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日本最高峰の蒐集が今だけフル公開_奈良博「藤田美術館展」6/9まで

2019年04月16日 | 美術館・展覧会

奈良国立博物館で、「藤田美術館展」が始まっています。大阪の藤田美術館は、明治の実業家によるコレクションを受け継ぐ美術館として、静嘉堂/根津と並んで日本で三本の指に入ります。「国宝の殿堂」というサブタイトルは、所蔵品の全貌を紹介する圧巻の展示にふさわしいネーミングです。

  • 藤田は”あの”曜変天目を所蔵する館の一つ、休日を中心に鑑賞待ちの行列は必至
  • リニューアル休館中に開催、これだけまとまって所蔵品を鑑賞できる機会は今後まずない
  • 仏教美術を中心に所蔵する国宝9点がすべて登場、曜変を見た後にさらに目から鱗が落ちる
  • コレクションが散逸せずにのこった価値を強く感じさせる展覧会、集結は偉大なり


コレクションを築いた藤田傳三郎(ふじたでんざぶろう)は、明治の仏教美術の海外流出を深く憂いていました。今回の展覧会が東京/京都ではなく、仏教美術の”殿堂”である奈良国立博物館で行われることに、深い感慨を感じます。



藤田傳三郎は、明治初期に政商として巨万の富を築き、鉱業を中心に様々な業種の企業を立ち上げた近代有数の名経営者です。この時期の名経営者のほとんどは美術品の蒐集に熱心な数寄者でした。その中でも傳三郎は、益田孝/原富太郎と並んで明治の実業界の三大数寄者の一人としてその名を轟かせています。

傳三郎の長男・平太郎(へいたろう)と次男・徳次郎(とくじろう)も美術品の蒐集を続けます。昭和初期の金融恐慌や終戦直後の財産税課税による蒐集品散逸の危機を乗り越え、1954(昭和29)年に美術館として開館します。明治の実業家系コレクションで、蒐集品をほとんど散逸せず現存しているのは他に、静嘉堂と根津だけです。


リニューアル工事前の藤田美術館の蔵

藤田美術館は、桜の通り抜けで有名な造幣局の対岸の広大な敷地にあった、旧藤田邸の蔵を展示棟として用いました。この蔵は第二次大戦末期の空襲で屋敷がほぼ全焼した中、奇跡的に焼け残ったものです。藤田財閥は1944(昭和19)年に倒産しており、美術品を疎開させることはできませんでした。そんな過酷な環境の中で生き残った至宝は、かけがえのない美しさを今に見事に伝えてくれています。

蔵は明治末期の旧藤田邸建設の頃に建てられたものです。美術品の展示室としては空調管理などの面で十分でなく、永らく春秋の季節の良い時だけに開館が限られる状態が続いていました。蔵の老朽化は限界に達し、2017年6月から建て替え工事のため休館します。再開は2022年4月の予定です。


地蔵菩薩がガイドしてくれるわけではありません

展示は、文化財としての種類ごとに構成されています。最初は茶道具と墨蹟、茶の湯美術から始まります。

【展覧会公式サイトの画像】 「交趾大亀香合」

トップバッターは重文「交趾大亀香合(こうちおおがめこうごう)」です。香合とは茶室で焚く香を入れる容器です。傳三郎が生涯求め続け、死の直前にようやく入手したという藤田家にとっては特別な思い入れのある逸品です。甲羅の赤緑の発色、愛嬌のある亀の頭、きわめて洗練されています。

重文「白縁油滴天目鉢」は、油滴ならではの銀の粒が器の黒い肌に一面に散りばめられた”宇宙”が見事です。私はどこか、曜変より油滴の方に魅力を感じます。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「柴門新月図」

曜変を見る前に茶碗の名品に圧倒されますが、さりげなく展示されている掛軸がオーラを発しています。個人的には藤田美術館所蔵の国宝では一押しの「柴門新月図(さいもんしんげつず)」です。京都・妙心寺退蔵院所蔵の日本最古の水墨画「瓢鮎図」とほぼ同時期、4代将軍・義持の治世の作品です。

室町時代の禅僧に流行した、画面の上部に漢詩が書き込まれる「詩画軸」の最古の作品とも考えられています。雪舟の水墨画の原点となったような深い趣を感じさせます。前期のみ展示です。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「曜変天目茶碗」

曜変天目は単独で展示スペースが設けられており、あらかじめ行列ができることを想定した設営がなされています。光のあて方によって見事に変わる曜変の瑠璃色の輝きを味わえるよう、展示室の照明はかなり控え目です。360度見渡せるようになっていますので、最低限4か所で足を止めて鑑賞することをおすすめします。

どうしてこんなに表情が異なるのか、ブラックホールのような曜変の魅力の不思議さに完璧に洗脳されます。


明治の奈良博の展示室、傳三郎は仏教美術の海外流出を憂いた。

【藤田美術館公式サイトの画像】 「玄奘三蔵絵」

物語絵も、藤田美術館のコレクションの質の高さを代表します。国宝「玄奘三蔵絵」は、鎌倉時代末期の御所絵所の絵師・高階隆兼(たかしなたかかね)一門の作品と考えられています。

孫悟空で知られ、天竺で仏教を習得した玄奘の生涯の物語です。興福寺大乗院にあったもので、伝来元の確かさは完璧です。保存状態がよく、発色も綺麗にのこっています。中世の絵巻の美しさのポイントとなる、山肌の緑の発色が、この作品の上質さを象徴しています。

重文「駿牛図断簡」は鎌倉時代の作品で、牛の瞳と黒い肌の描写が印象的です。他の断簡作品も確認されており、写実的な牛の描写がいずれも見事です。この時代に流行した人間の”似絵”の手法を、牛にも適用したようなリアルな作品です。前期のみ展示です。

【展覧会公式サイトの画像】 「仏功徳蒔絵経箱」

国宝「仏功徳蒔絵経箱」は、平安時代の法華経の説話を収めた箱です。蒔絵で一般的な金色の細工だけにとどまらず、銀色の細工がとても美しいことが目を引きます。とても神秘的な作品です。


県庁の東側の好立地に観光バスターミナルがオープンした

奈良公園周辺の観光バスによる渋滞を解消するためのターミナルが、4月13日に県庁東にオープンしました。東大寺・奈良博・春日大社・興福寺といった主要観光スポットにいずれも徒歩15分以内で行ける好立地です。観光バスを利用しない個人客でも利用でき、屋上からは奈良公園や若草山の絶景を楽しめます。運営と利用が軌道に乗ることを期待したいと思います。

5/14からの後期展示では、国宝「紫式部日記絵詞」「花蝶蒔絵挾軾」が登場します。2019年春の奈良博は、恒例の秋の正倉院展を上回るほど、注目です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



日本のフィランソロピーの歴史をたどる

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<奈良県奈良市>
奈良国立博物館
特別展
国宝の殿堂 藤田美術館展
-曜変天目茶碗と仏教美術のきらめき-
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:奈良国立博物館、朝日新聞社、NHK奈良放送局、NHKプラネット近畿
会場:東新館・西新館
会期:2019年4月13日(土)~6月9日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:9:30~16:30(金曜~18:30)

※5/12までの前期展示、5/14以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。

<大阪市都島区>
藤田美術館
【公式サイト】 http://fujita-museum.or.jp/
※2022年3月までの予定で、リニューアル工事のため休館中です。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「近鉄奈良」駅下車、東改札口C出口から徒歩15分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:1時間15分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→近鉄奈良駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設に駐車場はありません。
※渋滞と駐車場不足により、クルマでの訪問は非現実的です。


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