甲南ローの院長はどうしても失笑を買いたいらしい。

　甲南大学法科大学院の院長が，何かおかしな声明を発表しているようです。
http://lawschool-konan.jp/because/column.php?id=191&p=1&PHPSESSID=373c01cc9aca176c33ab284612cf5db0
　折角なのでコメントしておきましょう。以下，『　』内が声明（正確には，２０１２年７月９日付けBecause KONAN『法科大学院、前期入試願書受付、７月２０日より　ービジネスをリードする甲南ローヤーへの道）からの引用部分，それ以外がこれに対する黒猫のコメントです。

『法科大学院の募集停止に関するニュースが続いている。大学院レベルでの本格的なプロフェッショナル養成教育によって質の高い法曹が育ち始め、現場でも活躍を始めているのに残念なことだ。』
　最近の司法試験合格者は，内容証明の１本ももろくに書けないと言われているようですが（４月２４日法曹の養成に関するフォーラム伊藤委員発言，同議事録１０頁参照），一般国民の社会通念に照らし，そのような人間を「質の高い法曹」と表現するのは無理があるでしょう。
　また，仮に「質の高い法曹」が若干名いるとしても，その多くは一橋などの名門校に籍を置いて実質的には予備校で勉強してきた人達であり，昨年の新司法試験において，出願者数１７２名・受験者数１１２名に対し合格者数わずか１８名（なお，２０１１年度修了者３３名のうち，新試験のストレート合格者が５名，旧試験合格者が１名）という成績を誇る甲南ローが，「質の高い法曹」の育成にほとんど寄与していないことは明らかですね。

『今、国会も含めて各所で、法科大学院バッシングが盛んであるが、「２１世紀の日本は、質の高いローヤーをどこにどう配置することが必要か」という大局的な国家観にたった前向きの議論ではない。』
　現状は，法科大学院という「害虫」によって法曹志望者の多くが貴重な時間と費用を奪われ，これを恐れる人の多くが法曹を目指すこと自体を回避するようになり，法曹の質の低下が危機的状況に陥っていますので，まずはその「害虫」を退治しないと，大局的な国家観に立った前向きの議論をする余裕もありませんね。

『本学法科大学院は、実務家と研究者がコラボレーションを工夫しながら、「プロセス」としてのカリキュラムで大系的な実務家養成教育を提供する努力を続けている。こうした法科大学院を潰す議論を重ねても、これに代わる質の高いローヤーを養成する場が自然発生的に生まれるわけがない。他方、日本を代表する企業でさえコンプライアンスの危機に直面している。日本の企業が海外進出する場合、これに伴う法律問題を担える弁護士の数は足りない。企業のマネジメントと「企業法務」の両者に目配りのできる法律家養成は立ち後れている。』
　心配しなくても，法曹志望者から法科大学院の負担を取り払い，予備校をはじめとした自由競争に委ねれば，あんたのところがやっているよりは質の高い法曹養成の場が自然発生することは当然に期待できますよ。少なくとも，旧試験時代は十分それでやってきたところ，法科大学院制度によって法曹養成システムが大幅に悪化したのですから。
　コンプライアンスの危機については，弁護士の数が足りないからではなく，日本の企業に法律を守る気がないから発生しているのであって，オリンパスも東電も大手の法律事務所を顧問にしています。企業のマネジメントと企業法務の両者に目配りの出来る法律家云々というのは，日本の経済界が人材の育成にお金をかける気にならなければ，何をやってもアメリカ並みに育つことはありませんよ。

『とは言え、当面、我が甲南大学法科大学院にとっても、入試、司法試験受験、そして弁護士と法務博士それぞれの就職とどの段階でも厳しい状況が続いていることは否めない。しかし、長期的には、「ビジネス」を支える力のある「質の高いローヤー」を社会は求めている。
　甲南大学法科大学院は、経済界で活躍する多くの人材が出ている本学園の伝統を受け継ぎつつ、引き続き「ビジネスをサポートする甲南ローヤー」が育つ堅実なキャンパス造りに力を注ぐ。』
　別に，誰もあんたのところのローヤーが欲しいとは言っていないし，むしろ税金の無駄遣いになるから早く止めろと思っている人の方が多いのではないでしょうか。産経のアンケート調査でも，「法科大学院は必要か」という問いに対し「ＮＯ」と回答した人が７６％にのぼっていますし。

『７月２０日から前期入試の受付を始める。
　法科大学院で学ぶ学生のための『転入学試験』の受付も同時に開始する。
　また、７月２１日（土）午後１時から、『転入学と新入学のための説明会』を本学法廷教室で開催する。ぜひ本学法科大学院をみた上で、法曹への道を目指して欲しい。』
　まだやるんだ。この法科大学院では，未修者５名・既修者１０名について奨学金で学費を全額免除するそうですが，入学者数がその１５名のみなんて事態にならないといいですね。
　あと，転入学試験って何ですか。新規ではもうろくな学生が集まらないから，他の法科大学院から学生を引き抜こうって言うんですか。甲南の実績及び評判から考えて，授業料を全額免除とかにしない限り，転入を希望する学生自体ほとんどいないのではないかと思うのですが（実際，昨年の転入学志願者は３名，うち合格者は１名のみ）。
　なお，この法科大学院は，定員５０名に対し，政府からの補助金削減対象になるのが怖くて合格者数を絞った結果，平成２４年度の入学者数が２４名と大幅に定員割れした税金泥棒の１つです。未修者については，来年２月に適性試験と書類審査だけで選抜する「未修者特別選抜」なるものを実施して，何とか頭数を揃えようとしているところでもあります。
　出願を検討している人はネット上の評判等も含めた様々な情報を集め，出願・入学の可否を慎重に検討した方がいいですね。