蔵書目録

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『皇軍本然の任務に就て』 中堅青年將校團 (1933.8)

2021年01月23日 | 二・二六事件 2 怪文書

 

厳秘(日本將校の外閲覧を禁ず) 

   精神教育資料 
    皇軍本然の任務に就て    

         目次
   緒言
 一、日本軍人軍隊の任務使命
 二、軍人が任務達成の爲平素為すべき事項
 三、武力を行使すべき場合
 四、誰の命により武力を行使すべきか
 五、軍人の任務達成は總て攻撃手段によるを要す
 六、軍人の任務達成史批判
  イ、天皇皇室の御生命皇位大權の守護史批判
  ロ、國民防衞史批判
  ハ、國土國權の防護史批判
  ニ、世界皇化の神聖使命達成史批判
 七、現在の日本軍人は如何にして其本然の任務を果たすべきか  
  結論

   本資料は皇軍中堅將校の作業を蒐錄したるものにして、其内容多少推敲の餘地あるも、服務上参考とすべき點多大なりと認め之れを印刷に附し汎く頒布せしものなり。
      昭和八年八月

         緒言

 實行なき『忠節』は觀念の遊戯に過ぎず、名分なき『行動』は狂者の弄刄に等し。
 皇國三千年、軍人武士雲の如く輩出せしと雖、眞に軍人の任務使命を自覺し、行動と名分と伴ひしものは寥寥暁天の星の如く、皇室の藩屏、天皇の軍隊を以て自ら任じ、世々天皇の統率を受けし我皇軍も其使命を完全に果したるは、僅に神武建国の始、明治維新當時及其後の数十年間に過ぎずして、國史の大部分は単に權力者の私兵走狗たらずんば不逞大逆の徒として存在するのみにして、天皇の御生命も皇位大權も國民の安寧幸福も何等之を守護することなく、殊に況んや皇軍の神聖使命たる世界皇化の聖業翼賛の如きは完全に忘却し去られ、隧に夢想だも及ばざるに至り華かなる者は單に闘牛として登場し、然らざるものは禄を食み位を得るに汲々とし、只サラリーマンとして存在するに過ぎざりき、今や不逞大逆の徒は巷に滿ち厳重なる護衞を以てすら玉体を窺ふ者踵を接し一天万乗の大君は未曾有の危険に曝され給ひ、皇位大權の危機愈逼るも、軍人は只戦争の任に当るを以て全任務と誤認し天皇の御尊体皇位大權の守護は単に一部の警衛者警官等のみの任務責任なりとし、天皇を危険に曝し上りつゝ平然としてた戰鬪技術の練磨にのみ沒頭しつつあり、
 噫、上御一人すら守護し得ず、天皇を未曾有の危険に曝し上りて顧みざるが如くんば、幾百万の皇軍存在の意義果して何処にかあらん。
 是れ戰争方法の研究に急して、任務使命の研究を怠り武力行使法の教育に沒頭して之を行使すべき場合を明確に敎へざりし結果たらずんばあらず。
 抑任務使命の研究及教育は總ての研究、教育の先決問題にして、任務不明瞭にして之が遂行を誤らざらんとするは不可能なり、須く先づ千古不磨の皇軍任務を研究確立して之を現在に果すの道を明示せざるべからず。
 本然の任務使命を解せず、之を現代に果すの道を知らざる軍人武士は山田の案山子、門前の仁王のみ、安んぞ眞個の武人皇軍と云ふべけんや。
 宜しく崇高偉大なる皇國軍人の任務に眼醒むると共に眼前に山積せる未遂行の任務達成に蹶然猛進せざるべからず。

      一、日本軍人軍隊の任務使命

 『天壌無窮の皇軍を扶翼し世界に冠絶せる崇高偉大なる国體を擁護し、大業を恢弘し万民を安らかにす』是れ日本軍人軍隊の崇高偉大なる神聖使命なり、具体的に之を述ぶれば國家は天皇國民國土より成り、特殊國家たる日本は天皇即ち國民國土にして天皇を離れて日本國の存在なし、故に天皇守護は國家守護の最大任務なり。
 以下次を別けて述べん。
  一、天皇御生命又皇位大權の守護。
  二、國民の守護。
  三、國土國體の守護。
  四、人類救濟世界皇化の聖業翼賛。
 以上は最小限を示す、進んで天皇の御生命を安らけくし奉り、皇位益々搖ぎなく、大權益々伸張せられ、國内國外に益々皇威伸張、擴大せられ、國民の安寧幸福伸張し、國土國體益々海外に伸張し、皇道を世界に宣布し、世界人類を救濟するの大聖業を果さざるべからず。
 抑々我君臣の分は大地開闢以来、嚴として定まる所、神の國日本は万世一系の皇統と共に永遠に亡ふべからざるものにして、道徳を本として發達せる精神的文化たる皇道は、惱める世界人類を救濟すべき最高無二のものなり、この崇高なる國體を擁護し、文化を永遠に發達せしめて、大宏に布施するは國軍の崇高偉大なる使命なり。
 以上は日本國民全部の任務使命なれ共、軍人軍隊は專門的にこれに專任し、全責任を負ひ、殊に武力に訴ふるも、飽くまでこれを果すべく徹底せるを異なりとす。

      二、任務達成の爲平素爲すべき事項

一、軍人軍隊に其本然の任務使命又武力を行使すべき場合を明かに理解納得せしむ。
二、任務達成に充分なる精鋭軍隊の練成(精神的又物質的)。
三、天祖の理想達成を翼賛し國家を保護するに必要なる軍備を備へしむ。
四、國民全般の保護、皇威發揚的能力を充實せしむ、卽ち國民に大和民族の使命を自覺せしめ、任務を明かにして進むべき目標を示し、尊皇愛國心を熾烈ならしめ、精神及肉體力の強健を增進し富國強兵の基を築かしむ。
五、軍人任務使命を國民全般に充實理解納得せしむ。
  説明
一、古今東西の軍人軍隊皆其任務抽象不明確にして、具體的ならざるが爲、凡人の頭に明確に刻まれず、爲に世々天皇の統帥し給ひし皇軍も、何時しか權力者の走狗、或は上級軍人の私兵となり、三千年の大部は非皇軍として存在するに至れり、明治以後『皇威を發揚し國家を保護す』等の抽象的任務を附せられしと雖、尚甚だ不充分なり、任務を的確に理解せしむるは、敎育の先決問題にして、之を完全に理解せしめたる後、始めて學術の敎育卽ち戰爭の方法を敎へざるべからず。
二、從來此の事のみを以て軍人の任務と解せるもの多し。
三、軍に與へられたる兵力を以て、戰爭に從事し敗るると否とは我の關する所に非ず、責任に非ずと思惟するは無責任極るものなり、軍人は專門的智識を以て、必勝軍備量を備へしめざるべからず。
四、國民腐敗堕落し、日本國民の任務使命を忘却し、惰弱遊惰に耽り、國家を亡滅に導かんか、百萬の精鋭軍隊ありとも、國内よりの亡國に對しては、何等の價値もなかるべし、亦軍人は國民中より選ばるるものなり、國民腐敗堕落して、軍人のみ強かるべき理なし、故に國家守護の責任者として、國民を指導せざるべからず。
五、軍人の任務使命を明瞭に國民に理解せしめざれば、擧國一致國家を守護するを得す。
 
      三、武力を行使すべき場合

 右の任務達成の目的の爲、及軍人軍隊自身の自衞の為(正当防衞)に之を用ふ。

      四、誰の命令により武力を行使すべきか

 天皇の軍隊なるを以て、大元帥陛下の命によるを本則とす、然れども大命は常に下るものに非ず、神意は天の命なり、殊に兵は拙速を必要とするを以て、各級指揮官及個人は、全責任を以て任務達成の爲には、獨斷武力を行使し、積極的に任務を達成するの覺悟なかるべからず、要は任務なり、任務を基礎として獨斷決心すれば、決して服從と反するものに非ざるは戦鬪綱要の明示せる所なり。
   説明
  東郷元帥の日淸戦争に於ける獨斷開戦、關東軍の滿洲事變に於ける獨斷不逞誅戮、明治維新志士の獨斷不逞者討滅、大権擁護等、皆勅令によることなく、神意を圖り、神の御意圖を心として獨斷任務に基きて決心せられたるものにして、積極的に任務を解決し積極的に大元帥陛下に服從したるなり、吾等は神意の閃く所により任務の命する所に從ひ、大元帥陛下及上級指揮官の命令の有無に關せず、あらゆるものを犠牲として、任務を敢行するの覺悟なかるべからず。
  
      五、軍人の任務達成は攻撃を主眼とせざるべからず

 防禦は絶對的のものに非ず、攻撃は最後の勝利を博す、軍人の任務は絶對的なるものなり、故に武力行使卽ち直接行動さへも許されざるなり、苟くも武力を行使し、直接行動をなすまでに徹底せば、其方法も攻撃に徹底せざるべからず、而して絶對的にその任務を完うせざるべからず。
   説明
  攻撃の絶對必要なるは、戰鬪綱要の強調する所なり、而して獨り戰爭に必要のみならず、軍人の任務範圍に於ては、總て攻撃ならざるべからず、然るに軍隊は天皇が他より攻撃せられ、數回の危險に遭遇せられ、今尚危險に曝させ給ふに拘らず、敵の攻撃力を粉碎せんともせず、攻撃力發生の根源を絶やさんともせず、全く拱手傍觀、自己の任務外なりと言はんばかりの態度をなせり、攻撃せざるのみならず、防禦も完全にせざる狀態なり、防禦絶對的のものにあらず、攻撃は最後の勝利を博す、彈丸の命中すると否とは、單に公算の問題なり、如何に護衞を嚴重にし、鋼鐵の中に陛下を奉安し奉るも、敵攻撃力を撃滅せざる以上、永久天皇は安全ならず。
  百の防禦は一の攻撃に如ず、久しく軍人の愛國の至誠が非國民等の宣傳攻撃に壓倒せられ、祖國を危殆ならしめたるも、攻撃を知らざりしが爲なり、滿洲事變前後より始めて軍人が攻撃に轉じ、祖國の危機を興隆へ轉換するに至れり。

      六、軍人の任務達成史批判 〔以下、見出しのみ掲載〕

       イ、天皇皇室の御生命皇位大權の守護史批判
       ロ、國民防衞史批判
       ハ、國土國権の防護史批判
       ニ、世界皇化の神聖使命達成史批判

      七、現在の軍人は如何にして其本然の任務を果すべきか 

       結論

 之を要するに、總てが其本然の任務使命の研究を怠り、只その手段方法の末節にのみ沒頭しつつあるは、現代の最大弱點にして、すべての欠陷急機こゝより生ぜしなり。
 例へば、日本國民の進むべき天職使命理想を知れる日本人、又之を示したる爲政者幾人ありや、二千年間無自覺、無理想に漫然として經過し來りしため、日本人にして日本の使命を正して認識せず、目標無くして進むは、羅針盤なき航海なり、滿足なる發達を遂げる理由なし、若しあらば紛當なり、宜なる哉、日本の神聖使命が常に忘れられ日暮れて道甚だ遠しの感ありや、敎育者も亦然り、敎育手段方法の研究は進歩したるも敎育の目標を怠り、爲に國体觀念の養成徳育を怠り、今日の思想的危機頽廢を招來し、此等頽廢せる者が爲政者となり、實業家となるに及び、政黨、財閥、經濟、思想、國防の國難を招來するに至れり、軍人亦斯くの如く三千年間完全に軍人任務を理確したる者は殆んど稀なり。
 抑々軍人任務の研究はあらゆる軍事の研究の根本なるに拘らず、戰鬪及び敎育の手段方法は微に入り細を穿ち、殆んど研究し盡されしに拘らず、軍人の任務の研究せられたるもの殆んどなく爲に山積せる我等の任務、我等の權力(任務達成に從事し得る)を前にして小範囲の任務に自ら局限し、自己陶酔に滿足しつゝあり嗚呼興廢の十字街頭に立てる祖國は果して誰の手によりて救はれんとするか。
 國内國外に滿つる皇位大權の侵害者、國民の安寧幸福を食物とする國民賊奸臣及神国日本の國土國権を侵害せんとする白奴、黄奴を撃滅し國を完全に皇化すると共に、進んで特質文明の残骸に喘ぐ世界全人類を日本の精神文明により、融合統一し皇道に蘇生せしむるは一に我皇國軍人の雙肩に批せられたる神聖使命天職に非ずや、『國破れて忠臣現はれ、家貧にして孝子出づ』鎌足出でよ、楠公出でよ、松蔭出でよ、眞個の軍人蹶起せよ。
  出でゝ内外の國難を打開し、落日を卽墜に回し、神武の理想を現代に實現せよ、最早議論の時に非ず、只本然の任務を基礎とし完全なる天皇信仰に生き齋戒沐浴して神意を體し斷の一途あるのみ。  

   厳秘

 八月二十五日附中堅青年將校共編にかゝる(皇軍本然に就て)と題するパンフレット内容に対する各青年將校の率直なる意見卽ち左の如し。
 (イ) 上略、特に皇道發起の獨斷論はしかく簡單に行かぬと思ふ、卽個々具體的に獨斷の適否か決定せらるへし、固より大乗的見地より今や大義上何時改造の爲獨斷奮起するも少しの妨けなきも、しかも小乗的によく動機を吟味せされは名分立ち難し。
其の動機の一例を擧くれば、
 (1)萬々一、聖上再ひ兇漢の不敬に逢はせられた時機。
 (2)射撃演習の爲街上行進中偶々暴動事件あり之を制せむとせるに警官と衝突し終に獨斷警官を攻撃し乃至聯隊長軍旗を擁して警視廳を占領し要所を護衞するか如きは適當なる動機の一例。
 (3)政民聯合に依り政權を把握し政黨獨裁決行を表現したる時直に憤激の一隊を平然として行進せしめたるに、軍隊に對し重大なる侮辱を政黨員か加ふ卽ち立ちて之を占領す。
 要するに大義は己に立つも名分は其の動機の選定を愼重にするを要す、特に軍隊の動機はやはり中隊長聯隊長等實兵を統帥して責任ある獨斷力あるものを獲得すへく、特に軍旗なれは之か堂々たる進出を最も重大意義ありとす、而して十月事件失敗の工作なるを以て同一筆法を繰り返すは愚にして、之か爲めには在京の一個聯隊を徹底的に思想訓練し一人事を整理し置き待機するを必要とす。
 更に今後青年將校の指導精神とも称すへき方針一般要領等次の如し。

         記
  方針
 内外非常重大の形勢に鑑み擧國一致天壌無窮の皇運を扶翼し奉り擧國和榮宇内の皇化の根基を確立せん爲め皇軍一体速に皇道維新の必要を奏請し奉る。
  一般要領
 一、皇軍一體の強化
   之が爲め先つ中堅有爲の結束を堅くし、認識を深厚にして皇道維新斷行の公論を確立し浄化統制を普遍強化す。
 一、政治的運行の漸進
   之れか爲軍部政黨対立の形勢を激化し終に一部の騒擾を惹起せしむ。
 一、維新奏請
   皇軍一部の獨斷發動(暴徒にあらす)を端緒とし形勢重大化未然防止の爲め戒嚴令を敷き維新斷行の癌たる政黨財閥の妄動を制し以て聖斷を待ち奉る。
     皇紀二千五百九十三年八月

                    中堅青年將校團