漠のパンフレット
第四輯
表紙
蒼ざめた男(「生命の叫び」より ) 石井漠
〔以下、掲載順〕
◇目次カット「デモンの踊」より (左)石井榮子(右)笹田芙佐子◇
グラフィック
・カリカチュア 石井漠
・生命の叫び (上)「美女達の踊」 研究生 (下)「蒼ざめた男」 石井漠
・エチュード (上・下)研究生
・漫畫「山を登る」の印象 田中比佐良畫
・(上)ピチカット (上)轟美津子 (左)こわがらせる 石井榮子・轟美津子
・バッカナール 石井漠・石井榮子〔上の写真:左から2枚目〕
・デモンの踊 五十嵐花子 山川貴久子 岡田俊子 笹田芙佐子 岩田美枝子
・食慾をそゝる 五十嵐花子 山川貴久子
・(上)石井舞踊研究所新技舎の一部 (下)或るポーズ 笹田芙佐子
扉
寫眞版「エジプトを見る」 石井榮子
記事
・私信 石井漠
・漠は生きる! 水守龜之助
・漠の感じ(詩) 堀野正雄
・舞踊は好個の戰塲 伊庭孝
・手紙 田中比佐良
・漫画「グロテスク」 幸内純一
・世界の顔 アンナ・パヴロヴァ
・子等は踊る イルマ・ダンカン
舞踊詩
ー 一九三〇年度公演舞踊目録 ー
△ 無言詩劇「生命の叫び」
‥‥‥ 齋藤佳三曲
陰鬱な室に押しこめられた蒼ざめた男。彼は樂園を夢見た。それは彼には許されない世界である。彼は現實を呪ひ、歎願して外の世界へ出ると、反對に室が樂園に變り、彼は陰鬱な世界に取殘される。彼が室に歸ると、室は再び陰鬱に變る。彼を虐む鋭角と、彼を勇気づける無數の手と‥‥‥忽ちすべてが消えて彼は一人となる。彼が倒れて眠りに入ると、五人の人影が白衣を捧げて現れる。それは死だ。拒否 反抗、しかし 勢の力によって白衣が與へられるーと、男は靜かに立上り、光の雨の中に神々しい變容を示す。一同はその風貌に打たれ、驚きの目を瞠 みは る。
齋藤佳三氏の原作並に作曲になる詩劇、石井漠演出、遠山静雄氏の舞臺装置並に照明、篠原正雄氏の管絃樂指揮によって 六月十六、十七日、日本青年館に於て初演。
△ 「金魚」
‥‥‥ ランゲ曲
△ 「グロテスク」
‥‥‥ エドワード・グリーク曲
△ 「こわらがせる」
‥‥‥ シューマン曲
△ 「若きパンとニムフ」
‥‥‥ 山田耕作曲
△ 「山を登る」
‥‥‥ エドワード グリーク曲
△ 「セレナータ」
‥‥‥ モスコウスキー曲
モスコウスキイの有名な小夜曲を、そのまゝ少女向きに舞踊化したもの。
△ 「食慾をそヽる」
‥‥‥ 木魚の音にて
△ 「美しき青きダニーブ河に沿ひて」
‥‥‥ ヨハン シュトラウス曲
△ 「歌のない子守歌」
‥‥‥ ヨハンネス・ブラームス曲
△ 舞踊劇「明闇」
‥‥‥ 山田耕作曲
盲目の笛法師が、撿校の位を得る爲めに京へ上る途中、清水寺の境内で一夜を明さうとする。そこに倒れてゐた破戒僧が目をさまし、眠れる法師の財布を盗み去らうとしたが、途端に倒れて目がつぶれ、反對に法師の目が明く。法師は佛の加護に感謝し僧にその金を惠み與へようとしたが、僧は盲目になったが爲めに始めて出世の悟りを開き清浄なる信仰の心に立ち歸った。これに反して法師は目が開いたことによって却って物慾起り、撿校の位を取らうともせず、無限の苦しみの伴ふ世間へまっしぐらに落ちて行く‥‥‥。
△ 「エジプトを見る」
‥‥‥ ドビュッシィ曲
近代音楽の祖父ドビュッシィの名曲「エジプト人のために」に據る。彼は寫眞的にエジプトの気分を表現したのではなくて、或る異國的な感情をエジプトのテーマによって作曲したものであらう。この音樂に表れた気分をそのまゝに舞踊化したもの。
△ 「ゴリウォーグのケーキウォーク」
‥‥‥ ドビュッシィ曲
ゴリウォーグは怖い顔の螺線人形です。ドビュッシィが「子供のために」作曲したものから、「子供のために」舞踊化したもの。
△ 「夢見る」
‥‥‥ リヒャルト・シュトラウス曲
夢みる‥‥‥ゆかしい處女の聖純ば樂慾‥‥‥しづかなる抒情的告白‥‥‥。
△ 「ピチカット」
‥‥‥ デリーブ曲
まろいまろいの象牙の玉が、銀でつゞったきざはしを轉ぶ。それはその昔、オリンプの神々が畫いたイメーヂであると云ふ‥‥‥。
△ 「ピエロは嘆く」
‥‥‥ ウエーバー曲
酒をくまう。歌を歌はう。そしてそれでも淋しいならワルツを踊らう‥‥‥有名な「インビテーション・ツー・ザ・ワルツ」の舞踊化。
△ 「或る動きの魅惑」
‥‥‥ 音楽なし
これは人のからだが奏で得る最高の音樂。人體の中に濳む異常なリズム。これは翼なくして飛ぶ術。神秘の扉を開く鍵。これは純醉な動きそのもの。
△ 「弓の踊り」
‥‥‥ ボロディン曲
東洋の幻を求めて、彼は弓づるを弾いた。藍色の香の煙が踊り踊って、其處に東洋の幻が築き出される。
△ 「デモンの踊り」
‥‥‥ ホールスト曲
地獄の扉が開く時 闇の世界が開く頃、諸々の魔神は歌ふ。諸々の魔物は光と闇の世界を踊る。
△ 「暴風雨のあと」
‥‥‥ ショパン曲
油のやうに重い靜寂。嵐のあとの沈黙。不可抗な大自然の力に支配される人生の姿‥‥‥ショパンの奇しきメロディは人の運命をあやつる。‥‥‥ノクターンの舞踊化である。
△ 「靑い熖」
‥‥‥ 山田耕作曲
靑い光よ! お前は何處へ流れて行く。靑い熖よ!お前は何を踊るのか。ホッと吐息漏らして、ソッと伸びて‥‥‥やがてお前は踊り狂ふ。何處へ行くのか靑い熖。何を踊るのか青い焔。
△ 「石を持てる男」
‥‥‥ ベラ・バルトック曲
野に住む男はかく叫ぶー俺は山を持上げる事が出來る。野に住む男はあざ笑ふーそれどころか、俺は地球を持ち上げる。そして男は哄笑する。原始人の歌、アレッグロ・バルバロ。
△ 「海洋の幻想」
‥‥‥ 藤井清水曲
思ひ出と望みと、熱情と死と、觀喜と悲嘆を胚む海への思慕‥‥‥波の奏でる歌に耳を澄してじっと思ひに沈めば人の心はファンタヂーで一杯になる。
△ 「憂鬱なる街頭」
‥‥‥ エリック・サティ曲
目まぐるしい十字街頭‥‥‥ひょっと置き忘れられたる寂寞、瞬間。
△ 「觀樂の舞踏」(バッカナール)
‥‥‥ サン・サーン曲
ユダヤ人との戰に勝ったパリスティン人共が、王宮の廣間で行ふ酒神祭の觀喜に滿ちた踊。サムソンとデリラの中のバッカナールの樂によるもの。
研究所のお知らせ
昭和五年七月一日發行
東京府市外碑衾町衾二八一八番地
發行兼編輯印刷人 石井漠
東京府荏原郡碑衾町衾自由ヶ丘
發行所 石井漠舞踊研究所