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後期も高山寺の国宝が続々_大阪 中之島香雪美術館「明恵」展 5/6まで

2019年04月19日 | 美術館・展覧会

さりげなく鳥獣戯画が展示されている大阪・中之島香雪美術館の「明恵(みょうえ)の夢と高山寺」展が、後期展示に切り替わりました。

  • 後期の目玉は国宝の明恵上人像と仏眼仏母像、高山寺所蔵品で驚くのは鳥獣戯画だけではない
  • 鳥獣戯画の後期は丙丁巻、人間が戯れる描写が中心で。鳥獣以上にアニメの原点を感じさせる


高山寺は神護寺と並んで京都西北の山中にあり、日本有数の質の高い文化財を所蔵する寺です。神護寺は毎年5月に虫干しで所蔵文化財が定期公開されますが、高山寺はそのような定期公開は行っていません。鳥獣戯画を含め、高山寺所蔵品がこれだけまとまって見られる次の機会は、数年以上先になることはほぼ確実です。



混雑を避けるべく平日の午後に時間を捻出して訪れましたが、行列はゼロ。前期の訪問の時と同じく拍子抜けしました。展覧会のタイトルに「鳥獣戯画」の4文字が含まれていないだけで、前回公開された京都・東京・九州の各国立博物館の数時間待ちの大行列とはこれだけ違うのかと痛感します。

タイトルの付け方で人の入りが全然違ってくることは、ビジネスではもはや常識ですが、タイトルだけで瞬時に価値を判断されてしまうネット時代の怖さのようなものも感じます。一方で人が少ないと、いかに快適に鑑賞できるかという価値も同時に痛感します。

私は、主催者があえて「鳥獣戯画」をタイトルに入れなかった、と推測しています。人の入りは少なくなりますが、快適な鑑賞環境の提供と観客の体熱の作品への影響を考えると、正しいやり方だったと感じています。

昨年秋の上野のフェルメール展でも、完全時間指定制で行われ、とてもスムースだったと聞いています。世界的に人気スポットに観光客があふれかえるオーバー・ツーリズムが深刻です。日本の文化財の展示施設も、時間指定制による混雑緩和を積極的に進める必要性が高いと感じます。



【高山寺公式サイト】ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

後期の展示のトップバッターは、高山寺の至宝の一つ・国宝「明恵上人樹上坐禅像(みょうえしょういんじゅじょうざぜんぞう)」です。高山寺の実質的な開基である明恵が、二股に分かれた木の枝に坐禅しています。

空中に浮いているようにも見え、軽妙ながらもどこか神秘的です。ストイックなまでに修行に打ち込んでいた明恵の人となりを象徴するかのように、森の中がとても居心地が良いと感じさせる表情の描写が印象的です。明恵の弟子の画僧・成忍(じょうにん)が描いたと伝わっています。

続いてもう一つの目玉、明恵の念持仏だった国宝「仏眼仏母像(ぶつげんぶつもぞう)」の、女性を象徴する白い肌の描写が目に飛び込んできます。明恵はこの像を母と慕って、祈り続けたと伝わっています。表情や視線は、吉祥天のようにふくよかではなく、むしろシャープに観る者を見つめています。きわめて洗練された仏画の傑作です。画中に明恵の自賛があり、明恵が生きていた時代の作品と考えられています。

仏眼仏母像の他にも、仏画の名品が目立ちます。村山コレクション「一字金輪像」は、暗い宇宙空間の中に白い肌の一字金輪が輝いて浮かんでいるような描写です。仏眼仏母と同じく白い肌が神秘性を増しています。


高山寺の国宝・石水院(撮影は台風被害の前)

通期展示の重文の高山寺蔵「神鹿(しんろく)」を再び見ました。高山寺のアイドル「子犬」と並んで、こちらの愛嬌もほっこりさせてくれます。雄雌のペアで春日明神の使いを木像に表現したとても珍しい作品です。

【高山寺公式サイトの画像】鳥獣人物戯画

鳥獣戯画の後期展示は丙丁巻です、大半は人間が戯れる様子が描かれており、鳥獣が戯れる様子を描いた最も有名な甲巻とは趣が異なります。丙巻は描写がかなり精密ですが、丁巻は対照的にラフに見えます。いずれも口からの吹き出しにセリフを書き込めば、現代のアニメとしてすぐに通用しそうに思えてきます。

主なモチーフは囲碁・賭け事・曲芸で、それぞれマジで勝負している空気感が伝わってきます。擬人化された蛙や兎ではなく、人間をアニメ風に描いても観る者を充分に楽しませることができる丙丁巻も傑作です。中世の絵師たちがこのように描いて楽しんでいたとしたら、アニメの原点の制作者としてノーベル賞の授与を嘆願したくなります。

これだけの素晴らしい文化財を今に伝える高山寺も、昨年2018年9月に関西空港を閉鎖に追い込んだ台風の風で甚大な被害を受けています。国宝の石水院は無事でしたが、金堂には木が倒れ掛かり大きく損傷しています。展示会場内では修復のための寄付が呼びかけられていました。早急な復旧を願ってやみません。



このレポートでは「行列ゼロ」とお伝えしましたが、さすがに週末やゴールデンウィークの10連休はそんなわけにはいかないと思われます。10連休の最終日が、展覧会の最終日です。4/20(土)にはテレビ東京系列「新美の巨人たち」で鳥獣戯画とこの展覧会の様子が放映されます。4/21(日)と10連休は避けて訪問されることを強くおすすめします。やむをえない場合は午後の遅い時間に。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



御朱印帖のデザインに鳥獣戯画はよく合う

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中之島香雪美術館
特別展「明恵の夢と高山寺」朝日新聞創刊140周年記念
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:香雪美術館、高山寺、朝日新聞社
会期:2019年3月21日(木)〜5月6日(月)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:30

※4/14までの前期展示、4/16以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

大阪メトロ四つ橋線「肥後橋」駅下車、4番出口から徒歩3分
京阪中之島線「渡辺橋」駅下車、12番出口から徒歩3分
大阪メトロ御堂筋線・京阪本線「淀屋橋」駅下車、7番出口から徒歩8分
JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
JR大阪駅(西梅田駅)→メトロ四つ橋線→肥後橋駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設が入居するビルに有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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