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原三溪が愛した名品が大和文華館で一堂に_茶の湯の美術5/19まで

2019年05月06日 | 美術館・展覧会

奈良・大和文華館で行われている「茶の湯の美術」に行ってきました。数々の茶席で客人をうならせてきた大和文華館が所蔵の名品が一堂に公開されています。展示室にいながら、茶室で掛軸や茶道具を眺めてうっとりしているような気分になれます。

  • 原三溪旧蔵品を始め、伝来の確かな名品が多い大和文華館のコレクションの上質さを存分に味わえる
  • 南宋画「雪中帰牧図」と佐竹本三十六歌仙「小大君」が目玉作品、発するオーラは格別
  • 近代の茶人が好んだ流暢な仮名文字が美しい古筆が多く、展示室に茶室の趣を強く醸し出している


展覧会として正直目立たないことに”もどかしさ”を感じますが、内容はとても濃厚です。大和文華館は自館コレクションだけでも高いレベルの展覧会を永らく回していける、日本でも稀有な美術館だからです。



大和文華館が所蔵するコレクションはほぼすべて、戦後になってから蒐集されたものです。かなり後発組と言わざるを得ませんが、にもかかわらず日本有数の質の高い古美術作品を収集できたのは、ひとえに初代館長・矢代幸雄(やしろゆきお)と当時の近鉄の社長・種田虎雄(おいたとらお)の功績です。

大和文華館創設時の歩みは以前のブログでご紹介しています。
 大和文華館「光琳筆・中村内蔵助像」展 ~館蔵品のレベルの高さがわかる

今回の出展作品には、戦前の日本の二大コレクター旧蔵の”超”名品が多く含まれます。まず登場するのは、益田鈍翁旧蔵の国宝「雪中帰牧図(せっちゅうきぼくず)」です。

【大和文華館公式サイトの画像】 李迪筆「雪中帰牧図」

「雪中帰牧図」は南宋の宮廷画家・李迪(りてき)による12c末の作品で、東博蔵「紅白芙蓉図」と並ぶ日本にある李迪の最高傑作です。いずれも国宝です。「雪中帰牧図」は、引手と牛が凍えるような雪の中を進む様子がわかりやすく伝わってきます。木につもる雪とよどんだ空の光景から真冬の空気感を、墨だけで表現した写実の腕前は絶品です。

【大和文華館公式サイトの画像】 伝毛益筆「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」
【大和文華館公式サイトの画像】 伝趙令穣筆「秋塘図」

大和文華館が所蔵する他の宋代の中国絵画の名品2点も「雪中帰牧図」に並んで展示されています。この2点は、もう一人の戦前の二大コレクター・原三溪の旧蔵品です。

「萱草遊狗図・蜀葵遊猫図」は、李迪と同じく南宋の宮廷画家だった毛益(もうえき)の筆と推定されている重要文化財です。見事に咲いた花の横で戯れる犬・猫の一瞬の姿を、写真のように描き出しています。冬の「雪中帰牧図」に続いて、春の茶室に掲げられて客人をうならせた様子が目に浮かんできます。日本にある伝毛益の傑作です。

「秋塘図」は北宋の画家・趙令穣(ちょうれいじょう)の筆と推定されている重要文化財です。水辺に佇む柳と松のように見える二種の木々の間に、水気を多く含んだ空気が流れていく様子を絶妙に表現しています。長谷川等伯の松林図屏風のような幽玄さが際立って目を引きます。「塘」とは川の岸辺のことです。


いつ見ても美しい大和文華館のなまこ壁

幽遠な表現にはどこまでも感服してしまう中国宋代の絵画に対し、日本の芸術表現はやはり繊細です。国土の大きさと民族の多様性の違いが芸術表現にも現れているのでしょう。茶の湯をテーマにした展覧会で日中両国の作品が並列展示されると、いつも感じます。

【大和文華館公式サイトの画像】 野々村仁清作「色絵おしどり香合」

野々村仁清「色絵おしどり香合」は10cmもないような小品ですが、存在感は圧巻です。「香合」とは香りを発する粉末などを入れておく器のことです。動物の塑像表現が得意だった仁清らしい、気品の中にも愛くるしさを加えた名品です。

女性が好むコンパクトの化粧具入れのように、とても小さなボディに繊細な美しさが凝縮されています。並行して行われている奈良国立博物館の藤田美術館展で話題の「交趾大亀香合」と見比べてみてください。きっと両方とも欲しくなると思います。

【奈良国立博物館 藤田美術館展公式サイトの画像】 交趾大亀香合

「雪中帰牧図」と並ぶもう一つの展覧会の目玉作品は、原三溪旧蔵の重文「佐竹本三十六歌仙絵断簡・小大君(こおおきみ)」です。「小大君」が展覧会の順路の最後でひときわ発する格別のオーラに、観る者の誰もが目をくぎ付けにされます。今年2019年秋に、分断された三十六歌仙絵巻のほとんどが揃う京博の特別展で、チラシ・ポスターの主役に採用されています。描かれた三十六歌仙でもトップクラスの美しさです。

【特別展公式サイト】 佐竹本三十六歌仙と王朝の美

三十六歌仙の中で4人しかいない女流歌人の作品は、その希少価値と美しさから、益田鈍翁が主導した分割売立ての際には最も人気がありました。原三溪が入手した時の喜びは、当人しか味わえない格別の一瞬だったでしょう。

十二単の重なった衣すべてが見えるよう、ファッションショーのメイン舞台で小大君がポーズをとっているように描かれています。人間はともかく、これほどまでに衣装を美しく描いた日本絵画はめったにありません。



大和文華館のコレクションの中核を成す原三溪旧蔵品が一堂に会する展覧会が、今年2019年の夏に、三溪の本拠地・横浜で開催されます。東博所蔵の日本仏画の最高傑作「孔雀明王像」を始め、国宝「寝覚物語」など大和文華館所蔵品も大挙、貸し出されます。原三溪旧蔵品の多くを大切に受け継いだ矢代幸雄の業績も丁寧に紹介されるようです。

【横浜美術館】 原三溪の美術 伝説の大コレクション

開催期間は7/13~9/1です。三溪園と違って”行きにくい”ことはなく、みなとみらい駅すぐ近くの横浜美術館が会場です。”行きやすい”です。早めにご予定を。

こんなところがあります。
ここにしかない「空間」があります。



矢代幸雄が語った世界の日本美術コレクターの審美眼

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<奈良県奈良市>
大和文華館
茶の湯の美術
【美術館による展覧会公式サイト】

会期:2019年4月12日(金)~5月19日(日)
原則休館日:月曜日
入館(拝観)受付時間:10:00~16:00

※会期中に展示作品の入れ替えは原則ありません。
※この展覧会は、今後の他会場への巡回はありません。
※この美術館は、コレクションの常設展示を行っていません。企画展開催時のみ開館しています。



◆おすすめ交通機関◆

近鉄奈良線「学園前」駅下車、南口から徒歩7分

JR大阪駅から一般的なルートを利用した平常時の所要時間の目安:55分
JR大阪駅→JR環状線→鶴橋駅→近鉄奈良線→学園前駅

【公式サイト】 アクセス案内

※この施設には無料の駐車場があります。
※駐車場不足により、健常者のクルマによる訪問は非現実的です。


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