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美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

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続き:上野 西洋美術館「松方コレクション展」_松方の夢が実現

2019年07月02日 | 美術館・展覧会

上野・西洋美術館の「松方コレクション」展、レポート後半をお届けします。松方の抱いていた美術館構想を実現したが如く、素晴らしい名品が世界中から集まっています。西美”本気”の美術展です。格別の内容は後半にも続きます。

  • 西美館蔵品はもちろん、散逸した松方幸次郎の蒐集品を世界中から集めた画期的な展覧会
  • ゴッホ「アルルの寝室」、ゴーガン「扇のある静物」など超一級作品もオルセーから里帰り
  • 展示は蒐集の時系列で構成、松方の審美眼の変遷とコレクションの運命がとてもよくわかる
  • 最近発見されたモネ「睡蓮、柳の反映」が修復後初公開、西美の新たな目玉作品に


後半は、コレクションを重ねることで松方の審美眼の脂が乗り切った頃に入手した作品が登場します。現在の西美の基幹を成す作品も多く含まれています。西美の名作の由来もしっかりと学ぶことができます。


展覧会を見る前に紹介映像で予習できる


第5章 パリ1921-1922

1921(大正10)~1922年のパリ滞在時は、美術館開設のために最も本格的に作品を蒐集していた時期です。松方の信用と審美眼も脂にのっていたのでしょう、著名な作品が多く含まれています。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第5章 パリ1921-1922

シャルル・エミール=オーギュスト・カロリュス=デュラン「母と子(フェドー夫人と子供たち)」国立西洋美術館蔵は、西美の常設展でいつも輝きを放っている肖像画の名品です。別バージョンの作品もあり、オルセー美術館が所蔵しています。母と子の衣装の上質感が際立っており、赤と白の花びらが絵の構成を見事に引き締めています。

フィンセント・ファン・ゴッホ「アルルの寝室」オルセー美術館蔵は、今回の展覧会の目玉作品です。松方コレクション返還時にフランス政府が寄贈返還に応じなかった超一級品です。日本で言う「国宝級の作品が国外流出することを恐れた」のだと考えられます。ゴッホらしい黄色の色彩と構図のバランスは完璧です。長辺が74cmの小品ですが、遠くから見ても輝きを放っているように感じます。

ポール・ゴーガン「扇のある静物」オルセー美術館蔵も、フランス政府が寄贈返還に応じなかった超一級品です。こちらも長辺が61cmの小品ですが、「アルルの寝室」と並んで輝きを放っています。ゴーガンらしい大胆な色使いと、扇形のジャポネスク表現がとても上品に調和しています。



前庭のロダン「地獄の門」


第6章 ハンセン・コレクションの獲得

1922(大正11)年にコペンハーゲンの実業家ハンセンから入手した作品が第6章です。ほとんどが日本へ送られたため売却され、現在世界中に散逸しているものを展覧会でかき集めています。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第6章 ハンセン・コレクションの獲得

エドガー・ドガ「マネとマネ夫人像」北九州市立美術館蔵は、マネが夫人の顔の表現を気に入らず、キャンバスを切断したといういわく付の作品です。不思議なことにこの作品、女性が部屋から出る一瞬を構図にしたようにも見え、全く違和感がないのです。みなさんもよ~く見てみてください。いろんな想像が働いてくる神がかり的な作品です。

エドゥアール・マネ「自画像」アーティゾン美術館蔵は、マネが生涯2点しか描かなかった自画像の一つです。黄色のジャケット姿が、パリの小粋な文化人のファッションを伝えてくれます。

クロード・モネ「積みわら」大原美術館蔵は、明るさが際立つ名品です。モネの光のマジックで積み藁のある田園風景を描くと、驚くほど明るく愉快に見えます。

カミーユ・ピサロ「収穫」国立西洋美術館蔵(松方家より寄贈)は、松方が売却しなかった思い入れの深い作品です。パリ郊外のポントワーズの麦畑を描いた作品ですが、麦藁や働く人々の描写がどこか日本の田んぼの風景を思わせます。松方はどのように感じ、この作品を手放さなかったのでしょうか。


第7章 北方への旅

松方が1921(大正10)年にドイツや北欧で収集した作品が第7章です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第7章 北方への旅

ピーテル・ブリューゲル(子)「鳥罠のある冬景色」国立西洋美術館蔵は、松方コレクションでは数少ない北方ルネサンス期の名品で、ブリュッセルの王立美術館が所蔵するブリューゲル(父)の作品の模写と考えられています。フランドルの冬の休日でしょう、スケートなどの氷遊びを楽しむ人々の姿がとても生き生きと描かれています。

エドヴァルド・ムンク「雪の中の労働者たち」個人蔵(西美寄託)は、松方の好みを踏まえるとやや異質な作品です。前衛的な世紀末アートが松方コレクションには少ない中で、当時名声が確立していたムンクの作品を見て松方はどのように感じたのでしょうか。


モネ「睡蓮、柳の反映」推定復元をB2F入口ロビーでデジタル展示


第8章 第二次世界大戦と松方コレクション

第8章は蒐集の順番には寄らず、第二次大戦の数奇な運命に翻弄された作品が紹介されています。松方コレクションの流転を物語るとても見応えのある章です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第8章 第二次世界大戦と松方コレクション

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル「男の頭部(《ホメロス礼讃》のための習作)」ポーラ美術館蔵は、松方コレクションとして確認されているフランス新古典主義の唯一の作品です。なぜ新古典主義作品が少ないかはよくわかっていませんが、この作品はアングル独特のリアリズム表現を感じさせる肖像画としても観ることができる名品です。フランス政府による接収後に売立てに出されました。

アンリ・マティス「長椅子に坐る女」バーゼル美術館蔵は、第二次大戦中にフランスにのこされたコレクションの管理を託されていた日置釘三郎(ひおきこうさぶろう)により、松方の許可を経て管理費捻出のために売却された作品です。マティスがフォービズムに目覚める前、穏やかなニーズの陽光をナチュラルに描いていた頃の名品です。

藤田嗣治「自画像」国立西洋美術館蔵も、まさに時代に翻弄された作品です。1926(大正15)年、エコール・ド・パリの画家として絶頂期を迎えていた頃の作品で、藤田も自信に満ちたような瞳の表現の一方で茶目っ気たっぷりの猫の瞳が印象的です。

松方が購入すると見込んで日置が入手したものの、松方はそれどころではない状況に陥ったため、日置の所有権が一旦は認められます。戦後に日本政府が日置に補償金を支払うことで、松方コレクションの一部と認定されたという、数奇な運命をたどります。

ピエール=オーギュスト・ルノワール「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」国立西洋美術館蔵は、常設展でおなじみの作品ですが、日本にあるのはかなり奇跡的です。ゴッホ「アルルの寝室」と同じくフランス政府が国内にとどめておくことを希望しましたが、日本側の交渉役だった美術史家・矢代幸雄(やしろゆきお)の粘り強い説得で日本に寄贈返還されることになったものです。

矢代は1920年代の松方の蒐集に同行し、専門家としてアドバイスしています。矢代はまた原三溪とも懇意で、戦後に三溪コレクションの主要作品を大和文華館が入手する道筋を付けており、昭和の日本の美術界にとってはかけがえのない人物です。


エピローグ

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 エピローグ

展覧会の大取(オオトリ)を務めるのは、クロード・モネ「睡蓮、柳の反映」国立西洋美術館蔵(松方家より寄贈)です。2016年にルーブル美術館で発見され、修復を経た後の初公開となります。松方コレクションの流転の運命を示すかのように上半分がほぼ失われて痛々しいですが、青と緑で描写された睡蓮の池の存在感はさすがのモネ作品です。

この展覧会の最初と最後はモネの睡蓮です。天国から見ている松方もきっと感無量でしょう。少しだけですが、自らの美術館構想が華やかに実現したわけですから。



この展覧会の期間中、新館では松方コレクションの常設展示がなくなるため、「モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち」が開催されています。ムーミンの故郷の国の100年前の女流画家たちの作品には、北国らしい生命感があふれています。松方コレクション以外の作品が展示されると、いつもの新館の雰囲気も随分変わるものです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



松方・矢代・日置が登場する西洋美術館誕生のストーリー
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<東京都台東区>
国立西洋美術館
開館60周年記念
松方コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立西洋美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B2F企画展示室
会期:2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています(本展会期中は本館展示室のみ)。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________

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上野 西洋美術館「松方コレクション展」_世界中から絶品が里帰り

2019年07月01日 | 美術館・展覧会

上野・国立西洋美術館の「松方コレクション」展が盛況です。春のコルビュジエ展に引き続き、館にとって最も尊敬する人物に大々的にスポットをあてた展覧会で、開館60周年記念展の第二弾です。

  • 西洋美術館蔵品はもちろん、散逸した松方幸次郎の蒐集品を世界中から集めた画期的な展覧会
  • ゴッホ「アルルの寝室」、ゴーガン「扇のある静物」など超一級作品もオルセーから里帰り
  • 展示は蒐集の時系列で構成、松方の審美眼の変遷とコレクションの運命がとてもよくわかる
  • 最近発見されたモネ「睡蓮、柳の反映」が修復後初公開、西美の新たな目玉作品に


松方コレクションがもし散逸を免れていたなら、どれほどすごい美術館ができていたか。松方幸次郎が描いていた美術館構想があたかも実現したような展覧会です。これだけの規模で作品が集まることは今後まずないでしょう。



松方コレクションと松方幸次郎の名前は、世界遺産登録で西美への注目が集まったことをきっかけにかなり上昇したような気がします。春のコルビュジエ展と今回の展覧会で、知名度はさらに高まったと個人的にうれしく思っています。素晴らしいいコレクションの生みの親になった偉人の名は、称賛されるべきだと思います。

松方コレクションは、第一次大戦による造船バブルで巨万の富を築いた松方幸次郎が1916~1927年のほぼ10年間で蒐集した1万点を超える作品です。

松方が日本に移送した9,000点の内、西洋絵画の1,000点は昭和恐慌の負債処理のために売却せざるを得なくなり、国内の大原美術館やアーティゾン(旧:ブリヂストン)美術館を始め、世界中の美術館や個人コレクターに所蔵されています。残る8,000点は浮世絵で、戦前に皇室に献上され、現在は東京国立博物館が所蔵しています。散逸しないよう願いを込めたような気がしてなりません。

税制の障壁や軍国主義への警戒から欧州にとどめざるを得なくなった約2,300点の内、ロンドンの倉庫に保管していた900点は1939(昭和14)年の火災で焼失します。焼失した大半は版画・素描作品でしたが、ゴッホやドーミエらの作品も含まれていたことがリストから推定されています。

パリにのこされた400点は第二次大戦の混乱を生き延び、フランス政府に接収された作品の大半が寄贈返還され、現在の西美の松方コレクションになっています。今回の展覧会は西美の松方コレクションに、フランス政府が寄贈返還に応じなかった作品と共に、売却されて散逸した作品が加わっています。松方コレクションを、往時の全貌に近い姿で鑑賞することができるとても貴重な機会です。


前庭に展示されているロダン「カレーの市民」


プロローグ

展覧会の冒頭、かなりインパクトのある3点がいきなり登場します。松方コレクションの強い存在感を象徴するような名品です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 プロローグ

クロード・モネ「睡蓮」国立西洋美術館蔵は、松方が印象派の巨匠・モネの自宅に通いつめ1921(大正10)年に入手した思い入れの強い作品です。エピローグで展示される「睡蓮、柳の反映」と共に、モネとしては珍しい存命中に手放した睡蓮の作品群です。

自らの美術館構想を実現すべく、フランスで見事な買いっぷりを見せ、美術界の間で時のコレクターとしてすっかり有名になっていた頃です。モネからも独特のオーラで信頼を勝ち取ったのでしょう。

共にフランク・ブラングィン作、「松方幸次郎の肖像」国立西洋美術館蔵(松方家より寄贈)「共楽美術館構想俯瞰図、東京」国立西洋美術館蔵(購入)は松方の存命中のコレクションへの情熱を象徴する作品です。ブラングィンはイギリス人画家で、松方に蒐集のアドバイスを行っていた親友でした。

すべての蒐集品が日本に集められて「共楽美術館」構想が実現していれば、という想像を強く働かせるオーラを発しています。




第1章 ロンドン1916-1918

1916(大正5)年から3年間、第一次大戦で需給がひっ迫していた貨物船ビジネスのためにロンドンに滞在し、巨万の富を元手にプラングインや美術商・山中商会のアドバイスを受け、蒐集を始めます。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第1章 ロンドン1916-1918

この頃の蒐集品は、近代の作品のイメージが強い松方コレクションの中でも、ルネサンス期の宗教画やバロック期の素描など、西洋絵画の基礎を学ぶような作品が見られることが特徴です。加えておひざ元のラファエル前派作品も多く含まれます。

17c末にローマで活躍したカルロ・マラッティ「頭部習作」国立西洋美術館蔵は、イタリア的デッサンの名品です。赤チョークだけで立体的な面を形作って豊かな頭の表現をしているところに、日本画にはない西洋絵画の原点を見て取れる典型的な作品です。

ジョン・エヴァリット・ミレイ「あひるの子」国立西洋美術館蔵(個人より寄贈)は、ヴィクトリア朝時代にイギリスで流行した肖像画の傑作に一つです。全くけがれのない少女を象徴するように、つぶらな瞳と口元が表現されています。モデルは中流の家庭の少女ですが、内面を表現し絵に緊張感を持たせたラファエル前派的表現で、見事なスターに見えるが如く仕上げられています。

ヨゼフ・イスラエルス「ホワイト夫人」三井住友銀行蔵は、19cオランダのハーグ派を代表する画家の肖像画の名品です。バルビゾン派の影響を受けたハーグ派はくすんだ色合いでナチュラル感を出す風景画や肖像画で知られています。生命感のあるオランダ肖像画の伝統をも受け継ぎ、観る者を惹きつけるオーラを放っています。


第4章 ベネディットとロダン

第4章は、美術館設立に不可欠と考えたロダン彫刻の蒐集に乗り出した1918(大正7)年頃の蒐集作品です。

ご紹介作品の画像が掲載されています【公式サイト】 展覧会構成 第4章 ベネディットとロダン

アメリ・ボーリー=ソーレル「レオンス・ベネディットの肖像」オルセー美術館蔵は、松方のロダン作品蒐集のキーマンとなった人物を描いた名品です。当時ロダンの信頼を得てロダン美術館の開設準備をしていたフランス美術界の中枢にいた人物です。

松方にロダン作品の鋳造を許可して巨額に資金を得、ロダン美術館の運営を軌道に乗せるとともに、松方の良き友人として作品蒐集を手助けします。とても上品な人柄が表現されており、仏像のような包容力まで感じさせます。描いたソーレルはバルセロナ出身の女流画家です。

今回の展覧会の出展作品では唯一会場外に展示されているのが、オーギュスト・ロダン「地獄の門」国立西洋美術館蔵、です。西美のロダン・コレクションの代表作として前庭に常設展示されています。さすがに大きすぎて展示会場には搬入できません。

ロダンの生前には鋳造されなかった「地獄の門」は、1920(大正9)年の松方の発注で初めて鋳造されることになりました。日本人の松方はすでに、それだけパリの美術界で信用を得ていたのです。

現在西美にある「地獄の門」は第二次大戦中もナチスの手に渡ることなく生き延び、1959(昭和34)年の西美開館時にフランスから移送されてきたものです。注文順に反し、最初に鋳造された作品はアメリカ人コレクターに引き渡されフィラデルフィア美術館に収まっています。二番目の鋳造品は松方との約束通りロダン美術館に収まり、西美にある作品は三番目の鋳造と考えられています。

この鋳造順の経緯は不明ですが、美しさを毀損するものではありません。かけがえのない作品を日本にもたらす道筋を付けた松方の英断に敬意を表すべきでしょう。



前半だけでもとても内容の濃い展覧会です。後半は松方の審美眼の脂が乗り切った頃に入手した作品が登場します。言わずもがなの名品揃いのレポートの「続き」は、次回お届けします。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



60年前の西美開館時のコレクション紹介本
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<東京都台東区>
国立西洋美術館
開館60周年記念
松方コレクション展
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立西洋美術館、読売新聞社、NHK、NHKプロモーション
会場:B2F企画展示室
会期:2019年6月11日(火)~2019年9月23日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています(本展会期中は本館展示室のみ)。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩2分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩8分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:15分
東京駅→JR山手/京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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裸体画以外の魅力を”発見” クリムト展_上野 東京都美術館 7/10まで

2019年06月28日 | 美術館・展覧会

上野・東京都美術館で行われている「クリムト展」も終盤です。日本で開催されたクリムト展では過去最多の25点の油彩画が世界中から集められていることもあり、官能的な女性の裸体画以外にも様々なモチーフを描いたクリムトの魅力をたっぷりと味わうことができます。

  • 世界最高峰のクリムト・コレクションを誇るウィーンのベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館が強力にバックアップ
  • ローマからは円熟期の傑作「女の三世代」が初来日、クリムトの女性表現の昇華がよくわかる
  • モチーフの背景のジャポニズムの影響を受けた装飾デザインは、日本人が見るととても落ち着く


100年前に描かれたものですが、日本の琳派と同じく、装飾デザインは現代でも斬新さを失っていないと感じられます。裸体画以外のクリムトの魅力もあわせてたっぷりと”発見”できる展覧会です。



昨年2018年はクリムト没後100年にあたります。その節目に合わせて、六本木・新美&大阪・国際美「ウィーン・モダン展」など、世紀末ウィーン文化の繁栄を回顧する展覧会が続いています。上野・都美館「クリムト展」は中でも、アートにおける世紀末ウィーンの主役にスポットをあてた格別の展覧会です。

出展作品の主な所蔵元が展覧会の”主催”に名を連ねていることから、その意気込みが伝わってきます。ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館は世紀末芸術の作品を中心に所蔵し、オールドマスター作品を中心に所蔵するウィーン美術史美術館と並んで、オーストリアのみならず世界的にも著名な美術館です。

展覧会はおおむね時系列で構成されています。最初の修業時代の画風は、当時のウィーン美術界に君臨していたハンス・マカルトのアカデミックで伝統的な表現の影響が見られます。

【展覧会公式サイトの画像】 「ヘレーネ・クリムトの肖像」

「ヘレーネ・クリムトの肖像」ベルン美術館寄託は、クリムトの弟の6歳の娘を描いた肖像画です。おかっぱ頭は当時の欧州ではあまり見かけないスタイルで、表情も6歳に見えず大人びています。クリムトの女性画に共通する”主張”の強さはしっかりと現れています。

【ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館公式サイトの画像】 ハンス・マカルト「装飾的な花束」

修業時代のクリムトが一生懸命観察していたであろうハンス・マカルトの作品にも注目です。「装飾的な花束」ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館蔵は、いかにも貴族が好みそうな伝統的な画風です。ジャポニズムの影響が表れているのでしょうか、構図に奥行き感はありません。クリムト22歳の時、マカルトが死の直前1884年に描いた作品です。

【展覧会公式サイトの画像】 「女ともだちⅠ(姉妹たち)」

「女ともだちⅠ(姉妹たち)」クリムト財団蔵は、二人の女性を描いています。究極に平面的で、二人の女性の顔がアイコンのように際立っています。1907年、ジャポニズムを習得した円熟期の代表作と言えるでしょう。現代のデザインとしても立派に通用する斬新さには驚きです。



Chapter.5には、いわゆるクリムトの画風を象徴する”黄金時代”の作品が集められています。クリムトの代表作「ユディト I」もここにいます。

【展覧会公式サイトの画像】 「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」

「ヌーダ・ヴェリタス(裸の真実)」オーストリア演劇博物館蔵は、1899年のウィーン分離派結成の頃に描かれた、20cの到来を印象付けるようにシンプルかつドラスティックに描いた名品です。真実の象徴である鏡を手に持つ全裸の女性は古典的なモチーフですが、世紀末のウィーンに新しい時代の芸術を提案しているようです。ほんのわずかに官能的な趣を出していますが、アイコンのようなシンプルな全体像が際立ちます。


【展覧会公式サイトの映像】 「ベートーヴェン・フリーズ」

「ベートーヴェン・フリーズ」は原寸大複製です。クリムトの画業とその評価を最もストレートに伝える傑作です。原本の展示されているセセッション館と同じ空間が再現されています。幅30mを超える巨大な絵巻のような大作が部屋の三辺に描かれており、ベートーヴェンの交響曲第9番に着想した盛り上がりをドラマのように表現しています。

時代背景を抜きにして現代の視点で見ると、きわめて美しい完成された表現です。発表当時はベートーヴェンという巨匠にはふさわしくない表現として酷評されました。政治の矛盾に比べ芸術の斬新さが独り歩きしていた当時のウィーンの空気でも、過去の巨匠に因んだ表現への評価には古典的な価値観が優先したのでしょう。

【展覧会公式サイトの画像】 「丘の見える庭の風景」

「丘の見える庭の風景」ツーク美術館蔵は、クリムトではあまり連想されない風景画の名品です。晩年1916年の作品で、モネ「睡蓮」を彷彿とさせるナチュラルな表現が秀逸です。花びらをちりばめたような紋様は、クリムト芸術の到達点のようです。

【展覧会公式サイトの画像】 「オイゲニア・プリマフェージの肖像」

「オイゲニア・プリマフェージの肖像」豊田市美術館蔵は、クリムトのパトロンの妻を描いた肖像画です。ジャポニズムを思わせる黄色の背景に、アジア的なカラフルな花柄模様の衣装を身に付けてモデルを描いています。表情は証明写真のように無感情であるところが、この作品の上質さを強調しています。

【展覧会公式サイトの画像】 「女の三世代」

「女の三世代」ローマ国立近代美術館は、クリムトのイメージとして強烈な”官能”表現から消化したことを物語る傑作です。おばあちゃん→母親→赤子の娘と”女の三世代”をモチーフにしていますが、官能性や死生観は一切感じられず、とても温かみのある表現です。

女性だけが営める生き物の”持続”に敬意を払った表現です。とてもナチュラルで、クリムトの画業と展覧会のフィナーレを飾るにふさわしい傑作です。

【展覧会公式サイトの画像】 「人生は戦いなり(黄金の騎士)」

都美館終了後に巡回する豊田市美術館では、愛知県美術館蔵「人生は戦いなり(黄金の騎士)」が出展されます。タイトルからして意味深ですが、黒い馬にまたがる黄金の鎧を身に付けた騎士に自らを重ねているようです。「ベートーヴェン・フリーズ」が酷評されていた苦しい時の作品です。

背景の星をちりばめたような紋様は、世紀末の時代の華やかさを感じさせ、全体の印象として決して暗くありません。構図・モチーフ共にクリムトとしてはとても珍しい名品です。トヨタ自動車の寄付金で購入した愛知県美術館の目玉作品です。トヨタ自動車は地元・愛知県でのメセナ活動にはとても熱心です。



2019年の都美館の特別展は、ムンク展奇想の系譜展→クリムト展と、内容でも人気でも横綱級の展覧会が続いています。終了後に発表されたムンク展の総入場者数は66万人。クリムト展の20万人到達ペースから推測すると、一日あたり入場者数はムンク展とほぼ同じです。世紀末芸術家の二大スターの人気は、世界はもちろん日本でもものすごいことが数字にも表れています。

秋には「コート―ルド美術館展」が待ち構えています。日本での知名度は高くありませんが、印象派を中心とした個人コレクションの美術館としては世界最高峰の一つです。ロンドンに旅行された方は訪れた方が少なくないでしょう。2019年秋のmustの展覧会の一つです。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



世界遺産ストックレー邸にクリムトがのこした内装デザイン
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<東京都台東区>
東京都美術館
特別展
クリムト展 ウィーンと日本 1900
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:東京都美術館、朝日新聞社、TBS、ベルヴェデーレ宮オーストリア絵画館
会場:B1F 企画展示室
会期:2019年4月23日(火)~7月10日(水)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:00(金曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この会場で展示されない作品があります。
※この展覧会は、2019年7月から豊田市美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR「上野駅」下車、公園口から徒歩7分
東京メトロ・銀座線/日比谷線「上野」駅下車、7番出口から徒歩12分
東京メトロ・千代田線「根津」駅下車、1番出口から徒歩15分
京成電鉄「京成上野」駅下車、正面口から徒歩12分
JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
JR東京駅→山手・京浜東北線→上野駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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江戸時代 大坂 見事な絵師を”発見”_京都 八幡 松花堂美術館 7/7まで

2019年06月26日 | 美術館・展覧会

京都の南、石清水八幡宮のある八幡の松花堂(しょうかどう)庭園・美術館で、かなりエッジの効いた展覧会が行われています。「ご存知ですか?大坂画壇」という絶妙な展覧会のネーミングからも内容にとても興味がそそられます。

  • 江戸時代の大坂にもたくさんの腕利きの絵師たちがいた、富が集まると文化が栄えるのは成り行き
  • 琳派や四条派の影響を受けた大坂の絵師たちの作品は、京都画壇に比べてリアル感が魅力


大坂は京都や江戸と比べ、人口の大半が町人で占められていたという特性があり、それが良きも悪きも大坂画壇の評価に影響しています。今まで知らなかった江戸時代の見事な絵師たちを、たくさん発見できる展覧会です。


史跡・松花堂

「松花堂」と聞くと多くの人が「弁当」を連想します。弁当のネーミングは、江戸時代初めの石清水八幡宮の社僧で、当代一流の能書家として知られた松花堂昭乗(しょうじょう)に由来します。昭乗は徳川幕府・公家双方に大きな人脈を築いており、本阿弥光悦や小堀遠州と共に京都で著しく繁栄した寛永文化サロンの中心人物でした。

弁当は昭乗の時代ではなく、昭和になってから日本を代表する名料亭・吉兆(きっちょう)の創業者・湯木貞一(ゆきていいち)が考案したものです。昭乗が好んで使っていた小さな盆をヒントに、弁当箱に子盆を並べて華やげることを思いついたと言われています。

「松花堂」は昭乗が晩年に過ごした庵の名前で、1637(寛永14年)年に建てられました。元は石清水八幡宮のある男山の中腹の宿坊が立ち並ぶエリアにありましたが、明治の廃仏毀釈で宿坊は撤去され、松花堂は1891(明治24)年に現在地に移築されました。

2002年になって八幡市立松花堂庭園・美術館として一般公開が始まります。手入れが行き届き、四季に応じた美しさを楽しめる名勝指定の庭園と共に、一流の文化人が好むようなどこか洒脱な外観を楽しむことができます。



松花堂美術館は、昭乗や地元ゆかりのテーマで年3回ほど企画展が行われています。「ご存知ですか?大坂画壇」も地元の個人コレクターのコレクションを一堂に披露するものです。大坂画壇とその画家たちは聞きなれないこともあり、きちんとパネルで解説されています。

大坂画壇とはその名の通り、大坂で活躍した絵師たちのことです。江戸時代の日本絵画は、江戸と京都を拠点に活躍した絵師たちが圧倒的に有名です。美術は古今東西、富が集まるところにはほぼ必ず栄えます。江戸時代を通じて日本最大の経済都市であり続けた大坂にも、腕利きの絵師たちがたくさんいました。

にもかかわらず大坂画壇が忘れられた存在のようになってしまっているのは、ひとえに京都・江戸と比べた大坂の情報伝播力の弱さでしょう。京都は富裕な町衆が寺社に絵を寄進し、全国から寺社の本山を訪れる僧を通じて絵師や名作の情報が伝播されます。著名な作品を京都滞在中に模写させてもらい、地方に持ち帰る例も珍しくありません。

江戸は参勤交代や日本一の大都会に物資を運ぶ物流で全国から人が集まり、地元に帰る際に土産話として持ち帰ります。江戸時代後半にフルカラーでとても美しく、しかも版画なので安価な錦絵が登場すると、土産物としても爆発的な人気を博します。江戸時代の絵画=浮世絵というイメージは、こうして強固に全国の人々に印象付けられていったのです。

大坂も「天下の台所」と言われたように、全国から物資が集まったのは事実ですが、武士がほとんどいなかったこともあり、全国との人の往来は江戸と比べてはるかに少なかったのです。絵や芝居といった娯楽も大坂の町の中だけの閉ざされたものとなり、全国レベルで記憶に残った京都・江戸の絵師たちと比べると情報伝播環境面でとても不利だったのです。

元禄時代に大坂で絶大な人気を博した井原西鶴の浮世草子(=小説)や近松門左衛門原作の人形浄瑠璃の芝居が全国レベルに広がらなかったのも、おそらく情報伝播力の弱さが大きく影響していると思われます。



展覧会では、大坂画壇の絵師たちの中でも比較的知名度の高い上田公長(うえだこうちょう)の名品をきちんと鑑賞することができます。公長は、江戸で錦絵の流行が絶頂期を迎えていた文化・文政時代に活躍した絵師です。四条派の写実的な画風を基本としますが、モチーフや構図がわかりやすいのが特徴です。

出展作「枯木唐鳥図」も主役の鳥の羽の色だけに着色し、その美しさを印象付けています。

大坂には京都のような伝統的な価値観がなく創作は自由です。それは江戸も同じですが、江戸はモチーフを理想化してより格好よく描く方が好まれます。一方、大坂は逆にモチーフをよりリアルに描く方が好まれます。この傾向は錦絵の役者絵の表情に最も顕著に表れています。

「枯木唐鳥図」も鳥がとまっているのは枯れ木です。江戸では枯れ木を描いた絵はまず売れなかった王な気がします。

近年の琳派ブームの影響で、大坂画壇では現在知名度が最も高いと思われる中村芳中(なかむらほうちゅう)も観ることができます。「菊図」です。ゆるキャラのようなおおらかな画風で菊を描いています。芳中らしく丸っこく表現しているため、菊の花がネズミにも見えます。いわゆる”癒される”名品です。

月岡雪斎(つきおかせっさい)は、肉筆浮世絵で知られる大坂画壇の中でも知名度の高い雪鼎(せってい)の子です。雪鼎作品は出展されていませんが、雪斎の「官女図」は、桜の下で佇む美女を描いています。

足が描かれていないため空中に浮いているようで、しかも屋外で高級そうな着物の裾を引きずっているようにも見えます。非現実的な構図で、美女の表情にまったく感情がないにも関わらず、なぜか観る者を惹きつけます。トリッキーで摩訶不思議な名品です。

江戸時代には聞いたことのないような無数にいます。平和で経済が発展し、目立って富裕な町人でなくとも絵を楽しむようになると、絵師の需要もかなり大きかったと考えられます。現代とは比べものにならないほど、娯楽の種類は限られていたのです。絵師は現代で言うと、画家/広告イラストレーター/写真家など数多くの職種を兼任していました。

「ご存知ですか?大坂画壇」は、新たな絵師を発見できる貴重な機会です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



町人文化が栄えていたのは江戸だけではない
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<京都府八幡市>
八幡市立松花堂庭園・美術館
2019年初夏展 普通展示
ご存知ですか?大坂画壇
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:八幡市立松花堂庭園・美術館
会場:松花堂美術館 B1F
会期:2019年5月25日(土)~7月7日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※6/9までの前期展示、6/11以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※企画展開催中は、コレクション展を行っていない場合があります。

(注)庭園のうち、松花堂のある内園は2019年6月現在、2018年に発生した地震・台風の被害で見学できません。



◆おすすめ交通機関◆

京阪電車「八幡市」駅下車、京阪バスに乗り換え「大芝・松花堂前」下車、徒歩3分
京阪電車「樟葉」駅下車、京阪バスに乗り換え「大芝・松花堂前」下車、徒歩1分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
京都駅→近鉄京都線→丹波橋駅→京阪電車→八幡市駅→京阪バス32/77系統→大芝・松花堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※バスは本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※イベント開催時は、駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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春恒例の「等伯」展は素晴らしい_石川県七尾美術館

2019年06月20日 | 美術館・展覧会

能登半島の付け根部分、和倉温泉の近くにある石川県七尾(ななお)美術館。長谷川等伯の出身地でいくつか作品も所蔵しており、毎年5月に等伯の展覧会を大々的に開催しています。今年2019年になってようやく行くことができました。

  • 京都の寺や国立博物館など全国から名品を借りて大々的に開催、地方で稀有な定番の展覧会
  • 等伯の若い頃、七尾時代の展示も充実していることも、この展覧会の希少価値
  • 円熟期の作品も揃っており、等伯の画家としての成長ぶりが本当によくわかる


七尾は能登半島でも富山湾側に面しており、海は穏やかで自然の恵みの豊かさを感じることができます。そんな自然の恵みが等伯を育てたのです。


能登島大橋、爽快な橋と海のドライブが名なので楽しめる

七尾は、能登半島の大部分を占める旧・能登国の国府があったところで、石川県では金沢よりはるかに古い歴史を持つ街です。能登の海の幸や和倉温泉を中心とする温泉リゾートがよく知られており、パティシエの辻口博啓の出身地としても有名になっています。

長谷川等伯は1539(天文8)年、七尾を治めていた戦国大名・畠山氏の下級武士の家に生まれました。幼い頃に染物屋の長谷川家に養子に出され、そこで絵を学びます。当時の七尾は日蓮宗の僧が京都と盛んに往来しており、文化的にも先端を走っていたエリアです。

等伯も京の最先端文化に触れる機会は少なくなかったと考えられています。元も早いと確認されている等伯作品では20代のものがのこされています。

石川県七尾美術館は常設での等伯作品の展示はなく、毎年春恒例の「等伯展」で集中的に披露されています。

館蔵品を始め周辺の古刹に少なからずのこされている、京都に出る前のいわゆる「七尾時代」の「信春(のぶはる)」と名乗っていた頃の作品が鑑賞できるのが、この展覧会の大きな魅力の一つです。まためったに見る機会のない等伯の養父・宗清(むねきよ)の作品も展示されます。この展示も地元・七尾で開かれる展覧会ならではです。

長谷川家は熱心な日蓮宗の信者だったこともあり、宗清も多くの仏画や肖像画を手掛けていたようです。今回は高岡の妙傳寺に伝わる「日蓮上人像」が出展されています。落ち着いた画風で写実的に精緻に描かれています。七尾時代の等伯作品も仏画や肖像画が多く見られますが、養父の影響がはっきりと見て取れます。

等伯(信春)作品では羽咋の妙成寺につたわる「涅槃図」が見応えがありました。京都の寺でも多くをのこした等伯の涅槃図の中でも最初期の作品でしょう。作品を見た瞬間に「上手い」と感じました。等伯は京に出て腕を磨いた印象が強いですが、京に出る前からかなりの腕前だったことがはっきりと確認できます。

1571(元亀2)年、等伯33歳の時に養父が亡くなり一家で京に出ます。理由は定かではありませんが、等伯としては一大決心をしたと思われます。



上洛直後は七尾の実家の菩提寺・本延寺(ほんねんじ)の本山である本法寺(ほんぽうじ)を頼り、塔頭・教行院(きょうぎょういん)に身を寄せます。その後10年ほどは、のこされた作品や活動の記録も乏しく、謎の多い時代です。

南蛮貿易で栄える当時の最先端都市・堺に頻繁に出かけ、日蓮宗や大商人のコネクションを活かして人脈を築くとともに、絵の流派としては当時全盛の狩野派に並びうる表現力を身に付けるべく、京都の寺で様々な日本や中国の作品を鑑賞して学んでいた。このように考えられています。

後に本法寺の住職になる高僧で等伯の伝記「等伯画説」をのこした日通(にっつう)や、大徳寺での制作など大仕事の受注に大きく影響した千利休とも堺で知り合っています。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

この謎の多く作品数の少ない時代でも、東博蔵「牧馬図屏風」が出展されていることから、この展覧会の構成のレベルの高さがうかがえます。馬と武士が生き生きと走り回る様子が描かれており、とても「躍動感のある屏風です。一方等伯の特徴である洗練されたバランス感はすでに十分に身に付けていることもうかがえます。素晴らしい作品です。重要文化財です。

等伯が京に出て10年以上たった頃には、大徳寺から仕事を受けていたようです。数々の戦国大名からの帰依を受け、茶の湯サロンの最高峰として繁栄していた大徳寺から仕事をもらえることは、京都画壇の中でも一定の評価を確立していたことを意味します。

1989(天正17)年、51歳の時の「山水図襖」も出展されています。等伯が大徳寺三玄院に住職の留守中に勝手にあがりこんで描いたという伝説がのこるように、襖の地の桐紋の上に描かれた不思議な作品です。白い桐紋は雪が舞っているようで幻想的に見えるところに驚きます。重要文化財です。現在は高台寺圓徳院の所蔵です。

1989(天正17)年、52歳の時、御所造営の仕事が決まりかけていたところを狩野派に土壇場で奪われます。その4年後、秀吉が亡き鶴松の菩提寺として建立した祥雲寺の障壁画制作を受注します。この障壁画が現在の智積院に伝わる国宝「楓図」です。等伯はついに狩野派と並ぶ地位を確立します。

【石川県七尾美術館 公式サイトの画像】 猿猴図屏風
【石川県七尾美術館 公式サイトの画像】 松竹図屏風

等伯の画風が最も脂にのっていた50-60歳代の作品も目白押しです。石川県七尾美術館所蔵の名品2点はいずれも2015年に発見されたもので、洗練された等伯の画風が見事に伝わってきます。

「猿猴図屏風」は等伯が尊敬していた南宋の画僧・牧谿(もっけい)が描く猿をまねたものと考えられています。「松竹図屏風」は竹がしっかりと大地に立っている下半分に対し、上半分は霧がかかったようにおぼろげで、その対比が魅力的です。等伯の代表作「松林図屏風」を思わせます。


石川県七尾美術館の外観

展覧会場には国宝「松林図屏風」の高精細複製品も展示されていました。等伯の画風の一つの基準として展示作品の表現と見比べると面白いです。等伯の腕のすごさがよくわかります。

石川県七尾美術館では等伯作品の常設展示はありませんが、春以外の企画展でも出展されることはあるようです。能登にお出かけの際は公式サイトをチェックの上、ぜひ訪れてみてください。地方にも素晴らしい美術館があることを実感できます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本美術には別冊太陽
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<石川県七尾市>
石川県七尾美術館
2019年度春季特別展
長谷川等伯展 〜屏風・襖-大画面作品を中心に〜

【美術館による展覧会公式サイト】

主催:石川県七尾美術館
会期:2019年4月27日(土)~5月26日(日)
原則休館日:会期中無休
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※5/12までの前期展示、5/13以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

JR七尾線/のと鉄道「七尾」駅下車、車で5分、徒歩20分
能越自動車道・七尾城山IC/七尾ICから車で各10分

JR七尾駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR七尾駅まで 金沢駅から在来線特急で60分

【公式サイト】 アクセス案内

※鉄道は本数が少ないため、事前にダイヤを確認の上、利用されることをおすすめします。
※この施設には無料の駐車場があります。
※現地付近のタクシー利用は事前予約をおすすめします。


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京都でも「トルコ至宝」にうっとり_国立近代美術館 7/28まで

2019年06月18日 | 美術館・展覧会

東京・国立新美術館で4月に観た「トルコ至宝展」は、イスラミック・ブルーが美しいオスマン宮廷文化の上質なデザインをたっぷりと味わうことができました。そんな素晴らしい展覧会が京都に巡回、早速行ってきました。

  • 京都展でもトプカプ宮殿を模した空間ディスプレイはばっちり、異文化体験を3Dで楽しめる
  • ラーレ(トルコ語で)チューリップをあしらったデザインも見事、青色と並んで赤色の使い方が絶品
  • 皇帝の肖像画にも注目、仏像のような柔和な表情が印象的
  • 明治の知られざる日本とトルコの友情の証が展示、トルコが親日的な理由に納得


観終わった後はミュージアムショップでラーレをあしらった雑貨をきっと買いたくなります。私もコースターを買ってしまいました。ユニセックスな趣です。誰でも使えます。


記念写真撮影コーナー、疎水の新緑が映える

岡崎の京都国立近代美術館は琵琶湖疎水に面しており、初夏の今は1Fのロビーから輝くばかりの新緑が楽しめます。近年の美術展ではすっかりおなじみになった記念撮影コーナーは、いつも1Fのロビーに設置されます。季節を通じて写真映えが良くなるのが京近美の魅力の一つです。

その1Fロビーから、純白の大階段を上がって3F展示室へと進みます。東京・西洋美術館・本館の常設展示室への入口・19世紀ホールとよく似た趣です。どんな展示が始まるのか、とてもワクワクしてきます。


純白の大階段

展示会場の始まりには、東京展でも強く印象に残ったフランス製の「スルタン・マフムート2世の玉座」がきちんと京都にも姿を見せてくれています。マフムート2世はナポレオン戦争時代の皇帝で、1808年の皇帝即位時にフランスとの同盟を破棄しています。

にもかかわらずマフムート2世の花押が施されていることから、この玉座はフランス側の強い政治的な意図をもって制作された可能性が推定されます。ベルベットと黄金が見事なデザインは、ナポレオンが座っていたとしても全く違和感はありません。まさに激動の時代の証です。


トプカプ宮殿の室内デザインには思わず見とれる

風呂敷/布団/敷物といった布製の調度品のデザインはまさにシルクロードの情緒がたっぷりです。トプカプ宮殿と正倉院の宝物のルーツが同じであることがよくわかります。布製品には、ラーレを中心に花紋様がとても目立ちます。色調は赤が基本です。建築デザインの青との対比を意識しているのでしょうか。

タイルの展示からもオスマン文化の魅力をたっぷりと味わえます。青を基調にラーレのデザインがより多く目立ちます。正方形のタイル一枚だけを見て、綺麗と感じます。通常は壁や床に敷き詰められた状態で全体像を味わいますが、”ピン”でも勝負できるところがまさに”すごい”のです。

ミュージアムショップでも、コースターやマグネット、マスキングテープなど記念に買いやすいグッズがたくさん揃っています。

【展覧会公式サイト】 展覧会オリジナルグッズ

ドイツのマイセン磁器のコーヒーセットもオスマン文化の奥深さを象徴する展示です。一見”なぜ”と思われがちですが、コーヒーはオスマン帝国を通じてヨーロッパに広がった飲み物なのです。

てっきりスペインかポルトガル人がアフリカや南米からもたらしたと思っていた私も、以前イスタンブールを訪れた際にこの事実を初めて知りました。エチオピア原産のコーヒーを広めたのはアラブの商人たちです。オスマン帝国がアラブ社会全体を支配した後、バルカン半島に勢力を伸ばしてハプスブルグ帝国と国境を接するようになり、ウィーンを基点に全ヨーロッパに広まりました。

キリマンジャロと並んで日本で一般的なコーヒー豆のブランド「モカ」は、イエメンの都市の名前です。エチオピアから近い紅海の入口にあり、コーヒーの貿易港として永らく繁栄していました。17cに欧州で絶大な人気を博した磁器・有田焼が、積出港である伊万里をブランド名として知られるようになったのと同じ原理です。


アヤソフィア博物館のキリスト教のモザイク画

イスラムと言うと、近年の原理主義テロ勢力のイメージがあまりに強烈で、日本や欧米社会ではかなりゆがんだ見方をされるようになったことはとても残念です。しかしこの展覧会を見ると、大航海時代の後に欧州が世界の覇権を握るようになる前は、イスラムが文化的にはより進んでおり、オスマン帝国がそうした栄光を見事に受け継いでいたことがわかります。

18c初頭に文化が繁栄した「チューリップ時代」を実現したアフメト3世の他、皇帝の肖像画がいくつか展示されていますが、日本や中国・欧州の政治権力者の肖像とはずいぶん頃なる印象を受けます。威厳がまったく強調されず、仏像のように包容力のある表情が共通しています。

オスマン帝国は「ミレット制」と呼ばれる異教徒に自治を認める支配体制を採用していました。イスラム教は一神教ですが、伝統的に異教徒には寛大です。オスマン帝国もトルコ人以外に他民族を広大な領域に抱えており、異教徒・異民族を威圧するような表現を避ける空気が支配していたと考えられます。

イスタンブールのアヤソフィア博物館は、オスマン帝国がコンスタンチノープルを陥落させるまでは、ギリシア正教の大聖堂でした。キリストの偶像のモザイク画を破壊せずにイスラム教のモスクとしてそのまま使用していたため、世界遺産として今にかけがえのない東ローマ帝国の趣をのこしています。

イスラム教は、本当は「寛容」を重んじているのだと感じます。


イスタンブール新空港に移転する前のアタテュルク空港

京近美での展示は、第3章が4Fの常設展示スペースの一部を割いて行われています。日本との友情の証から、不思議な縁で結ばれたトルコとの絆を感じ取ることができます。

1890(明治23)年、明治天皇の皇族がオスマン皇帝を表敬訪問したことに応えて、オスマン皇帝が派遣した軍艦・エルトゥール号が、帰路に紀伊半島の最南端・串本で座礁・沈没します。地元住民の懸命の救助で乗組員の一部は助かり、日本は軍艦で生存者をトルコまで移送すると共に多額の義援金も集めます。

群馬県の沼田藩士に生まれ、茶道の家元に養子に出されていた山田寅次郎は、民間レベルで集めた義援金をトルコまで持参し、熱烈な歓迎を受けます。展示会場にある甲冑や合戦図は、寅次郎の実家の伝来品を皇帝に献上したものです。寅次郎はトルコに留まり、貿易会社を設立して日本とトルコの懸け橋になります。明治の巨大な七宝の花瓶も多く展示されています。明治の交流を通じてトプカプ宮殿に収蔵されたものでしょう。

1985年のイラン・イラク戦争の際、イラン在住の日本人が、当時の法律で自衛隊の海外派遣が認められなかったため取り残されます。トルコ政府は自国民救援のために派遣したトルコ航空機に日本人を同乗させ救出します。「エルトゥール号の恩返し」とトルコ政府はさりげなく説明します。

山田寅次郎の孫娘は東京・ワタリウム美術館を経営する一族に嫁ぎ、現在も祖父によるトルコとの交流を発信し続けています。コンテンポラリー・アートの斬新な表現で知られるワタリウム美術館で、古き良き明治のエピソードが伝えられているのはとても感慨深いと感じます。

トルコ。まずは京都の展覧会におでかけになり、機会を見つけてぜひ現地までお出かけください。海外旅行の中でも特に記憶に残る旅になることと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



イスタンブールにまた行きたくなった
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<京都市左京区>
京都国立近代美術館
トルコ文化年2019
トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、トルコ共和国大使館、日本経済新聞社、BS-TBS、京都新聞
会場:3F/4F展示室
会期:2019年6月14日(金)~7月28日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(6月の金土曜~19:30、7月の金土曜~20:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年5月まで東京・国立新美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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ホテルが現代アートのギャラリーに_ART OSAKA 7/6から

2019年06月15日 | 美術館・展覧会

日本の現代アート市場の中心は言うまでもなく東京であり、首都圏以外に”見るべき”アートフェアはない。そんな風に思われがちなのは現実ですが、風穴を開けるような”見るべき”価値のあるアートフェアが大阪で定着しています。ホテルの客室を展示ギャラリーに用いる「ART OSAKA」です。

  • ホテルの客室を会場とする現代アート作品の大規模展示・販売イベントとしては、おそらく日本初
  • 自宅の部屋のようなサイズの空間で作品を鑑賞できる、購入後のイメージがわきやすい
  • 関西にとどまらず東京やアジアからの出展が多いのも魅力的


東京のアートフェアは3月開催に集中していますが、ART OSAKAは7月開催です。美術館の展覧会のように誰でも気軽に観ることができます。敷居の高さを感じることはありません。


26F受付の様子(前回2018)

ART OSAKAは、USJの対岸にある大阪メトロ・大阪港駅近くの「海岸通ギャラリー・CASO」で2002年から始まった「ART in CASO」がルーツです。当時流行していた、ベイエリアの古い倉庫を活用する、現代アート作品の展示・販売イベントでした。

2007年からは大阪駅近くの旧:堂島ホテルに会場を移し、客室がギャラリーとして用いられるようになります。2011年からは現在の大阪駅直結のホテルグランヴィア大阪に再度会場を改め、定着します。


出典ギャラリー/アーティストは客室単位で割当

ホテルの客室が会場というのが何と言っても最大の魅力です。最高級スイートルームのようなびっくりするようなクラスでもなく、格安ビジネスホテルのような窮屈な部屋でもありません。いわゆる普通のワンルームマンションのような空間で、「この作品が自宅の部屋にあったら」というバーチャルをイメージしやすくなっています。多くの部屋ではベッドも展示台として用いられています。

美術館やギャラリーの展示室は、作品以外は一切存在しない空間であるのが通常です。ベッドやテーブルといった調度品と調和させた趣で鑑賞できるのはホテルの客室ならではです。ギャラリー関係者やアーティスト自身が部屋にいるため、近距離でコミュニケーションしやすい雰囲気も魅力です。

他の鑑賞者が多いこともあり、ギャラリーのような敷居の高さもまったく感じさせません。どんな作品があるかわからなくても「ますは入ってみよう」という勇気を充分に与えてくれるシチュエーションがあります。


入ってみないとわからない客室にはドキドキ

2019年も出展ブース数は70近くに達する見込みで、見応えはたっぷりです。公式サイトで出展アーティストの作品が紹介されており、アーティストの個性をつかむにはとても便利な機能です。注目したいアーティストや作品もたくさん目につきます。

【フェア公式サイトの画像】 カリワ・ジュジン「天動説」

「天動説」というネーミングが絶妙です。円筒形の焼き物の各所に穴があり、中心の星が見えるようになっています。外淵にはアステカ文明を思わせる恒星、上淵には十二支を思わせるオブジェが配されています。数百年以上前の作品と錯覚させるようなデザインが見事です。

【フェア公式サイトの画像】 林政彥「映像‧印象-15」

写真からトレースしたような緻密な線描で、森を覆う枝と木の葉をモノトーンで表現しています。漆黒ではなくわずかに緑色を含めているところが、観る者を深い森の中に吸い込むように思わせます。琳派のようなドラスティックな構図です。

【フェア公式サイトの画像】 土屋仁応「熊」

子熊には体毛が一切表現されていません。母体の中にいるように、全くけがれのないことを表現しているようです。つぶらな瞳からは未来に向けた無限の可能性を感じることができます。

【フェア公式サイトの画像】 野口琢郎「Landscape#46」

現在東京で話題の展覧会の主役・クリムトを思わせるパッチワーク風のデザインです。40×30cmというやや小ぶりのサイズが作品のテンポをとても高めています。

【フェア公式サイトの画像】 ソエノカオル「untitled」

2019年の作品で、建物に描かれたロゴのイメージから渋谷の大改造がモチーフでしょう。夕闇に浮かび上がる建築中の高層ビルが美しく、ランドスケープが成長していく躍動感を見事に表現しています。



ホテルの客室を会場とする大規模アートフェアは2016年から東京でも始まっています。毎年3月に汐留のパークホテル東京で行われる「ART in PARK HOTEL TOKYO」です。大阪と見比べてみるのも楽しみになります。

【 ART in PARK HOTEL TOKYO 2019 公式サイト】

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



しっかりじっくり、最新のアート作品と市場の実態を学べます
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<大阪市北区>
ART OSAKA 2019
【主催者によるイベント公式サイト】

主催:(一社)日本現代美術振興協会
会場:ホテルグランヴィア大阪 26F
会期:2019年7月6日(土)~7月7日(日)
原則休館日:会期中なし
入館(拝観)受付時間:11:00~19:00(7日~18:00)

※このイベントは近年、毎年7月上旬に行われています。
※入場は有料です。



◆おすすめ交通機関◆

JR「大阪」駅下車、中央改札口から徒歩1分
大阪メトロ「梅田/東梅田/西梅田」駅下車、徒歩5分
阪急電車「梅田」駅下車、徒歩7分
阪神電車「梅田」駅下車、徒歩3分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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広島県立美術館_コレクション展の魅力を上手に発信

2019年06月08日 | 美術館・展覧会

ひろしま美術館に引き続き、広島県立美術館を訪れました。展示スペースがかなり広いこともあり、たっぷりとコレクションを鑑賞することができます。全国を巡回する大型の企画展の会場としてもよく使われているようです。

  • 5,000点を超えるコレクションの特徴は、20c前半の日本と西洋の絵画+日本とアジアの工芸品
  • コレクション総選挙や子連れ向けサービスなど、公立美術館としてはマーケティングにかなり積極的
  • 隣接する浅野家の大名庭園・縮景園(しゅくけいえん)と一緒に楽しめることも大きな魅力


ひろしま美術館と並んで来館者に楽しんでもらおうと頑張っている印象を受けます。ひろしま美術館からも徒歩10分ほどです。二館はしご鑑賞をぜひおすすめします。


色絵馬、広島県美のアイドル

広島県立美術館は1968(昭和43)年に開館しました。戦前からあった東京/京都/大阪を除く、日本の公立美術館の開館時期としてはかなり早い方に属します。

美術館があるのは、広島城を本拠に42万石の大藩・広島藩を幕末まで治めた浅野家の別邸の跡地です。隣接する縮景園も浅野家別邸の庭園でした。大正時代に浅野家の伝来品を展示する美術館「観古館(かんこかん)」が造られ、昭和になって縮景園とともに浅野家から県に寄贈されます。原爆投下により建物と庭園は壊滅しますが、市民の熱意で1968年に再び美術館が復活することになります。

現在の建物は1995年に完成したものです。縮景園の豊かで美しい緑を大型のガラス壁を通じて楽しめるようになっているとともに、展示スペースもかなりゆとりができました。2Fが年4回の所蔵作品展、3Fが大型の企画展や県民の作品展の会場として使われています。


縮景園の緑のシャワーが館内にも注ぎ込む1Fロビー

2Fの所蔵作品展では「対決! 5番勝負 ―師VS弟子、東VS西…」を鑑賞しました。コレクションをジャンルごとに様々なテーマで対比させ、その魅力を比べることができる展示構成です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

第1の勝負は、入口すぐのオープン展示スペースで、地元出身の工芸家の師匠と弟子の作品の対比です。広島に漆芸のイメージは持っていませんでしたが、広島県出身の六角紫水(ろっかくしすい)が、明治に日本の漆芸を体系化した偉大な人物だったことを学べました。

第2の勝負は、西洋版画の手法、木版/銅板/リトグラフの違いによる仕上がりイメージの対比です。カンディンスキーの版画集「小さな世界」は、版画手法の違いによる仕上がりの違いを対比するには上手な展示です。

第3の勝負は、明治後期以降の「創作版画」と「新版画」の対比です。創作版画とは、作者が自ら画/彫/摺のすべてを行う作品です。新版画は、江戸時代の浮世絵のように、画/彫/摺を分業して制作する作品です。近年人気急上昇中の新版画の絵師・吉田博の作品が目につきます。瀬戸内の温和な風景はいつ見ても心が和みます。

第4の勝負は、近代日本画の師弟の対比です。広島県出身の師匠:児玉希望(こだまきぼう)と弟子:奥田元宋(おくだげんそう)の作品が注目されます。師弟関係はぎくしゃくしていたためか、師弟とは思えないほど画風が異なります。元宋の幽玄な朦朧体(もうろうたい)表現は、戦後の日本画の潮流の王道を行くものでした。

第5の勝負は、日本の工芸作家の地域性の東西対比です。この部屋には館内の随所で見かけるアイドル「伊万里柿右衛門様式色絵馬(いろえうま)」の本物が展示されています。20cmほどの小さなオブジェですが、実に元気のよい顔に造られており、見ているだけで心が明るくなります。

「伊万里色絵花卉文輪花鉢(いろえ かきもんりんかばち)」は伊万里らしい上質なデザインが秀逸です。花の赤色を華やげる青色の使い方が洗練されています。さすがの重要文化財です。


前回の所蔵作品展での人気作品総選挙結果

私が訪れた際は企画展「挑む浮世絵 国芳から芳年へ」が行われていました。幕末を描いた歌川国芳は江戸時代最後のスター浮世絵師、明治を描いた月岡芳年は最後の浮世絵と言われています。とても手の込んだ激動の時代の世相の風刺表現は感心の連続で、国芳ならではのガイコツもしっかり楽しめました。

【広島県立美術館 展覧会 公式サイト】 挑む浮世絵 国芳から芳年へ



1Fのミュージアムショップはかなり大きく、ちょっとしたお土産雑貨選びに便利です。全国の美術館や美術図書の閲覧室も充実しており、公立美術館としては集客にかなり頑張っています。鑑賞後に1Fロビーから縮景園の緑を見ると、きっと散策して見たくなるでしょう。緑に包まれた広島の街をじっくりとお楽しみください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



一人旅ガイドは出張時におすすめ
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<広島市中区>
広島県立美術館
春の所蔵作品展
対決! 5番勝負 ―師VS弟子、東VS西…
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:広島県立美術館
会場:2F展示室
会期:2019年4月17日(水)~6月30日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30(金曜~19:30)

※5/19までの前期展示、5/21以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。

※この美術館の所蔵品は、年4回の「所蔵作品展」開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

広島電鉄市内電車・白島線「縮景園前」駅下車、徒歩1分

JR広島駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:徒歩15分

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場は有料の駐車場があります。
※渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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ひろしま美術館_見事な西洋と日本の近代絵画コレクションに脱帽

2019年06月07日 | 美術館・展覧会

随分久々にひろしま美術館を訪れました。西洋と日本の近代絵画コレクションは日本有数の充実ぶりで、常設展示でいつでも鑑賞できるのが何といっても魅力です。

  • 地域最大の銀行・広島銀行によって1978年に開館、中心繁華街の紙屋町にあって交通の便が良い
  • 私立の美術館だけに近代西洋絵画の著名画家の作品が揃っており、コレクションのバランスが良い
  • 企画展はともかく、展示作品の入れ替えが少ない常設展がとても見応えがある


中四国・九州の西洋絵画コレクションは、倉敷の大原美術館と並んでひろしま美術館が双璧です。常設展でいつでも見られます。地元のみなさんはもちろん、広島を訪れた方にもぜひおすすめします。



ひろしま美術館は、広島市の中心繁華街・紙屋町交差点から北へ歩いて5分ほどのところにあり、原爆ドームから歩いても10分もかかりません。美術館の北にある広島城から平和記念公園にかけて一連の巨大な公園になっており、繁華街は近いものの緑豊かな静寂の空間の中に美術館はあります。

入口正面にある円形の本館が常設展、本館奥の別館が企画展の会場です。私が訪れた際は企画展「みんなのレオ・レオーニ展」が行われていました。イタリア系ユダヤ人で絵本作家、アート・ディレクターだったレオ・レオーニの心温まる作品が印象的でした。

【美術館による展覧会公式サイト みんなのレオ・レオーニ展】


広島城から見たひろしま美術館と高層のリーガロイヤルホテル

本館は中央に円形のホールがあり、ホールを取り囲むように4つ展示室が設けられています。公式サイトでは4つ展示室すべてが西洋絵画の展示と案内されていますが、訪問時には第4展示室が日本の近代洋画に割り振られていました。いつから変わったかは確認できていませんが、日本人洋画家の作品の人気も相当に高いと考えたのでしょう。

【ひろしま美術館公式サイト】 2019/4/10以降のコレクション展示 作品リスト.pdf

本館展示室の作品は、ほとんどが写真撮影OKです。気に入った作品を記憶にとどめるには、写真がとても有効です。鑑賞マナー共に撮影&Web公開マナーが浸透するような仕掛けが期待されます。


本館展示室(写真撮影OK)

第1展示室は、印象派、ポスト印象派、世紀末の画家の作品です。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 ゴッホ「ドービニーの庭」

展示室中央にゴッホらしい明るい緑の色彩が輝いています。ゴッホが尊敬していたバルビゾン派の風景画家・ドービニーの家を訪ねた際に描きました。ゴッホが謎の死を遂げる2週間前の作品で、どこか穏やかさを感じさせます。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 ムンク「マイスナー嬢の肖像」

「マイスナー嬢の肖像」は1907年、ムンクが精神を病んでいたころの作品です。同時代の作品に比べ凶器を感じさせる表現は見られませんが、深く沈んだ眼からは強烈な訴えがあるような複雑な心情が感じられます。

同じ部屋にはマネのパステル画の名作「灰色の羽根帽子の婦人」のほか、多くの女性像が展示されています。画家たちの個性を前にして時間の経つのを忘れそうになります。

第2展示室は、20cのフォービズム、キュビズムの画家たちの作品+ピカソです。ピカソ「女の半身像(フェルナンド)」はパリ時代の最初の恋人をキュビズム風に描いています。人物のデフォルメは極端ではありませんが、体のパーツのバランスのとり方は見事です。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 デュフィ「エプソム、ダービーの行進」

ラウル・デュフィはフォービズムの画家たちの中でも、色彩表現に透明感とリズム感があるのが特徴です。「エプソム、ダービーの行進」は画家の個性をよく表しており、上流階級の男女がファッションを競い合った競馬場の華やかな様子をリズミカルに描き出しています。

第3展示室は、エコール・ド・パリの画家たちです。フジタ「アッシジ」は晩年の作品で、イタリアの巡礼の街の風景をかなり写実的に描いています。建物の白壁の色使いが見事で、悠久の時間の流れまでも表現しているようです。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 パスキン「緑衣の女」

「緑衣の女」はパスキンがアル中で苦しんでいた頃の作品です。物憂げな女性の目は、自らの苦しみを重ね合わせて描いたのでしょうか、とても深いオーラを感じます。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 モディリアーニ「男の肖像」

「男の肖像」は一目見て誰もが「モディリアーニだ!」とわかる、人物を細長くデフォルメした典型的な作品です。体は妙にくびれているものの、構図としては絶妙にきまっています。モディリアーニが”すごい”と思えるところです。

キスリング「ルーマニアの女」も、民族衣装に身を包んだ女の挑発的にも見える目線の描き方が印象的な名品です。

第4展示室は、日本の近代洋画です。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 岡田三郎助「水辺の裸婦」

岡田三郎助が黒田清輝やフランス留学から学んだ明るい外光表現で裸婦を描いた傑作です。水辺の裸婦像はギリシア神話の題材でよく描かれますが、日本人女性が凛として立っている姿は、女神の中の女神のようにとても特別な女性に見せています。

【ひろしま美術館 公式サイトの画像】 小出楢重「地球儀のある静物」

小出楢重(こいでならしげ)の名品です。地球儀/グラス/果物/ノートと雑多に描かれていますが、静物の配置は絶妙で非常に引き締まった静物画に仕上がっています。地球儀を主役にするための入念な構図でしょう。


平和記念公園はいつも人が絶えない

本館は緑に囲まれており、明るい陽光を感じさせるような設計になっています。印象派作品に敬意を表したのでしょう。平和記念公園で原爆の悲劇についてしっかりと学ぶとともに、ひろしま美術館が誇る素晴らしいコレクションからも、近代絵画の魅力をしっかりと学ぶことができます。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



ひろしま美術館コレクションの充実ぶりがわかる
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<広島市中区>
ひろしま美術館
【公式サイト】http://www.hiroshima-museum.jp/

原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:00~16:30

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
※コレクション展示は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。




◆おすすめ交通機関◆

広島電鉄市内電車「紙屋町東」「紙屋町西」駅下車、徒歩5分
アストラムライン「県庁前」駅下車、徒歩3分

JR広島駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR広島駅→広島電鉄市内電車1/2/6系統→紙屋町東

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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大阪 国際美術館のオールスター展覧会+”抽象 ”8/4まで

2019年06月06日 | 美術館・展覧会

大阪・中之島・国立国際美術館で二つの展覧会が同時並行で行われています。ジャコメッティのブロンズ彫刻を中心に、国際美術館の主要コレクションを展開する「ジャコメッティとI」と、1980年代以降の欧米の抽象芸術にスポットをあてた「抽象世界」です。

  • 2018年に国際美術館のコレクションに加わったばかりのジャコメッティ彫刻「ヤナイハラI」が目玉
  • パスキンやフジタら、ジャコメッティが生きた時代に活躍したアーティストの所蔵品もかなりの見応え
  • 「抽象世界」では、人気復活の兆しのある”抽象”の近年の潮流を俯瞰できる


2つの展覧会で、20cアートの多様性を楽しめます。国際美術館ならではの企画です。


ジャコメッティの写真パネル(この展示室4のみ写真撮影OK)

アルベルト・ジャコメッティ(Alberto Giacometti)はイタリア系スイス人で、主にパリで創作を行いました。ジャコメッティを象徴する極端に細長く引き伸ばされた人物像の彫刻は、主に戦後に製作されています。

1956(昭和31)年~1961(昭和36)年の間に渡仏した日本人哲学者・矢内原伊作(やないはらいさく)と親交を結び、彼をモデルとした作品を多数制作しました。この展覧会の目玉作品「ヤナイハラI」はその一つで、首は細長いもののジャコメッティにしてはかなり写実的に彫像した胸像です。まっすぐに正面を見つめる顔の表情はとてもピュアに見えます。哲学者としてのまっすぐな信念を表現しているようです。

ジャコメッティと矢内原の交流と友情を物語る写真や手帖、矢内原をモデルにしたデッサン等の作品も、他館からの借用品も交えて多数展示されています。制作現場のジャコメッティの吐息が伝わってくるようです。



ジャコメッティが生きた時代に活躍したアーティストの所蔵品展示は、さながら国際美術館コレクションのオールスターです。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 佐伯祐三「バーの入口」

佐伯祐三「バーの入口」は1927年の作品で、ジャコメッティがパリで作品を発表し始めた頃の作品です。佐伯らしい荒々しいタッチでとても味のある店構えを表現しています。早世する佐伯が病に侵される直前の作品です。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 ジュール・パスキン「バラ色の下着の少女(青いブレスレットの少女)」

「バラ色の下着の少女(青いブレスレットの少女)」は、ジャコメッティがパリで創作を始めた頃、モンパルナスでパスキンが全盛期を迎えていた1924年の作品です。ゴヤの「着衣のマハ」のようなポーズで、少女がおぼろげにこちらを見つめています。その視線にはとても複雑な感情が宿っています。

フジタ「横たわる裸婦(夢)」の乳白色は変わらない輝きを見せており、同じ裸婦でもピカソ「肘かけ椅子に座る裸婦」との表現の個性の違いがとても興味深く感じられます。

ジャコモ・マンズー「枢機卿立像」は、ジャコメッティほどではないですが、かなり細長くデフォルメした彫刻です。マントで全身を覆っており、シンプルに見せることでより神格化された趣を感じさせます。

アンフォルメルの先駆者、ジャン・デュビュッフェ「愉快な夜」は、子供の落書きのように描かれており、デュビュッフェの個性が現れている典型的な作品です。国際美術館コレクションの目玉作品で、同じくアンフォルメルの先駆者、ジャン・フォートリエ「人質の頭部」も出展されています。



B3Fが「抽象世界」の会場です。展示作品は1980年代以降から現代まで、30年ほどの時間差があり、傾向の違いが見て取れます。1980年代に近い作品は、紋様のようにそもそも何を描いているのかがわからない表現が多いと感じます。アート作品としてはもちろんですが、服飾や雑貨製品のデザインに結構使えそうです。

一方現代に近い作品は、より視線が一点に集まりやすいよう意識しているのか、アイコンのようなオブジェクトを中心に作品を表現するようになっていると感じます。そのアイコンが、何を意味しているのかを観る者がより考えやすくなっています。「このピクトグラムは何を表しているのか?」という質問を投げかけられているようです。

こうしたおおまかに感じられる作風の変化に、アーティストの個性が加わってとてもアグレッシブに鑑賞することができます。現代アートは、古典アートと異なり、斬新な刺激を与えてくれる。私個人として現代アートに魅力を感じる最大の理由です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

ダーン・ファン・ゴールデン「ヘーレンルックス1」Kröller-Müller Museum蔵は1993年の作品です。赤一色で植物の種子のようなオブジェを表現しており、女性のワンピースやランチョンマットにするととても映えます。

ラウル・デ・カイザー「お化け」個人蔵は2007年の作品です。白い背景に黒いシルエットが描かれており、タイトルからするとそれが”お化け”です。お化けに見えるかは生まれ育った国の文化によってかなり異なるでしょう。私はタイトルを見る前には「ゴジラ」に見えました。

スターリング・ルビー「ACTS/SPLITTTTTTING」は2018年の作品です。まばゆく輝くアルミニウムの箱をずらして積み重ねており、こちらも実に多種多様な見え方がすると思われます。タイトルからは全く推測不能です。とても存在感のある作品です。


国際美術館の北隣、大阪中之島美術館の建設工事が始まった

「ジャコメッティと I」が終了後まもなく「ジャコメッティと II」が8/27~12/8の期間で始まります。より現代に近い国際美術館の所蔵品が中心になります。

同期間のB3Fでは、現在東京・国立新美術館で開催中の「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」が巡回してきます。2019年秋の関西の西洋絵画の展覧会を代表するビッグネームです。

【主催メディアによる展覧会公式サイト】 ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



国立美術館公式ガイドブックが刊行されました
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<大阪市北区>
国立国際美術館

コレクション特集展示
ジャコメッティと I
【美術館による展覧会公式サイト】 ジャコメッティと I
会場:B2F

抽象世界
【美術館による展覧会公式サイト】 抽象世界
会場:B3F

※「抽象世界」のチケットで「ジャコメッティと I」をあわせて鑑賞できます。

●両展覧会共通
主催:国立国際美術館
会期:2019年5月25日(土)~8月4日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30(金土曜~19:30)
※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※今後他会場への巡回はありません。

※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていますが、企画展開催時のみ鑑賞できます。



◆おすすめ交通機関◆

京阪中之島線「渡辺橋駅」下車徒歩5分、大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車徒歩10分、
JR環状線・阪神本線「福島駅」・JR東西線「新福島駅」下車徒歩10分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:20分
JR大阪駅→大阪メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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驚きの吉野石膏コレクション_兵庫県美「印象派からその先へ」7/21まで

2019年06月05日 | 美術館・展覧会

タイガーボードのTVCMで知られる建材メーカー・吉野石膏(よしのせっこう)。日本有数の印象派コレクションを積み重ねていることは案外知られていません。そんな稀有のコレクションを大々的に披露する展覧会「印象派からその先へ」が、兵庫県立美術館で始まっています。

  • 吉野石膏コレクションの二本柱の一つ・印象派を中心とする近代西洋画が一堂に会する
  • 前衛からエコール・ド・パリに至る作品もきちんとカバーされており、近代西洋画の流れが俯瞰できる
  • 1980年代からと蒐集時期が早くないものの、ぶれのない審美眼は素晴らしい


吉野石膏の地元・山形県に普段展示されている印象派の名品が、日本の中心大都市圏・東阪名を巡回しています。「よくぞ集めた」と、きっと驚かれることでしょう。



吉野石膏は1901(明治34)年に山形県で創業し、石膏を用いた建材で業界最大手のメーカーです。石膏ボードは、耐火性に優れていることから建物の壁や天井に幅広く用いられています。水に溶けるとすぐに凝固し、繊細な表現ができることから、彫刻やアロマの材料としても石膏は馴染まれています。

コレクションは、1970年代からの近代日本画、1980年代後半から西洋近代絵画の蒐集で形成されています。近代の日本で美術品が大量に流通し、入手する絶好の機会となった明治維新/戦後という二大チャンスで入手したものではありません。昭和の高度経済成長の後に蒐集を始めたものです。美術品のコレクターとしては後発組ですが、バブル経済に踊らされることなく脈々と蒐集と保持を続けていることが称賛されます。


3F展覧会場の入口

展覧会は時代に応じた3章から構成されます。1章は印象派とポスト印象派の画家たちです。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 シスレー「マントからショワジ=ル=ロワへの道」

もっぱら風景画を描き、明るい陽光に基づく印象派表現の王道を歩んだシスレーの初期の作品です。大きな青空の下、馬車が田舎道を進んでいます。道幅はかなり大きく開放感があります。シスレー作品は計6点が出展されており、吉野石膏の印象派コレクションでも中核を成しているように感じられます。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルノワール「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」
【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルノワール「森の散歩道(ル・クール夫人とその子供たち)」

計6点が出展されているルノワールも、シスレーと並んで見事なラインナップです。「シュザンヌ・アダン嬢の肖像」は、チラシなど展覧会PRの主役に採用されています。瞳を大きめに描いて目立たせるルノワールらしい肖像画です。より明るく見えるパステル画の効果を活かし、裕福な家庭の少女を幸福感あふれんばかりに描いています。

同じモデルのよく似たポーズの作品は、アーティゾン(旧:ブリヂストン)美術館も所蔵しています。

「森の散歩道(ル・クール夫人とその子供たち)」は、散歩する母子を意識的に小さく描き、森の中を進む道にあふれる緑のイオンを強調しています。とてもしとやかな作品です。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 カサット「マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像」

アメリカ人女流画家・カサットらしい写実的な表現が美しい女性の肖像画です。犬を抱いて座る、黒い瞳と黒い髪が印象的な裕福な女性の日常の一瞬を、見事に表現しています。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ピサロ「モンフーコーの冬の池、雪の効果」

ピサロもまとまって6点が出展されています。「モンフーコーの冬の池、雪の効果」は明るいタッチが多い印象派作品の中で、冬の薄暗い風景を描いていることが目を引きます。ピサロが影響を受けたバルビゾン派のように、農村の風景を素朴に描いているところにこの作品の個性を感じます。

2章のタイトルは「フォーヴから抽象へ」、世紀末の時代の画家たちの作品です。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 マティス「白と緑のストライプのブラウスを着た読書する若い女」

色彩の魔術師・マティスが、フォービズム的な荒々しい表現ではなく、おとなしく写実的に描いているところが魅力的な作品です。白と緑のストライプの衣装のデザインはとても斬新です。バチカンの衛兵の制服のように、とてもかっこよく見えます。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ルソー「工場のある町」

「工場のある町」は、ルソーらしい不思議な風景画です。魚眼レンズで見たように地平線が歪曲されて描かれています。タイトルにある工場がどこにあるのか一見わからないところが、ルソー一流の創作です。

3章は「エコール・ド・パリ」です。両大戦間のひと時の平和な時代の空気を描いた名品が並んでいます。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 ユトリロ「サン=ベルナール(アン県)の家並」

エコール・ド・パリ時代を代表する画家・ユトリロの名品もきちんとコレクションされています。「サン=ベルナール(アン県)の家並」は、アル中でもあった「白の時代」の後の作品です。白の表現から一皮むけた円熟味を感じさせる名品です。写実的な構図も心の落ち着きを感じさせます。

【吉野石膏美術振興財団 公式サイトの画像】 キスリング「背中を向けた裸婦」

ポーランド人のキスリングが描いた「背中を向けた裸婦」は、アングルが描く裸婦の背中を思わせる作品です。女性の割には腕や肩の筋肉をしっかりと描いており、男性的に理想化された艶めかしさだけを強調しない表現が目を引きます。



私は山形美術館を訪れたことがないことはなく、この展覧会を見るまでは、吉野石膏コレクションについては存在することくらいしか知識がありませんでした。バブル経済期の一貫した審美眼のないコレクションでは? という”うがった”イメージを持っていたことは事実です。

展覧会を見終わって、こうした”うがった”イメージは一変しました。「よくぞ集めた」と驚きました。

吉野石膏コレクションは、多くが地元の美術館に寄託されています。西洋近代絵画は山形美術館、日本近代絵画は天童市美術館です。日本は地方にもすぐれた作品が多数あります。山形県に訪れた際はぜひ足を運んでみてください。

【公式サイト】 山形美術館
【公式サイト】 天童市美術館

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


<a href="https://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%A7%E8%A6%8B%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E5%8D%B0%E8%B1%A1%E6%B4%BE%E3%81%AE%E5%90%8D%E7%94%BB%E7%BE%8E%E8%A1%93%E9%A4%A8%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%96%E3%83%83%E3%82%AF-%E5%B0%BE%E8%97%A4-%E8%A1%A1%E5%B7%B1/dp/4780409144/ref=as_li_ss_il?_encoding=UTF8&qid=1559865260&sr=8-14&linkCode=li3&tag=86muni05-22&linkId=b2d4dc172d79097f0b3edbb0551f3c6f&language=ja_JP" target="_blank"><img border="0" src="//ws-fe.amazon-adsystem.com/widgets/q?_encoding=UTF8&ASIN=4780409144&Format=_SL250_&ID=AsinImage&MarketPlace=JP&ServiceVersion=20070822&WS=1&tag=86muni05-22&language=ja_JP" ></a><img src="https://ir-jp.amazon-adsystem.com/e/ir?t=86muni05-22&language=ja_JP&l=li3&o=9&a=4780409144" width="1" height="1" border="0" alt="" style="border:none !important; margin:0px !important;" />
日本は世界屈指の印象派所蔵国かも。
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<神戸市中央区>
兵庫県立美術館
特別展
印象派からその先へ -世界に誇る吉野石膏コレクション
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:兵庫県立美術館、神戸新聞社、MBS、共同通信社
会場:展示棟3F 企画展示室
会期:2019年6月1日(土)~7月21日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※この展覧会は、2019年5月まで名古屋市美術館、から巡回してきたものです。
※この展覧会は、2019年10月から三菱一号館美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「岩屋」駅下車、徒歩8分
JR神戸線「灘」駅下車、南口から徒歩12分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR大阪駅(阪神梅田駅)→阪神電車→岩屋駅

【公式サイトのアクセス案内】

※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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曜変だけではない!藤田美術館展が後半戦_奈良国立博物館 6/9まで

2019年05月17日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館の「藤田美術館展」が後期展示に入っています。会期後半になるにつれ「世界に3つしかない」のコピーが効いているのでしょう、曜変天目を求めて人波は増しているようです。

  • 後期展示では国宝「紫式部日記絵詞(えことば)」にまずは注目、保存状態が良く彩色がとても美しい
  • 重文「春日明神影向図(えこうず)」など、宗教画コレクションの充実度はさすが
  • 最大の目玉「曜変天目」は通期展示、何度見ても”世紀の大珍品”とうならさられる


藤田美術館は国宝・重文はもちろん、名品があまりに多すぎて前後期に分けないと展示しきれないくらいの充実したコレクションを所蔵しています。前後期、2回行く価値があると思います。



展示第1章「曜変天目茶碗と茶道具」は展示品の入れ替えはありません。「交趾大亀香合」「古伊賀花生 銘 寿老人」の輝きには前期に引き続き着実に足を止められます。展示室が特別にしつらえられた「曜変天目」を見る行列は、前期訪問の際よりかなり長くなっている印象を受けました。

曜変は、最前列ではなく後方からでよければ、ほぼ待ち時間ゼロで見ることができます。行列して最前列で見た後に、行列せずに後方から見るのがおすすめです。視線の角度が異なり、曜変の異なる表情が見えるからです。藤田美術館の曜変は、静嘉堂文庫蔵のものほど瑠璃色に輝く紋様が派手ではありません。より幽玄に感じられることが藤田の曜変の個性です。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「雪舟自画像(模本)」

曜変の特別展示室の前に、ひっそりとどこかで見たことがある肖像画が佇んでいます。重文「雪舟自画像(模本)」です。禅宗の頂相のように、師が跡を継ぐ弟子にその証として与えた自画像を、落款も含めて別人が模写したものと考えられています。

法衣を身に付けていますが、中国の禅僧の帽子をかぶっているところが、日本の禅僧の頂相には見られない描写です。雪舟が絵師としてのイメージを強調するように描いたのだろうと感じられます。筆線は繊細で、とても柔和で落ち着いた表情にまとめられています。模写であっても、室町時代の肖像画の傑作であることは間違いありません。


鹿が店内の様子に興味津々

第3章「物語絵と肖像」では、国宝「玄奘三蔵絵」が前期から場面を替えて展示されています。高僧の絵伝としては日本最高クラスの傑作です。王朝文学の絵巻とはモチーフや雰囲気が異なりますが、表現力には目を見張るものがあります。「紫式部日記絵詞」とぜひ見比べてみてください。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「紫式部日記絵詞」

国宝「紫式部日記絵詞」は鎌倉時代の作品で、平安時代の絵巻に比べ描かれた画面が大きくなっています。人物の動きには躍動感があり、引目鉤鼻(ひきめかぎはな)の目の描写は豊かになって、各人物の表情の個性までも見て取ることができます。絵具の質も上がったのでしょう、彩色は綺麗にのこり、平安時代の絵巻よりも明らかに進歩していることがうかがえます。

日本の古典の絵巻は、時間の積み重ね/保存状態のよさ/表現の美しさのバランスは、鎌倉時代のものが一番とれていると感じられます。

重文「春日明神影向図」は、鎌倉時代末期の宮廷絵所(えどころ)・高階隆兼(たかしなたかかね)の作品です。同じく隆兼の作品と考えられている「玄奘三蔵絵」のように、豊かな色使いが目を引きます。春日明神がドラマチックに牛車から姿を現さんとする神々しい様子が、今見ても見事に伝わってきます。


5月の奈良は遠足シーズン

第4章「仏像」も長期展示に耐えやすい美術品です。前後期で入れ替えはありません。

【展覧会公式サイトの画像】 快慶「地蔵菩薩立像」

快慶「地蔵菩薩立像」は像高60cmほどの小像ですが、展示室入口正面でひときわ輝いています。興福寺に伝来した晩年の作品で、優美で洗練された快慶の表現が円熟味を増しています。美しくのこる彩色も制作当初のもので、長年秘仏として光をあてずに伝えられてきたものでしょう。

快慶「地蔵菩薩立像」の裏には、こちらもいかにも快慶の洗練された表現を感じさせる美仏「阿弥陀如来立像」がいらっしゃいます。こちらは快慶真作とは断定されていないようです。快慶が最も得意とした像高1mほどの三尺阿弥陀像で、極楽浄土へ導いてくれる仏の表情としては最も完成されていると思えてなりません。藤田平太郎が山県有朋から入手したもので、椿山荘に置かれていました。

著名な京都の六波羅蜜寺のものとそっくりな「空也上人像」も、その奇異なポーズからとても目立っています。イギリス王室所蔵の写真から、奈良の隔夜寺(かくやでら)にあった像である可能性が高いことが会場内で紹介されています。

【展覧会公式サイトの画像】 「花蝶蒔絵挾軾」

工芸品では国宝「花蝶蒔絵挾軾(かちょうまきえきょうしょく)」が不思議なオーラを放っています。挾軾とはひじをもたせかけて休む肘掛のことです。蒔絵では最古クラスの平安時代前期の作品で、正倉院の宝物のような風格をたたえています。

一見全面黒漆塗りに見えますが、よく見ると金やすずで表現された紋様はとても高貴な印象を受けます。桃山時代の作品のように光に反射して艶やかに見せる技術が未発達だったのです。

奈良・薬師寺・休ヶ岡八幡宮の伝来品と考えられています。藤田美術館の館長がセミナーで「一見真っ黒にしか見えないこの作品を見た来客の誰もが国宝とは信じてくれなかった」と話していたことを思い出し、思わず笑みがこぼれました。

藤田美術館は江戸時代の作品は少なめですが、所蔵しているものはさすがです。尾形乾山作/尾形光琳画「銹絵絵替(さびええがわりかくざら)角皿」は、角皿の淵を立てて額縁のように見せており、実用ではなく鑑賞用に造られた作品でしょう。

光琳が、色を使わず水墨画のように花鳥を中心としたモチーフを統一された趣で描いていることから、全部並べてみるととても引き締まって格好よく見えます。10枚一組の作品ですが、箱の裏書によると元は20枚あったようです。



この展覧会開催のきっかけとなった藤田美術館の建て替えにあたって、建て替え資金獲得を目的に2017年に行われたオークションでの売立が静かな話題になっていました。

【藤田美術館公式サイト】 ART TALK 山口桂さん

美術館が、リニューアル資金の獲得を目的に所蔵品をオークションにかけることは、欧米では一般的です。日本ではこの手法は一般的ではありませんが、売却品の質の高さから予想を大きく上回る高額でオークションが成立しました。売却されたのは中国美術です。

オークションを手掛けたクリスティーズ社の山口桂氏は、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」でも紹介された、現代の最先端の”美術商”です。

オークションと言うと、日本人はすぐに”海外流出”という負のイメージを抱きがちです。オークションは、流通することで新たなコレクションが形成される道筋を付ける場になっています。オークションが、美術品を大切に保存してくれる安住の地を見つける機会として、これからも機能し続けることを願ってやみません。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


近代数寄者系美術館のコレクション展に行きたくなる

________________

<奈良県奈良市>
奈良国立博物館
特別展
国宝の殿堂 藤田美術館展
-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良国立博物館、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKプラネット近畿
会場:東新館・西新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金曜~18:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<大阪市都島区>
藤田美術館
【公式サイト】 http://fujita-museum.or.jp/
※2022年3月までの予定で、リニューアル工事のため休館中です。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


________________

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京都 承天閣美術館のコレクション展に行こう! 9/16まで

2019年05月14日 | 美術館・展覧会

京都・承天閣美術館で、新天皇の即位を祝う”言祝ぎ(ことほぎ)”をテーマに質の高い所蔵品を選りすぐった展覧会「言祝ぎの美」が行われています。京都らしく、いにしえの王朝文化をたっぷり味わうことができる構成にしあがっています。

  • ”言祝ぎ”とは言葉に出して祝うコト。言葉に出さない意思表示を好んだ日本文化の中では特別な”コト”。
  • 新天皇即位は特別な”コト”の筆頭格、今に伝わる美術品からその特別感を感じることができる
  • 他館から借りものに頼らず、所蔵品だけで見事に展覧会を構成できるこの美術館の実力がわかる


承天閣美術館は、他館から借りた作品を中心に構成する企画展ではなく、自館所蔵品で構成するコレクション展を軸に回しています。自館コレクションだけで日本の古美術品の展覧会を回せるのは、東京では東博/根津/出光/静嘉堂/五島、関西では京博/細見/藤田/大和文華館くらいです。


美術館入口の新緑のシャワー

今回の展覧会は、この美術館のイメージが強い禅宗美術や若冲作品よりも皇室ゆかりの美術品が中心です。高僧の肖像画である・頂相(ちんそう)や高僧の書・墨蹟(ぼくせき)は少なめですが、天皇の手紙・宸翰(しんかん)は多めです。

【承天閣美術館公式サイトの画像】 伝徽宗「白鷹図」鹿苑寺蔵

第一展示室の初めから”言祝ぎ”にふさわしい名品が登場します。北宋最高の芸術家であった8代皇帝・徽宗(きそう)筆と伝わる「白鷹図」です。白い鷹というモチーフそのものが高貴な趣を見事に伝えており、北宋の院体画らしい写実的で品格のある画風が強いオーラを放っています。大空を飛び立たんとする白い鷹を新天皇にたとえることができます。

徽宗は、日本では平安時代後期に院政を始めて絶大な権力をふるった白河上皇とほぼ同じ頃が治世でした。日本の室町幕府8代将軍・義政に例えられるように、芸術では一流でも政治では無能と評される皇帝です。徽宗の治世下で満州族の金によって国を滅ぼされますが、徽宗の親族が南に逃れて南宋を建国したことで中国全土は安定します。

南宋は日本から多数の留学僧を受け入れ、鎌倉新仏教の興隆を刺激します。大仏様や禅宗様などの建築様式、喫茶の習慣、天目茶碗や水墨画といった最先端文化を留学僧が持ち帰ったことで、今に伝わるかけがえのない文化財や美術品を異国・日本でのこすことになります。徽宗は結果的に亡国の主となることで過去のしがらみを一掃し、中世の文化面での日中交流の橋渡しに絶大な功績を残すことになった人物と解釈することもできます。

相国寺は足利幕府の本家本流の寺です。歴代の足利将軍が相国寺/鹿苑寺/慈照寺を舞台に御物コレクションを形成し、日本文化に与えた徽宗の影響力を最も伝える寺でもあります。そんな相国寺に伝わる”言祝ぎ”にふさわしい数々の名品は、やはり格別な趣があります。



狩野常信(かのうつねのぶ)「源氏物語図屏風」は、狩野派作品ではあまり見かけない、やまと絵表現が美しい屏風作品です。常信は探幽の甥で4代将軍家綱の御用を務めたように探幽の次の世代の狩野派をリードした絵師でした。

源氏物語のような古典をモチーフにした絵は、江戸時代の初めに流行したため多くの作品がのこされています。その中でこの作品は、六曲一双屏風の大画面を活かし、寝殿造りの御殿と庭を借景の山を含めて雄大に描いています。屏風でも場面の一瞬をとらえて比較的狭い範囲が描かれることが多い源氏物語では珍しい構図でしょう。

江戸狩野らしい古式にとらわれない発想を「感じさせる作品です。I期6/23までの展示です。

【承天閣美術館公式サイトの画像】 伊藤若冲「葡萄小禽図」
【承天閣美術館公式サイトの画像】 伊藤若冲「月夜芭蕉図」

第二展示室では、常設展示の若冲の襖絵がいつものように観る者の心を落ち着かせてくれます。モチーフとして動物が目立つように描かれておらず、大きな余白を活かした構図が、若冲作品としては意外で目を引きます。無名の若冲が鹿苑寺の襖絵の作者に抜擢された、記念碑的作品でもあります。

円山応挙「七難七福図巻」は、七難と七福に遭遇する様子を平安貴族になぞらえて描いています。応挙の重要なパトロンだった円満院(えんまんいん)の門跡・祐常の発願で描かれた作品と考えられており、応挙作品では珍しくやまと絵風です。三井家をはじめとする裕福な町衆から高貴な門跡まで、クライアントの好みに応じた表現を見事に使い分けることができた応挙の腕のすごさを実感させてくれます。

「七難七福図巻」は重要文化財で、応挙の代表作の一つであると言えるでしょう。第二次大戦後に円満院から萬野美術館が入手し、2004年から相国寺の所蔵となっています。「孔雀牡丹図」「瀑布図」と並ぶ、相国寺所蔵の応挙の名品です。承天閣美術館は若冲だけではありません。


相国寺 庫裏

承天閣美術館のコレクション展はいつ見ても感心します。相国寺・鹿苑寺・慈照寺伝来品はもとより、萬野美術館のコレクションが加わったことが何といっても奥を深くしています。

「言祝ぎの美」展も、7/6からにII期展示では明の花鳥画の傑作「鳳凰石竹図」が登場します。「白鷹図」と並んで帝王を祝うにふさわしい名品です。

【承天閣美術館公式サイトの画像】 林良「鳳凰石竹図」

承天閣美術館、あえてコレクション展を訪れてみてください。


苔が美しい美術館参道の庭

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


日本人はなぜ舶来品が好きなのか?

________________

<京都市上京区>
相国寺 承天閣美術館
言祝ぎの美 -寺宝でつづる吉祥
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:相国寺承天閣美術館、日本経済新聞社
会期:2019年4月6日(土)~9月16日(月)
原則休館日:展示替え期間(6/24~7/5)以外会期中無休
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※6/23までのI期展示、7/6以降のII期展示で一部展示作品が入れ替えされます。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄烏丸線「今出川」駅下車、3番出口から徒歩10分
JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:25分
京都駅→地下鉄烏丸線→今出川駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。


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日本最大級の河井寛次郎コレクションが京都国立近代美術館で公開中 6/2まで

2019年05月11日 | 美術館・展覧会

昭和を代表する名陶工・河井寛次郎(かわいかんじろう)の、日本最大級のコレクションを所蔵する京都国立近代美術館で、そのコレクションを大々的に披露する展覧会が行われています。2016年の没後50年を機に、日本各地で行われてきた回顧展のフィナーレを飾るにふさわしい見事な展示が行われています。

  • 日本最大級の寛次郎コレクションは、高島屋重役の川勝堅一(かわかつけんいち)の寄贈
  • 寛次郎と川勝の生涯にわたる友情を軸に展覧会が構成されている。
  • 「民芸」に深く傾倒した寛次郎作品は、芸術と実用のバランスが見事でどれも生き生きとしている


寛次郎の色使いのマジックは、たゆまない科学的な研究の成果に基づいています。そんな努力が作品からはひしひしと伝わっています。上流階級が茶の湯で愛した陶磁器からは感じることができない、素朴な魅力にあふれています。



寛次郎は1890(明治23)年に島根県に生まれ、現在の東京工業大学の前身となる学校で窯業を学びました。師事して教えを乞うのではなく、学校で学んで芸風を確立した新世代の芸術家でもありました。

1921(大正10)年に高島屋で行われた展覧会に出展した際に、寛次郎は生涯の友となる2歳年下の川勝、当時の高島屋東京店の宣伝部長と出会い、意気投合します。寛次郎の陶芸活動初期の大正時代は、中国の古陶磁の名品を理想として、超絶技巧を活かしたような華麗な作品を主に制作していました。

同じ頃、これまた寛次郎の人生を大きく変える人物と出会います。早くから民芸の魅力に注目していた柳宗悦(やなぎむねよし)と濱田庄司(はまだしょうじ)です。朝鮮やイギリスの生命感あふれる陶芸品を紹介され、作風を大きく転換していくことになります。

1926(大正15)年に柳/濱田とともに発表した日本民芸美術館設立趣意書は、1936(昭和11)年になって日の目を見ます。東京・駒場に「日本民藝館」として開設され、日本と世界御民芸の魅力を発信する拠点として現在まで、内外の多く人たちから愛され続けています。


館内より、琵琶湖疎水の新緑が美しい

出展作品ほとんどが京近美の川勝コレクションで構成されており、約270点もあるかなりのボリュームです。一部作品は河井寛治郎記念館の所蔵品です。記念館は寛次郎が永らく工房&自宅として使用していた建物を展示施設にしたもので、京都の清水寺の近く・五条坂にあります。

【公式サイト】 河井寛治郎記念館

展覧会は4つの章で構成されています。序章は「川勝コレクションの名品」で、寛次郎の名品を生涯にわたって俯瞰することができます。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 「黄釉筒描花鳥文扁壺」

1952(昭和27)年「黄釉筒描花鳥文扁」は、古代ギリシアを思わせるデザインが魅力的です。芸術と実用性のバランスがとても優れています。花を生ければさぞかしエキゾチックに映えるだろうと感じられます。

【展覧会公式サイト 鑑賞ガイド.pdf】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

1962(昭和37)年「三色打薬扁壺」は、三色の釉薬を陶器の地肌に打ちつけて色彩を表現しています。洗練された琳派のようなデザインを思わせます。”打ちつけた”結果、偶然現れたものとは思えない名品です。


展示室の様子(写真撮影OK)

続く1章から3章は時代順に展示が進んで行きます。寛次郎の作風の変化をきちんと理解しながら鑑賞することができます。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 「三彩双魚文壺」

民芸に目覚める前の作品は多く印象に残ります。1922(大正11)年「三彩双魚文壺」は、中国の唐三彩に学んだ黄色を中心とした華やかな表現が行われています。若いエネルギーにあふれる頃の作品ですが、華やかな中にも器としての落ち着き感がきちんと表現されています。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 「白地草花文皿」

1925(大正14)年「白地草花文皿」は、朝鮮白磁の影響でしょうか、とてもシンプルなデザインにどこか控えめに草花を描いています。民芸の表現を模索していた時代の作品の典型ですが、控えめな花がとても印象に残ります。素朴さとダイナミックを両立させた表現が特徴的な寛次郎作品の中で、非常に稀有な印象を与えます。

【国立美術館所蔵作品総合目録検索システムの画像】 「流描き鉢」

1930(昭和5)年「流描き鉢」では、ダイナミックなデザインに目覚めたことを感じさせます。力強い流れるような紋様のこの鉢で、黒蜜のところてんを食べると、とてもおいしそうです。

1957(昭和32)年「呉須筒描陶板「手考足思」」は、若い頃から好んだ「書」を陶芸に取り入れた作品です。「手で考えて、足で思う」と書かれています。晩年の寛次郎の陶芸に対する境地を表しているのでしょう。



寛次郎の創作に影響を与えたバーナード・リーチや富本憲吉、浜田庄司の作品も展示されています。寛次郎作品と比較することで、寛次郎の作風の変化の理解を後押ししてくれます。

寛次郎や民芸の魅力をさらに高めてくれる展覧会です。新緑が美しい京都・岡崎へお出かけください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


展覧会に出展されなかった名品も確認できます

________________

<京都市左京区>
京都国立近代美術館
京都新聞創刊140年記念
川勝コレクション 鐘溪窯 陶工・河井寬次郎
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立近代美術館、京都新聞
会場:3F展示室
会期:2019年4月26日(金)~6月2日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。
※この展覧会は、非営利かつ私的使用目的でのみ、撮影禁止作品以外の会場内の写真撮影が可能です。
 フラッシュ/三脚/自撮り棒/シャッター音と動画撮影は禁止です。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、1番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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京都 細見美術館コレクションの原点が一堂に_若冲はいつも素晴らしい 6/16まで

2019年05月10日 | 美術館・展覧会

京都・細見美術館で、館蔵コレクションの名品を選りすぐった展覧会「美の饗宴 若冲と祈りの美」が行われています。館のコレクションの二大潮流を成す伊藤若冲と仏教美術という、かなり色合いの異なるコレクションが並んで展示されますが、いずれも館のコレクションの原点となる思い入れの深いジャンルです。

  • 若冲「糸瓜群虫図」ほか細見コレクションを代表する名品が勢揃い
  • 仏教美術と若冲は、細見コレクションを形成した初代と二代がそれぞれ注力した蒐集ジャンル
  • 細見美術館の原点に立ち返るような構成で、令和の幕開けを飾る


色合いの異なるジャンルが並列されますが、展示順やフロアの違いが充分に配慮されており、違和感はゼロです。いつも感心しますが、展示構成が上手な美術館です。


ミュージアムショップ「ARTCUBE SHOP」

細見美術館は京都・岡崎に1997年にオープンしていますが、コレクションの蒐集は戦後にさかのぼります。大阪・泉大津の毛織物事業で財を成した初代・細見良は、仏教美術を手始めに中世絵画や茶の湯美術を主に収集しました。良の子の二代・實は、主に江戸絵画を蒐集します。實の子で現館長・良行は、祖父と父の蒐集方針の反りは全く合わなかったものの、伊藤若冲だけは唯一好みが合ったと語っています。

1950年代に若冲は、現在では考えられませんが、ほとんど忘れられていた画家でした。細見良やジョー・プライスら、ごく限られたコレクターが若冲作品を収集していた程度でした。若冲だけでなく江戸絵画全般に注目度は高くなく、美術と言えば圧倒的に西洋絵画の方が人気があったのが、昭和の高度経済成長の時代でした。

細見良・實二代が若冲と江戸絵画に早くから注目していたことは、今となっては「先見の明があった」と称賛することはできますが、典型的な結果論でもあります。細見美術館の素晴らしい江戸絵画のコレクションはひとえに、良・實二代が若冲と江戸絵画をとても愛していたことにほかなりません。

先見の明だけではこれだけの質と量の蒐集はできません。注目度が低かったゆえに作品が流通し、蒐集がしやすかったという時代環境も幸いしたことでしょう。



細見美術館の展示室は、入口の1FからB2Fまでおりる3フロア構成です。展覧会は若冲の六曲一双(ろっきょくいっそう)屏風3作品から始まります。

「花鳥図押絵貼(かちょうずおしえばり)屏風」は、隣り合う2面をペアにして同じ動植物を描いた屏風です。「押絵貼」とは、屏風の各曲毎に淵を描き、独立した絵が”貼られて”いるように見せる手法です。曲をつなげて連続して描くわけではないため、モチーフや構図の変化と表現の統一感のバランスが求められます。

第一印象として表現にバラバラ感がないのは、さすがに若冲です。得意な鶏を含め六種類の動植物を、墨だけで描いて圧倒的な生命感を表現しています。画業初期の作品と見られており、若冲の才能を見事に感じさせる名品です。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

一つ下のフロアも若冲作品です。このフロアも細見美術館が誇る著名な若冲作品が多く展示されています。見た記憶がある作品も多いことでしょう。

「雪中雄鶏(せっちゅうゆうけい)図」は、現在知られる若冲の画業最初期、三十代半ばの作品です。雪や鶏の羽のタッチに若さが感じられますが、最高傑作「動植綵絵」の流れるような表現を彷彿とさせます。若冲ワールドの原点となる記念碑的作品です。

「糸瓜群虫(へちまぐんちゅう)図」は、ヘチマの周囲に多種の虫が群がる様子を描いており、ヘチマの緑色の美しさが際立ちます。虫はまるで動き出すかのように本物そっくりに細い手足が表現されており、若冲の表現技術の高さを象徴するような作品です。ヘチマは実物以上に長く強調されて描かれていますが、それが構図の絶妙なバランスを演出しています。

若冲の繊細な表現技術を説明するために、この作品からは「若冲はこの中に何匹の虫を描いたでしょう」とよく問題が出ます。ほとんどの人は答えられません。正解は11匹です。

「海老図」「仔犬に箒図」「伏見人形図」といったおなじみの”ほっこり”作品も登場しています。何回見ても決して飽きることはありません。六曲一双の「遊鶏(ゆうけい)図押絵貼屏風」も目を引きます。こちらは弟子・若演(じゃくえん)の作品です。12面とも鶏を描いていますが、それぞれ鶏の動きがダイナミックで滑稽です。師の若冲との個性の違いをとても楽しく鑑賞できます。


茶室・古香庵は2F、東山の眺めが美しい

最後のB2Fが仏教美術と茶の湯美術の展示です。若冲の華やかで卓越した作品を見た後に、心が洗われて引き締まるような気分になります。しゃきっとした心で、最後に設けられたミュージアムショップ「ARTCUBE SHOP」で様々なオリジナルの雑貨を楽しむことができます。

「刺繍大日如来像」は、鎌倉時代の作品ですが、保存状態が極めてよいことが特筆されます。発色や金具が制作当初からそのまま残されていると考えられています。背景の青い刺繍は、イスラム寺院の吸い込まれるようなブルーのモザイクのように、見事な輝きを放っています。昨年2018年夏の奈良国立博物館の展覧会「糸のみほとけ」に出展され、輝いていたことをはっきりと記憶しています。重要文化財です。

重要文化財「線刻十二尊鏡像」のきわめて繊細な彫刻も目を引きます。一流の職人がが本当に心を込めて造っていた様子が今にも伝わってくるようです。


平安神宮、令和が始まった

細見美術館での若冲作品の本格的な登場は、昨年2018年初の「はじまりは、伊藤若冲」展以来となります。新緑が美しい京都・岡崎の風景とあわせてお楽しみください。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。


細見美術館の江戸絵画を余すところなく紹介(日本語の本です)

________________

<京都市左京区>
細見美術館
美の饗宴 若冲と祈りの美
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:細見美術館 京都新聞
会期:2019年4月27日(土)~6月16日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

地下鉄東西線「東山」駅下車、2番出口から徒歩10分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:35分
JR京都駅→地下鉄烏丸線→烏丸御池駅→地下鉄東西線→東山駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※道路の狭さ/渋滞/駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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