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この男は鬼才ではなく天才_河鍋暁斎展 兵庫県立美術館 5/19まで

2019年04月23日 | 美術館・展覧会

神戸の兵庫県立美術館で、幕末から明治にかけて活躍した強烈な個性の絵師・河鍋暁斎(かわなべきょうさい)の回顧展が開かれています。歌川国芳と狩野派という真逆のような画流を共に学び、暁斎にしか表現できない独特の世界感をたっぷりと味わえます。

  • 幽霊/仏画/風刺画/美人画とあらゆるモチーフをとても上手に描いた暁斎の腕には感服
  • のこされた下絵や写生から、暁斎が絵の基本をとても大切にしていたことがわかる
  • 鬼才と称される暁斎のリアルな描写からは、明治維新のひしひしとした空気感が伝わってくる


つい最近の2019年3月末まで、東京・サントリー美術館でも暁斎の回顧展が行われていました。海外で古くから人気の高かった暁斎の魅力に、日本でも近年、注目度が上昇中です。


企画展示室入口の3F吹き抜けが”暁斎ジャック”

河鍋暁斎は1831(天保2)年、現在の茨城県古河市で生まれ、江戸で火消しとなった父に従い、江戸に出ます。6歳で歌川国芳に入門した後、9歳で狩野派に再入門します。子供の頃には、川で拾った生首を写生して周囲をフリーズさせたエピソードがあるように、とにかく描くことに”貪欲”だった人柄がうかがえます。

土佐派・琳派・四条派などあらゆる画流を吸収し、どんな絵でも欠けるマルチな才能を身に付けます。妻には江戸琳派のスター絵師・鈴木其一の次女をもらっています。暁斎は目上の人に気に入られる才能の持ち主だった気がしてなりません。だからこそあらゆる画流を学べたのだと思うからです。

暁斎はつい、”ぎょうさい”と読んでしまいますが”きょうさい”です。幕末に浮世絵の風刺画で生計を立てていた時代の画号「狂斎」を、明治になって「暁斎」に改めますが、読みをそのまま引き継いだものです。暁斎の絵師としての意地のようなものが感じられるエピソードです。


ミュージアムロードにオブジェが増えてきた

展示は4つの章で構成されています。第1章は「幅広い画業」と題されたように、暁斎の絵画表現の多様性を俯瞰します。同じ絵師が描いたとは思えないほど、実に多彩です。

この展覧会では、前後期で展示作品が大幅に入れ替えされます。以下のレポートは前期展示のみの作品が多くなることをご理解ください。

【展覧会公式サイト】 ご紹介した作品の画像の一部が掲載されています

トップバッターはタッチに若々しさを感じる河鍋暁斎記念美術館蔵「毘沙門天像」です。狩野派を学んでいた頃の作品で正統派の描写です。前期のみ展示です。

GAS MUSEUM蔵「河竹黙阿弥作『漂流奇譚西洋劇』パリス劇場表掛りの場」は文明開化を描いた典型的な明治錦絵です。時代のニーズに対応できる器用さを感じさせます。前期のみ展示です。

千代田区教育委員会蔵「舞楽 蘭陵王図」は、東京・麹町の町内会の依頼で鎮守の祭りで掲げるために製作された作品です。舞楽のヒーローを今にも動き出しそうに見えるほどリアルに描いています。通期展示されます。

次の第2章は「眼の思索」です。下絵や写生作品を通じて、暁斎の描く力と観察する力に触れることができます。

河鍋暁斎記念美術館蔵「骸骨の茶の湯 下絵」は座って茶の湯を楽しむ人々を骨だけで描いたものです。おそらく立った状態の骸骨標本を観察し、座った時の骨の状態を想像して描いたのだと思われます。科学的に正しいかどうかまではわかりませんが、洞察力はもちろん、骸骨に茶の湯をさせるという発想力も見事です。前期のみ展示です。

この作品の完成品をぜひ見てみたいものと感じましたが、下絵や写生作品を多数所有する河鍋暁斎記念美術館によると、大部分は完成品の存在が確認できていないようです。河鍋暁斎記念美術館は、暁斎のひ孫が運営しており、暁斎作品の情報を集めています。世界のどこかで少なからず、暁斎作品は眠っているのでしょう。

河鍋暁斎記念美術館蔵「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」の、化け猫がダンスをしているような描写からも鋭い観察力がうかがえます。猫の表情は怖いですが、手や体のくねり方はとてもナチュラルです。前期のみ展示です。


「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」を看板オブジェに採用

第3章は「民衆の力」です。暁斎が生きた時代を最も如実に表す、政治や社会の風刺画を中心とした作品で構成されます。

河鍋暁斎記念美術館蔵「風流蛙大合戦之図」は1864(元治元)年の錦絵です。カエルに戦をさせていますが、陣に貼られている幕の家紋から、幕府が長州藩を攻めていることがわかります。「よくこんな絵を江戸で描いたな」と思えるほど、きわめて”危ない”絵です。カエルの描写は、平安時代の鳥獣戯画のように観る者の心をつかんで離しません。前期のみ展示です。

明治になってからの作品も、東京の名所図会から動物の戯画まで、大衆にうける作品を作り続けた暁斎のマーケティング能力の高さを感じさせます。激動の時代と向き合って生きた人たちの心を、とても元気にしたような気がします。

最後の第4章は「身体・精神をつむぐ幕末明治」です。美人画から地獄絵まで、暁斎の多様な才能が最も発揮された明治になってからの作品で構成されます。

暁斎はウィーン万博に出展するなど、明治になると急速に内外で評価を高めていきます。辰野金吾の師のお雇い外国人建築家・コンドルとも懇意になり、コンドルは弟子として暁斎に入門したほどです。

ドイツのお雇い外国人医師・ベルツが本国に持ち帰った作品からも、名品が登場しています。ビーティヒハイム・ビッシンゲン市立博物館蔵「夫婦喧嘩は犬も喰わぬ」は、夫婦喧嘩で奥方にボコボコにされる旦那たちの叫び声をコミカルに描いています。北斎漫画のようにとてもリズミカルです。通期展示されます。

京都府蔵「処刑場跡猫絵羽織」は、磔にされ血みどろで息絶えた死刑囚を羽織の背中に描いた作品です。暁斎の表現力もさることながら、この羽織を注文した主がどんな人物か知りたくなります。前期のみ展示です。


六甲山の眺望は目を休ませる(ミュージアムロードからの眺め)

暁斎は、狩野派の狩野芳崖や橋本雅邦、洋画の高橋由一、錦絵の月岡芳年とほぼ同世代です。彼らの画風はおおむね一貫しているのに対し、暁斎の多彩ぶりは際立っています。

暁斎はもし30年早く生まれていれば、歌川広重や鈴木其一と同世代になります。逆にあと30年遅く生まれていれば、黒田清輝や竹内栖鳳と同世代になります。こんな仮定をしたらキリがないですが、明治維新を避けて活躍できていれば、もっと歴史に名をのこす絵師になっていたと確信するようになりました。

そんな暁斎の実力を存分に伝える展覧会です。暁斎は”鬼才”ではなく”天才”です。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



別冊太陽って、どれを見ても面白い

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<神戸市中央区>
兵庫県立美術館
特別展
没後130年 河鍋暁斎
【美術館による展覧会公式サイト】

主催:兵庫県立美術館、毎日新聞社、朝日放送テレビ、神戸新聞社
会場:展示棟3F 企画展示室
会期:2019年4月6日(土)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~17:30(金土曜~19:30)

※4/29までの前期展示、4/30以降の後期展示で一部展示作品/場面が入れ替えされます。
※前期・後期展示期間内でも、展示期間が限られている作品/場面があります。
※この展覧会は、今後他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っています。



◆おすすめ交通機関◆

阪神電車「岩屋」駅下車、徒歩8分
JR神戸線「灘」駅下車、南口から徒歩12分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:45分
JR大阪駅(阪神梅田駅)→阪神電車→岩屋駅

【公式サイトのアクセス案内】

※この施設には有料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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