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焦点-12月20日=一歩 先行くネスレの経営哲学

2008-12-20 22:15:59 | ヘッドライン
スイスに本社を置く世界的な食品・飲料メーカーであるネスレは、
企業哲学として、長期的な思考に基づき、“Creating Shared Value(共通価値の創造)”
という考え方を打ち出している。これは、単に当座の“利益”を上げるだけではなく、
バリューチェーン(価値連鎖)の各プロセスにおいて“社会価値”を定義し、
ビジネスを通じて社会の価値をも創出していこうとする考え方である。
たとえば、同社 は、ミルク、コーヒー、ココアなどの農産物の購入に、年間で最大
130億スイスフラン(約1兆660億円)を費やしている。同社のビジネスにとって、
高品質な原材料を安く安定的に調達することは、非常に重要である。こうした観点から、
長年にわたって、途上国などの農家の生活水準の改善、環境活動、水質の改善など、
農業と地域開発にかかわる取り組みを展開してきた。
なぜ、一見、直接利益を生み出さない取り組みを長年続けているのだろうか。
“共通価値の創造”の考え方にあてはめてみると、納得がいく。
まず、社会価値が創出される流れであるが、農業従事者にネスレが助言と技術援助を行うことによって、
より少ない資金でより多くの高品質の農作物を調達する事ができるようになる。
これは、環境保護に役立つとともに、農業従事者の所得向上につながる。
そして、途上国の雇用と経済開発が促され、同時に消費者にとっては安全で高品質な商品が供給される。
一方、ネスレのビジネスにおいては、農産物を生産している地域社会と協働することで、
より高品質な原料を確実に 調達することができる。同時に、中間業者や不良品、
無駄の削減などにつながり、調達コストを低減できる。そして、より良い最終製品ができあがり、
ネスレのブランドが支持され、結果として、ネスレの収益性向上につながる。
ネスレの共通価値創造の考え方に基づくと、同社のビジネスは、ステークホルダーである農業従事者や
地域社会とは切っても切れない関係にある。従って、こうしたステークホルダーの価値を重視することに
よって、長期的に社会とも調和した持続的成長が実現される事になる。



ビジネスにおいて“社会価値”を強く意識するという点で、一見、CSR(企業の社会的責任)
の取り組みともとらえられる。だが、“Shared Value(共通価値)”の考え方を提唱している
ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授と、ハーバード大学ジョン・F・ケネディ行政大学院の
マーク・R・クレーマー上級研究員によると、“共通価値の創造”は、外部基準を順守するという意味での
CSRやいわゆる社会貢献活動とは、一線を画したものと位置づけられている。
ネスレによれば、“共通価値の創造”とは、同社にとっては、ロングタームの事業戦略に完全に統合された
概念である。したがって、ネスレにおいては、これらの取り組みをCSRとは呼ばず、
“Creating Shared Value Strategy(共通価値の創造戦略)”と呼ぶのだという。
このような考え方を経営戦略の根幹に取り入れている背景として、ネスレの長期的志向がある。
同社が本社を置くスイスの文化・風土は、もともと長期的志向を持つ国であるが、
加えて同社は、「長期にわたり株主に価値を 提供するためには、社会に対しても長期にわたる価値を
もたらさなければならない」との考えを根底に持っている。
実際に、日本企業においても、こうした理念や哲学を経営の根幹に据えている企業は数多くある。
しかし、同社の優れた点は、社会価値創出という理念を理念レベルにとどめず、バリューチェーンの
各プロセスにおいて行動レベルまで落とし込んでいる点であろう。

現在、ネスレは、将来の持続的成長を実現するための課題として、農業従事者への支援に加え、
世界的にも深刻な資源枯渇が懸念されている水問題などにも積極的に取り組んでいる。
このように事業展開をベースとしながらも、同時に社会変革を促し、社会の成長を実現させる
取り組みは、結果として、企業の長期的な成長につながるのである。
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