美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

大和文華館「光琳筆・中村内蔵助像」展 ~館蔵品のレベルの高さがわかる

2018年04月17日 | 美術館・展覧会


なまこ壁が印象的な館のデザイン

奈良の閑静な住宅地にある大和文華館(やまとぶんかかん)で、館が持つ素晴らしい人物画を選りすぐって展示する「中村内蔵助像と人物表現の魅力」が始まりました。

尾形光琳の唯一の肖像画である「中村内蔵助像」、江戸初期風俗画屏風の最高傑作「松浦屏風」、といった館の至宝の絵画が一堂に会します。他所蔵者からの貸し出し品は一切ありません。

所蔵品だけで構成するコレクション展で、これだけの展示ができる大和文華館の質の高さを実感できる展覧会です。


入口から見える館の前庭のアカマツの森は美しい

大和文華館は、日本最大の路線を持つ私鉄である近鉄が、戦後まもなく収集を始めたコレクションを母体に1960(昭和35)年に開館しました。

1946(昭和21)年、近鉄社長・種田虎雄(おいたとらお)は、日本文化の中心地を結ぶ路線にふさわしい美術館を沿線に設けるべく、世界的な美術史学者・矢代幸雄(やしろゆきお)に作品の収集を依頼します。

矢代幸雄は欧米での滞在歴が長く、かの松方コレクションの形成にもかかわっています。日本の美術品を保護・展示する施設や制度が欧米と比べ不十分という認識を抱いていたため、近鉄からのオファーに自らの理想を重ねたのでしょう。

ゼロからの美術品収集には時代環境が大きく影響しました。戦後のGHQによる財閥解体政策で美術品に財産税が課されることになり、納税のために大量の作品が売りに出されていたのです。

種田虎雄や矢代幸雄がこの時代環境をどうとらえていたかはわかりません。しかし通常は売りに出されることがまずない作品が大量に流通するという、収集の絶好のチャンスに恵まれたことだけは事実です。

明治から戦前まで、日本美術の代表的なコレクターとして知られた三溪園の原富太郎と三井財閥の益田孝(鈍翁)のコレクションが、戦後に大量に売りに出されます。大和文華館が持つ多くの国宝・重文には原三溪と益田鈍翁の旧蔵品が少なくありません。

今回展示されている「源氏物語浮舟帖」は原三溪の旧蔵品です。絵巻を墨だけで写した作品ですが、線の弾き方がきわめて精巧です。モノクロだけで源氏物語のリアルな心理を描写した絶品です。

【公式サイトの画像】 源氏物語浮舟帖

【文化遺産オンラインの画像】 中村内蔵助像

展覧会のタイトルにもなっている「中村内蔵助」とは、尾形光琳の親友でパトロンでもあった京都の貨幣鋳造所である「銀座」の役人です。内蔵助が江戸転勤になると、光琳は彼を頼って江戸に下り、新たに多くの江戸の大名家のパトロンを得ています。

男色が珍しくなかった江戸時代で、内蔵助が光琳の愛人だったとする説があるほどです。肖像にみる内蔵助はとても育ちがよさそうな端正な顔立ちをしています。紺地の裃姿もとてもドレッシーです。

現代のファッションモデルのように描いています。確認されている光琳の肖像画はこれが唯一です。唯一が事実なら、他の肖像画の依頼を断っていたのでは?と想像が膨らみます。となると内蔵助はやはり光琳にとって特別な人物?と想像が膨らみます。

「中村内蔵助像」は、それだけ観る者に様々な想像を働かせる魅惑的な肖像画なのです。

【公式サイトの画像】 松浦屏風

「松浦屏風」は、平戸藩松浦家に伝来したためこのように呼ばれます。江戸時代初期の遊里の様子を描いた傑作です。ほぼ等身大に近い大きさがこの絵の特徴です。描かれた遊女や禿をより目立たせるように計算しているのでしょうか。

当時の最新流行の娯楽の場だった遊里を、現代の雑誌のグラビア写真のように、リアルにグロテスクなまでに表現しているように思えてなりません。この作品はきわめて保存状態がよく、発色の美しさも見事に残っています。

彦根屏風と並んで
まさに、江戸初期の風俗画の頂点にたつ銘品です。

この後、菱川師宣の「見返り美人」のように集団でなくピン(一人)の女性を縦長に描く「寛文美人」が流行します。この流行はやがて、浮世絵に発展することになります。「松浦屏風」は、日本絵画に芽生えた風俗画というジャンルを象徴する至高の作品として今に伝わる稀有な例なのです。


この館の前庭は四季の花も楽しめます(ヤマブキ)

館の最寄り駅の近鉄奈良線・学園前駅は関西有数の高級住宅街です。大阪は東京と異なり、平野が小さいことから近い距離に山があり、自然に恵まれた山の裾野や高台に別荘地や高級住宅街ができる傾向があります。奈良盆地の北端の高台に位置する学園前もその代表例です。

東京でいうと上野毛の五島美術館に例えられるでしょう。鉄道会社に起源があり、伝説的な経営者が鳴り物入りで開発した郊外の住宅地に立地し、日本美術を代表するかけがえのない作品を所蔵しています。

いずれも郊外にあり、とても静かな美術館です。ぜひたずねてみてください。

こんなところがあったのか。
日本にも世界にも、唯一無二の「美」はたくさん。



著者は、江戸絵画と言えばこの方である静嘉堂館長


大和文華館
尾形光琳筆「中村内蔵助像」と人物表現の魅力
http://www.kintetsu-g-hd.co.jp/culture/yamato/exhibition/ogatakourinkuranosukezou.html
会期:2018年4月13日(金)~5月20日(日)
原則休館日:月曜日
※この展覧会は、他会場への巡回はありません。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 奈良博「春日大社のすべて」... | トップ | 「朱雀門ひろば」オープン ... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事