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美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

京都 堂本印象美術館に大正~平成の美人画が大集結_美人画はやはり京都

2019年05月09日 | 美術館・展覧会

京都の北西の端っこ・金閣寺の近くにある堂本印象美術館で企画展「絵になる姿」が行われています。「装い上手な少女、婦人、舞妓たち」というサブタイトルで表現されているように、京都らしい写実的で繊細な女性像をたっぷり味わえる構成に仕上がっています。

  • 大正~平成に京都で活躍した画家の作品が中心、四条派の伝統の継続を感じさせる
  • 和装の色彩豊かな表現が素晴らしい作品に見応え、モデルの表情と実によく調和させている
  • 同時開催の館蔵レクション展「印象の女性像」では、堂本印象の画風の変化が楽しめる


近代以降の京都画壇の作品の展覧会では定評がある美術館です。建物の奇抜なデザインに負けず劣らず、中身も濃厚です。



堂本印象美術館は、入館すると建物の外壁にそって設けられているスロープを通って2Fの企画展の展示室に向かいます。このスロープも展示スペースになっており、サイズの小さい作品を間近に鑑賞することができます。三輪良平による都をどりポスター原画が見応えがあります。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 菊池契月「朝爽」京都国立近代美術館蔵

2Fの企画展示室はサイズの大きい作品が余裕をもって展示されています。菊池契月(きくちけいげつ)は幸野楳嶺の門下で竹内栖鳳の弟弟子にあたります。竹内栖鳳と並んで近代京都画壇の本家本流の写実的で清楚な画風が魅力です。「朝爽」はタイトルのようにとても爽やかなタッチに仕上がっています。女性の背後の柱に生けられた朝顔が、爽やかさをさらに強調しています。1937(昭和12)年の作品です。



【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 三谷十糸子「朝」京都国立近代美術館蔵

三谷十糸子(みたにとしこ)は、少女や美人画を描き続けた昭和を代表する女流画家です。1933(昭和8)年の作品「朝」は、うさぎの世話をする少女を描いています。少女の赤い着物がとても明るく、少女の元気さがストレートに伝わってきます。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 磯田又一郎「夏座敷」京都国立近代美術館蔵

菊池契月に師事していた磯田又一郎の「夏座敷」は1936(昭和11)年の作品です。座敷に冷菓子を運ぶ女中見習のような少女を描いています。青い着物がとても爽やかで、こちらも元気にあふれた作品です。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 由里本景子「娘」京都国立近代美術館蔵

由里本景子(ゆりもとけいこ)の「娘」は、花街を志した少女が三味線を師匠に習う前の様子でしょう、緊張の一瞬をとらえています。師匠の上村松園から受け継いだであろう、少女のとても真剣な眼差しの描写が印象的です。1936(昭和11)年の作品です。

三作品とも描かれたシーンは異なりますが、いずれも戦前の古き良き時代の趣を見事に今に伝えています。素晴らしい名品です。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 三輪良平「八朔」京都国立近代美術館蔵

三輪良平(みわりょうへい)は、戦後から平成にかけて活躍した日本画家です。この展覧会のチラシの表紙にも採用されている「八朔(はっさく)」は、まだ新しい2003年の作品ですが、京都国立近代美術館が所蔵している評価の定まった作品です。

八朔とは、京都の花街で毎年8/1に行われる夏の風物詩で、芸妓・舞妓が日頃世話になっている芸事の師匠にあいさつ回りをする行事です。黒の正装でびしっと決めた芸妓三人が、師匠への挨拶の順番を待っているのでしょうか、街角で佇む様子を描いています。芸妓の表情はとても充実しており、花街での仕事をとても楽しんでいるように見えます。とても華やぎのある名品です。

「はっさく」と言えば果物の方が有名ですが、元は旧暦8/1を指します。朔日とは毎月1日のことで、果物のはっさくも8/1頃から食べ始めたことが由来とされているようです。でも旬の季節とは合いません。別の由来があるのでしょうか。



2Fの企画展示室から1Fにおりると、奥の新館でコレクション展「印象の女性像」を鑑賞できます。堂本印象は、戦前までは伝統的な日本画表現だけでしたが、戦後になって西洋絵画や抽象画のような表現も行うようになります。

【堂本印象美術館公式サイトの画像】 堂本印象「木華開耶媛」
【堂本印象美術館公式サイトの画像】 堂本印象「或る家族」

「木華開耶媛」は1929(昭和4)年、「或る家族」は1949(昭和24)年の作品で、いずれも印象の代表作です。堂本印象は、ピカソのように画風の変化を味わえるとても興味深いアーティストです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


美人はいつの時代も世相を示す

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<京都市北区>
京都府立堂本印象美術館
特別企画展
絵になる姿 -装い上手な少女、婦人、舞妓たち-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都府立堂本印象美術館、京都新聞
会期:2019年4月3日(水)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、3番口から「烏丸今出川」バス停で京都市バスに乗り換え、
「立命館大学前」下車、徒歩1分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅→烏丸今出川→市バス59系統→立命館大学前

【公式サイト】 アクセス案内

※京都駅から直行するバスもありますが、地下鉄とバスを乗り継ぐ方が、時間が早くて正確です。
※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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肉筆浮世絵らしいエッジに迫る_京都文化博物館「美を競う」6/9まで

2019年05月07日 | 美術館・展覧会

京都文化博物館で、光(ひかる)ミュージアムが所蔵する日本有数の肉筆浮世絵コレクションを大々的に公開する展覧会「美を競う」が始まっています。

  • 美人画を中心に110点が展示、江戸時代に求められた風流がモデルの姿から如実に伝わってくる
  • 浮世絵の各時代の絵師の作品が揃い、上方の絵師も含まれる、肉筆浮世絵の潮流を俯瞰できる


版画の錦絵は、大衆受けを重視するため、出版権を持つ版元の意向が強く働いて制作されます。一点物の肉筆浮世絵は、個別の顧客ニーズを絵師がくみ取って制作されるため、よりエッジの効いた当時の風流を感じ取ることができます。一点一点、静かに向き合うといろんなエッジが見えてきます。


輸入車イベントは赤レンガによく合う

光(ひかる)ミュージアムは岐阜県高山市にある美術館で、宗教法人崇教真光(すうきょうまひかり)により1999年に開館しました。マヤ文明の古代神殿をイメージさせる巨大な建物の随所には、現在の日本で最も著名な左官で、高山を拠点に活動する挾土秀平(はさどしゅうへい)による内装が施されています。MOA美術館やMIHO MUSEUMなど、宗教法人系の美術館によく見られるスケールの大きさが訪れる者を驚かせます。

【公式サイト】 光ミュージアム

コレクションは、世界の古代文明/化石と自然史/浮世絵を中心とした美術、の3通りに大別されます。肉筆浮世絵は、かつての那須ロイヤル美術館の閉館後に小針コレクション一括購入したものが中核になっています。



江戸を拠点とした絵師の展示はおおむね、流派単位で時代を追って構成されています。上方や地方の絵師は最後にまとまって展示されています。

【光ミュージアム 公式サイトの画像】 ご紹介した作品の一部が掲載されています

浮世絵師としては初期にあたる18c前半に活躍した宮川長春(みやがわちょうしゅん)は、豊艶な美人画の描写が特徴的です。肉筆画専門の絵師で、富裕な町衆に好まれた品の高い画風で知られています。「立ち美人」は、長春が得意とした、豊満な女性が体をくびらせてポーズをとっているように描いた作品です。モデルの視線の置き方に気位の高さを感じさせます。モデルはおそらく高級な遊女でしょう。

魚にまたがった仙人を遊女に見立てて天に昇るシーンを描いた「見立琴高仙人」も目を引きます。長春ではあまり見かけない構図ですが、気品の高さの表現はさすがです。

藤麿(ふじまる)は、18c末~19c初頭に活躍した浮世絵師で、美人画の巨匠・喜多川歌麿の門人と考えられています。姓が不詳なため名だけで呼ばれています。

「旅の女」は、3人の女性が旅の途中で休んでいる様子を描いています。とても深みのある藍色で染められた女性の小袖の下に、赤い襦袢を”チラ見せ”しています。キセルを手に取り、白足袋をはいて草鞋を身に付けています。庶民の女性が旅に出ることはまだまだ難しかった時代でもあり、富裕な女性の優雅な旅姿を描いていることがわかります。

女性の表情はとても洗練されています。色気や気品よりも清楚さが強調されています。背景の木はモノクロで描き、女性だけをフルカラーで描いてスポットライトを浴びせるような演出も表現しています。富裕な町衆が注文主だったことは間違いないでしょう。

葛飾北斎「日・龍・月」は、北斎の表現の多様性を垣間見ることができる逸品です。縦に細長い3つの画面に、左下の「日」から中央の「龍」が、右上の「月」に向かって昇っていくように描いています。空間の拡がりの描写が見事な作品です。


京都文化博物館 別館 赤レンガ 重要文化財

江戸とは異なり、モデルを美化することなく如実に一瞬の表情を写実的に描いた上方の浮世絵師の作品もとても印象に残ります。月岡雪鼎(つきおかせってい)の「遊女」は、どこか異国情緒が漂っています。非日常の世界に誘惑するような遊女の目線の表現が絶妙です。

祇園井特(ぎおんせいとく)は、18c後半に写実表現が席巻していた京都の浮世絵師です。眉毛を太く描くアクのある表現が特徴的です。「紐を結ぶ女」は、江戸の絵師の作品ではまず見かけない、遊女と思しき女性のプライベートな日常の一瞬を描いています。四条派の作品だと言われれば、気付かないほど、上質さがあふれる作品です。


京都・祇園にて

2F総合展示室では、近代京都で活躍した二人のアーティストを紹介する展示も行われています。ジョルジュ・スーラを思わせる点描画家・太田喜二郎と、大山崎の重文・聴竹居(ちょうちくきょ)の設計者・藤井厚二です。友情を交えた二人の作品からは、共に京都で近代文化を追い求めていた大正から戦前にかけてのモダニズムの香りを感じることができます。

濃厚な肉筆浮世絵の後に鑑賞すると、さわやかなシャワーを浴びたように感じられます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



「肉筆」のリアルな魅力に迫る画集

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<京都市中京区>
京都文化博物館
特別展
美を競う 肉筆浮世絵の世界
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都府、京都文化博物館、産経新聞社、関西テレビ放送
会場:4F,3F展示室
会期:2019年4月27日(土)〜6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金曜~19:00)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年9月から静岡県・佐野美術館、2019年11月から福島県・いわき市立美術館に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「烏丸御池」駅下車、5番出口から徒歩3分
阪急京都線「烏丸」駅下車、16番出口から徒歩7分
京阪電車「三条」駅下車、6番出口から徒歩15分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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原三溪が愛した名品が大和文華館で一堂に_茶の湯の美術5/19まで

2019年05月06日 | 美術館・展覧会

奈良・大和文華館で行われている「茶の湯の美術」に行ってきました。数々の茶席で客人をうならせてきた大和文華館が所蔵の名品が一堂に公開されています。展示室にいながら、茶室で掛軸や茶道具を眺めてうっとりしているような気分になれます。

  • 原三溪旧蔵品を始め、伝来の確かな名品が多い大和文華館のコレクションの上質さを存分に味わえる
  • 南宋画「雪中帰牧図」と佐竹本三十六歌仙「小大君」が目玉作品、発するオーラは格別
  • 近代の茶人が好んだ流暢な仮名文字が美しい古筆が多く、展示室に茶室の趣を強く醸し出している


展覧会として正直目立たないことに”もどかしさ”を感じますが、内容はとても濃厚です。大和文華館は自館コレクションだけでも高いレベルの展覧会を永らく回していける、日本でも稀有な美術館だからです。



大和文華館が所蔵するコレクションはほぼすべて、戦後になってから蒐集されたものです。かなり後発組と言わざるを得ませんが、にもかかわらず日本有数の質の高い古美術作品を収集できたのは、ひとえに初代館長・矢代幸雄(やしろゆきお)と当時の近鉄の社長・種田虎雄(おいたとらお)の功績です。

大和文華館創設時の歩みは以前のブログでご紹介しています。
 大和文華館「光琳筆・中村内蔵助像」展 ~館蔵品のレベルの高さがわかる

今回の出展作品には、戦前の日本の二大コレクター旧蔵の”超”名品が多く含まれます。まず登場するのは、益田鈍翁旧蔵の国宝「雪中帰牧図(せっちゅうきぼくず)」です。

【大和文華館公式サイトの画像】 李迪筆「雪中帰牧図」

「雪中帰牧図」は南宋の宮廷画家・李迪(りてき)による12c末の作品で、東博蔵「紅白芙蓉図」と並ぶ日本にある李迪の最高傑作です。いずれも国宝です。「雪中帰牧図」は、引手と牛が凍えるような雪の中を進む様子がわかりやすく伝わってきます。木につもる雪とよどんだ空の光景から真冬の空気感を、墨だけで表現した写実の腕前は絶品です。

【大和文華館公式サイトの画像】 伝毛益筆「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」
【大和文華館公式サイトの画像】 伝趙令穣筆「秋塘図」

大和文華館が所蔵する他の宋代の中国絵画の名品2点も「雪中帰牧図」に並んで展示されています。この2点は、もう一人の戦前の二大コレクター・原三溪の旧蔵品です。

「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」は、李迪と同じく南宋の宮廷画家だった毛益(もうえき)の筆と推定されている重要文化財です。見事に咲いた花の横で戯れる犬・猫の一瞬の姿を、写真のように描き出しています。冬の「雪中帰牧図」に続いて、春の茶室に掲げられて客人をうならせた様子が目に浮かんできます。日本にある伝毛益の傑作です。

「秋塘図」は北宋の画家・趙令穣(ちょうれいじょう)の筆と推定されている重要文化財です。水辺に佇む柳と松のように見える二種の木々の間に、水気を多く含んだ空気が流れていく様子を絶妙に表現しています。長谷川等伯の松林図屏風のような幽玄さが際立って目を引きます。「塘」とは川の岸辺のことです。


いつ見ても美しい大和文華館のなまこ壁

幽遠な表現にはどこまでも感服してしまう中国宋代の絵画に対し、日本の芸術表現はやはり繊細です。国土の大きさと民族の多様性の違いが芸術表現にも現れているのでしょう。茶の湯をテーマにした展覧会で日中両国の作品が並列展示されると、いつも感じます。

【大和文華館公式サイトの画像】 野々村仁清作「色絵おしどり香合」

野々村仁清「色絵おしどり香合」は10cmもないような小品ですが、存在感は圧巻です。「香合」とは香りを発する粉末などを入れておく器のことです。動物の塑像表現が得意だった仁清らしい、気品の中にも愛くるしさを加えた名品です。

女性が好むコンパクトの化粧具入れのように、とても小さなボディに繊細な美しさが凝縮されています。並行して行われている奈良国立博物館の藤田美術館展で話題の「交趾大亀香合」と見比べてみてください。きっと両方とも欲しくなると思います。

【奈良国立博物館 藤田美術館展公式サイトの画像】 交趾大亀香合

「雪中帰牧図」と並ぶもう一つの展覧会の目玉作品は、原三溪旧蔵の重文「佐竹本三十六歌仙絵断簡・小大君(こおおきみ)」です。「小大君」が展覧会の順路の最後でひときわ発する格別のオーラに、観る者の誰もが目をくぎ付けにされます。今年2019年秋に、分断された三十六歌仙絵巻のほとんどが揃う京博の特別展で、チラシ・ポスターの主役に採用されています。描かれた三十六歌仙でもトップクラスの美しさです。

【特別展公式サイト】 佐竹本三十六歌仙と王朝の美

三十六歌仙の中で4人しかいない女流歌人の作品は、その希少価値と美しさから、益田鈍翁が主導した分割売立ての際には最も人気がありました。原三溪が入手した時の喜びは、当人しか味わえない格別の一瞬だったでしょう。

十二単の重なった衣すべてが見えるよう、ファッションショーのメイン舞台で小大君がポーズをとっているように描かれています。人間はともかく、これほどまでに衣装を美しく描いた日本絵画はめったにありません。



大和文華館のコレクションの中核を成す原三溪旧蔵品が一堂に会する展覧会が、今年2019年の夏に、三溪の本拠地・横浜で開催されます。東博所蔵の日本仏画の最高傑作「孔雀明王像」を始め、国宝「寝覚物語」など大和文華館所蔵品も大挙、貸し出されます。原三溪旧蔵品の多くを大切に受け継いだ矢代幸雄の業績も丁寧に紹介されるようです。

【横浜美術館】 原三溪の美術 伝説の大コレクション

開催期間は7/13~9/1です。三溪園と違って”行きにくい”ことはなく、みなとみらい駅すぐ近くの横浜美術館が会場です。”行きやすい”です。早めにご予定を。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



矢代幸雄が語った世界の日本美術コレクターの審美眼

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<奈良県奈良市>
大和文華館
茶の湯の美術
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年4月12日(金)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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京都 因幡堂平等寺の美仏が今だけ勢揃い_龍谷ミュージアム 6/9まで

2019年04月29日 | 美術館・展覧会

京都の龍谷ミュージアムで「因幡堂平等寺(いなばどうびょうどうじ)」展が始まっています。嵯峨の清凉寺と並んで京都の町衆から篤い信仰を受けた薬師如来を始め、通常非公開の美仏や絵巻が一堂に揃います。

  • 本堂の改修工事に際して寺の文化財が一斉にミュージアムに”仮住まい”、またとない機会
  • 町衆の信仰を集めた本尊・薬師如来の柔和なお顔は、日本三如来と呼ばれるにふさわしい
  • 東京国立博物館所蔵の重文「因幡堂縁起」のほか、ゆかりの寺から出展される仏像も美仏揃い


龍谷ミュージアムは、仏教美術の常設展はもとより、企画展の構成の上手さにいつも感心します。京都駅から歩いて行けます。ぜひおすすめします。



因幡堂平等寺の正式名称は平等寺です。有名な薬師如来の縁起に因んで京都人の間では、通称の因幡堂もしくは因幡薬師と呼ばれることが多くなっています。京都の中心繁華街のすぐ近く、烏丸高辻にあります。平安時代から続く町衆が集まる中心市街地・下京(しもぎょう)のど真ん中に位置します。

平等寺本尊の薬師如来が、嵯峨・清凉寺の釈迦如来、長野・善光寺の阿弥陀如来と並んで日本三如来と呼ばれるのは、いずれもインドから中国を経て日本に伝来したと信じられてきたためです。


薬師如来を海から引き揚げている絵巻で記念撮影

展覧会に出展されている東京国立博物館蔵「因幡堂縁起」に、薬師如来の由縁が美しい絵で表現されています。鎌倉時代の作品で写実的に描かれており、ストーリーがとてもわかりやすい描写です。

【東京国立博物館公式サイトの画像】 「因幡堂縁起」

平安時代半ば、赴任先の因幡国(現在の鳥取県西部)にいた都の貴族・橘行平(たちばなのゆきひら)の夢枕で「インドから仏像が海岸に流れついているので引き上げよ」と声が囁きます。まもなく京に帰任した行平は薬師如来をいずれ京に迎えるつもりでしたが、その前に薬師如来自身が京の行平の屋敷まで飛んできました。

行平の屋敷があったのは現在の平等寺で、薬師如来をまつったのが平等寺の起源という、中世の人に霊験をアピールするにはとてもわかりやすいストーリーになっています。

平安時代は洛中で、官寺の東寺/西寺以外の寺院建立は禁止されていました。貴族の私的な持仏堂や町衆の集会所を兼ねた町堂(ちょうどう)はわずかに認められていました。平等寺もそうした寺の一つで、六角堂頂法寺や革堂行願寺と並んで、市街地の中核的な町堂として永く町衆から信奉を集めてきました。古くは天台宗でしたが、現在は真言宗智山派です。



展示の最初は「因幡堂縁起」から始まります。因幡堂が町衆から愛されてきた理由がよくわかります。なお重文の鎌倉時代の原本は前期のみ展示で、後期は東博蔵の江戸時代の狩野派による摸本が展示されます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

本尊の薬師如来立像はほぼ等身大で、定朝様式ほどには目立ちませんが、ふくよかなお顔立ちです。平安時代半ばの作品でしょう。どんな病気も治してくれるような包容力を感じさせます。町衆からの信仰が、お顔をさらにふくよかに見せているようです。

本尊を安置する厨子も並んで展示されています。背面には木製の車と紐が付けられており、火事に際して速やかに避難させるためのものです。町衆の知恵がさりげなくいかされているのでしょう。

因幡堂には美仏が揃っていることに驚きます。重文の「阿弥陀如来坐像」は鎌倉時代の慶派仏師によるイケメン仏です。端正さの中に柔和さも兼ね備えたマスクが何とも言えません。重文の「如意輪観音坐像」は鎌倉時代の作で、密教的な怪しさをあまり感じさせないお顔立ちが逆に魅力です。

三頭身ほどの巨大な顔の「大黒天立像」は迫力があります。室町時代の作品で、大黒天の作例が憤怒相から柔和相に変化していく過渡期のような印象を受けます。時代劇の悪徳代官のような表情に、何ともユーモアがあります。

安土桃山時代から江戸初期を代表する仏師・康正(こうしょう)による「弘法大師坐像」も名品です。数ある弘法大師像の中でもかなりのイケメンです。康正は東寺金堂の薬師三尊の作者としても知られています。


本堂向拝軒下の薬師如来懸仏(撮影OK)

因幡堂の近く、高倉五条にある浄土宗寺院・西念寺(さいねんじ)から、「阿弥陀如来坐像」が出展されています。因幡堂のイケメン「阿弥陀如来坐像」に表情がとてもよく似ており、同じ仏師か工房で造られた可能性が高いと感じられます。西念寺像は運慶の嫡男・湛慶(たんけい)作という説もあります。胸の前に両手を突き出し指で輪を作る印相はとても珍しく、神秘的でもあります。

江戸時代に境内が賑わった様子をうかがわせる史料も見応えがあります。旅行ガイドである都名所図会や、境内で行われた狂言の人気番付など、町衆が集まっていた当時の活気がひしひしと伝わってきます。

5/11からは岐阜市の延算寺(えんさんじ)蔵の重文「薬師如来」が出展されます。この像も因幡堂本尊と同じく、因幡から美濃まで飛んできたという縁起があります。海中から引き揚げたものではなく、最澄の作とされています。こちらも庶民の人気を集めたようで、楽しみです。


ミュージアム周辺は京都一の仏具店街、仏具店には見えないデザインが斬新

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



100m歩けば何かの石碑がある、そんな京都の下京をたどる一冊

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<京都市下京区>
龍谷ミュージアム
企画展
因幡堂平等寺
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:龍谷ミュージアム、京都新聞、毎日新聞社
会場:3階展示室
会期:2019年4月20日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※5/19までの前期展示、5/21以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。




◆おすすめ交通機関◆

JR/近鉄/地下鉄・京都駅から徒歩15分
地下鉄烏丸線・五条駅から徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal

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さすがは東京藝大 教科書的名品がずらり_コレクション展6/16まで

2019年04月27日 | 美術館・展覧会

東京藝大美術館で「藝大コレクション展2019」が始まっています。上野エリアでは正直目立たない美術館ですが、展示所蔵作品はびっくりするほどの名品揃い。いわゆる玄人受けする美術館です。

  • 国宝2点/重文18点を含む約30,000点のコレクションは日本トップクラスの充実ぶり
  • 常設展示はないため、年に1回コレクションを鑑賞できる貴重な機会
  • 卒業生/教官ゆかりの作品以外のあらゆる分野の蒐集品は、さすが日本の最高美術学府と思わせる


教科書に載っていることから藝大所蔵作で最も著名な作品の一つ、高橋由一「鮭」が出展されます。行くとほとんどの人が藝大美術館に魅了されること、間違いなしです。



東京藝大美術館は、正式には「東京藝術大学大学美術館」と言いますが、大学を繰り返していて長いのが正直やっかいです。何かこだわりがあるなら聞いてみたいと思いますが、お役所的な事情でないことを祈りたいものです。

東京藝大は、美術/音楽共に明治初めに源流となる学校が設立されており、現在の藝大美術館のコレクションも源流となった学校の設立以来行われています。蒐集目的は教育・研究のためであり、蒐集品は永らく図書館が管理し、学内に限って”閲覧”することができました。蒐集品の一般公開が始まったのは1970(昭和45)年からで、1999年には現在の展示室がある本館が完成しています。

コレクションは古美術品に加え、教官や卒業生の作品、文部省買上げ品で構成されます。東京藝大美術学部の卒業制作は伝統的に自画像で、村上隆や山口晃といった現役の著名アーティストの自画像がコレクションの中でも名物になっています。


正木記念館

今回の展覧会は地下の展示室だけが会場です。入口では、展覧会チラシ表紙に採用されているラファエル・コランの2mを超す大作「田園恋愛詩」が観る者を出迎えます。

【美術館公式サイトの画像】ラファエル・コラン「田園恋愛詩」

ラファエル・コランはパリに留学してきた黒田清輝/久米桂一郎/岡田三郎助/和田英作らに絵を教え、日本近代洋画の師と言われています。明るい陽光を取り込んだ「外光派」の一人ですが、印象派と古典主義の折衷のような画風が特徴です。「田園恋愛詩」は、ジャポネスクを感じさせる森と湖の背景に、耽美なアダムとイブのような裸体の男女を描いています。耽美な香りも感じさせます。

【美術館公式サイトの画像】黒田清輝「婦人像(厨房)」

「田園恋愛詩」の横には、黒田清輝の最高傑作の一つ「婦人像(厨房)」が並んでいます。パリ留学時代に描いた作品で、毎日を力強く生きている女性がふと見せた息抜きの表情を見事にとらえています。日本人画家が、外国人女性をモデルに描いた作品の中でも不朽の名作です。

いずれも通期展示されます。



この展覧会では会期中に大幅な展示替えがあります。前半1期のみ展示の注目作品に、池大雅「富士十二景図」があります。

12カ月の富士山を描いた作品ですが、永らく行方不明だった9月が近年発見されて東京藝大美術館の所蔵となり、12幅が揃って展示されます。うち4幅は滴翠美術館所蔵品です。富士山は大雅らしい雄大な構図にとてもあうモチーフです。12幅が並ぶと、その雄大さがさらに魅力を増します。

【美術館公式サイトの画像】「絵因果経」
【美術館公式サイトの画像】狩野芳崖「悲母観音」
【美術館公式サイトの画像】下村観山「天心岡倉先生(草稿)」

1期のみ展示には、日本最古級の奈良時代の絵巻・国宝「絵因果経」、狩野芳崖の絶筆で最高傑作・重文「悲母観音」、下村観山「天心岡倉先生(草稿)」といった著名作もずらりと並びます。美術の教科書をたどっている気分になれます。

明治に洋画を志した若者はみなフランスへ留学したような印象が強いですが、イギリスへ留学した若者も少なからずいました。ラファエル前派や内面を描き出そうとする象徴主義文学/絵画の本場として注目されており、日英同盟の締結もあって国家レベルでも親近感を共有できた時代でした。今回の展覧会ではイギリス留学生の作品もまとまって展示されています。

【美術館公式サイトの画像】原撫松「裸婦」
【美術館公式サイトの画像】牧野義雄「テームス河畔」

原撫松(はらぶしょう)の「裸婦」は、高いデッサン力と深みのある絵肌表現の双方が両立した傑作です。原撫松は名士の肖像画が多く、画家としての知名度は高くありませんが、驚くべき腕の良さを感じさせます。通期展示されます。

幻想的な風景画で知られる牧野義雄の「テームス河畔」は、霧がかかったロンドンらしい風景がしとやかに描かれています。同時代の印象派の作品とは対照的に画面は明るくありませんが、かえって大英帝国の存在感と魅力を表現しているようで、観る者を惹きつけます。1期のみ展示です。

【美術館公式サイトの画像】白瀧幾之助「稽古」

高橋由一「鮭」とともに、近代洋画の名作はまだまだあります。「稽古」は白瀧幾之助(しらたきいくのすけ)の卒業制作品です。下町の日常生活を写実的に描いた白瀧の傑作の一つで、師の黒田清輝の影響を受けた光の表現が絶妙です。1期のみ展示です。

【美術館公式サイトの画像】和田英作「思郷」

フランス留学時代にパリの料亭で働く女給を描いた作品です。窓から風景を眺める少女の表情が、タイトル通り、絶妙にメランコリックに表現されています。風景画でも感情を感じさせるような和田の生き生きとした描写が際立つ肖像画の名品です。通期展示されます。


藝大アートプラザ

5/14からの2期展示では、「悲母観音」と並ぶ狩野芳崖の傑作仏画で重文の「不動明王」、橋本雅邦の重文「白雲紅樹」、川合玉堂「鵜飼」、山口蓬春「市場」など、こちらも教科書クラスの名品が並びます。

藝大の学生/卒業生/教官の作品を展示・販売する「藝大アートプラザ」もできています。アート作品に限らず、買いやすい雑貨も結構そろっています。藝大美術館を訪れる楽しみが一つ増えたようです。

【公式サイト】 藝大アートプラザ


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



藝大生って確かにイメージがわかない

________________

<東京都台東区>
東京藝術大学大学美術館
藝大コレクション展 2019
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:東京藝術大学
会場:本館 展示室1
会期:2019年4月6日(土)~6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※5/6までの1期展示、5/14以降の2期展示で展示作品/場面が大幅に入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野」駅下車、公園口から徒歩10分
東京メトロ千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩10分
京成「上野」駅下車、正面口から徒歩15分
東京メトロ日比谷線/銀座線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
東京駅→JR山手線/京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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東京都現代美術館 リニューアル・オープン「百年の編み手たち」6/16まで

2019年04月26日 | 美術館・展覧会

2016年から約3年間の改修工事を終えた東京都現代美術館(MOT)が3月29日、待ちに待った再開の日を迎えました。リニューアル・オープン記念展は「百年の編み手たち」。日本人作家の現代アートの網羅性では日本随一のコレクションを持つMOTならではの、日本のアートシーンの100年を俯瞰できる展覧会です。

  • 定まった美術史感にはとらわれず、作家たちの表現に対する模索を現代まで振り返る
  • 企画展示室3フロアすべてを使う大型展、空間のゆとりと展示作品数の多さは格別


建物構造は変わっていませんが、内装の一新で館内はとても明るくなっています。案内サインのデザインやカフェも一新され、新しさを随所で”さりげなく”感じることができます。時間を気にせずゆっくり訪れることをおすすめします。展示作品の魅力と空間の快適さを、より感じ取ることができます。


1Fエントランス回廊の明るい陽光も久々に体験

展覧会のチラシを最初見た時には気付かなかったのですが、訪れた際に館のロゴマークが微妙に変わっているのに気づきました。見慣れた「MO+」のロゴの+がもう一つ加わって「MO++」になっていました。一年間限定とのことですが、デザインの出来栄えやロゴに込めた「もっと」という思いも踏まえると、ずっと使い続けてもよいのではと感じます。みなさんはいかがでしょうか。

【東京都現代美術館】 リニューアル・オープン記念ロゴ

展示は3Fから時代を追って進んで行きます。100年前のスタートは1914年に設定しています。日露戦争に勝利した日本は、明治が終わる直前の1911年に関税自主権を回復し、一等国の仲間入りを自負するようになります。1914年には辰野金吾が設計した現在の東京駅が完成し、暮らしと文化の両面で豊かさを謳歌する大正モダニズム時代に突き進んで行く時代でした。

1914年は日本の美術界にとっても大きな変革があった年でした。国家によるアカデミズムを象徴するような文部省美術展覧会(文展)に反旗を翻した若手洋画家のグループが「二科会(にかかい)」を結成します。「二科」には古典的な表現とは一線を画す洋画の新表現を目指す意味が込められています。二科会は現在も存続し、著名な展覧会・二科展を主宰しています。

岡倉天心が東京美術学校を追われて結成した日本美術院を、天心の死後に横山大観や下村観山が再興したのも1914年です。洋画/日本画の両面で、国家主導に一線を画すような活動が公然と行われるようになったのです。芸術表現の自由を国民自身がリードするようになった、国民の文化度の成熟という意味では画期的な年でした。

この展覧会における日本の20c美術の”百年”のスタート年の設定としては、とても上手に感じます。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

1914年の作品は、岸田劉生「椿君に贈る自画像」から始まります。竹橋の東近美にいかにもありそうな作品ですが、都現美の所蔵です。ポスト印象派的表現からいきなりドイツ・ルネサンス的表現に転向するなど、自在に表現の”編集”を試みた”編み手”が岸田劉生でした。

展覧会では”編集”というキーワードで、表現への新たな挑戦にスポットをあてていきます。表現がきわめて多様になり、従来の流派として説明することが難しくなった20c美術の潮流の説明には、合理的なやり方でしょう。


写真撮影OKの3F第2章の一部展示室

第2章「震災の前と後」では、大正期にヨーロッパの新しい絵画表現を吸収した画家たちが一気に芽を吹かせた時代でした。

第一次大戦に歯科医として参加した中原實(なかはらみのる)は、シュルレアリスムのような現実にはあり得ない構図で日本的なモチーフを描いた作品を発表しています。1929年の「月光と肖像(星と女性)」は、究極に感情を排除してロボットのように美人を描いた作品です。この作品を見た当時の人の驚きは大変なものだったでしょう。

中原實は戦後になるとさらに非現実的な描写を進化させます。1949年の「杉の子」は、マグリット作品を思わせる夢の中ような空の下の畳の上で、赤ん坊がすやすやと眠っています。アメリカ文化を一気に日本人が受け入れていた時代です。この作品を受容できる日本人はかなり増えていたように感じました。



1Fは主に60~70年代、B1Fは80年代以降の作品です。横尾忠則とオノ・ヨーコの作品はいつ見ても、ひたすら豊かさを求めて突き進んでいた昭和の人のみならず、現在の平成/令和の人も振り向かせるような”主張”を感じます。描写は対照的ですが「これでいいのか?」と問いかけてくるように感じます。まさに”編集”上手なアーティストでしょう。

パロディー作品では森村泰昌の他に、梅津庸一が目立ちました。黒田清輝の「智・感・情」を思わせる表現ですが、「智・感・情」を知らない人が見るとどのような印象を持つのか聞いてみたくなります。

全体の印象として、MOTの現代アートコレクションはすき間が少なく濃厚です。あえて言うと現在の日本人アーティストとして世界で最も知られる3人、草間彌生/奈良美智/村上隆の展示が少ない印象は否めませんでした。この3人の作品は国内の美術館には多くありません。MOTもあまり所蔵していないようです。日本のアート市場の現実が現れているように思えたのが気になりました。


2つのカフェ「100本のスプーン」と「二階のサンドイッチ」

コレクション展も同時開催されています。こちらも併せて鑑賞することで、MOTのコレクションの層の厚さをより実感することができます。現代アートを知ってみたい人、コレクションを始めたいと思っている人には、それぞれとてもよい勉強と目の訓練になると思います。現代アートのファンにすでになっている人も、いつ行っても心地よい非地上空間を体験できるでしょう。

コレクション展
MOTコレクション ただいま/はじめまして
【美術館による展覧会公式サイト】


こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



現代アートの学芸員の毎日をコミカルに学べる

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<東京都江東区>
東京都現代美術館
リニューアル・オープン記念展
企画展
百年の編み手たち -流動する日本の近現代美術-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:東京都歴史文化財団、東京都現代美術館
会場:企画展示室3F/1F/B2F
会期:2019年3月29日(金)〜6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30

※会期中、一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会の一部展示室の作品は、私的使用に限って写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。




◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ半蔵門線「清澄白河」駅下車、B2出口から徒歩9分
都営地下鉄大江戸線「清澄白河」駅下車、A3出口から徒歩13分
東京メトロ東西線「木場」駅下車、3番出口から徒歩15分
都営地下鉄新宿線「菊川」駅下車、A4出口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→大手町駅→東京メトロ半蔵門線→清澄白河駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には有料の駐車場があります。
※渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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春と新元号にふさわしい「花」の展覧会_東京 山種美術館 6/2まで

2019年04月24日 | 美術館・展覧会

山種美術館で、春の訪れを告げるにふさわしい”花”をテーマにした展覧会「花*Flower*華 ―四季を彩る―」が行われています。今年2019年は山種が広尾に移転して10周年、ずらりと続く”気合の入った”展覧会の第二弾です。

  • 花は日本画のモチーフとしてやはり風流と華やかさを感じさせる、展示会場はまさに”満開”
  • ほとんどが山種の所蔵品で構成、山種コレクションの層の厚さはいつ見ても素晴らしい
  • 伊東深水らの人物画にも注目、モデルを彩る花の描写はとても”粋”


2年前の2017年の春にも同じタイトルの展覧会「花*Flower*華 ―琳派から現代へ―」が行われていました。同じ”花”がテーマでも、山種らしい展示構成が今回もお見事です。


都内の桜吹雪

山種美術館は、春の展覧会として「花*Flower*華」をシリーズ化し、春の風物詩として育てていきたいのかもしれません。テーマが実に季節にあっており、山種が持つコレクションとも実に親和性が高いと思えるからです。今後どんな展覧会予定が発表されるか楽しみです。

今年はさらに新元号の効果もあるでしょう。出典が万葉集だったことから、花言葉など日本的な花の楽しみ方に注目が集まっています。この展覧会が企画された頃には想像すらしていなかったでしょうが、とても幸運なタイミングで開催されています。



展示会場では、春から順に四季それぞれの花の絵が展示されていますが、トップバッターからいきなり名品が登場します。

【展覧会公式サイトの画像】 酒井抱一「月梅図」

「月梅図」は酒井抱一らしい”粋”なタッチで、見事に月夜に咲く梅を表現しています。冬の終わりを告げる梅で展覧会を開幕させるのも、”粋”な計らいです。梅の絵は展覧会最後の冬にも展示されていますが、この抱一の梅の絵は格別です。

【展覧会公式サイトの画像】 渡辺省亭「牡丹に蝶図」

渡辺省亭(わたなべせいてい)は花鳥画で名を馳せた明治の画家です。小原古邨(おはらこそん)のように、西洋人にうけやすい明確なタッチと奥行きのある表現が特徴です。「牡丹に蝶図」は牡丹の瑞々しさが伝わってくるようなリアルな表現が目を引きます。白い牡丹の花びらに黒い蝶をとまらせた構図もどこか日本離れしていて魅力的です。

渡辺省亭では「桜に雀」にも注目です。日本人が抱くのとは異なるイメージで桜を描いているように見えます。雀を絵の中心に配した構図のバランスが抜群です。


唯一の撮影OK作品、菱田春草「白牡丹」

今回の展覧会のモチーフでは、牡丹が印象に残りました。菱田春草「白牡丹」は、春草らしい淡いながらも洗練されたタッチが印象的です。安田靫彦「牡丹」は、白い花びらの背後の葉を黒に近い色で描いて花を目立たせています。安田靫彦らしい明るい雰囲気も絶妙に表現されています。

夏の花では、福田平八郎「花菖蒲」が目に留まりました。尾形光琳「燕子花図」のように、花も葉もしっかりと色付けされており、美しさがきちんと主張されています。夏の花はやはり、明るさを強調するためにしっかりとした色付けが合うのだ、と改めて感じた作品です。

秋の花では、一押しは山口蓬春「なでしこ」です。白地に赤の釉薬で派手に描かれた清時代の磁器を思わせる水差しに、なでしこが脇役のごとくに生けられています。なでしこの可憐さを強調しているように感じられます。実に不思議な絵です。

牧進「明り障子」は2004年の作品です。障子を開けて花を見せる構図に、落葉で埋め尽くされたような暗い地面に花と竹を力強く描いています。日本画の優れたコンテンポラリー作品と感じました。

【山種美術館 Google Arts & Cultureの画像】 荒木十畝「四季花鳥」

荒木十畝「四季花鳥」は展覧会チラシ表紙に採用された作品です。今回の出展作の中でも四季の華やかさが最も強調されていると言えるでしょう。琳派のような、しっかりした主張が伝わってくる作品です。いわゆるSNS映えしますが、この作品は撮影NGですのでお間違えなく。

【展覧会公式サイトの画像】 上村松園「桜可里」

ミュージアムショップの奥の小部屋は、展覧会に応じた個性的な作品が展示されています。今回は「人物画における花」にスポットをあてています。

上村松園「桜可里」は、前後に並んで描かれた二人の美人のうち、後方の付き人と思われる少女にだけ花を持たせています。前方の女性は頭巾をかぶって顔を見せないようにしています。お忍びでどこかへ出かけるのでしょう。秘密のデートに足早に向かう女性を、花がさらに妖艶に見せています。

菱田春草「桜下美人図」は、寛永美人を思わせるレトロな描写に、春草の遊び心を感じさせます。伊東深水「吉野太夫」は、花が天下一の名妓のバックダンサーのように見えます。太夫をさらに格調高く見せています。


春は花が青空に映える

山種美術館はどの展覧会を見ても、構成の上手さに感心します。春という明るい季節と令和の新時代の両方を迎えるのにふさわしい展示内容でした。「花*Flower*華」シリーズ、毎年でマンネリ化するとよろしくないので、今までの実績に従ってビエンナーレ(2年に1回)開催を期待したいものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本画の色はなぜ美しいか、山種が編集に全面協力

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<東京都渋谷区>
山種美術館
広尾開館10周年記念特別展
花・Flower・華 ―四季を彩る―
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:山種美術館、朝日新聞社
会期:2019年4月6日(土)~6月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※5/8以降の展示で一部展示場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※出展作の中で一点のみ、私的使用に限って、写真撮影とWeb上への公開が可能な作品があります。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR山手線・埼京線・湘南新宿ライン「恵比寿」駅下車、西口から徒歩12分
東京メトロ日比谷線「恵比寿」駅下車、2番出口から徒歩12分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
東京駅→東京メトロ丸の内線→霞ヶ関駅→東京メトロ日比谷線→恵比寿駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。


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この男は鬼才ではなく天才_河鍋暁斎展 兵庫県立美術館 5/19まで

2019年04月23日 | 美術館・展覧会

神戸の兵庫県立美術館で、幕末から明治にかけて活躍した強烈な個性の絵師・河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の回顧展が開かれています。歌川国芳と狩野派という真逆のような画流を共に学び、暁斎にしか表現できない独特の世界感をたっぷりと味わえます。

  • 幽霊/仏画/風刺画/美人画とあらゆるモチーフをとても上手に描いた暁斎の腕には感服
  • のこされた下絵や写生から、暁斎が絵の基本をとても大切にしていたことがわかる
  • 鬼才と称される暁斎のリアルな描写からは、明治維新のひしひしとした空気感が伝わってくる


つい最近の2019年3月末まで、東京・サントリー美術館でも暁斎の回顧展が行われていました。海外で古くから人気の高かった暁斎の魅力に、日本でも近年、注目度が上昇中です。


企画展示室入口の3F吹き抜けが”暁斎ジャック”

河鍋暁斎は1831(天保2)年、現在の茨城県古河市で生まれ、江戸で火消しとなった父に従い、江戸に出ます。6歳で歌川国芳に入門した後、9歳で狩野派に再入門します。子供の頃には、川で拾った生首を写生して周囲をフリーズさせたエピソードがあるように、とにかく描くことに”貪欲”だった人柄がうかがえます。

土佐派・琳派・四条派などあらゆる画流を吸収し、どんな絵でも欠けるマルチな才能を身に付けます。妻には江戸琳派のスター絵師・鈴木其一の次女をもらっています。暁斎は目上の人に気に入られる才能の持ち主だった気がしてなりません。だからこそあらゆる画流を学べたのだと思うからです。

暁斎はつい、”ぎょうさい”と読んでしまいますが”きょうさい”です。幕末に浮世絵の風刺画で生計を立てていた時代の画号「狂斎」を、明治になって「暁斎」に改めますが、読みをそのまま引き継いだものです。暁斎の絵師としての意地のようなものが感じられるエピソードです。


ミュージアムロードにオブジェが増えてきた

展示は4つの章で構成されています。第1章は「幅広い画業」と題されたように、暁斎の絵画表現の多様性を俯瞰します。同じ絵師が描いたとは思えないほど、実に多彩です。

この展覧会では、前後期で展示作品が大幅に入れ替えされます。以下のレポートは前期展示のみの作品が多くなることをご理解ください。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

トップバッターはタッチに若々しさを感じる河鍋暁斎記念美術館蔵「毘沙門天像」です。狩野派を学んでいた頃の作品で正統派の描写です。前期のみ展示です。

GAS MUSEUM蔵「河竹黙阿弥作『漂流奇譚西洋劇』パリス劇場表掛りの場」は文明開化を描いた典型的な明治錦絵です。時代のニーズに対応できる器用さを感じさせます。前期のみ展示です。

千代田区教育委員会蔵「舞楽 蘭陵王図」は、東京・麹町の町内会の依頼で鎮守の祭りで掲げるために製作された作品です。舞楽のヒーローを今にも動き出しそうに見えるほどリアルに描いています。通期展示されます。

次の第2章は「眼の思索」です。下絵や写生作品を通じて、暁斎の描く力と観察する力に触れることができます。

河鍋暁斎記念美術館蔵「骸骨の茶の湯 下絵」は座って茶の湯を楽しむ人々を骨だけで描いたものです。おそらく立った状態の骸骨標本を観察し、座った時の骨の状態を想像して描いたのだと思われます。科学的に正しいかどうかまではわかりませんが、洞察力はもちろん、骸骨に茶の湯をさせるという発想力も見事です。前期のみ展示です。

この作品の完成品をぜひ見てみたいものと感じましたが、下絵や写生作品を多数所有する河鍋暁斎記念美術館によると、大部分は完成品の存在が確認できていないようです。河鍋暁斎記念美術館は、暁斎のひ孫が運営しており、暁斎作品の情報を集めています。世界のどこかで少なからず、暁斎作品は眠っているのでしょう。

河鍋暁斎記念美術館蔵「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」の、化け猫がダンスをしているような描写からも鋭い観察力がうかがえます。猫の表情は怖いですが、手や体のくねり方はとてもナチュラルです。前期のみ展示です。


「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」を看板オブジェに採用

第3章は「民衆の力」です。暁斎が生きた時代を最も如実に表す、政治や社会の風刺画を中心とした作品で構成されます。

河鍋暁斎記念美術館蔵「風流蛙大合戦之図」は1864(元治元)年の錦絵です。カエルに戦をさせていますが、陣に貼られている幕の家紋から、幕府が長州藩を攻めていることがわかります。「よくこんな絵を江戸で描いたな」と思えるほど、きわめて”危ない”絵です。カエルの描写は、平安時代の鳥獣戯画のように観る者の心をつかんで離しません。前期のみ展示です。

明治になってからの作品も、東京の名所図会から動物の戯画まで、大衆にうける作品を作り続けた暁斎のマーケティング能力の高さを感じさせます。激動の時代と向き合って生きた人たちの心を、とても元気にしたような気がします。

最後の第4章は「身体・精神をつむぐ幕末明治」です。美人画から地獄絵まで、暁斎の多様な才能が最も発揮された明治になってからの作品で構成されます。

暁斎はウィーン万博に出展するなど、明治になると急速に内外で評価を高めていきます。辰野金吾の師のお雇い外国人建築家・コンドルとも懇意になり、コンドルは弟子として暁斎に入門したほどです。

ドイツのお雇い外国人医師・ベルツが本国に持ち帰った作品からも、名品が登場しています。ビーティヒハイム・ビッシンゲン市立博物館蔵「夫婦喧嘩は犬も喰わぬ」は、夫婦喧嘩で奥方にボコボコにされる旦那たちの叫び声をコミカルに描いています。北斎漫画のようにとてもリズミカルです。通期展示されます。

京都府蔵「処刑場跡猫絵羽織」は、磔にされ血みどろで息絶えた死刑囚を羽織の背中に描いた作品です。暁斎の表現力もさることながら、この羽織を注文した主がどんな人物か知りたくなります。前期のみ展示です。


六甲山の眺望は目を休ませる(ミュージアムロードからの眺め)

暁斎は、狩野派の狩野芳崖や橋本雅邦、洋画の高橋由一、錦絵の月岡芳年とほぼ同世代です。彼らの画風はおおむね一貫しているのに対し、暁斎の多彩ぶりは際立っています。

暁斎はもし30年早く生まれていれば、歌川広重や鈴木其一と同世代になります。逆にあと30年遅く生まれていれば、黒田清輝や竹内栖鳳と同世代になります。こんな仮定をしたらキリがないですが、明治維新を避けて活躍できていれば、もっと歴史に名をのこす絵師になっていたと確信するようになりました。

そんな暁斎の実力を存分に伝える展覧会です。暁斎は”鬼才”ではなく”天才”です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



別冊太陽って、どれを見ても面白い

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<神戸市中央区>
兵庫県立美術館
特別展
没後130年 河鍋暁斎
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:兵庫県立美術館、毎日新聞社、朝日放送テレビ、神戸新聞社
会場:展示棟3F 企画展示室
会期:2019年4月6日(土)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※4/29までの前期展示、4/30以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「岩屋」駅下車、徒歩8分
JR神戸線「灘」駅下車、南口から徒歩12分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR大阪駅(阪神梅田駅)→阪神電車→岩屋駅

【公式サイトのアクセス案内】

※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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呉春と四条派の名品が西宮に集結_大谷記念美術館 5/12まで

2019年04月22日 | 美術館・展覧会

西宮にある大谷記念美術館で、江戸時代半ばの京都の絵師・呉春(ごしゅん)と弟子たちの作品を紹介する展覧会「四条派への道」が行われています。現代まで続く京都画壇の主流となった四条派の影響力の大きさがよくわかるよう構成されています。

  • 師の円山応挙以上に人気を集めた呉春、文人画から写生画に傾倒していく流れがよくわかる
  • 京都のみならず大阪にも広がった呉春の弟子たちの作品も素晴らしい


現在の江戸時代後半の京都画壇の絵師の人気は応挙と若冲が図抜けていますが、呉春もやはり見逃せないことに気付かされます。呉春は絵の腕だけではなく、人柄もとても好かれていたのです。


この美術館は庭でも癒される

西宮市大谷記念美術館の館名に冠されている「大谷さん」が、コレクションと邸宅を寄贈した実業家であることは知っていました。何を思ったのかその「大谷さん」について調べてみると、すごい系譜の人物であることがわかりました。

調べてみる気になったのは「大谷さん」の名前は竹次郎(たけじろう)で、松竹の創業者ではないか、と思ったためです。同姓同名の全くの別人で、炭素製品大手の昭和電極(現:SECカーボン)を戦前に創業した人物でした。驚きの系譜というのは、竹次郎の兄・米太郎(よねたろう)がホテルニューオータニを創業するなど、昭和の有数の実業家だったことです。

米太郎は現在の合同製鉄の前身企業を創業して鉄鋼王と呼ばれ、戦後には五反田のTOCビルも傘下に収めます。現在も大谷家は浅草ROXや大崎ニューシティといった著名ビルのオーナーです。

超一等地の紀尾井町のホテルニューオータニの土地は、建設計画前から米太郎が所有しており、富豪ぶりがうかがえます。帝国ホテル/ホテルオークラと並んで御三家の一角に数えられたのも、永野重雄など政財界の有力者との関係が密接だったからこそ成し遂げられたものです。

竹次郎は米太郎の事業にも多く関わっていました。現在の大谷記念美術館は竹次郎の邸宅の跡地で、阪神間有数の豪邸であったことがうかがえます。大谷記念美術館のコレクション展を見ると、その充実ぶりがしっかりと伝わってきます。



展示はすべての展示室を使って行われているため、1F西側の展示室で通常行われているコレクション展は開催されていません。前半が主に呉春の足跡を追う展示、後半が弟子たちの作品の展示です。

呉春は1752(宝暦2)年に京都で金貨を鋳造する金座(きんざ)の役人の家に生まれました。京都の金座の役人はとても裕福で、尾形光琳のパトロンだった中村内蔵助も同様の役人でした。生まれつき手先が器用で、洗練された振る舞いから社交も上手でした。この出自のよさが後に、呉春の人気を支えることになります。

最初に与謝蕪村に弟子入りし、文人画と俳諧を学びます。若い頃から名の知れた絵師になっていました。妻と父を相次いでなくしたことから、蕪村のパトロンだった大阪の池田の商人の家で2年ほど静養します。蕪村の死の直前に京都に戻り、円山応挙と親しくなります。文人画から写生画に転換し、応挙の死後は瞬く間に京都画壇をリードするようになります。

性格も画風も生真面目だった応挙とは異なり、呉春は様々な芸事にも通じていました。応挙流の美しい写生画にユーモアを加えた画風も、人気の急上昇を後押ししました。弟子も多くなり、皆で四条通周辺に居を構えたことが「四条派」の語源です。応挙流の画風を継いだ一派は、四条派に完全に凌駕されるようになります。四条派は現在まで続いており、竹内栖鳳や堂本印象が受け継いでいます。

【京都国立博物館公式サイトの画像】 呉春「百老図」

京都国立博物館蔵の呉春「百老図」は、前半生の文人画時代の名品です。山肌の豊かな描写の中に、早くも遊び心を感じさせます。

【文化遺産オンラインの画像】 呉春「柳鷺群禽図」

京都国立博物館蔵の呉春「柳鷺群禽図」は、池田時代の作品です。まだ応挙とは出会っていないと考えられていますが、文人画に写実的な表現を加えているように感じられます。呉春の器用さもあるのでしょう。重要文化財にふさわしい傑作です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

「牧馬図」も池田時代の名品です。馬の目の描き方にとてもユーモアがあります。

【文化遺産オンラインの画像】 呉春「大江山鬼賊退治図」

京都国立博物館蔵の呉春「大江山鬼賊退治図」は、応挙死後に京都画壇の中心となった円熟期の作品です。わかりやすい古典の題材をユーモアのある文人画風に描いています。この屏風を主人が客人に見せると、とても話が弾んだであろうと想像できます。

「松鶴図」は晩年の作品で、鶴の描写のリアルさが目を引くのに加え、構図は琳派を思わせるように洗練されています。呉春の人気ぶりがしっかりとうかがえます。

【文化遺産オンラインの画像】 岡本豊彦「苫船図」

弟子たちの作品では、山水図で名を馳せた岡本豊彦(おかもととよひこ)の京都国立博物館蔵「苫船図」が美しく輝いていました。雪の積もった船を描いた描写は、写真のように洗練されています。観る者をぐっと惹きつける力強さも兼ね備えています。

岡本豊彦では大阪市立美術館蔵の「呉春像」も注目です。晩年の師の姿を描いたものですが、とてもかわいいおじいいちゃんに見えます。呉春の朗らかな人柄が伝わってきます。

【京都国立博物館公式サイトの画像】 松村景文「綿・茄子図」

呉春の異母弟の松村景文(まつむらけいぶん)は、岡本豊彦の山水に対し花鳥画で有名です。京都国立博物館蔵「綿・茄子図」は余白の使い方と構図がとても洗練されています。



展示最後の1F西側の展示室では、大阪で活躍した四条派の絵師たちの作品が展示されています。なかなか見る機会がないため、興味深く鑑賞できます。

関西では昨年2018年1月に逸翁美術館で開催された「開館60周年記念展 第五幕 応挙は雪松、呉春は白梅。」以来の本格的な四条派の展覧会です。江戸絵画の豊かな魅力を一層吸収することができます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



東京藝大による最新の分析が”技法”という魅力を明らかにする

________________

<兵庫県西宮市>
西宮市大谷記念美術館
四条派への道 呉春を中心として
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:西宮市大谷記念美術館、毎日新聞社
会期:2019年4月6日(土)〜5月12日(日)
原則休館日:水曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※4/23までの前期展示、4/25以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「香櫨園」駅下車、南口から徒歩8分
JR神戸線「さくら夙川」駅下車、南口から徒歩18分
阪急神戸線「夙川」駅下車、南口から徒歩20分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
大阪駅(梅田駅)→阪神本線・特急→西宮駅→阪神本線・普通→香櫨園駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※道路の狭さ、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

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続き:平安時代の”宇宙”が上野にやってきた_東博「東寺」展 6/2まで

2019年04月21日 | 美術館・展覧会

東京国立博物館の特別展「国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅」の後半をレポートします。空海プロデュースの”宇宙”の魅力に完全にノックアウトされるのは、後半の仏像の展示を見てからにしましょう。

  • 21体の美仏で構成される講堂の立体曼荼羅から15体が上野に集結
  • 普段見られない角度や明るさで仏教美術を鑑賞できる展覧会の利点を堪能できる
  • 普段見慣れていると思っている京都人でも、わざわざ東京まで見に行くと驚嘆する


京都にのこる平安時代の仏教美術は、質量ともに東寺が抜きんでています。1,200年前の空海のDNAが見事に現代に伝わっています。


唯一の写真撮影OKはイケメン帝釈天

展示前半は2Dの絵画作品が中心でしたが、後半はほぼ3Dの仏像の展示です。


展覧会公式 YouTube 動画 「帝釈天 搬出映像」

展覧会の搬出・搬入動画は最近、やみつきになります。主催者の挨拶から始まるような”普通”の動画は、クリックしてもらうにはかなり苦しくなっていると感じます。


東寺・講堂 入口

後半第2会場の展示は平成館2Fの東半分です。仏像のような大きさのある3D展示物ではすっかりおなじみとなった、天井が高く床面積の広い3,4室です。

第2会場の最初に、是非ともというより必ずお会いしてほしい美仏がいらっしゃいます。国宝「兜跋毘沙門天(とばつ びしゃもんてん)」です。兜跋とは西域の兜跋国:現トゥルファンを指し、8c末に中国で造立された仏像と考えられています。日本にはない何ともエキゾチックな表情に目が釘付けになります。平城京の正門・羅城門に安置されていたという記録があることも、この仏像の魅力にさらに箔を付けています。

【展覧会公式サイトの画像】 第4章「曼荼羅の世界」

続いて9cの中国製と考えられる日本にはない表情が魅力の美仏の空間です。東寺の子院・観智院(かんちいん)に伝わる重文の「五大虚空蔵菩薩坐像(ごだいこくうぞうぼさつざぞう)」です。五体がそれぞれ動物の上に鎮座しています。五体はいずれも、同時期の日本の仏像に見られる中性的で妖艶な表情はなく、男性的でとても生真面目に見えます。

この表情は日本に現存する仏像では稀有です。希少感があふれており、京都・山科の安祥寺(あんしょうじ)から南北朝時代に東寺に移されたものです。安祥寺は、平安時代には醍醐寺に匹敵するような大寺院でしたが、その後本格的に再興されることはありませんでした。2019年は京都国立額物館に寄託されていた五智如来坐像が国宝になり、一躍注目を集めています。

安祥寺は、2019年の春の京都非公開文化財特別公開でも初めて、境内と本尊・十一面観音が一般公開されます。「令和」時代のスタートにふさわしい由緒ある寺の公開です。



展示順の最後の巨大な4室は、この展覧会の最大の目玉の立体曼荼羅ワールドです。美仏の殿堂の講堂の立体曼荼羅21体のうち、15体が上野で出開帳します。劣化の心配が少ない仏像であり、通期展示で見事な”宇宙”が味わえます。

15体の美仏の展示配置は、東寺・講堂の実際の配置とは異なりますが、見やすいよう照明が配慮され、すべて360度拝観できるところに展覧会ならではの利点が感じられます。

【展覧会公式サイトの画像】 帝釈天騎象像

東寺・講堂の立体曼荼羅21体の中では、国宝・帝釈天のイケメンが以前から著名です。そんな人気に忖度(そんたく)したのでしょう、帝釈天のみ写真撮影です。この忖度をふまえて観覧者の方々には、写ってしまった第三者の肖像や私的利用公開範囲に配慮した利用を強く望みたいものです。

この帝釈天はお会いするたびに、非日常感を強く感じさせます。イケメンな表情はとても西域っぽく、腕のポーズも一瞬をとらえたようでとても洗練されています。イケメンであると同時に、平安時代初期の最先端の文化を具現化した美術品です。かけがえのない魅力に言葉も出ません。

【展覧会公式サイトの画像】 増長天立像

増長天は、ロボットのような隆々としたボディに無感情な表情の頭がのっかっている姿が目を引きます。四天王によく見られる躍動感よりも、立ち止まった静寂感の表現が見事です。国宝にふさわしい逸品です。

普段見られない背中もぜひご覧ください。くねった背骨のラインが女性的な美しさを醸し出しており、お尻のラインも絶品です。超フェチな視点で仏様にお会いできる稀有な機会を存分に活用しましょう。

【展覧会公式サイトの画像】 降三世明王立像

明王の造形も感動的です。「降三世明王」は、密教的な怪しさ・妖艶さが特に表現されていると感じます。単体でも見事な仏像として語り継がれると思える名品です。これも国宝です。

【博物館公式サイト】「密教彫刻の世界」

本館で特別展と同じ日程で開催されている特集展示「密教彫刻の世界」にも、是非お立ち寄りください。東博の所蔵品から、密教美術の魅力を味わうことができます。


特集展示「密教彫刻の世界」

展覧会は、現地に行かなくとも見られるという価値がもちろんあります。加えて仏像の360度鑑賞に代表されるように、照明がきちんとあてられて見やすく、かつ普段見られない角度から鑑賞できるのも大きな魅力です。

今回の東寺展も、京都の東寺でお会いするのとは異なった表情を、いずれの美仏にも感じることができます。信仰のために安置されたお寺の本来の立ち位置と、信仰の制約がなく鑑賞に利のある展覧会の両場面でお会いすることが、最もその仏様の魅力を吸収することができます。普段見慣れた京都人を始め関西の方も、わざわざ東京にまで見に行く価値は充分にあります。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



この増長天、美しいです。

________________

<東京都台東区>
東京国立博物館
特別展
国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京国立博物館、教王護国寺(東寺)、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:平成館 特別展示室
会期:2019年3月26日(火)~2019年6月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)

※会期を10通りに分割し、一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 詳細は公式サイトでダウンロードできる作品リストPDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<京都市南区>
東寺(教王護国寺)
【公式サイト】 http://toji.or.jp/




◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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平安時代の”宇宙”が上野にやってきた_東博「東寺」展 6/2まで

2019年04月20日 | 美術館・展覧会

空海がプロデュースした仏像ワールドが、京都・東寺からほぼそのまま、東京国立博物館に出開帳(でかいちょう)しています。特別展「国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅」です。2019年に開催される幾多の展覧会の中でも、出展内容のレベルの高さはピカ一です。

  • 空海自筆の書跡など東寺所有の美術品の国宝20点の内17点が出展、密教美術の最高峰を満喫
  • 1,200年続く東寺の最重要儀式の会場を国宝仏画も交えて再現、平安時代の究極の非日常空間。
  • 21体の美仏で構成される講堂の立体曼荼羅から15体が上野に集結
  • 普段見られない角度や明るさで仏教美術を鑑賞できる展覧会の利点を堪能できる


東寺がそっくり上野に移転してきたかのような、日本最高峰の密教美術の展示が実現しています。平安京の一番のお寺の収蔵品はやはり別格であり、何よりそれらが今まで伝えられてきたことも格別です。



東博は近年、毎年1~2回の特別展で関西を中心にした著名寺社の文化財を公開する特別展が恒例になっています。東寺をメインテーマにした特別展は、2011年夏の「空海と密教美術」以来、8年ぶりになります。東寺は京都の著名寺社の中でも、文化財の公開に積極的です。


展覧会公式
YouTube 動画 「増長天 搬出映像」

近年の展覧会のPRには動画が使われることがすっかり普通になりましたが、展覧会の概要を俯瞰的に紹介するだけでなく、「展示品の搬出/搬入」に焦点をあてた動画も目立つようになりました。

平面でさほど画面も大きくない日本画の展覧会ではどうしても作業が地味になりますが、仏像などそれなりの大きさのある今回のような展覧会では、結構”萌え”ます。搬出/搬入作業は、普通の家庭の引っ越しの何百倍も丁寧に映ります。動画の主役は、イケメン帝釈天にとは対照的に、人造ロボットのような表情が観る者をとらえて離さない増長天です。

美術展は観覧者が見えないところでとてもコストがかかっています。一般的な特別展の観覧料\1,500前後の価値をかみしめながら展示品を見ると、お披露目されている美術品自身がとても喜ぶでしょう。



会場は平成館の2F東西両方の展示室を使用しています。西側の1,2室が第1会場で、仏画/法具/書跡を中心に東寺と真言密教の足跡を伝える展示です。東側の3,4室が第2会場で、仏像を中心とした立体曼荼羅ワールドの展示です。

仏像や工芸品以外の仏教美術は長期展示に耐えられないため、今回の展示ではおおむね一週間単位で、都合10回もの展示替えが行われます。特にお目当ての作品は、公式サイトでダウンロードできる作品リストPDFで展示期間をあらかじめ確認されることをおすすめします。

【展覧会公式サイトの画像】 第1章「空海と後七日御修法」

展示室は、始まりからとても荘厳な空気に包まれています。最初に「弘法大師像」が観る者を出迎えます。

現在知られる弘法大師・空海の肖像は、空海存命中に弟子・真如親王が描いたとされる画像を模写したものがほとんどです。空海は高僧の中でも最も神格化されており、その肖像は若々しくきわめて聡明に描写されています。展示品は鎌倉~南北朝時代の作品ですが、そうした神格化されたがゆえに突っ込みどころがない美しい姿を明瞭に伝えています。展示替えがあります。

続いて「御請来目録(ごしょうらいもくろく)」「風信帖(ふうしんちょう)」が、ひっそりと展示されています。驚くなかれ、日本の歴史を伝える書の不朽の名品です。もちろん国宝です。

御請来目録は、唐への留学から帰国した空海が持ち帰った品を朝廷に報告するリストで、最澄の自筆です。展示は4/21までです。風信帖は、最澄宛の空海自筆の手紙です。空海の流れるような格調の高い書体が何とも言えず美しさを感じさせます。5/19までの展示です。


皇室との特別なゆかりを今に伝える美しい意匠

続いて、東寺に限らず真言宗全体として最も重要な儀式・後七日御修法(ごしちにちみしほ)の会場を再現した、真言密教の宇宙のような空間に足を進めます。後七日御修法は空海の死の直前に始められ、国家や天皇の安泰を祈る年明けに催される儀式です。明治まで永らく宮中で行われており、日本最高峰の宗教儀式と言えます。

金剛盤や五鈷鈴といった法具は、空海が唐より持ち帰ったものです。祭壇を取り囲む五大尊像(ごだいそんぞう)は五体の明王を表したもので、後七日御修法の本尊です。平安時代末期の作品ですが彩色がよく残っており、明王の醸し出す怪しさに洗脳されてしまいそうです。入れ替えながら展示されますが、非展示期間はレプリカが展示されます。空間の趣はしっかりとつかむことができます。これらもすべて国宝です。

【展覧会公式サイトの画像】 第2章「真言密教の至宝」

後七日御修法の再現空間では、両界曼荼羅(りょうかいまんだら)が、さらにこの展覧会の神秘性を増しています。東寺が所蔵する3通りが入れ替えながら展示されます。4/21までの展示は「甲本」と呼ばれ、平安末期の1191(建久2)年に制作された重文です。空海が持ち帰った原本を忠実に模写したと考えられている神護寺の国宝・高尾曼荼羅とかなり構成が合致します。こちらも原本の模写と考えられています。

空海の持ち帰った原本は現存しないため、東寺に伝わる最古の両界曼荼羅は国宝の「西院本」です。西院とは現存する御影堂のある区画のことです。この西院で使用されてきたものと考えられています。永らく存在が忘れられており、1934(昭和9)年になって蔵から発見されました。

後七日御修法で永らく使用されてきた甲本は損傷が激しいのに対し、西院本は保存状態が良いことが何といっても注目されます。そのため日本で最も著名な曼荼羅図の一つになっています。

展示は4/23~5/6です。私は2015年の東寺での特別展で見たことがありますが、あらためて図録で見ても、彩色の美しさは感動的でもあります。甲本より二回りほどサイズは小さいのですが、美しさが甲本を上回る存在感を示しています。

5/8以降は、後七日御修法に現役で使われている「元禄本」が展示されます。その名の通り制作は新しく、最も正確に曼荼羅ワールドの様子を確認することができます。

【京都国立博物館公式サイトの画像】 山水屏風

仏教美術には全く見えない屏風が、会場の一角で輝きを放っています。京都国立博物館蔵の国宝「山水屏風(せんずいびょうぶ)」です。真言密教で仏弟子になる儀式の際に用いられた屏風で、いつしか平安貴族の邸宅にあった屏風が転用されたと考えられています。

平安時代半ばの作品で、日本で仏画以外の絵画がのこされるようになった最初期の作品です。世界でほとんど現存しない唐代の絵画を彷彿とさせる描写がなされており、平安絵巻とは対照的に、とても描写は柔和です。文化的歴史的価値がはかりしれない傑作です。4/21までの展示です。4/23以降は東寺蔵の国宝「十二天屏風」が展示されます。

【展覧会公式サイトの画像】 第3章「東寺の信仰と歴史」

国宝「女神坐像」は東寺の南大門にある鎮守八幡宮の八幡三伸の一つで、日本最古級の神像です。とても包容力のある肝っ玉母さんのような造形が印象的です。女神に従う国宝「武内宿禰(たけのうちのすくね)坐像」は上半身裸です。一目で僕(しもべ)とわかる造形が見事です。古代エジプトの僕の彫像を思わせる神秘的な趣が魅力です。

南北朝時代にまとめられた東寺の歴史書「東宝記」も、東寺の積み重ねてきた歴史の奥深さを物語っています。図示も含めて丁寧に記録されており、世界的にも稀有な歴史史料が現存する国・日本を象徴する逸品です。


東寺・講堂

あまりに名品が多すぎて、とても紹介しきれません。熱中すれば展覧会場を全部見るのに一日かかるでしょう。展覧会後半のレポートは次回ということで、ご容赦ください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



東寺立体曼荼羅の魅力を他の平安仏と比較できる

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<東京都台東区>
東京国立博物館
特別展
国宝 東寺 ―空海と仏像曼荼羅
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京国立博物館、教王護国寺(東寺)、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:平成館 特別展示室
会期:2019年3月26日(火)~2019年6月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~20:30)

※会期を10通りに分割し、一部展示作品/場面が入れ替えされます。
 詳細は公式サイトでダウンロードできる作品リストPDFでご確認ください。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<京都市南区>
東寺(教王護国寺)
【公式サイト】 http://toji.or.jp/




◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩10分
JR山手・京浜東北線「鶯谷駅」下車、南口から徒歩10分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩15分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩15分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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後期も高山寺の国宝が続々_大阪 中之島香雪美術館「明恵」展 5/6まで

2019年04月19日 | 美術館・展覧会

さりげなく鳥獣戯画が展示されている大阪・中之島香雪美術館の「明恵(みょうえ)の夢と高山寺」展が、後期展示に切り替わりました。

  • 後期の目玉は国宝の明恵上人像と仏眼仏母像、高山寺所蔵品で驚くのは鳥獣戯画だけではない
  • 鳥獣戯画の後期は丙丁巻、人間が戯れる描写が中心で。鳥獣以上にアニメの原点を感じさせる


高山寺は神護寺と並んで京都西北の山中にあり、日本有数の質の高い文化財を所蔵する寺です。神護寺は毎年5月に虫干しで所蔵文化財が定期公開されますが、高山寺はそのような定期公開は行っていません。鳥獣戯画を含め、高山寺所蔵品がこれだけまとまって見られる次の機会は、数年以上先になることはほぼ確実です。



混雑を避けるべく平日の午後に時間を捻出して訪れましたが、行列はゼロ。前期の訪問の時と同じく拍子抜けしました。展覧会のタイトルに「鳥獣戯画」の4文字が含まれていないだけで、前回公開された京都・東京・九州の各国立博物館の数時間待ちの大行列とはこれだけ違うのかと痛感します。

タイトルの付け方で人の入りが全然違ってくることは、ビジネスではもはや常識ですが、タイトルだけで瞬時に価値を判断されてしまうネット時代の怖さのようなものも感じます。一方で人が少ないと、いかに快適に鑑賞できるかという価値も同時に痛感します。

私は、主催者があえて「鳥獣戯画」をタイトルに入れなかった、と推測しています。人の入りは少なくなりますが、快適な鑑賞環境の提供と観客の体熱の作品への影響を考えると、正しいやり方だったと感じています。

昨年秋の上野のフェルメール展でも、完全時間指定制で行われ、とてもスムースだったと聞いています。世界的に人気スポットに観光客があふれかえるオーバー・ツーリズムが深刻です。日本の文化財の展示施設も、時間指定制による混雑緩和を積極的に進める必要性が高いと感じます。



【高山寺公式サイト】ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

後期の展示のトップバッターは、高山寺の至宝の一つ・国宝「明恵上人樹上坐禅像(みょうえしょういんじゅじょうざぜんぞう)」です。高山寺の実質的な開基である明恵が、二股に分かれた木の枝に坐禅しています。

空中に浮いているようにも見え、軽妙ながらもどこか神秘的です。ストイックなまでに修行に打ち込んでいた明恵の人となりを象徴するかのように、森の中がとても居心地が良いと感じさせる表情の描写が印象的です。明恵の弟子の画僧・成忍(じょうにん)が描いたと伝わっています。

続いてもう一つの目玉、明恵の念持仏だった国宝「仏眼仏母像(ぶつげんぶつもぞう)」の、女性を象徴する白い肌の描写が目に飛び込んできます。明恵はこの像を母と慕って、祈り続けたと伝わっています。表情や視線は、吉祥天のようにふくよかではなく、むしろシャープに観る者を見つめています。きわめて洗練された仏画の傑作です。画中に明恵の自賛があり、明恵が生きていた時代の作品と考えられています。

仏眼仏母像の他にも、仏画の名品が目立ちます。村山コレクション「一字金輪像」は、暗い宇宙空間の中に白い肌の一字金輪が輝いて浮かんでいるような描写です。仏眼仏母と同じく白い肌が神秘性を増しています。


高山寺の国宝・石水院(撮影は台風被害の前)

通期展示の重文の高山寺蔵「神鹿(しんろく)」を再び見ました。高山寺のアイドル「子犬」と並んで、こちらの愛嬌もほっこりさせてくれます。雄雌のペアで春日明神の使いを木像に表現したとても珍しい作品です。

【高山寺公式サイトの画像】鳥獣人物戯画

鳥獣戯画の後期展示は丙丁巻です、大半は人間が戯れる様子が描かれており、鳥獣が戯れる様子を描いた最も有名な甲巻とは趣が異なります。丙巻は描写がかなり精密ですが、丁巻は対照的にラフに見えます。いずれも口からの吹き出しにセリフを書き込めば、現代のアニメとしてすぐに通用しそうに思えてきます。

主なモチーフは囲碁・賭け事・曲芸で、それぞれマジで勝負している空気感が伝わってきます。擬人化された蛙や兎ではなく、人間をアニメ風に描いても観る者を充分に楽しませることができる丙丁巻も傑作です。中世の絵師たちがこのように描いて楽しんでいたとしたら、アニメの原点の制作者としてノーベル賞の授与を嘆願したくなります。

これだけの素晴らしい文化財を今に伝える高山寺も、昨年2018年9月に関西空港を閉鎖に追い込んだ台風の風で甚大な被害を受けています。国宝の石水院は無事でしたが、金堂には木が倒れ掛かり大きく損傷しています。展示会場内では修復のための寄付が呼びかけられていました。早急な復旧を願ってやみません。



このレポートでは「行列ゼロ」とお伝えしましたが、さすがに週末やゴールデンウィークの10連休はそんなわけにはいかないと思われます。10連休の最終日が、展覧会の最終日です。4/20(土)にはテレビ東京系列「新美の巨人たち」で鳥獣戯画とこの展覧会の様子が放映されます。4/21(日)と10連休は避けて訪問されることを強くおすすめします。やむをえない場合は午後の遅い時間に。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



御朱印帖のデザインに鳥獣戯画はよく合う

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中之島香雪美術館
特別展「明恵の夢と高山寺」朝日新聞創刊140周年記念
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、高山寺、朝日新聞社
会期:2019年3月21日(木)〜5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※4/14までの前期展示、4/16以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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文明の十字路「トルコ至宝」にうっとり_六本木 新美 5/20まで

2019年04月18日 | 美術館・展覧会

東京・六本木・国立新美術館で開催されている「トルコ至宝展」を見てきました。オスマン帝国は500年にもわたって文明の十字路を中心に広大な領地を支配してきました。ヨーロッパとアジアの”いいとこ取り”をしたようなとても美しい文化財が、イスタンブールから大挙来てくれています。

  • 金細工と宝石の大きさには驚愕、版図が大きい帝国でないとできない世界最高峰の宝飾芸術
  • イスラム的な幾何学模様やチューリップをあしらったデザインは、文明の十字路の賜


展覧会場は、オスマン帝国の皇帝の居城・トプカプ宮殿の内部を模して造営されています。そんな演出に展示品はどれも輝いています。


トプカプ宮殿の遠景

今回の展覧会のほとんどはトルコ・イスタンブールにあるトプカプ宮殿の所蔵品です。1453年にオスマン帝国7代皇帝・メフメト2世がコンスタンチノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅亡させます。その直後から皇帝の居城として建造が始まったのが現在のトプカプ宮殿です。

宮殿名の日本語カナ表記は「トプカピ」が永らく用いられてきましたが、近年はトルコ語の発音に合わせて「トプカプ」と表記・発音するようになっています。

 【Wikipedia オスマン帝国】 オスマン帝国の勢力図


トプカプ宮殿は、オスマン帝国が全盛期を迎えた16cに最も華やかな時代を迎えます。帝国の版図は地中海の東半分と黒海/紅海におよびます。神聖ローマ帝国の首都・ウィーンがオスマン軍によって包囲され、ヨーロッパ中がイスラムの脅威に震え上がります。ポルトガル/スペインが大航海時代を幕開けたのは、オスマン帝国を避けてアジアから直接胡椒を買い付けようとしたためです。

トプカプ宮殿はその後19c半ばまで皇帝の居城として使用され、トルコ革命でオスマン帝国が滅亡した後は、共和国政府によって1924年から博物館として一般公開されています。都市名としてイスタンブールが使われるようになったのも、このトルコ革命以降です。


展覧会場の入口

イスタンブールは1453年のコンスタンチノープル陥落以降、20cの二度の世界大戦を含め一度も戦災にあっていない、世界的にも稀有な都市です。日本では1477年に終結した応仁の乱以降、戦災を免れている京都とほぼ同じ期間の長さです。木造建築の京都はその後幾度も大火の憂き目にあっています。トプカプ宮殿に驚愕の至宝がのこされているのは、石造りで戦災を免れたことが何といっても大きいのです。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

展示は、皇帝の権力を象徴する品々から始まります。「玉座」と呼ぶにふさわしい、貴賓を醸し出す椅子が最初に目につきます。

「スルタン・マフムート2世の玉座」です。背もたれの上に、仏像の光背のように据えられた金細工のオスマン帝国の国章が、この玉座に座って謁見する皇帝を輝かせています。19c初頭にフランスで造られたもので、深い紅色のベルベットのデザインはとてもフランス的です。遠い異国との交流を見せつける逸品です。

歴代皇帝の花押(かおう)にも目を引かれます。花押とは署名のことで、日本の権力者にもよく見られます。日本のものとは異なり、文字がとても複雑です。色紙へのサインの如く、流れるように書ける文字とは到底思えません。半面、偽造が困難であり、権威づけにはふさわしい紋様に見えます。多民族を支配したオスマン皇帝ならではの、究極に神格化されたデザインです。


トプカプ宮殿のハレム

金額査定できないと思えるほど、度肝を抜かれるような大きさのエメラルドやルビーが散りばめられた様々な宝飾品も、オスマン美術を象徴しています。宝石を彩った宝飾品の中で、豪華さと気品のバランスが表現されたものはオスマン美術が世界でも随一と感じます。この展覧会のための保険金が、目の玉が飛び出るような額であることは容易に想像できます。

オスマン皇帝の権威の象徴としては、「カフタン」と呼ばれる皇帝の衣装に加え、「水筒」にオスマン帝国らしさを感じます。カフタンは中国の清朝皇帝が着用した礼服との共通点を感じます。トルコにはアジアの血が流れていることを示すデザインです。

水筒は、アジア内陸の遊牧民族になくてはならなかった水の確保を象徴します。前面に宝石と金細工が散りばめられており、とても”水筒”には見えません。遊牧民族に権威を見せつけるには、かえってわかりやすいデザインだったのでしょう。


イスタンブールのグラン・バザール

この展覧会では「チューリップ」がもう一つのキーワードになっています。

チューリップは歴史的には17cオランダのバブル経済の象徴となったことが知られています。そもそも原産はトルコと中近東です。貿易を通じオランダで脚光を浴びた後、故郷のオスマン帝国で18c前半にもてはやされるようになります。オスマン帝国が最盛期を過ぎ、領土が縮小し始めたアフメト3世の治世で、一時の平和な時代を迎えた「チューリップ時代」です。

国力が曲がり角を迎えた後に、文化が繁栄するのは古今東西よくあることです。この展覧会でもチューリップ時代の名品が数多く出展されています。

色とりどりのチューリップ用花瓶は、饅頭型の底から細長い首が伸びる典型的なアラブビアン・ナイトを思わせるデザインです。ヨーロッパから逆輸入されたチューリップと、伝統的なアラブ文化が融合した素晴らしい造形です。

イスタンブールは数年前に訪れたことがあります。とても活気のある町並の中に、きちんと過去の遺産がのこされている印象を持ちました。この展覧会で以前に訪れた光景を思い出し、感慨をあらためた思いです。

展覧会では、明治期に日本からもたらされた数々の日本美術も登場します。その背景には両国の深い友情の絆があります。6月から始まる巡回先・京都展で絆の話をお伝えしたいと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



中世ヨーロッパを震え上がらせた国の全貌

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<東京都港区>
国立新美術館
トルコ文化年2019
トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立新美術館、トルコ共和国大使館、日本経済新聞社、TBS、BS-TBS
会場:企画展示室2E
会期:2019年3月20日(水)~5月20日(月)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年6月から京都国立近代美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示はありません。

<トルコ共和国イスタンブール市>
トプカプ宮殿
【公式サイト】https://topkapisarayi.gov.tr/en(英語)



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ・千代田線「乃木坂」駅下車、6番出口から徒歩2分(美術館直結)
都営・大江戸線「六本木」駅下車、7番出口から徒歩5分
東京メトロ・日比谷線「六本木」駅下車、4a番出口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→国会議事堂前駅→東京メトロ千代田線→乃木坂駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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時宗寺院には驚きの名品がたくさん_京博「一遍聖絵」展 6/9まで

2019年04月17日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で「一遍聖絵と時宗の名宝」展が始まっています。浄土教の一派・時宗(じしゅう)の開祖で、中世に踊り念仏で全国を行脚した一遍の生涯を描いた国宝「一遍聖絵(いっぺんひじりえ)」が、何といっても注目です。

  • 一遍聖絵は全国行脚を描写、中世の名所図会としても保存状態の良い美しい描写が今に伝わる
  • 快慶の一番弟子・行快作の新発見「阿弥陀如来立像」は、鎌倉リアリズムの銘品
  • 「二河百道図」など知られざる仏画など、時宗寺院が持つ驚きの名品が目白押し


京都国立博物館では珍しい、仏教美術に主眼をおいた展覧会です。仏教美術の展示では一目置かれる奈良国立博物館ではなく、時宗の縁の深い京都で開催されます。展覧会場はいつもの京博以上に、荘厳な空気に包まれていました。


見てみたくなる展覧会のポスター

一遍は鎌倉時代半ばの1239(延応元)年、現在の松山市の道後温泉付近で豪族の子として生まれました。幼い頃に出家し、大宰府で浄土宗を学んだ後、1274(文永11)年から始めた布教行脚の様子をまとめたのが国宝・一遍聖絵です。時宗総本山・清浄光寺(しょうじょうこうじ)の所蔵です。

時宗では、僧が布教のため行脚することを遊行(ゆぎょう)と呼んで、とても大切にしています。総本山も正式名称ではなく「遊行寺」と呼ばれることが多くなっています。また遊行しながら「南無阿弥陀仏」と書かれた札を信仰の有無にかかわらず配り続けます。札の配布を賦算(ふさん)と呼んで、こちらもとても大切にしています。

【展覧会公式サイトの画像】 一遍聖絵 巻十一(部分、淡路国二宮)前期展示場面
【展覧会公式サイトの画像】 一遍聖絵 巻十(部分、安芸国厳島神社)前期展示場面

16年に及んだ一遍の遊行は、九州から東北まで全国に渡っています。出発当初は同行する弟子は4人だけでしたが、一遍の教えに感化され同行者は増えていきます。踊り念仏を始めるようになると、男女合わせて数十人規模にまで膨らみ、時衆(じしゅう)と呼ばれるようになります。

時宗と表記するようになったのは、江戸時代初めのことです。幕府の宗教政策で、各地に分散していた時衆のグループを現在の総本山・遊行寺の下に束ね、宗派としての体裁を整えて以降のことです。

一遍聖絵は、一編の死の十年後に、遊行に同行していた弟子・聖戒(しょうかい)が詩書を書き、画僧・円伊が絵を描きました。記憶が新しい内に描かれており、死後かなり時間が経って描かれる一般的な高僧伝の絵巻よりも想像部分がかなり少ないと考えられます。また各地の風景が写実的に描かれており、名所図会としてもすぐれた作品です。

京都で踊り念仏がみやこびとを熱狂させている様子や、信者に看取られて一遍が息を引き取るシーンはとてもリアルです。保存状態の良さがさらに描写を魅力的に見せています。一遍聖絵は全12巻を前後期に分けて半分ずつ展示されます。原本が展示されない期間の巻は、明治時代の写本が展示されますので、会期中を通じて大半の場面を確認することができます。平成知新館2Fのほとんどの展示室が一遍聖絵で埋め尽くされます。



一遍は宗派を立ち上げる気は持たなかったこともあり、一遍の死後に時衆は自然消滅します。現在の時宗(じしゅう)につながる集団は、弟子の真教(しんきょう)が再び遊行を始めた際の集団が原点です。時宗は一遍を宗祖、真教を二祖と呼んで、並んであがめています。

【展覧会公式サイトの画像】 大和文華館蔵 遊行上人縁起絵断簡 前期展示場面

真教に関する作品も見応えがあります。「遊行上人縁起絵」は、一遍と真教二人の遊行をまとめて描いたものです。原本は失われていますが、金台寺本や真光寺本など優れた摸本が出展されています。こちらの作品も写実的なものが多く、降り念仏の様子が生き生きと伝わってきます。



この展覧会は、二祖真教上人の700年忌を記念したものでもあり、全国の時宗寺院を中心に名品が集結しています。一遍は踊り念仏を始めるにあたって空也(くうや)に倣ったと言われています。清浄光寺に伝わる「空也上人立像」が出展されており、口から念仏が飛び出すデザインで有名な京都・六波羅蜜寺の空也像と非常によく似ています。

【展覧会公式サイトの画像】 萬福寺蔵「二河白道図」前期のみ展示

島根県益田市の雪舟の庭で知られる萬福寺蔵の重文「二河白道図」は人々が欲に惑わされず浄土に導かれる様子を描いた作品です。黒い背景に阿弥陀が黄金色に輝いている描写が神秘的です。

【展覧会公式サイトの画像】 蓮台寺蔵「真教上人坐像」

蓮台寺蔵の重文「真教上人坐像」は真教存命時に製作されたもので、意志の強さを感じさせる迫力があります。

快慶の高弟・行快の阿弥陀如来の名品も二体、出展されています。京都・聞名寺蔵は今回の展覧会のための調査による新発見作品、滋賀・阿弥陀寺蔵は重文です。いずれも快慶の洗練された作風に安定感が加わったような行快の美しい造形が確認できます。


2019秋の京博はバラバラになった佐竹本が大集結

時宗は、現在の仏教宗派としては小規模で著名寺院も多くないことから、国宝「一遍聖絵」以外にも優れた文化財がたくさん伝わっているイメージはあまり持っていませんでした。この展覧会を観るとそうした”偏見”は一変します。普段非公開なものが多いだけで、見事な名品が揃っています。

展覧会最終版の5/28以降は国宝の洛中洛外図屏風(舟木本)が登場します。京都で栄えた時宗寺院・新善光寺が描かれています。こちらも注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



三人の開祖を理解すると日本史上の浄土教の影響力がわかる

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<京都市東山区>
京都国立博物館
特別展
時宗二祖上人七百年御遠忌記念
国宝 一遍聖絵と時宗の名宝
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立博物館、朝日新聞社、時宗、時宗総本山清浄光寺(遊行寺)
会場:平成知新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<神奈川県藤沢市>
遊行寺(正式名称:清浄光寺)
【公式サイト】 http://www.jishu.or.jp/



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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日本最高峰の蒐集が今だけフル公開_奈良博「藤田美術館展」6/9まで

2019年04月16日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館で、「藤田美術館展」が始まっています。大阪の藤田美術館は、明治の実業家によるコレクションを受け継ぐ美術館として、静嘉堂/根津と並んで日本で三本の指に入ります。「国宝の殿堂」というサブタイトルは、所蔵品の全貌を紹介する圧巻の展示にふさわしいネーミングです。

  • 藤田は”あの”曜変天目を所蔵する館の一つ、休日を中心に鑑賞待ちの行列は必至
  • リニューアル休館中に開催、これだけまとまって所蔵品を鑑賞できる機会は今後まずない
  • 仏教美術を中心に所蔵する国宝9点がすべて登場、曜変を見た後にさらに目から鱗が落ちる
  • コレクションが散逸せずにのこった価値を強く感じさせる展覧会、集結は偉大なり


コレクションを築いた藤田傳三郎(ふじたでんざぶろう)は、明治の仏教美術の海外流出を深く憂いていました。今回の展覧会が東京/京都ではなく、仏教美術の”殿堂”である奈良国立博物館で行われることに、深い感慨を感じます。



藤田傳三郎は、明治初期に政商として巨万の富を築き、鉱業を中心に様々な業種の企業を立ち上げた近代有数の名経営者です。この時期の名経営者のほとんどは美術品の蒐集に熱心な数寄者でした。その中でも傳三郎は、益田孝/原富太郎と並んで明治の実業界の三大数寄者の一人としてその名を轟かせています。

傳三郎の長男・平太郎(へいたろう)と次男・徳次郎(とくじろう)も美術品の蒐集を続けます。昭和初期の金融恐慌や終戦直後の財産税課税による蒐集品散逸の危機を乗り越え、1954(昭和29)年に美術館として開館します。明治の実業家系コレクションで、蒐集品をほとんど散逸せず現存しているのは他に、静嘉堂と根津だけです。


リニューアル工事前の藤田美術館の蔵

藤田美術館は、桜の通り抜けで有名な造幣局の対岸の広大な敷地にあった、旧藤田邸の蔵を展示棟として用いました。この蔵は第二次大戦末期の空襲で屋敷がほぼ全焼した中、奇跡的に焼け残ったものです。藤田財閥は1944(昭和19)年に倒産しており、美術品を疎開させることはできませんでした。そんな過酷な環境の中で生き残った至宝は、かけがえのない美しさを今に見事に伝えてくれています。

蔵は明治末期の旧藤田邸建設の頃に建てられたものです。美術品の展示室としては空調管理などの面で十分でなく、永らく春秋の季節の良い時だけに開館が限られる状態が続いていました。蔵の老朽化は限界に達し、2017年6月から建て替え工事のため休館します。再開は2022年4月の予定です。


地蔵菩薩がガイドしてくれるわけではありません

展示は、文化財としての種類ごとに構成されています。最初は茶道具と墨蹟、茶の湯美術から始まります。

【展覧会公式サイトの画像】 「交趾大亀香合」

トップバッターは重文「交趾大亀香合(こうちおおがめこうごう)」です。香合とは茶室で焚く香を入れる容器です。傳三郎が生涯求め続け、死の直前にようやく入手したという藤田家にとっては特別な思い入れのある逸品です。甲羅の赤緑の発色、愛嬌のある亀の頭、きわめて洗練されています。

重文「白縁油滴天目鉢」は、油滴ならではの銀の粒が器の黒い肌に一面に散りばめられた”宇宙”が見事です。私はどこか、曜変より油滴の方に魅力を感じます。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「柴門新月図」

曜変を見る前に茶碗の名品に圧倒されますが、さりげなく展示されている掛軸がオーラを発しています。個人的には藤田美術館所蔵の国宝では一押しの「柴門新月図(さいもんしんげつず)」です。京都・妙心寺退蔵院所蔵の日本最古の水墨画「瓢鮎図」とほぼ同時期、4代将軍・義持の治世の作品です。

室町時代の禅僧に流行した、画面の上部に漢詩が書き込まれる「詩画軸」の最古の作品とも考えられています。雪舟の水墨画の原点となったような深い趣を感じさせます。前期のみ展示です。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「曜変天目茶碗」

曜変天目は単独で展示スペースが設けられており、あらかじめ行列ができることを想定した設営がなされています。光のあて方によって見事に変わる曜変の瑠璃色の輝きを味わえるよう、展示室の照明はかなり控え目です。360度見渡せるようになっていますので、最低限4か所で足を止めて鑑賞することをおすすめします。

どうしてこんなに表情が異なるのか、ブラックホールのような曜変の魅力の不思議さに完璧に洗脳されます。


明治の奈良博の展示室、傳三郎は仏教美術の海外流出を憂いた。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「玄奘三蔵絵」

物語絵も、藤田美術館のコレクションの質の高さを代表します。国宝「玄奘三蔵絵」は、鎌倉時代末期の御所絵所の絵師・高階隆兼(たかしなたかかね)一門の作品と考えられています。

孫悟空で知られ、天竺で仏教を習得した玄奘の生涯の物語です。興福寺大乗院にあったもので、伝来元の確かさは完璧です。保存状態がよく、発色も綺麗にのこっています。中世の絵巻の美しさのポイントとなる、山肌の緑の発色が、この作品の上質さを象徴しています。

重文「駿牛図断簡」は鎌倉時代の作品で、牛の瞳と黒い肌の描写が印象的です。他の断簡作品も確認されており、写実的な牛の描写がいずれも見事です。この時代に流行した人間の”似絵”の手法を、牛にも適用したようなリアルな作品です。前期のみ展示です。

【展覧会公式サイトの画像】 「仏功徳蒔絵経箱」

国宝「仏功徳蒔絵経箱」は、平安時代の法華経の説話を収めた箱です。蒔絵で一般的な金色の細工だけにとどまらず、銀色の細工がとても美しいことが目を引きます。とても神秘的な作品です。


県庁の東側の好立地に観光バスターミナルがオープンした

奈良公園周辺の観光バスによる渋滞を解消するためのターミナルが、4月13日に県庁東にオープンしました。東大寺・奈良博・春日大社・興福寺といった主要観光スポットにいずれも徒歩15分以内で行ける好立地です。観光バスを利用しない個人客でも利用でき、屋上からは奈良公園や若草山の絶景を楽しめます。運営と利用が軌道に乗ることを期待したいと思います。

5/14からの後期展示では、国宝「紫式部日記絵詞」「花蝶蒔絵挾軾」が登場します。2019年春の奈良博は、恒例の秋の正倉院展を上回るほど、注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本のフィランソロピーの歴史をたどる

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<奈良県奈良市>
奈良国立博物館
特別展
国宝の殿堂 藤田美術館展
-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良国立博物館、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKプラネット近畿
会場:東新館・西新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金曜~18:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<大阪市都島区>
藤田美術館
【公式サイト】 http://fujita-museum.or.jp/
※2022年3月までの予定で、リニューアル工事のため休館中です。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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