黒猫のつぶやき

法科大学院問題やその他の法律問題,資格,時事問題などについて日々つぶやいています。かなりの辛口ブログです。

法科大学院の「構想」なんて本当にあったのか?

2005-12-29 02:20:54 | 司法(平成17年)
「これでいいのか,法科大学院!」で読んだ記事。

http://lswatch.blog32.fc2.com/blog-entry-50.html

 紹介されている読売新聞2002年8月25日の記事を読むと,いかにも「司法制度改革審議会の意見書で示された理想的な法科大学院構想が,無理解な国会議員や大学の経営事情などで次第にねじれていった」ものであるかのように読めるが、このような理解の仕方には大いに疑問がある。


1 法曹人口の急増が本当に必要か?
 意見書では,以下のようなことを言って,法曹人口拡大の論拠としている。
「法曹人口(1997)については、日本が約20,000人<法曹1人当たりの国民の数は約6,300人>、アメリカが約941,000人<同約290人>、イギリスが約83,000人<同約710人>、ドイツが約111,000人<同約740人>、フランスが約36,000人<同約1,640人>であり、年間の新規法曹資格取得者数については、アメリカが約57,000人<1996-1997>、イギリスが約4,900人<バリスタ1996-1997、ソリシタ1998>、ドイツが約9,800人<1998>、フランスが約2,400人<1997>である。」
 しかし,日本には弁護士以外に,司法書士,弁理士,税理士,社会保険労務士といった法曹隣接職種が複数存在しており(これらの制度は諸外国にはあまりない),これらが諸外国における弁護士の仕事の相当部分を担っていると考えられるが,意見書ではその点が全く無視されている。
 意見書で挙げられた1997年当時の数字をすぐに調べるのは困難なので,最新の数字を挙げる。なお,弁護士の数については日弁連の『自由と正義』11月号から,その他の数は連合会等のHPから引用したものである。

弁護士     21,163人(平成17年 8月31日現在) 
司法書士    18,224人(平成17年11月 1日現在)
弁理士      6,297人(平成17年11月30日現在)
税理士     69,167人(平成17年11月30日現在)
社会保険労務士 29,075人(平成17年 3月31日現在)

 中には複数資格取得者もいると思うので単純比較はできないが,これらの隣接職種も考慮すると,日本における法曹関係の専門家の数は,世界の弁護士数の約7割を占めるといわれ「訴訟大国」との悪評高いアメリカと比較するのは馬鹿げているとしても,意見書で言及された欧州諸国と比較してもそれほど遜色ないと考えられる。
 また,意見書が出される以前にも,司法試験の合格者数は既に漸増の方向で動いており,年間1,500人程度が目標とされていた。年間1,500人が司法試験に合格し,そのうち判事・検事任官者を除く約1,300人が弁護士となり,平均30年間稼働すると仮定すれば,将来的には日本の弁護士の数は4万人前後という計算になる。
 このような状況のもとで,なぜ司法試験の合格者数を昔の6倍である約3,000人に引き上げるという極端な増加策を採る必要があるのか大いに疑問がわくところである。
 意見書はこれについて
「今後、国民生活の様々な場面における法曹需要は、量的に増大するとともに、質的にますます多様化、高度化することが予想される。その要因としては、経済・金融の国際化の進展や人権、環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処、知的財産権、医療過誤、労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加、「法の支配」を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる「ゼロ・ワン地域」の解消)の必要性、社会経済や国民意識の変化を背景とする「国民の社会生活上の医師」としての法曹の役割の増大など、枚挙に暇がない。
 これらの諸要因への対応のためにも、法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題である。」
と説明しているが,あまりに抽象的であり「なぜ3,000人という数が出てくるのか」という根本的な疑問に答えるものではない。
 なお,司法試験合格者を年間3,000人にした場合,意見書では「おおむね平成30(2018)年ころまでには、実働法曹人口は5万人規模(法曹1人当たりの国民の数は約2,400人)に達することが見込まれる。」としているが,上記の仮定をそのまま援用すると,その後もさらに法曹人口は拡大を続け,法曹人口は最終的に8~9万人に達する計算になる。
 その頃には日本の人口もかなり減っているであろうから,日本の法曹1人あたり国民数は1000人を大きく割り込み,隣接職種も考慮するとアメリカ並みの法曹過剰国になってしまう可能性もあるが,意見書はさらに(年間3,000人という数字は)「上限を意味するものではない」とも言っており,単純に「法曹の数は多ければ多いほどいい」と思っているようである。
 法曹の数があまりにも多くなれば,法曹資格を得ても実務に就けない「ペーパー弁護士」が激増したり,その「ペーパー弁護士」が職権を利用して悪事を働いたり,アメリカのように極端な訴訟社会になってしまう可能性も否定できないが,そのような弊害は全く考えていない。
 およそ「有識者」とか「専門家」とか言われる人が2年間も議論して書いたとは到底思えない,幼児並みの発想である。

2 法曹養成制度の現状認識と対応策のギャップ 
 意見書は,法曹養成制度の現状について,以下のように書いている。
「この課題に関して、まず、現在の法曹養成制度が前記のような要請に十分に応えうるものとなっているかを考えてみると、現行の司法試験は開かれた制度としての長所を持つものの、合格者数が徐々に増加しているにもかかわらず依然として受験競争が厳しい状態にあり、受験者の受験技術優先の傾向が顕著となってきたこと、大幅な合格者数増をその質を維持しつつ図ることには大きな困難が伴うこと等の問題点が認められ、その試験内容や試験方法の改善のみによってそれらの問題点を克服することには限界がある。」
「一方、これまでの大学における法学教育は、基礎的教養教育の面でも法学専門教育の面でも必ずしも十分なものとは言えなかった上、学部段階では一定の法的素養を持つ者を社会の様々な分野に送り出すことを主たる目的とし、他方、大学院では研究者の養成を主たる目的としてきたこともあり、法律実務との乖離が指摘されるなど、プロフェッションとしての法曹を養成するという役割を適切に果たしてきたとは言い難いところがある。しかも、司法試験における競争の激化により、学生が受験予備校に大幅に依存する傾向が著しくなり、「ダブルスクール化」、「大学離れ」と言われる状況を招いており、法曹となるべき者の資質の確保に重大な影響を及ぼすに至っている。」
 ここで言われていることを箇条書きにすると,概ね以下の6項目に集約できる。
(現行の司法試験は)
1 開かれた制度としての長所を持つ
2 受験競争が厳しく,受験技術優先の傾向が強い
3 その質を維持したまま,大幅な合格者数増を図ることは困難である
(大学における法学教育は)
4 内容自体十分なものとはいえない
5 目的が法曹養成ではなく,法律実務とも乖離している
6 学生が受験予備校に依存する傾向が著しい
 このうち1,3,4,5は特に問題ないとしても,2と6はちょっと微妙である。
 2については,優秀な法曹を選抜する以上,厳しい競争に晒すことは当然必要であり,競争が厳しいこと自体が悪いわけではない。受験技術優先というのも,最近の司法試験は応用力を重視する傾向で出題内容が工夫されており,既に小手先の技術で対応できる試験ではなくなっている。
 最近,受験技術だけで実力不十分の受験者が合格してしまうことはあるようだが,それはむしろ合格者数がかなり増えたために,実力不十分な受験生も上位から順に合格させざるを得ない状況にあるためと考えられる。
 また,6については,受験予備校への依存体質があることはそのとおりだが,予備校ビジネスが盛んなのは司法試験に限ったことではないし,また大学受験などの分野においても,予備校の流行がいたずらに問題視されその関与を排除しようとの試みがされたことはない(第一,そんなことは不可能だというのが大半の人の認識であろう)。また「官から民へ」という一連の規制緩和の流れの中で,民間の教育機関である受験予備校がなぜ「悪」なのかという根本的な議論もされていない。 
 現状認識の問題点はそのくらいで措くとしても,これを「改善」するために設けるという法科大学院構想は,果たして本当にこれを改善する施策になっているか。
 まず1については,普通に考えればこの長所をなるべく維持すべきものであり,それが法曹に対する国民の多様な需要に応えることにもなると思われるが,法科大学院は多額の学費がかかる上に,社会人が入学しようとすれば仕事も辞めて長期間学業に没頭せざるを得ず,極めて高い参入障壁となることから,少なくとも1の長所は完全に潰されてしまっている。
 それどころか,司法修習生の給費についても貸与制への変更や廃止に言及しており,むしろ1の長所を積極的に潰そうとする意図すら窺える。一応申し訳程度に「奨学金、教育ローン、授業料免除制度等の各種の支援制度を十分に整備・活用すべきである。」などとも言っているが,この財政難の社会では絵に描いた餅に過ぎない。
 次に,便宜上6について論ずるが,予備校との関係における法科大学院構想というものは,一般向けにたとえて言えば「東大の受験競争は厳しく予備校依存の体質が強いので,東大の前に特別高等学校を設け,その過程を修了した者の7~8割は東大に合格できる仕組みにする」のと同じようなものである。
 こんなことをしても,その特別高等学校に入学するための受験競争で予備校ができるのは目に見えているし,同程度の合格率である医師や薬剤師の国家試験にも予備校があることを考えると,特別高等学校から東大への受験過程にも予備校が入ってくる可能性は当然予測できる。
 もし、こんな方法で予備校を排除できると審議会の委員が本気で考えたのであれば,その委員は単なる馬鹿である。そうでないのであれば、法科大学院構想では、はじめから法曹教育に対する受験予備校の介入を排除する気はなかったと考えるほか無いだろう。
 そして,残る2,3,4,5は要するに合格者の質をいかにして高めるかという問題であるのでまとめて論ずるが,現状の法曹教育の在り方に問題があり,現状ではそれに代わるものも特にないというのであれば,果たしていかなる教育方法が真に適切なものであるかについて,諸外国の例なども参考にして徹底的に議論され,その結果が指針として示されるのが普通であろうが,意見書は
「法科大学院では、法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分(例えば、要件事実や事実認定に関する基礎的部分)をも併せて実施することとし、実務との架橋を強く意識した教育を行うべきである。」
「教育方法は、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃いものとすべきである。」
くらいのことしか言っていない。要するに,中身についてろくに詰めないままに,制度の枠組みだけ先に作ったのである。
 さらに、一から新しい教育制度を作るのであれば,まず試験的にこれを実施して,ある程度効果が実証された後で本格的に制度を導入するのが普通だと思うが,意見書ではそのようなことは一切頭になく,意見書発表のわずか約3年後に制度をスタートさせ,しかもいきなり法曹志望者の大半にその修了を義務づけるという極めて乱暴なことを行っている。
 関係者の競争と自主的努力により教育の質を向上させるというのであれば,まずは実力で実績を挙げさせ,その実績に応じて制度上相当な地位を与えるのが普通であり,何の実績もない者にいきなり特権を与えてしまえば,その特権にあぐらをかき自主的努力などしなくなるのは目に見えている。
 おまけに、制度の主体は「大学院」であることから、これまで明らかに内容不十分な法学部教育をしてきた実績しかない「大学」が新制度の主体となることが予定されていたのである。
 これを企業に例えれば、重大な経営難に陥り経営の抜本的建て直しを図る必要があるとして、何の実績も無く成績優秀でもない(むしろできの悪そうな)新入社員の1人にいきなり全権を与え経営改革をさせる、というようなものである。失敗するのははじめから目に見えている。

 つまり,法科大学院構想は,1~6の現状を改善するところか,むしろ改悪する方向に働くものであることが,意見書を検討しただけでも明らかである。
 審議会は、法曹教育を積極的に混乱・崩壊させるために法科大学院制度を導入したのかと考えたくなるほどである。

3 あまりに杜撰な人数調整システムと「適格認定」制度
 意見書は、最初に年間合格者数3,000人という数値目標を掲げ、それを実現するために法科大学院制度を創設するという体裁を取っているため、普通に考えれば合格者数を3,000人程度にコントロールするかという仕組みも考えているかのように思える。
 しかし、実際の意見書はそんなことを一切考えていない。

 普通に考えれば、法科大学院制度のもとでの新司法試験合格者は、(年間修了者数+過年度に落ちた人)×0.7~0.8程度ということになる。
 司法試験は合格したら合格証書を交付して「はいそれまでよ。後はお好きにどうぞ」というようなものではなく、その後に国費で実務修習を受けさせる必要がある。
 合格者数が変動すれば研修所の施設や教官、実務修習の受け入れ先も確保しなければならないので、少なくとも司法修習がある以上は、毎年の合格者数がある程度安定していなければ制度がめちゃくちゃになる。
 実務修習も廃止するというのであればともかく、意見書では実務修習は残すと言っているので、結局合格率によって合格者数を調節するしかない。
 そうすると、審議会の思惑どおりに修了者数の相当程度(例えば7~8割)が司法試験に合格できるようにしたいのであれば、年間修了者数が3,000人前後でうまく推移しないと意見書のもくろみは外れることになるが、法科大学院の設置については「関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとすべきである」としており、人数を絞るようなことは特にしていない。
 こうなると、法科大学院の数が少なすぎると目標の人数を確保できないし、逆に多すぎると合格率が低くなりすぎて、「法科大学院を卒業した人の相当程度が新司法試験に合格する」ことは当然できなくなる。
 しかし、そうなったらどうするかということについては、意見書では一言も触れていない。まるで、自分たちが何もしなくても、「神の見えざる手」によって自然とうまくいくとでも考えていたかのようである。

 ところで、意見書には「適格認定を受けた法科大学院の修了者には、司法試験管理委員会により新司法試験の受験資格が認められることとすべきである。」というくだりがあり、これを思い切り善意に解釈すれば、この「適格認定」によって修了者の数を適切に絞ることを考えていたかのようにも読める。
 しかし、意見書のいう「第三者評価による適格認定」は、法科大学院の設置認可時点ではなく、設置後継続的に行われることが予定されているものである。ということは、もし「適格認定を受けた法科大学院」の修了者のみに新司法試験の受験資格を付与するのであれば、逆に言えば法科大学院に学生が入学しても、その後にその法科大学院が「適格」と認定されなければ、そこに在学している学生は成績の良し悪しにかかわらず修了しても新司法試験の受験資格すら得られない事態になり、路頭に迷うことになる。
 意見書では、「第三者評価による適格認定に基づいて司法試験管理委員会が法科大学院の修了者に新司法試験の受験資格を認める場合には、適格と認定されていた法科大学院について、その認定が第三者評価を実施する機関によって取り消されることとなったときに、新司法試験の受験資格について、当該法科大学院の在学生に不測の不利益を与えないよう適切な配慮が必要である。」と書いてあるが、具体的にどう配慮するのか何も書いていないし、そもそも学生が入学した後最初の適格認定に落ちた法科大学院の学生はどうするのかという点については言及すらしていない。
 要するに、意見書のいう適格認定制度は、実際の運用を全くといってよいほど考えていないのである。

 なお、この適格認定制度は、結局与党合意により修了者の受験資格とは切り離して運用されることになったが、意見書のいう上記「適切な配慮」をどうするかということを普通に考えたら、結局は与党合意のようにするしかない。読売新聞の前記記事はあたかもこれを「意見書で示された理想が崩れた原因」であるかのように書き立てているが、要するに意見書のあまりにずさんな制度設計に必要最低限の修正が加えられただけであり、自民党の議員を非難するのは筋違いというものである。

4 予備試験ルートとの不均衡
 意見書には、「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも、法曹資格取得のための適切な途を確保すべきである。このため、後述の移行措置の終了後において、法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の趣旨を損ねることのないよう配慮しつつ、例えば、幅広い法分野について基礎的な知識・理解を問うような予備的な試験に合格すれば新司法試験の受験資格を認めるなどの方策を講じることが考えられる(この場合には、実社会での経験等により、法科大学院における教育に対置しうる資質・能力が備わっているかを適切に審査するような機会を設けることについても検討する必要がある。)。」とのくだりがあり、いわゆる予備試験ルートについても提言されている。
 意見書の考える予備試験ルートは、「法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度の趣旨を損ねることのないよう配慮しつつ」と書かれているとおり、あくまで例外という位置づけであることが明らかであり、この趣旨を最大限「尊重」しようとしている司法試験委員会が現行試験の合格者数を平成19年以降は年間300人程度にしようなどと議論していることか考えると、おそらく予備試験の合格者数もその程度にしようと考えているのであろう。
 しかし、法科大学院の学費負担や長期の拘束を嫌って、予備試験ルートがあるなら受験しようと考える人が相当数出てくることは当然予測されるべきところであり、それで合格者数年間300人程度となれば、おそらく新司法試験の本試験より難しい試験になってしまう。世に資格試験は数あれど、本試験より予備試験の方が難しい試験というのはついぞ聞いたことが無いし、そもそも本試験より難しい予備試験の合格者に、なぜまた翌年に本試験を受けさせる必要があるのか。
 これは、法科大学院をバイパスしようとする受験生に対する嫌がらせとしか思えないし、法科大学院にまだ何の実績もないことも考慮すると、意見書のいうような制度設計は、法の下の平等を定めた憲法14条や、職業選択の自由を認めた憲法22条に違反するという議論すら可能であろう。
 なお、この予備試験ルートについて、前記読売新聞の記事では予備試験が結局誰でも受験できることになり、例外ルートではなくなる可能性が出てきたなどと批判がましく書いているが、健全な常識人であれば、そのような発想が出てくるのはむしろ当然であろう。
 なお、上記意見書括弧書きの「実社会での経験等により、法科大学院における教育に対置しうる資質・能力が備わっているかを適切に審査するような機会を設けることについても検討する必要がある」という部分は結果的に無視される形となったが、そもそも社会経験等による資質とはどういうものか自体はっきりしないし、そういった資質や能力を、一体試験以外の方法によりどうやって審査しろというのか、全く明らかでない。
 意見書で実現不可能な意見を書いても、無視されるのは当然である。


 こうしてみると、意見書で示された「法科大学院構想」なるものは、もはや「構想」などといえるようなものではなく、むしろ「法科大学院夢想」または「法科大学院妄想」と呼ぶのが適切であろう。
 有識者といわれる人が2年間も議論して、結局こんな稚拙な意見書しか書けないのであれば、そもそも審議会など不要である。
 前記読売新聞の記事によると、政府の司法制度改革推進本部の担当者が、自民党「法曹養成小委員会」の席で法科大学院の仕組みについて具体案を説明しようとしたところ、議員から「そもそも法科大学院なんて必要あるのか」という言葉が浴びせられ、「こんな意見書をだれが作ったんだ」と言い出す議員もいたとのことであるが、何のことはない、意見書がそれだけずさんだったというだけのことである。
 さらに、『「すべての人に開かれた現行の一発型司法試験のどこが悪いのか」「法案提出を1年、延期したらどうか」。政府と与党の協議が最終段階にさしかかった今年7月の段階でも、議論を振り出しに戻そうとするかのような発言があった』ともいうが、今まで見てきた意見書の出来の悪さを考えれば至極まっとうなご見解である。
 むしろ、こんな意見書をもとにした法案がよく国会を通過したものだとつくづく感心する。黒猫は当時、この法科大学院構想なるものは具体性に乏しいので、あと5年間くらい時間をかけて十分中身を詰めるものだろうと思っていたが、いきなり法案まで成立してしまったので面喰った記憶がある。   
 読売新聞の記者が犯した最大の誤りは、意見書が「学者や法曹経験者らで構成された司法制度改革審議会が、2年間の集中審議を経て平成13年6月にまとめた」ものであることから、それだけで「意見書が素晴らしいものである」という予断と偏見を持ってしまったということにあると思う。
 法科大学院制度に異論が出る原因として、記事は「文部科学省不信と国の規制に対するアレルギーが原因」であるとか、もともと自民党の法務関係議員には「日本の法学部教育をだめにしたのは旧文部省と大学」(太田誠一衆院議員)という意識が強く、「法科大学院が従来の法学部の延長なら、質など望めない」と考えられているとかいろいろ書いているが、「それは至極まっとうな考えではないか」という発想に思い至らなかったのは、まさに上記予断と偏見の結果であろう。小泉政権によって近年多用される「審議会手法」の弊害が強く現れている。


 怒りのあまり長々と書いてしまったが、いっそのこと法科大学院批判をまとめて本でも出そうかな。12月20日に書いた記事(文書作成能力の欠如)でアクセス数が急に増えたところをみると、本も結構売れたりして。


4 コメント

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Unknown (ぴお)
2006-01-03 00:20:48
あけましておめでとうございます。



個人的には、3月で修了して、5月に試験・・・というのが疑問です。

高校受験や大学受験とは違って、法科大学院では現役でいっても、修了後必ず無職(就職とかしなければ)になるのですから・・・

4月から新年度スタートという考え方が頭から離れないせいでしょうかね。



資格試験だから、空白期間(3月修了から9月?合格まで)とかあってもあまり気にする必要は無いということなのでしょうが、なんかしっくりきません。

資格試験ということなら、在学中に受験できたっていいのでは?と思うのですが・・・。

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そうですね。 (黒猫)
2006-01-05 02:35:21
ぴおさん、コメントありがとうございます。

確かに、在学中に受験することができず、卒業後かならずプータローになってしまうというのもおかしいですね。医師の国家試験とかはたしか在学中に受けられるのに。

さすがに司法修習は秋からになるみたいですが、そもそも法科大学院「構想」は、実際にそのルートを通って法曹になる人の立場をまじめに考えていなかったのではないかとさえ思えてきます。
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Unknown (茂名)
2006-01-16 00:36:40
こんにちは

法科大学院妄想への批判読みました



いま大学3年の法学部生ですが、3000人や9000人に増える余地があるということで、今の混迷した状況は早くハッキリさせてもらいたい内の一人です



私のまわりの法科大学院進学希望者の多くも同じようです



是非、本をお書きになられて、法科大学院を批判していただき、合理的な変化を促していただきたいです
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Unknown (IK)
2006-01-29 23:33:09
全く同感です。

これだけ的確な法科大学院制度の批判を読んだことがありません。是非本にしてください。法科大学院の擁護者は、この論文を論破してから、擁護すべきだと思います。多分論破できないと思いますが。

コメントやトラックバックが少ないのが残念です。
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