があると考えられる。

2 第1条(目的)及び第2条(定義)について
 いずれも賛成する。

3 第3条(取締役の責務)について
 第一号(株主の利益の最大化の実現に寄与するものであること)は削除すべきである。
<理 由>
 第3条は,取締役が内部統制システムを決定するにあたり留意すべき事項を列挙したものであり,従来から株式会社の基本理念と考えられている事項として,以下の5項目が列挙されている。
一 株主の利益の最大化の実現に寄与するものであること。
二 取締役その他の株式会社の業務を執行する者が法令及び定款を遵守し、かつ、取締役が負うべき善良な管理者としての注意を払う義務及び忠実にその職務を行う義務を全うすることができるようなものであること。
三 株式会社の業務及び効率性の適正の確保に向けた株主又は会社の機関相互の適切な役割分担と連携を促すものであること。
四 株式会社の規模、事業の性質、機関の設計その他当該株式会社の個性及び特質を踏まえた必要、かつ、最適なものであること。
五 株式会社をめぐる利害関係者に不当な損害を与えないようなものであること。

 このうち,第二号から第五号までの事項については妥当であると考えられるが,第一号にいう「株主の利益の最大化」というのは,わが国では「株主の短期的利益の追求」というような意味に解されることが多く,このような事項が取締役の責務として規定される場合には,長期的な視野に立った経営や,企業の社会的責任を重視する経営などを否定する論拠に使われてしまう懸念がある。
また,会社法における会社は必ずしも営利事業を当然の前提とするものではなく,会社法の法文上も「営利」「営業」という用語は敢えて用いられていないところ,取締役の責務として(営利事業を前提とする)「株主の利益の最大化」を規定することはこのような会社法の理念と合致しないし,そもそも大会社についてだけ内部統制システムの構築が義務づけられたのは,大会社における企業統治の適否が多大な社会的影響をもたらすことに配慮したものであって,単に株主の利益を最大化するために義務づけられたものではないと考えられる。
そして,会社がどのような観点による企業価値の最大化を追求するかは,まさに私的自治の領域に属する各会社の経営理念の問題であることから,法令によりこれを一義的に定義することは困難かつ不適当であると考えられる。よって,第一号の規定は削除すべきである。

4 第4条ないし第6条について
 規定の内容については賛成する。
 ただし,いずれの規定もかなり抽象的であり,定めるべき体制について具体性・明確性を欠くように思われる。現時点では仕方がないとしても,将来的には,体制の構築を必要とするグループ企業の範囲,多くの業種に共通して設けるべき体制のあり方などについて,指針等により明確にされることが望ましい。

5 第7条(事業報告における開示)について
 賛成する。
 事業報告において,各企業の内部統制システムに関する取り組みの内容が開示されることは,適正な内部統制システムの慣行を確立するにあたり非常に有益なことであると考えられる。

6 第8条(業務の適正を確保するための体制に係る監査)について
(1)取締役の決定等の内容が相当でないと認めるときのみを監査報告の対象とするのは不十分であって,必要な決定または決議が監査役等の指摘によっても行われないときや,取締役の決定等により設けられた体制等の運用状況に問題があると認めるときにも,その旨及びその理由を監査報告の記載事項とすべきである。
(2)「相当でない」場合に該当しない場合であっても,当該株式会社の内部統制システムについて今後改善または検討を要する事項があると認めるときは,監査報告にその旨及び理由を注記するよう努めるものとする,との規定を追加すべきである。
<理 由>
・(1)について
企業の内部統制システムは,その内容が取締役(会)で決定されるだけでは足りず,これが実際に企業内で適正に運用されることによってはじめて意味を有するものであり,単に取締役の決定または取締役会の決議の内容のみを監査するのみでは,明らかに業務監査として不足である。
また,取締役(会)がそもそも内部統制システムの構築に関する決定等を行わず,監査役等の指摘にもかかわらず必要な内部統制システムの構築を怠っているような場合には,規定の文言上「取締役の決定が相当でない」ときに該当するとはいえないが,これを監査報告によって指摘する途がないとすることは明らかに不合理であるから,これらの場合にも監査報告の記載事項となる旨を明記すべきである。
・(2)について
 企業の内部統制システムに関し,いかなる体制が相当でありいかなる体制が相当でないかについては,現状では社会的に明確なコンセンサスが形成されているとは言い難い。また,企業における監査役の立場が総じて弱いことも考慮すると,取締役(会)が決定した内部統制システムについて,監査役等がこれを「相当でない」と言い切れることは,実際にはほとんど無いのではないかと思われる。
 そもそも,監査役にはその能力を担保するための資格要件がなく,内部統制システムに関してもその監査機能には自ずと限界があることから,将来的には一定の研修を受けた弁護士の専門家を内部統制システムの監査に充てるような制度を構築することも検討されるべきであると考えるが,さしあたり現状においては,監査役が内部統制システムに関する監査機能を最大限に発揮できる環境を整えることが必要であり,そのためには必ずしも「相当でない」とまでは言い切れない場合であっても,監査の結果を踏まえた企業の内部統制システムに関する意見は,監査報告において表明することができる旨を規定上明記すべきである。
 もっとも,ただ監査報告に意見を記載することができると規定したのみでは,やはり監査役等が取締役(会)に遠慮して意見の表明を躊躇する可能性があるので,規定上は努力義務とすることにより,監査役等による積極的な意見表明を促進すべきである。
 なお,以上により内部統制システムに関し監査役が表明する意見は,これにより直ちに企業の内部統制システムが不相当であることを意味するものではなく,「事業報告及びその附属明細書が法令又は定款に従い株式会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見」や「取締役又は執行役の職務の遂行に関し、不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大なる事実」等を記載する監査報告書の本文とは明確に区別する必要があるため,上記のような意見については注記すべきものと定めるのが相当である。

7 第9条及び第10条について
 賛成する。
ただ,清算株式会社については,継続中の会社と異なり事業報告に相当する制度がないため,何らかの形で内部統制システムの決議等に関する開示のシステムを設けることが必要ではないかと考えられる。

 以上。とても全部の省令についてはコメントできないので,あとは監査の省令にだけ意見を書いて終わりにしたいと思います。これだけやれば一委員としての責任は十分果たせるでしょう。