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時宗寺院には驚きの名品がたくさん_京博「一遍聖絵」展 6/9まで

2019年04月17日 | 美術館・展覧会

京都国立博物館で「一遍聖絵と時宗の名宝」展が始まっています。浄土教の一派・時宗(じしゅう)の開祖で、中世に踊り念仏で全国を行脚した一遍の生涯を描いた国宝「一遍聖絵(いっぺんひじりえ)」が、何といっても注目です。

  • 一遍聖絵は全国行脚を描写、中世の名所図会としても保存状態の良い美しい描写が今に伝わる
  • 快慶の一番弟子・行快作の新発見「阿弥陀如来立像」は、鎌倉リアリズムの銘品
  • 「二河百道図」など知られざる仏画など、時宗寺院が持つ驚きの名品が目白押し


京都国立博物館では珍しい、仏教美術に主眼をおいた展覧会です。仏教美術の展示では一目置かれる奈良国立博物館ではなく、時宗の縁の深い京都で開催されます。展覧会場はいつもの京博以上に、荘厳な空気に包まれていました。


見てみたくなる展覧会のポスター

一遍は鎌倉時代半ばの1239(延応元)年、現在の松山市の道後温泉付近で豪族の子として生まれました。幼い頃に出家し、大宰府で浄土宗を学んだ後、1274(文永11)年から始めた布教行脚の様子をまとめたのが国宝・一遍聖絵です。時宗総本山・清浄光寺(しょうじょうこうじ)の所蔵です。

時宗では、僧が布教のため行脚することを遊行(ゆぎょう)と呼んで、とても大切にしています。総本山も正式名称ではなく「遊行寺」と呼ばれることが多くなっています。また遊行しながら「南無阿弥陀仏」と書かれた札を信仰の有無にかかわらず配り続けます。札の配布を賦算(ふさん)と呼んで、こちらもとても大切にしています。

【展覧会公式サイトの画像】 一遍聖絵 巻十一(部分、淡路国二宮)前期展示場面
【展覧会公式サイトの画像】 一遍聖絵 巻十(部分、安芸国厳島神社)前期展示場面

16年に及んだ一遍の遊行は、九州から東北まで全国に渡っています。出発当初は同行する弟子は4人だけでしたが、一遍の教えに感化され同行者は増えていきます。踊り念仏を始めるようになると、男女合わせて数十人規模にまで膨らみ、時衆(じしゅう)と呼ばれるようになります。

時宗と表記するようになったのは、江戸時代初めのことです。幕府の宗教政策で、各地に分散していた時衆のグループを現在の総本山・遊行寺の下に束ね、宗派としての体裁を整えて以降のことです。

一遍聖絵は、一編の死の十年後に、遊行に同行していた弟子・聖戒(しょうかい)が詩書を書き、画僧・円伊が絵を描きました。記憶が新しい内に描かれており、死後かなり時間が経って描かれる一般的な高僧伝の絵巻よりも想像部分がかなり少ないと考えられます。また各地の風景が写実的に描かれており、名所図会としてもすぐれた作品です。

京都で踊り念仏がみやこびとを熱狂させている様子や、信者に看取られて一遍が息を引き取るシーンはとてもリアルです。保存状態の良さがさらに描写を魅力的に見せています。一遍聖絵は全12巻を前後期に分けて半分ずつ展示されます。原本が展示されない期間の巻は、明治時代の写本が展示されますので、会期中を通じて大半の場面を確認することができます。平成知新館2Fのほとんどの展示室が一遍聖絵で埋め尽くされます。



一遍は宗派を立ち上げる気は持たなかったこともあり、一遍の死後に時衆は自然消滅します。現在の時宗(じしゅう)につながる集団は、弟子の真教(しんきょう)が再び遊行を始めた際の集団が原点です。時宗は一遍を宗祖、真教を二祖と呼んで、並んであがめています。

【展覧会公式サイトの画像】 大和文華館蔵 遊行上人縁起絵断簡 前期展示場面

真教に関する作品も見応えがあります。「遊行上人縁起絵」は、一遍と真教二人の遊行をまとめて描いたものです。原本は失われていますが、金台寺本や真光寺本など優れた摸本が出展されています。こちらの作品も写実的なものが多く、降り念仏の様子が生き生きと伝わってきます。



この展覧会は、二祖真教上人の700年忌を記念したものでもあり、全国の時宗寺院を中心に名品が集結しています。一遍は踊り念仏を始めるにあたって空也(くうや)に倣ったと言われています。清浄光寺に伝わる「空也上人立像」が出展されており、口から念仏が飛び出すデザインで有名な京都・六波羅蜜寺の空也像と非常によく似ています。

【展覧会公式サイトの画像】 萬福寺蔵「二河白道図」前期のみ展示

島根県益田市の雪舟の庭で知られる萬福寺蔵の重文「二河白道図」は人々が欲に惑わされず浄土に導かれる様子を描いた作品です。黒い背景に阿弥陀が黄金色に輝いている描写が神秘的です。

【展覧会公式サイトの画像】 蓮台寺蔵「真教上人坐像」

蓮台寺蔵の重文「真教上人坐像」は真教存命時に製作されたもので、意志の強さを感じさせる迫力があります。

快慶の高弟・行快の阿弥陀如来の名品も二体、出展されています。京都・聞名寺蔵は今回の展覧会のための調査による新発見作品、滋賀・阿弥陀寺蔵は重文です。いずれも快慶の洗練された作風に安定感が加わったような行快の美しい造形が確認できます。


2019秋の京博はバラバラになった佐竹本が大集結

時宗は、現在の仏教宗派としては小規模で著名寺院も多くないことから、国宝「一遍聖絵」以外にも優れた文化財がたくさん伝わっているイメージはあまり持っていませんでした。この展覧会を観るとそうした”偏見”は一変します。普段非公開なものが多いだけで、見事な名品が揃っています。

展覧会最終版の5/28以降は国宝の洛中洛外図屏風(舟木本)が登場します。京都で栄えた時宗寺院・新善光寺が描かれています。こちらも注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



三人の開祖を理解すると日本史上の浄土教の影響力がわかる

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<京都市東山区>
京都国立博物館
特別展
時宗二祖上人七百年御遠忌記念
国宝 一遍聖絵と時宗の名宝
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:京都国立博物館、朝日新聞社、時宗、時宗総本山清浄光寺(遊行寺)
会場:平成知新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~17:30(金土曜~19:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<神奈川県藤沢市>
遊行寺(正式名称:清浄光寺)
【公式サイト】 http://www.jishu.or.jp/



◆おすすめ交通機関◆

京都市バス「博物館三十三間堂前」下車、徒歩0分
京阪電車「七条」駅下車、3,4番出口から徒歩7分
JR「京都」駅から徒歩20分

JR京都駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:10分
京都駅烏丸口D1/D2バスのりば→市バス86/88/100/106/110/206/208系統→博物館三十三間堂前

【公式サイト】 アクセス案内

※休日の午前中を中心に、京都駅ではバスが満員になって乗り過ごす場合があります。
※休日の夕方を中心に、渋滞と満員乗り過ごしで、バスは平常時の倍以上時間がかかる場合があります。
※この施設には有料の駐車場があります(公道に停車した入庫待ちは不可)。
※駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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