美の五色 bino_gosiki ~ 美しい空間,モノ,コトをリスペクト

展覧会,美術,お寺,行事,遺産,観光スポット 美しい理由を背景,歴史,人間模様からブログします

文明の十字路「トルコ至宝」にうっとり_六本木 新美 5/20まで

2019年04月18日 | 美術館・展覧会

東京・六本木・国立新美術館で開催されている「トルコ至宝展」を見てきました。オスマン帝国は500年にもわたって文明の十字路を中心に広大な領地を支配してきました。ヨーロッパとアジアの”いいとこ取り”をしたようなとても美しい文化財が、イスタンブールから大挙来てくれています。

  • 金細工と宝石の大きさには驚愕、版図が大きい帝国でないとできない世界最高峰の宝飾芸術
  • イスラム的な幾何学模様やチューリップをあしらったデザインは、文明の十字路の賜


展覧会場は、オスマン帝国の皇帝の居城・トプカプ宮殿の内部を模して造営されています。そんな演出に展示品はどれも輝いています。


トプカプ宮殿の遠景

今回の展覧会のほとんどはトルコ・イスタンブールにあるトプカプ宮殿の所蔵品です。1453年にオスマン帝国7代皇帝・メフメト2世がコンスタンチノープルを陥落させ、東ローマ帝国を滅亡させます。その直後から皇帝の居城として建造が始まったのが現在のトプカプ宮殿です。

宮殿名の日本語カナ表記は「トプカピ」が永らく用いられてきましたが、近年はトルコ語の発音に合わせて「トプカプ」と表記・発音するようになっています。

 【Wikipedia オスマン帝国】 オスマン帝国の勢力図


トプカプ宮殿は、オスマン帝国が全盛期を迎えた16cに最も華やかな時代を迎えます。帝国の版図は地中海の東半分と黒海/紅海におよびます。神聖ローマ帝国の首都・ウィーンがオスマン軍によって包囲され、ヨーロッパ中がイスラムの脅威に震え上がります。ポルトガル/スペインが大航海時代を幕開けたのは、オスマン帝国を避けてアジアから直接胡椒を買い付けようとしたためです。

トプカプ宮殿はその後19c半ばまで皇帝の居城として使用され、トルコ革命でオスマン帝国が滅亡した後は、共和国政府によって1924年から博物館として一般公開されています。都市名としてイスタンブールが使われるようになったのも、このトルコ革命以降です。


展覧会場の入口

イスタンブールは1453年のコンスタンチノープル陥落以降、20cの二度の世界大戦を含め一度も戦災にあっていない、世界的にも稀有な都市です。日本では1477年に終結した応仁の乱以降、戦災を免れている京都とほぼ同じ期間の長さです。木造建築の京都はその後幾度も大火の憂き目にあっています。トプカプ宮殿に驚愕の至宝がのこされているのは、石造りで戦災を免れたことが何といっても大きいのです。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

展示は、皇帝の権力を象徴する品々から始まります。「玉座」と呼ぶにふさわしい、貴賓を醸し出す椅子が最初に目につきます。

「スルタン・マフムート2世の玉座」です。背もたれの上に、仏像の光背のように据えられた金細工のオスマン帝国の国章が、この玉座に座って謁見する皇帝を輝かせています。19c初頭にフランスで造られたもので、深い紅色のベルベットのデザインはとてもフランス的です。遠い異国との交流を見せつける逸品です。

歴代皇帝の花押(かおう)にも目を引かれます。花押とは署名のことで、日本の権力者にもよく見られます。日本のものとは異なり、文字がとても複雑です。色紙へのサインの如く、流れるように書ける文字とは到底思えません。半面、偽造が困難であり、権威づけにはふさわしい紋様に見えます。多民族を支配したオスマン皇帝ならではの、究極に神格化されたデザインです。


トプカプ宮殿のハレム

金額査定できないと思えるほど、度肝を抜かれるような大きさのエメラルドやルビーが散りばめられた様々な宝飾品も、オスマン美術を象徴しています。宝石を彩った宝飾品の中で、豪華さと気品のバランスが表現されたものはオスマン美術が世界でも随一と感じます。この展覧会のための保険金が、目の玉が飛び出るような額であることは容易に想像できます。

オスマン皇帝の権威の象徴としては、「カフタン」と呼ばれる皇帝の衣装に加え、「水筒」にオスマン帝国らしさを感じます。カフタンは中国の清朝皇帝が着用した礼服との共通点を感じます。トルコにはアジアの血が流れていることを示すデザインです。

水筒は、アジア内陸の遊牧民族になくてはならなかった水の確保を象徴します。前面に宝石と金細工が散りばめられており、とても”水筒”には見えません。遊牧民族に権威を見せつけるには、かえってわかりやすいデザインだったのでしょう。


イスタンブールのグラン・バザール

この展覧会では「チューリップ」がもう一つのキーワードになっています。

チューリップは歴史的には17cオランダのバブル経済の象徴となったことが知られています。そもそも原産はトルコと中近東です。貿易を通じオランダで脚光を浴びた後、故郷のオスマン帝国で18c前半にもてはやされるようになります。オスマン帝国が最盛期を過ぎ、領土が縮小し始めたアフメト3世の治世で、一時の平和な時代を迎えた「チューリップ時代」です。

国力が曲がり角を迎えた後に、文化が繁栄するのは古今東西よくあることです。この展覧会でもチューリップ時代の名品が数多く出展されています。

色とりどりのチューリップ用花瓶は、饅頭型の底から細長い首が伸びる典型的なアラブビアン・ナイトを思わせるデザインです。ヨーロッパから逆輸入されたチューリップと、伝統的なアラブ文化が融合した素晴らしい造形です。

イスタンブールは数年前に訪れたことがあります。とても活気のある町並の中に、きちんと過去の遺産がのこされている印象を持ちました。この展覧会で以前に訪れた光景を思い出し、感慨をあらためた思いです。

展覧会では、明治期に日本からもたらされた数々の日本美術も登場します。その背景には両国の深い友情の絆があります。6月から始まる巡回先・京都展で絆の話をお伝えしたいと思います。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



中世ヨーロッパを震え上がらせた国の全貌

________________

<東京都港区>
国立新美術館
トルコ文化年2019
トルコ至宝展 チューリップの宮殿 トプカプの美
【美術館による展覧会公式サイト】
【主催メディアによる展覧会公式サイト】

主催:国立新美術館、トルコ共和国大使館、日本経済新聞社、TBS、BS-TBS
会場:企画展示室2E
会期:2019年3月20日(水)~5月20日(月)
原則休館日:火曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、2019年6月から京都国立近代美術館、に巡回します。
※この美術館は、コレクションの常設展示はありません。

<トルコ共和国イスタンブール市>
トプカプ宮殿
【公式サイト】https://topkapisarayi.gov.tr/en(英語)



◆おすすめ交通機関◆

東京メトロ・千代田線「乃木坂」駅下車、6番出口から徒歩2分(美術館直結)
都営・大江戸線「六本木」駅下車、7番出口から徒歩5分
東京メトロ・日比谷線「六本木」駅下車、4a番出口から徒歩8分

JR東京駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:30分
東京駅→東京メトロ丸の内線→国会議事堂前駅→東京メトロ千代田線→乃木坂駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には駐車場はありません。
※道路の狭さ、渋滞と駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


________________________________

→ 「美の五色」とは ~特徴と主催者について
→ 「美の五色」 サイトポリシー
→ 「美の五色」ジャンル別ページ 索引 Portal



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 時宗寺院には驚きの名品がた... | トップ | 後期も高山寺の国宝が続々_... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

美術館・展覧会」カテゴリの最新記事