蔵書目録

明治・大正・昭和:音楽、演劇、舞踊、軍事、医学、教習、中共、文化大革命、目録:蓄音器、風琴、煙火、音譜、絵葉書

無名会劇  「オセロー」  帝国劇場 ( 1914.1 )

2020年03月27日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 

 無名會劇
   オセロー 

   オセローに扮する東儀鐵笛氏
   デズデモーナに扮する秋元千代子氏

     丸の内 
   於帝國劇場    

    大正三年一月二十六日より 同年仝月三十一日三十一日まで
      毎日午後 五時半開演

    オセロー場割

 第一幕 
  第一場 ヱ゛ニスの街上
  第二場 他の街上
  第三場 會議室
 第二幕 
  第一場 サイプラスの埠頭
  第二場 城内の廣間
 第三幕 
  城内の一室
 第四幕
  第一場 庭園
  第二場 城の前
 第五幕
  第一場 サイプラスの街
  第二場 寝室

     役割

 ヱ゛ニスの公爵                   上田榮氏
 ブラバンシオ(元老議官)              元安豊氏
 グラシヤノ(ブラバンシオの弟)           井上芳郎氏
 ロドヰ゛コー(ブラバンシオの近習)         大村敦氏
 オセロー                      東儀鐵笛氏
 キヤシオ(オセローの副官)             東辰夫氏
 イヤゴー(オセローの旗手)             土肥春曙氏
 ロデリゴー(ヱ゛ニスの若紳士)           毛受哲氏
 モンタノー(サイプラスの假總督)          上田榮氏
 デズデモーナ(ブラバンシオの女にしてオセローの妻) 秋元千代子氏
 エミリヤ(イヤゴーの妻)              都郷道子氏
 ビヤンカ(キヤシオの情婦)             酒井米子氏

   オセロー劇に就いて
        文學士 久保田勝彌氏談
 
 今回我々演劇無名會が帝國劇場に於きまして、オセロー劇を公演する運となりました。恩師坪内博士の御翻譯を基礎といたしまして泰西 あちら のテキスと参照しまして池田氏の骨折りで場面なども結構する樣な次第で御座います。
 〔以下省略〕

   沙翁の傑作 四大悲劇中 『オセロー上場

        〔上の右の写真〕土肥春曙氏

 舊文藝協會の同志が糾合されて劇壇に再擧しました吾が『無名會』は、こゝに沙翁の傑作中『ハムレット』と共に双璧と稱せられて居る『オセロー』を上場する事になりましたが、筋は此の筋書にある通り、錯綜した人事を捉へて、嫉妬、戀愛、忿怒、失望等のあらゆる人情を文 あや に、悲劇の筋道を運んで行きます靈腕は何人の筆も及び付かぬ所です、此の傑作を選びまして、こゝに上場して、果して其の神 しん を傳へることが出來るか如何かは、一に吾々の努力と熱誠とに歸せねばなりませんが、役々は會員各自に適したものを振り當てまして、實際を自然に行き易く致しましたから、餘りに技巧を弄する不自然もないであらうと確信をして居ますと共に、吾々に取つては、最も不得手な扮粧 ふんさう も、平尾賛平商店のレート化粧料がある爲めに、思ひのまゝに役々の扮粧が出來て、思ふよりも尚ほ立派に出來上るといふやうな譯で、誠に喜ばしいと思って居るのであります、此のレート化粧料が自由自在な扮粧に適して、自然と其の役の人物を現出せしむるだけ吾々は尚ほ一層に努力と熱誠とを以て、其の役の外形の立派やかに、其の人となり了 をは せて居るのに劣らない内容を滿たして、沙翁の傑作を遺憾なく演出しやうと覚悟も堅ければ、發奮も大なる次第であります、よく筋書と舞台とを対比せられましたなら、吾々『無名會』は躍如として諸君 みなさん の眼中に映り、而 そ して『オセロー』のいかなるものかといふ事が、明かに看取せらるゝことゝ信ずるのであります、若し新劇の気運が今日 こんにち の如く勃興して來たことゝ、その先軀をなした舊文藝協會、それを繼 う けて再び旗幟を鮮明に劇壇に現はれました吾々の團體の上に想到せられましたならば、此の中 うち に何物をか發見せらるゝことであらうと吾々は深く信じて疑はないのであります。


沙翁劇 「ハムレット番組」  帝国劇場 (1911.5)

2020年03月26日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 

文藝協会第壹回公演
   沙翁劇
 ハムレット番組 
   帝國劇場 

  明治四十四年五月二十日 
  午後四時開場


 沙翁劇 ハムレット (坪内逍遙氏譯

    登場人名

 クローディヤス  丁抹国王     東儀季治氏
 ハムレット    王子       土肥庸元氏
 ポローニヤス   侍従長      加藤亮氏
 ホレーシオ    ハムレットの信友 森英次郎氏
 レヤーチス    ボローニヤスの男 林和氏
 ヨ゛ルチマンド  廷臣       佐竹東三氏
 コオネリヤス   廷臣       柏木力三郎氏
 ローゼンクランツ 廷臣       三樹永造氏
 ギルデンスタアン 廷臣       横川唯治氏
 オスリック    廷臣       泉新一氏
 僧官長               武田正憲氏
 マーセラス    武官組頭     佐々木積氏
 バアナード    武官       戸田猿仁氏
 フランシスコー  兵卒       横川唯治氏
 俳優長               戸田猿仁氏
 ゴンザゴー    劇中王      佐々木積氏
 ルシヤナス    劇中の悪漢    林和氏
         墓堀男      東儀季治氏
         墓堀男      佐々木積氏
 亡霊       ハムレットの父王 武田正憲氏
 ガーツルード   王妃       上山浦路子
 オフィリヤ    ポローニヤスの女 松井須磨子
 バプチスタ    劇中妃      秋元千代子
 其他公卿、官女、兵士、使者、暴徒等

 第一幕 亡霊出現の場
     使節派遣の場
     レヤーチス發足の場
     ハムレット亡靈に逢ふの場
 第二幕 艶書朗讀の場
 第三幕 ハムレット獨白の場
     劇中劇の場
     國王煩悶の場
     ハムレット苦諫の場
 第四幕 オフィリヤ狂亂の場
 第五幕 オフィリヤ葬式の場
     ハムレット復讐の場


 なお、下の写真と解説文は、大正元年八月六日発行の『舞台之華』掲載のもの。

   

 明治四十四年五月於帝国劇場 〔上左の写真〕
    文芸協会第一回公演(ハムレツト)
    泉新一のオスリツク
    林和のレヤアチス
    土肥庸元のハムレツト
    森英次郎のホレーシォ
    上山浦路の王妃ガーツルード

 同上 〔上右の写真〕
    東儀季治の墓堀男
    土肥庸元のハムレツト


露国大公殿下 台覽演劇 『番組』 帝國劇場 (1916.1.20)

2020年03月25日 | 帝国劇場 総合、和、洋

          
    
    大正五年一月二十日午後八時開演
 露國太公殿下 台覽演劇 番組
            丸の内
              帝國劇場
    
 第一 所作事 二人道成寺 一幕

    幸田露伴原作
    右田寅彦脚色
 第二 御大典 記念史劇 名和長年 二幕

    河竹黙阿彌作
 第三 新歌舞伎 十八番の内 紅葉狩 一幕

 第四 霞ヶ関の場
 一手古舞  森律子
 一同    村田嘉久子
 一同    藤間房子
 一同    河村菊江
 一同    初瀨浪子
 一同    宇治龍子
 一同    小原小春
 一同    小林延子
 一同    東日出子
 一同    田村壽美代
 一同    木村重子
 一同    村田美禰子
 一同    櫻井八重子
 一同    鈴木ふく子
 一同    橘薫
 鳶の者   多勢
   常磐津連中 
     
 第四 浄瑠璃 木遣音頭睦月賑 一幕

 『霞ヶ関の場』本舞臺一面の平舞臺正面霞ヶ関露國大使館より、櫻田門の方面を望みたる中遠見、舞臺には色々の山車を飾り、賑なる鳴物にて幕開くと、直に常磐津の浄瑠璃になり、手古舞の藝妓 げいしゃ 大勢出で來り木遣を唄ひ、常『大君の尊き御稜威 みいず 彌 いや 高き豊葦原の民草も御惠み深き雨露に繁ります増穂に穂が咲いて、實りもよしや豊か年、 云々』ト皆々振有って納る、是より總踊になり 常『都の名所の先づ第一の振出しは、七重八重てふ九重の雲の上へ居の二重橋、神武の昔いやつぎに神代神田の須田の町、かけたる橋も萬世 よろづよ にゆるがぬ御國の日本橋』 ト皆々振有って、賑なる鳴物を冠 かぶ せて宜しく幕

 なお、この『番組』は、日本語、フランス語の二カ国語で構成されている。


劇的バレー 「嫉妬」 帝国劇場 (1915.10)

2020年03月25日 | 帝国劇場 総合、和、洋
  
 
 一番目 時代劇 白縫譚 一幕

  中幕  

    河竹黙阿彌作
  上の巻 新古典劇 十種の内 一つ家 一幕
    右田寅彦作
  下の巻           文ひろげ 一幕

 二番目 時代世話劇 幡隨院長兵衛 三幕 四場

  序幕  村山座舞臺の場
  二幕目 花川戸幡隨院内の場
  大詰  番町水野邸の場 
      同 湯殿の場  
     
 大喜利 
      西班牙居酒屋の場
      同シビリア街上
 一ロドリクエッツ  幸四郎
 一カルメンチタ   マダム、ローシー
 一アルベレッツ   ローシー

   其他人民、顧客、警官多勢
   帝國劇場附屬管絃樂部員

  大喜利 劇的バレー 嫉妬 二場

 『第一場、西班牙居酒屋の場』音楽にて幕開くと、茲は西班牙、シビリア、ポサダ酒店の内部にして、人相惡き顧客多勢、酒を飲み、骨牌 カルタ を弄して居ると、カルメンチタと云ふ舞姫出來るにより、一同は是に酒を勸め、我勝ちに其愛を得んと競ふ、されどカルメンチタは一々其等の申出を斷る、アルベレッツといふ闘牛家亦入來り、カルメンチタを見て心を動し、満身の愛を捧げると、カルメンチタも亦憎からず思ひて、其愛を受け、共に手を取つて舞ふ、カルメンチタが昔の情夫にして漁師なる惡漢のロドリクェッツ入來り、此體 このてい を見て嫉妬を起し、アルベレッツを骨牌遊びの仲間に引入れ、喧嘩となり、其際ロドリクェッツは片手に負傷をなし、カルメンチタはアルベレッツと共に出行 いでゆ く、ロドリクェッツ追ひ行きアルベレッツ重傷を負はす、カルメンチタは昏倒す、ロドリクェッツはアルベレッツの既に死したるものと思ひ、カルメンチタに迫りて其戀を遂げんとすれば、カルメンチタ是 こゝ に戀の仇を復し、戀人を助けんとして、戸外に出づるを、ロドリクェッツ追縋 おひすが り、カルメンチタを傷 きずつ く、人々は急を警官に告げ、警官入來り、カルメンよりロドリクェッツの行方を聞き、忽ちに彼を射殺 いころ す。
 『第二場、シビリアの街上』是より六ケ月程經、シビリアの祭の日、カルメンチタはアルベレッツと目出度く結婚し、茲に人々の祝賀を受くる模様にて賑に幕

神話的バレー 「獵の女神」 帝国劇場 (1915.7)

2020年03月24日 | 帝国劇場 総合、和、洋
         
     
     河竹黙阿彌作
 第一 朝比奈三郎 局松島 星月夜東鑑 二幕 五場

 第二 喜劇 野晒 一幕 四場

 第三 時代世話劇 阿波の鳴門 一幕
     
 第四 時代世話劇 伊勢音頭戀寢刄 一幕 三場

 第五
      ガルガフイアの森
 一ダイアナ獵の女神 モリノ
 一アクテオン    高田
 一ニムフ森の女神  磯代
 一同        照子
 一同        たかね
 一同        靜子
 一同        百合子
 一同        喜久代
 一同        せい子
 一同        桂
 一同        柏木
 一同        小島
 一同        松山
 一同        菅
 一同        石井
 一同        葉須
 一同        櫛木
 一同        岸田
   帝國劇場附屬
      管絃樂部員  

     ローシー作並に指導
  第五 神話的バレー 獵の女神 一場

 『ガルガフイアの森』、舞臺はガルガフイアの谷を飾る、美しき森にして、夜明けの空と共に徐々と其美を現はし、煌々たる星光も、立昇る太陽の光に、いつしか消え行く光景、獵 かり の女神にして主の神ジュピタアに、變りなき愛を捧げるダイアナは、今しも弓矢を携へたる森の女神ニムフを從へ、オリムプス山を降り來れる處なり、而して實に此弓矢なるものは無辜にして美しき人間の妙なる音楽を沈黙せしめ、斯 か くして彼女 かれ が性來の惡意を滿足せしむる唯一の道具なり、茲に唯一人覘 ねら ひの正確に於ては一籌 ちう を輸するも其敏捷に於ては此のダイアナに近附き得可 うべ き神はアクテオンにして、常に數多くの忠實なる獵犬を從へ居たり、此二柱 ふたはしら の神は時々途上に遭遇する爲め、近附きとなりたるも、自然の美とオレーンヂの花の馥郁 ふくいく たる香気とを以て飾られたるレミー湖の邊 ほとり に出づる時は何時もの狎々 なれゝ しさを去つて、眞面目になるが例となり居たり、其理如何にと云ふと、茲にはダイアナは其侍女ニムフを伴はれ衣を脱し、水浴する故、其時は決して見てはならぬとアクテオンに命ずればなり、されど水中に嬉戲せるダイアナを見てはアクテオンはその好奇心を抑ふる能はず、潜 ひそか に、草叢 くさむら の蔭より覗き居たるに、忽 たちまち にして女神の認むるところとなる、女神はアクテオンが無躾 ぶしつけ なる態度に激怒し、己れの姿を見たる何者をも、其形を變ふる力あるを幸ひに、忽ちにアクテオンを牡鹿に變形したれば、アクテオンは今や己 おの が獵犬に獵立 かりた てらるゝの始末となり、斯くしてダイアナは己が水浴 ゆあみ を終り、オリムプス山へと立歸る。

 なお、上の写真右二枚は、絵葉書のもので、下の説明がある。

 上左の絵葉書:(帝國劇塲神話的バレー獵の女神)ガルガフイアの森の塲
 上右の絵葉書:(帝國劇場獵の女神)半獸の怪物(高田)ダイアナ(モリノ) 

無言劇 「犠牲」  帝国劇場 (1912.10)

2020年03月21日 | 帝国劇場 総合、和、洋
     
 
   Miss.J.REEVE    Mr.G.V.ROSI

 秋冷之候各位愈々御清榮奉賀候陳者當劇場事創業以来常に劇界の進歩改善に勉め國酔保存の傍ら、泰西藝術の精華を撰みてし、前興行よりはジー、ヴイー、ローシー氏を招聘し、專ら西洋舞踏教授の任に當らしめ●候同氏ハ歐洲歌劇俳優の瀾叢地たる伊太利に生れ、父祖の業を襲ぎて身を劇界に投し、研鑽多年、倫敦陛下座 ヒズマセズチース に於て名優ツリーの下にバレー、マスターたる事数年、舞踏術に於て非凡の技能あるは識者の等しく認むるところ、今回は嘗て倫敦に於て名聲を博したる自作、無言劇『犠牲』を提出し、夫妻進んで作中の人物に扮し、松本幸四郎丈を起し、専属女優の外に歌劇女優、男優数十名を指導督励し、衣裳、背景、光線、大道具等總て之を泰西の範に倣ひ、多少なりと我か劇界に貢献せんとするの微衷に有之候へハ大方諸賢幸に其志を諒として陸續御来観御高評を賜り度犠牲の上場に際し御披露旁右御挨拶迄如斯に御座候謹言
 大正元年十月吉日
      帝國劇場


     岡本綺堂作
 第一史劇 平家蟹 二幕

 第二 時代劇 忠臣藏九段目 一幕

     田口掬汀新作
 第三 喜劇 國境 くにざかひ 二幕
     
 第四 世話 浄瑠璃 お俊 傳兵衛昔形松白藤 一幕

 第五
      埃及の寺堂
 一武士ユーラム   ミスタア、ジー、ヴイー、ローシー
 一高僧ラダメス   松本幸四郎
 一乙女ナスラ    ミス、ジュリア、リーベ
 一奴隷娘トールハン 音羽かね子
 一尼僧       藤間房子
 一同        佐藤千枝子
 一同        小原小春
 一同        小林延子
 一同        泉龜代子
 一同        水野早苗
 一同        佐藤はま子
 一同        月岡靜枝
 一同        四條京子
 一同        橘富美子
 一同        木村重子
 一同        東日出子
 一同        中山歌子
 一同        村田嘉久子
 一同        夏野綠
 一同        白井壽美代
 一同        田中勝代
 一同        河合磯代
 一同        澤美千代
 一同        松本愛子
 一同        宇治龍子
 一同        大和田園子
 一同        村瀨蔦子
 一同        花岡蝶子
 一黒人       松本銀杏
 一同        市川宗三郎
 一同        尾上梅次
 一同        尾上幸雄
   帝國劇場附屬管絃樂部員  

     ローシー氏作及指導
  第五 無言劇犠牲一場

 『埃及の寺堂』ユーラムと云へる武士、誤つて法師を殺し、その爲に罪を得て寺堂内に拘禁せらる、若し彼を憫 あは れむ乙女ありて彼に接吻を許すならば、彼は釋 ゆる さるべしと雖も、同時に其の乙女は彼に代りて拘禁の身とならざるべからざるなり、然るにナスラと云へる少女あり、麥 むぎ を獻 さゝ げんとて偶々寺堂に來たり、ユーラムを見て戀情を生じ、誘惑的なる動作と眼 まな ざしとを以て彼の意を動かさんと謀る、彼もナスラを憎からず思へど、其の心の欲する儘にせば、少女の身を不幸に陥 おちい らすべきを思ひ、強 しひ て其の心を制す、高僧ラダメスまた少女を警 いまし むるに、少女若しユーラムに戀を爲さば、其の拘禁は終身たるべきを以てするも、ナスラは之を思ひ斷つ能はずして、其身を犠牲にするも辭せじと決心す、ナスラ踊りに踊りて『戀の舞』を演ずれば、ユーラムは可憐なる風姿に魅せられ、思はず之に接吻す、ナスラ忽 たちま ち尼僧に捕へられ寺堂内に引込まれ、ユーラム切に少女の許されん事を乞ふも許されず、寺堂の外に取殘さる、ユーラムが力もて寺堂の扉を開かんとする時、その門サット押開かれ、ラダメスの姿を現はし、ユーラムに弓矢を與へ、最早自由の身となりたれば何處へなりと立去れと命ず、されどユーラムはナスラを失ひて失戀し、も一度少女を見ん事を求む、ラダメス之れを許し、少女を連れ來らしむ、ナスラ出來 いできた りてユーラムを見るや感極まりて抱き附く、ラダメス兩人を引離し、ナスラには『訣別の舞』を命じ、舞終りて尼僧又少女を寺堂に引入る、ユーラム物狂はしくなりナスラを救ひ出さんとして、門扉 とびら を開く時、其の足音を聞付け、ラダメスは竊 ひそか に短刀を用意して忍び寄り、一刀の下にユーラムを刺殺し、ユーラムは遂に戀の犠牲となる幕

  なお、上の一番右の写真は、絵葉書のもので、下の説明がある。

 (帝國劇塲犠牲)乙女ナスラ(ミス ジュリア リーベ)

『帝国劇場案内』 (第二版) (1911.4)

2015年11月06日 | 帝国劇場 総合、和、洋
 

 帝国劇場案内  明治四十四年四月二十五日発行

 下は、その掲載の写真や記述の一部である。

       

 上の写真(左から):基礎鉄筋混凝土工事(四十一年八月)、鉄骨工事(四十二年九月)、屋頂「翁」の金像、帝国劇場全景、附属技芸学校出身の女優、劇場附管絃楽隊

 建築の設計  は工学博士横河民輔氏之を担当し、為めに特に欧米遠航して、親しく詳に彼の地の劇場建築を視察し、その得来たれる所を尽 ことごと くこの帝国劇場に応用したれば、蓋し世界に於ける進歩したる劇場建築の一なるべし。
 ルネーサンス  手法は仏蘭西に則り、建坪六百四十五坪余、軒高 のきたか さ前面に於いて五十二尺余、舞台所在部に至つては其高さ六十六尺、此部分に於いて地下室床上より屋根突針頂までの高実に百十一尺を算す。間口前面に於いて十七間、中央部に於いて二十五間余、奥行三十三間余、地下室を別として、地上に三階を構ふ。外部前面に備前伊部の
 装飾煉瓦  を貼し、屋根蛇腹には舞楽の面を模刻す。廂 ひさし は凡て鉄製にして、覆ふに橄欖色の塗料を以つてす。色彩の優雅なること、一見して直に快美の感を呼ぶに足るべく正面の屋頂には能楽
 『翁の舞』  の金像を建つ、西洋彫刻の名手沼田一雅氏の作にして、特に能楽の大家、松本長氏の演舞を模範としたるものなり。『翁』は舞曲の最も古く、且つ最も崇重なるものにして、天照大神を表し、天下泰平五穀豊穣を祈願する為めに演奏するものなりとの伝説あり。本劇場が『翁』の面を紋章とするもの、また演劇の本流を敬重し、国土と共に芸術の円満なる発達を遂げんことを祈るの意に外ならず。建物内部には
 大理石  を潤沢に使用しその壁の下方および柱脚に据ゑたるものゝ如き、之が良材の産地として世界に聞えたる伊太利より遠く特に輸入したるものなり。結構の善美威厳とに於いて、ひそかに欧羅巴の

 耐震の設備  と防火の装置とを加へて、此等来集者の身命を安固にするを要す。依りて、本劇場は地下十尺七寸乃至十五尺の深さに土壌を掘出し、三間及び三間半の松丸太一万数千本を打ち込みたる上、上部を一面に鉄筋混凝土を以つて固め、尚ほ建物の重量を軽減する為め鉄骨を採用したり。
 火災の防禦  に至りては、観覧席、舞台、場外に各二個の消火栓を備ふる外、舞台の前後に各一面のゲバー会社製鉄扉を備へ、過つて其一部に火を失するも、忽ち之を閉鎖し、建物を全然区分して以つて累を他に及ぼすことなからしむ。その他防火上主要なる窓及び出入口はケルショー会社製自働鉄戸を有し、火熱を受くると共に、人力を待たずして自然に閉鎖する装置あり。

 完全なる
 換気の装置  なくんば、衛生上未に観客の安を保し得たるものと云ふ能はず。仮令 たと ひ多数の窓開くも、空気自然の流通に待たば、到底不健全瓦斯の停滞を免る能はざるなり。依りて屋上に大旋風機を備へ電力を以つて之に一分間二百回転を與へ二万八千八百立方呎 フィート の空気を屋外に放出せしめ、盛んに其の流通催行す、寒冷の侯には、屋頂より攝取したる新鮮の空気を一たび地下室に導き
 温暖空気  となして観覧席の座下に送る。右は地下室に装置されたる、千二百八十平方呎の放熱全面積を有する鉄管に依り百二十度の温度に温めらるゝものにして、観客一人に対して能く一時間八百立方呎の空気を供給す。從つて観覧席は常に六十五度の温を保持し十分間に一度づゞ尽く空気を交換せしむべし。場内廊下およびその他の諸室には米国製
 放熱器  を配置し、同じく地下室より之に蒸気を送り、その冷却して露結したるものを集むる水管中には常に若干の真空を保持せしめ、蒸気の循環をして頗る平準ならしむ、為めに更に不快の音響を発するが如きことなし。夏季には総て三十個の
 扇風機  を備へ、観覧席左右の壁側より冷気を送り、且つ場内の換気を一層に催進せしむ。婦人化粧室には卓上に此扇風機を置く、洗面の後に、蓋し一倍の冷を覚えらるゝならん。此等設備の一端に由りても、当劇場の用意、自ら他の同種営業物と異なるところあるを知るべし。

 装飾  に善美を尽くし、観客に専ら快適の感を與へんことを期したり。換気、保温保冷等、衛生上の注意は既に遺さゞるが上に、観客の一たび観覧席に入るものをして、忽ち実世間と隔離し身は恍惚美神殿堂内にあるの思あらしめん為め、
 天井  の如き特に意匠を用ひ、中央に強力なる電燈を点じ、之を圍繞して十面の装飾画を配し、『虚空に花降り、音楽聞え、霊香四方に薫ず』るの光景を現す、即ち舞台前三面の大油絵、三保の天女
 霓裳羽衣  を為しつゝ、数多月界の天女に迎へられ、昇天するの図と連絡して、凡て謡曲『羽衣』の意に取る、洋画界の泰斗和田英作氏の筆に成る。街路の実生活より観客を舞台の別世界に導く最も恰当の構図なるを信ずるなり。この油絵を圍繞するに唐草模様の
 彫刻物  を以つてし、點綴するに楽器の彫刻を以つてす。彫刻は凡て『翁』の像と共に沼田一雅氏の製作にして、二階観覧席の前手摺 バルコニー には幼児遊楽の彫刻を施し、三階の同じ位置には花飾 フエス ン を刻す。三階欄間 フリーズ には又唐草地紋の上に高く香の図を浮彫りにしたり。尚ほ貴賓席の破風上には
 白鴿数羽  の彫刻物あり、宛然真に迫り、将に浮翔せんとするの勢を有す。舞台額縁に至りて彫刻はいよゝ其精を極め、中央に二羽の孔雀を刻し、之に劇場の紋章『中啓に翁の面』を擁かしむ。
 額縁  は幅八間余、高さ四間、西洋の舞台に比して稍や広く且つ低きは、我邦演劇の慣例を参酌したるに由るなり。上部に仏国帝政時代様の二重上飾を施す。濃緑色のテレムプ地に金糸の刺繍を加へたるものにして、一面に金糸の総 ふさ を垂らせたり。
 緞帳幕  は即ち之より懸かり落つるものにして、正副の二種を備ふ。淡紅色テレムプ地の下部に月桂樹模様金糸刺繍を施し、且つ同じ刺繍を縫目に沿ひ縦に数條加へたるものを正とす、三越呉服店の製作なり。副は高島屋の製作にして、図案家結城素明氏の意匠に成る、
 百花爛漫  たる花園の、鳥歌ひ蝶舞ふ間に上代の乙女子遊戯する華麗の図を、刺繍および貼縫 アツプリケート にて金糸入白茶斜子の上へ現したるものなり。華麗雅美、世に稀なる出来栄との評あり。貼縫と称するは縮緬、繻子、羽二重、琥珀、天鵞絨 びろうど 等、種々の織物を、その固有の地合と染色とを利用し、図の随処々に綴り縫ひたるものなり。

 別に舞台前、観覧席内に
管絃楽隊  を置き、演芸中または幕間に奏楽を行はしむべし。西洋の所謂オーケストラにしに、我邦には未曾有の者たり。本劇場は我邦音楽の開発に幾 分資せんとする目的を以つて、特に開場前より西洋音楽の大家ユンケルウエルクマイステル両氏に囑し、隊員の養成を為さしめたり。
女優  も亦た、男優と伍し専ら婦人役を演ずる意味に於いて、我邦に一新計画といふを得べし。歌舞伎の初期には男女並びて一舞台に立ち、男女その各 の役を演じたりしも、中頃制令に由りて禁ぜられ、男子の婦人役を演ずること久しきに及べり。到底不自然にして、観者に充分の
感興  を與ふるに適せず。本劇場茲に見る所あり、四十一年九月、川上貞奴等に囑し、資金を給して女優養成所を設立せしめたるが、後収めて之を本劇場の附属とし、組織に多少の改革を加へて、名称をも帝国劇場附属
 技芸学校  と更め、渋沢男爵を総長に戴き、西野、益田の両取締役理事として、演劇に必要なる諸種の芸術、学科を教習せしむること年あり、既に幾多の卒業生を出だすに至れり。多くは高等の教育を受けたる、身分ある人の子女にして、何れも
 新時代  の女優たるに適する素質あるを信ず

『帝劇招聘 世界的芸術家』 (1926.7)

2013年12月27日 | 帝国劇場 総合、和、洋
創立二十年記念「帝劇之洋楽運動」別冊
    帝劇招聘 世界的大芸術家(写真帖) 東京 噴泉堂

    前書

 今年は帝劇が創立されてから丁度満二十年に相当する。そして改築されてから三周年経った。そこで、私は去る大正九年 〔一九二〇年〕 に玄文社から「帝劇十年史」を刊行した関係上、今回も二十年史を出さうと企てた。が、何分震災後の創痍全く癒えざる今日、搗て加へて経済界は空前の不景気であるため、劇場の方にも創立二十年祝賀会等の催しも無いので其の企ては後日に譲ることにした。
 然し、開場当初の西野専務の歌劇創始と大正七八年以来計画された山本専務の洋楽運動は我が楽界に一大ショックを與へたもので、之によって各種の新運動が勃興し我が楽界は漸く黎明期に到達した。此の功績こそ帝劇か演劇を実業化した以上の大功績であって、私が敢て「帝劇の洋楽運動」なる一書を世に公にする所以なのである。
 此の小冊子は、「帝劇の洋楽運動」の別冊で、意義のあるものではないが、珍しい写真が多いだけ好楽家に喜ばれるであらうと信ずる。

   出版者識

  

  

 ・アレキサンダー・モギレフスキイ
 ・ナジエダ・レエフテンベルグ・ボーアルネー

  モギレフスキイ氏の経歴

        

 ・帝国劇場取締役会長福澤桃介氏 MOMOSUKE FUKUZAWA PRESIDENT
 ・帝国劇場取締役山本久三郎氏 KYUZABURO YAMAMOTO MANAGING-DIRECTOR

              

 ・エレナ・スミルノワ ELENA SMIRNOVA
 ・ミシエロ・ピアストロ MICHAEL PIASTRO
 ・アルフレッド・ミロヴィッチ ALFRED MIROVITCH
 ・セルギイ・プロコフィエフ SERGES PROKOFIEFF
 ・ミッシャ・エルマン MISCHA ELMAN
 ・エルネスチン・シューマンーハインク ERNESTINE SCHUMANN-HEINK
 ・エフレム・ヂンバリスト EFREM ZIMBALIST
 ・アンナ・パヴロワ ANNA PAVLOWA
 ・レオポルド・ゴドウスキイ LEOPOLD GODOWSKY
 ・フリッツ・クライスラー FRITZ KREISLER
 ・ヤシャ・ハイフェッツ JASHA HEIFETZ
 ・ミエチスラフ・ミュンツ MIEZYSLAW M●NT

       

 ・メイ・ランファン 梅蘭芳
 ・メエベル・ギアリスン MABEL GARRISON
 ・ルー・モータン 緑牡丹
 ・ルウス・セント・デニス … テット・ショウン TED SHAWN … RUTH ST. DENNIS
 ・ミッシャ・レヴィツキ MISCHA LEVITZKI
 ・ジョン・マッコオマック JOHN McCORMACK

 広告

 奥付〔その一部〕

 大正十五年 〔一九二六年:但し、表紙裏には「大正拾五年十一月卅日」の印がある〕 七月三日発行 定価五十銭 
 編輯兼発行人 杉浦善三
 発行所    噴泉堂

「ローシー先生に逢ふの記」 南部邦彦 (1922.5)

2012年10月11日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 ローシー先生に逢ふの記  南部邦彦

 

 日本の歌劇界の大恩人デービーローシー先生は目下ローサンゼルスのブロードウエーより一哩 マイル 許り西の方へ行つたピツコーと云ふ町にイタリアン倶楽部といふ大きな建物が有つて其位一階全部の大広間がローシー先生の教室で三十人許りの男女が例の服装をしてスツチヤラチャンゝゝスツチヤラチャンスツチヤラチャンゝゝ日本で使用された魔棒より一層太いのを持つてヂヤラマドンナーを呼び続けておらる。
 僕がローサンゼルスへ着いたのは一寸前の事だ桑港 サンフランシスコ とローサンゼルスとは大分気分が違ふ前者は如何にも開港場のセワゝした気分が漲つて居るが後者は何者となくユツタリとした、大まかな処の有る町だ。桑港の毎日雨降りに引替へてカラリと晴た好天気、丁度日本の五月頃の陽気だ、名の知れない赤い花が方々の垣根や寺の破目抔 など を飾つて居る、併しさすがに商業区域は盛なものだ、大体ローサンゼルスの商業地は四通の大通りからなつて居る、メン。フプリング。ブロードウエー。ヒル。の四つのスツリートからだ、東から西へ一哩許り電車は網の如 やう に自動車は幾千幾万となく通るはゝ僕はローサンゼルスへ来て一番驚いたのは自働車の多いのと女の多い事で有る何しろアメリカの女は(働いてるものは抜にして)普通家庭を持つてる女で朝食後の片付をし昼食の仕度を済すと綺麗に御化粧をして悉く大通に出掛る。だから日の中 うち に住宅地へ行くと殆 ほとん ど女の姿は見出す事が出来ない程だ、何の為にあれ丈の女が出て歩くか、悉く買物に歩くのか、然 さ うでないあれ丈の女が皆買物とすればローサンゼルスの商店は一日に売尽されて了 しま ふであらうと思ふ位女が通つてる、然して其服装が面白い戦争中生地を倹約した結果だと云ふが何しろ馬鹿にスカツチの短い恐らく膝小僧のあたりまで表 あらはした、誠に怪しからん服装をして歩いてゐる、此頃は一寸寒いので足の方は其儘にしておいて頸 くび の圍 まは りにいろゝな毛皮を巻き初めたそして毛皮で耳の辺迄かくして居る膝迄足を出して耳まで隠す日本人は下の方が冷 ひえ るといふので腰の圍りにいろゝなものを巻き付る足袋の上へモー一つカバーと云ふものをはいてゐるが当地の女は日本の人とは全然反対で感じ方が上に許り有らしいそして来年あたりは口を隠す様になればアメリカの世間も大分静かになるだらうと思ふ、扨 さて 其賑やかな町を通り過ぎて十町許り西へ行くと前にいつたイタリアン倶楽部がある四角ばつた大きな建物だブロードウエーの騒ぎに引替へて静な又上品な町だ、ローサンゼルスの名物バンカローが処々に見える其処に吾々の恩師デービーローシー先生が居らるゝのだ、僕は渡米前に伊太利大使宛にして、先生の所へ手紙を出したが受取らなかつたらしい、日本から持つて行つた土産物を抱へて先生の室のドア―を開けた向 むかう むきになつて白人と話しをして居るのは確にローシー先生だ忘れていゝものか恩師の姿を、僕は思はずどなつた  先生! ヒョイと此方 こつち を向いたローシー先生オーナンブーと!非常に驚かれたのでせう声は異様に響いた僕は先生の顔をジーツと見ると先生の目から涙が出て居るではないか!僕も泣かずには居られなかつた!若しこれが芝居なら大芝居をする処だ持つて行つた土産物の一つゝを床の上へ落して両手を拡げて先生に接吻する処なのだが僕は然 さう しなかつた僕は無言 だまつ て立つてた、先生も何故か馳 か けて来やうとはなされなかつた!然して止度なく流れ出る涙を御互にぬぐふともしなかつた!(白人が見てるのに)やがてsン性は歩み寄つて僕の肩へ静に手を上げて自分の部屋へ連れて行つた、部屋の入口で、ヂユリアゝと二声 こゑ 呼 よば はるとイエスと声が聞えたかと思ふと之を奥さんだつた、奥さんは僕を見て驚いた、そして喜んで呉れた!オーナンブさんと二の腕を力強く握つた、僕は少し落付たそして先生の面を能く見た時日本に居られた時より年を取られた耳の辺に新しい白髪が殖えた、奥さんも可なり年を取られた、先生が日本に居らるゝ時何故モツト深切にして上げなかつたらうかと強い後悔の念に打たれた。話しは初まつた、竹内、清水、石井、ローヤル館、田谷!ふとつた何?考へて居られたが安藤と大声に呼ばれた原清子さん!清水奥さん!何?一つ一つ指を折つて数へて行つた、忽ち大きな声で原さん何!原さんは一年許り前からニウヨークへ来て居ますと云つたら驚かれて馬鹿馬鹿しいネと笑はれた、話しは次へ次へと進んで行く先生が日本を経 た つ時帝劇の山本専務が非常に深切にして下すつたのは忘れられない奥さんも側にゐて私直ぐ山本さんに手紙を出しますと仰しやられた、幸四郎さんの話も出たし、宗十郎さん宗之助さんだんゝ名を呼んで松助さんの名迄覚えてた井坂さん名も出た大道具の次郎さんの事をアノ人は伊太利人だと云つてた、日本コミツクオペラ何と切 しき りにあせつて居られたが、突然増田さんと呼んだ! 増田さんが時々日本のコメデーを作られたので覚えて居られたのだ、片語 かたこと まじりの日本語で中々話に手間は取れるが夫 それ へと止度はなかつた其中に学校から帰つて来たベビーが僕の面を見忘れたのには一寸悲観した、アンナに可愛がつてやつたのに最も『お前のおやじは八釜しくつて困るよ』などと時々悪口を教へた事もあるから忘れられた方が結句 けつく よかつたかも知れなかつた。話は切れなかつたが、ダンスの生徒が集まつて来た、来るのは十五六の娘さん許り学校を卒 を へて直ぐダンスに来るらしいロシ―先生の居間は二階で下が教室、例の服装をして廻りの棒につかまり初めた三年町 ちやう の事を思ひ出した、頭が静になつた、帰らなければならない時が来た、後日を約してホテルへ帰つた、先生は日本に居られるより幸福に暮して居られる。
 午前中は一般の役者が稽古に来られる三時からは子供が来る夜は又素人が習ひに来ると云ふ様な具合で可なり能くやつてお居 ゐ でゝす電話も先生の事務所に日本引てある近日現在の学校よりモー一層広い又綺麗な所へ引移る今普請中だと仰せになりました、先生の恩を受けた我々洋劇の人々は先生の此 この 幸福なる生活を聞いて喜んで下さい。さうして時々手紙を上げて下さい。

 Mr. G. B. Rosi
 Ponet Sqnare Hotel
 Pico Grand Ave.
  Los Angeles.

 上の文は、大正十年 〔一九二一年〕 五月一日発行の『歌舞』 五月号 第三年 第五号 に掲載されたものである。

 なお、本号には、他に次の文などもある〔一部〕。

 ・日本へ帰つて … 原のぶ子
 ・横浜朝日座の歌劇 … 内山惣十郎 〔下は、文中にある写真〕

  

   『酒場の踊り子』のオルガ 河合澄子

 ・岸田辰彌君を偲ぶ … 福井生


『ジュリアス・シーザー』 帝国劇場 (1913.6)

2011年10月05日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 JULIUS CAESAR  文藝協会演劇 絵本筋書 帝国劇場

 沙翁劇 ジユリヤス、シーザー(六幕)坪内逍遥訳

 大正二年 六月廿六日ヨリ七月二日マデ 午後五時開演

 第一幕

  第一場 羅馬街頭
  第二場 羅馬大通

  シーザー   加藤精一氏
  アントニー  東儀季治氏
  ブルータス  土肥庸元氏
  カシヤス   森英治郎氏
  カスカ    佐々木積氏
  フレーヰ゛  戸田猿仁氏
  マラゝス   川井源藏氏 
  靴直し    横川唯治氏
  預言者    金井謹之助氏
  カルパアニヤ 大浦雅子氏
  ポオシャ   秋元千代子氏
    其他従者、侍女、市民大勢

 第二幕 羅馬大通

  カシヤス   森英治郎氏
  カスカ    佐々木積氏
  シンナ    河野伸介氏

 第三幕 

  第一場 ブルータスの庭園
  第二場 シーザーの館
  第三場 羅馬街頭

  シーザー   加藤精一氏
  ブルータス  土肥庸元氏
  アントニー  東儀季治氏
  カシヤス   森英治郎氏
  カスカ    佐々木積氏
  シンナ    河野伸介氏
  ツレボニヤス 戸田猿仁氏
  リゲーリヤス 横川唯治氏
  デシヤス、ブルータス 上田榮氏
  メテラス、シンバア  宮島文雄氏
  預言者    金井謹之助氏
  ルシヤス   林千歳氏
  ポオシヤ   秋元千代子氏
  カルパニヤ  大浦雅子氏

 第四幕 議事堂

  シーザー   加藤精一氏
  ブルータス  土肥庸元氏
  アントニー  東儀季治氏
  カシヤス   森英治郎氏
  カスカ    佐々木積氏
  シンナ    河野伸介氏
  ツレボニヤス 戸田猿仁氏
  デシヤス、ブルータス 上田榮氏
  メテラス、シンバア  宮島文雄氏
  アーテミドーラス   川井源蔵氏
  預言者    金井謹之助氏
  アントニーの従者   金井謹之助氏

 第五幕 市場

  アントニー  東儀季治氏
  ブルータス  土肥庸元氏
  カシヤス   森英治郎氏
  詩人シンナ  横川唯治氏
  アントニーの従者   金井謹之助氏
  市民     佐々木積氏
  市民     戸田猿仁氏
  市民     上田榮氏
  市民     宮島文雄氏
    其他市民大勢

 第六幕 ブルータスの陣営

  ブルータス  土肥庸元氏
  カシヤス   森英治郎氏
  ルシリヤス  河野伸介氏
  詩人     宮島文雄氏
  メッサラ   川井源蔵氏
  クローディヤス 金井謹之助氏
  ルシヤス    林千歳氏
  シーザーの亡霊 加藤精一氏
    其他兵士数名

    序幕

 第一場 羅馬。街頭。 現代から二千年も前のことである、羅馬共和国が天下を一統して、その隆盛を極めた頃、その執政官でもあり将軍でもあつたジユリヤス・シーザーの威権名望は他に並ぶ者なく、その競争者であつたポンペーも戦ひ負 まけ て滅びてしまつた、多年内乱と外征に疲れ果てゝゐた羅馬市民は、平和を希望するの余り、シーザーを王にしようとすらも願つた、ところが国内にはポンペーの残党もあり、自由共和の国体を維持したいと望む理想家もあり、シーザーに私怨を抱く者もあり、旁 かたゞ シーザー がポンペーを滅ぼして凱旋した当日のごときは羅馬市は騒ぎであつた、無智な定見のない平民等は唯もう景気の好い方へ雷同する。この凱旋の際もお祭り騒ぎをしてシーザーを迎へようとする、でポンペー党のものが腹を立てゝ、それを罵 のゝし つて追払 おつぱら ひ、シーザーの為に設けた凱旋祝ひの飾り物なぞを破壊する。
 〔以下省略〕

    第四幕

 羅馬。議事堂。  徒党の面々はシーザーが議事堂に着席したので、互に目交 めま ぜをして手筈を定め、先づメテラス、シンバーが請願があると云つてシーザーの前に跪 ひざま づき、追放された兄の赦免を乞ふ、シーザーは断然それを拒む、ブルータス、カシヤス、その他声を揃へて哀願する、シーザー頑然としてそれを拒み、大喝して退けといふ、「もうこの上は腕力だ」とカスカが真先に剣を揮 ふる ふ、これを合図に皆々切つて掛 かゝ る、シーザー善く防ぐ、その中 うち にブルータスが一撃を下す、これを見てシーザーは、「ブルータス汝までが!」と叫んで倒れる、子の如く愛したブルータスまでが我に叛 そむ くかと世をはかなんで、最早 もう 抵抗しようとも思はなかつたのである。
 〔以下省略〕   

 また、奥付頁には、次のリストがある。

 帝国劇場洋楽部員 樂長 竹内平吉  

 第一ヴァイオリン 山崎榮二郎 同 小松三樹三 同 荻田十八三 
 第二ヴァイオリン 吉田盛孝  同 佐燕忠恕  同 吉野俊夫 
 ヴイオラ      蛯子正純  同 紣川藤喜知 
  セロ        小林武彦  同 内藤常吉  同 村上彦三 
 ダブルベース   荒木茂次郎 同 内藤彦太郎 
 フリユート     横山國太郎 
 オーボエ     八屋五郎 
 クラリネツト    横須賀薫三 
 トロンペツト    小田越男  同 吉田民雄 
 トロンボーン   木村仙吾 
 チンパニー    渡邊金治

 大正二年六月二十七日發行


「ファウスト」 帝国劇場 (1913.3)

2011年10月04日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 「ギヨウテ作 森林太郎訳 近代劇協会劇 ファウスト 五幕 十四場 帝国劇場 大正二年 〔一九一三年〕 三月二十七日より 同三十一日まで五日間 毎夕五時開演」などとある。22.8センチ、八面〔裏面四面が、広告〕。
 
 三月二十七日より三十一日迄毎夕五時開演 
 近代劇協会劇 ファウスト 五幕 十四場

            

   場割

   序曲(管絃楽)
 第壹幕 第一場 ファウストの書斎(独白の場)
              (幕合五分)
         
         『基督甦りぬ』の調 クリスト、イスト、エルシュタンデン (管絃楽)
 第貳幕 第一場   ファウストノ書斎(フアストの夢)
              (幕合五分)
     第二場   ファウストの書斎(学生の場)
              (幕合五分)          
          凱旋行進曲(管絃楽)
 第三幕 第一場   アウエルバッハの窖 あなぐら 〔上の写真:左から1枚目〕
              (幕合五分)
     第ニ場   魔女の厨 〔2枚目〕
            (休憩廿分御食事時間)
          ワルツ(管絃楽)
 第四幕 第一場   往来(グレエトヘンとの邂逅)
              (幕合二分) 
     第ニ場   グレエトヘンの部屋(ツウレの王の歌) 〔3枚目〕
              (幕合五分)
     第三場   往来(メフィストォとファウストとの散歩) 〔4枚目〕
              (幕合三分)
     第四場   マルテの部屋
              (幕合三分)
         『離したまへの調』 ラツセ、ミツヒ (管絃楽)
     第五場   マルテの庭(花の場) 〔5枚目〕
              (幕合五分)
         『既に暮れたり』の調べ エス、イスト、シヨオン、シユペエト (管絃楽)
     第六場   マルテの庭(信仰質問の場)     
 第五幕 第一場   往来(グレエトヘンの祈、ワレンチンの争闘)
              (幕合五分)
     第ニ場   教会堂(悪霊の場)
              (幕合五分)
          牢獄の場の曲(管絃楽) 〔6枚目〕
     第三場   牢屋

 
   役割(登場順)

 ファウスト             上山草人 
 地の精               南部邦彦 
 ワグネル   (ファウストの学僕) 原田潤 
 メフィストオ (悪魔)       伊庭孝 
 学生                野添愛孝 
 フロツシユ             清水金太郎 
 ブランデル             原田潤 
 ジイベル              奥村博 
 アルトマイエル           高井至 
 牡猿             女優 波川千草 
 牝猿             女優 若山椿 
 魔女             女優 山川浦路 
 グレエトヘン         女優 衣川孔雀 
 マルテ            女優 山川浦路 
 リイスヘン          女優 玉村歌路 
 ワレンチン             高井至 
 悪霊                南部邦彦 
   合唱、舞踏 帝国劇場歌劇部員
   其他町の人大ぜい
 
 背景図案  石井柏亭
 管絃楽指揮 竹内平吉
 小歌作曲  清水金太郎
 幕内指揮  塚田左一 
         村田實

 舞台監督  伊庭孝

 協会顧問  文学博士        坪内雄藏
         医学博士 文学博士 森林太郎

 協会代表者 上山草人

 観劇料 特等 二圓 一等 一圓五十銭 二等 一圓 三等 七十銭 四等 二十五銭

 筋書

  此劇の時代は十五世紀頃。場所は独逸の或る町。

 第一幕

  ファウストは宇宙人生の深秘を探らうとして、あらゆる学問を研究したが、五十歳を超えて猶煩悶してゐる。遂に魔法の書を開いて咒文 じゆもん によつて地の精を呼び出して見たが、その恐ろしい姿には寄り附けもせぬ。死なうと思つてゐると、学僕のワグネルが這入つて来て、お目出たい学生気質を表白して往く。ファウストは一切の努力に絶望して遂に毒を仰がうとする。その時復活祭の鐘と歌とが聞えるので、子供の時の楽しい係恋 あこがれ を想ひ起して、死を止 とど まる。
 
 第二幕

  復活祭の鐘の音で生の喜びに引き戻されたファウストの処へ、犬の姿になつて悪魔メフィストオが入り込んで来た。メフィストオは魔術でファウストに美しい女の幻を見せた。其間に悪魔は魔除の印を取り去つて、翌日も亦やつて来て、遂にファウストの供をして実世間を見て歩くといふ約束をした。そこへ新入の学生がファウストの説を聞きに来るので、メフィストォはファウストの代理をして、悪魔一流の気焔を吐く。其間にファウストは支度をしてメフィストォと出立する事になる。

 第三幕

  アウエルバツハの酒窖 さかぐら に学生が四人で乱酔してゐる。メフィストォとファウストとは此中へ交つて、メフィストォは魔法で学生をたぶらかす。それからファウストを魔女の厨 くりや へ連れてゆき若くなる薬を吞ませてファウストを二十代の青年にしてしまふ。ファウストは魔法の鏡に映る美女の姿を見て、情欲の人になつてしまふ。

 第四幕

  (是 これ から先を特にグレエトヘン悲劇といふ)町の娘グレエトヘンはファウストに見初 みそ められた。堅気な育ちで、淫らな事をする娘ではない。ファウストはメフィストォにせがんで、宝石類を潜 ひそ かにグレエトヘンの戸棚に入れて置く。グレエトヘンは之を見て一寸動かされたが、教会の坊さんが取上げてしまふので、誘惑せられなかつた。メフィストォはグレエトヘンの隣の女房マルテを手に入れて、之に取持ちをさせる。遂にグレエトヘンは花をむしり乍 なが ら、ファウストと恋を語るやうになつた。そして母の目褄 めつま を忍んで逢ふ為にファウストに眠り薬を貰つて母に之を呑ませる事になる。

 第五幕

  グレエトヘンは堕落した。私生児を殺し、母を殺すに至つた。兄のワレンチンは之を憤 いきどほ つて、或晩ファウストを待伏したが、却つて殺されてしまふ。グレエトヘンは良心に咎められて、教会堂へ行つても、悪霊に悩まされるばかりである。遂に罪は顕 あらは れて牢屋に繋がれるやうな事になつた。ファウストは之を聞いて焦立 いらだ ち、メフィストォを詰問するけれども、メフィストォは人に同情は持たぬ。遂に夜に乗じて牢獄へ救ひに行くと、グレエトヘンは死を決してゐて、遁 のが れやうとしない。もう死ぬばかりに悩んでゐる。メフィストォは『あれが処刑 しおき だ』といふ、天から声があつて『救ひだ』といふ。既に夜が明けるのでファウストォは去る。牢屋の中からは、ファウストの名を呼ぶ声がひゞく。

                  帝国劇場

 掲載の写真は、すべて絵葉書のもので、4枚目が矢吹高尚堂製であるほかは、全て銀座上方屋製である。

 なお、広告は、「今日は帝劇 明日は三越へ」とある三越呉服店・日本蓄音器商会・西洋料理の中央亭・ライラックのエメラ化粧品などである。


「マクベス」 帝国劇場 (1913.9)

2011年10月04日 | 帝国劇場 総合、和、洋

 表紙には、「森鴎外博士訳 近代劇協会所演 沙翁作 悲劇 マクベス (五幕、十七場) 帝国劇場  大正二年九月二十六日より同三十日まで五日間 毎夕六時開演」などとある。22.7センチ、四つ折れ、八面〔裏面四面は、広告〕。
 
 近代劇協会第四回公演(九月廿六日より卅日迄毎夕六時開演) 
 沙翁悲劇 マクベス (五幕十七場)
      (此の演劇を坪内博士に献ず  舞台監督)

   役割 (登場順)

 第一の魔女           女優 若山椿
 第二の魔女              南部邦彦
 第三の魔女              石井林郎
 ダンカン王(スコツトランド王)    菅雪郎
 マルコム (ダンカン王の王子)  ● 金井謹之助
 ドナルベン(ダンカン王の王子)    長尾金太郎
 レノツクス(スコツランド貴人)    神林末三
 兵卒   (負傷したる)       近藤主彌
 担架兵卒               高橋巌
 担架兵卒               小幡平二郎
 ロス   (スコツランド貴人)  ● 戸田猿仁 
 マクベス (王軍の将官後に王)  ● 加藤精一
 バンコオ (王軍の将官)     ● 小野益太郎
 アンガス (スコツランド貴人)    岩崎鼎
 メンテイス(スコツトランド貴人)   石井林郎
 ケイステネス(スコツトランド貴人)  長尾金太郎
 マクベス夫人(後に妃)     女優 山川浦路子
 従者   (マクベス城の従者)    小島洋々
 フリアンス(バンコオの子)      香住春樹
 従者   (バンコオの従者)     上原修
 門番                 日疋重亮
 マクダツフ(スコツトランド貴人)   宇田省三
 一老翁                近藤主彌
 第一の刺客              菅雪人
 第二の刺客              日疋重亮
 第三の刺客              岩崎鼎
 ヘカテ             女優 松良静緒
 霊                  香住春樹
 霊               女優 香住浦子
 マクダツフ夫人         女優 衣川孔雀
 クダツフの伜             小野夏夫
 使者(マクダツフ家に来る)    ● 小野益太郎
 医師                 岸田辰彌
 妃付侍女            女優 杉山綾子
 シイトン(マクベスに随従する一士官) 南部邦彦
 老シワアド(イングランド軍の将官)  日疋重亮
 シワアドの伜             近藤主彌
 貴婦人                十数名
 貴公子                十数名
 兵卒                 数十名
 (帝国劇場歌劇部男女俳優数十名好意出演)
                (●印は旧文芸協会員)

      場 割
        管絃楽
 第一 場 荒野 (魔女の話)
 第二 場 フオレス附近の地(戦勝の報告)
 第三 場 荒地 (魔女の預言)
 第四 場 フオレス宮中の一間 (マクベスの謁見)
 第五 場 インソネス、マクベス城の一間 (弑逆の陰謀)
 第六 場 マクベス城の中庭 (ダンカン王弑逆
       (幕間二十分)
 第七 場 マクベス城外 (ロスと翁)
 第八 場 フオレス宮殿の一間 (刺客引見)
 第九 場 フオレス城門前 (バンコオ虐殺)
 第十 場 フオレス宮殿広間 (饗応)
       (幕間二十分)
 第十一場 魔女の洞窟 (幻影とマクベス王の苦悶)
 第十二場 フアイフ、マクダツフ城の一間 (マクダツフ妻子の虐殺)
 第十三場 イングランド王宮の前 (マクダツフの誠忠)
 第十四場 ダンシネエン城内の一間 (マクベス夫人の夢遊病)
       (幕間十分)
 第十五場 ダンシネエン城内の一間 (マクベス王の惑乱)
 第十六場 ダンシネエン附近の地 (マルコム、老シワアドの出陣)
 第十七場 ダンシネエン城内 (マクベス王の戦死)

      マクベス劇の梗概

   時代 十一世紀、場所 スコツトランドとイングランドの一部

  スコツトランドの勇将マクベスは、ノルエー軍を打ち破つて目出度凱旋する。劇はこゝから始まる。スコツトランド王ダンカンは、マクベスの戦功に酬ゆる為めに、彼をコオドル侯に任じた、然るに、マクベスは不思議な魔女の誘惑的予言に心を動かされて、スコツトランド王の王冠に望をかけたが、流石にそれには心を悩まさずには居られない。
  玆にマクベス夫人はマクベスが躊躇して居るのがもどかしくて堪らず、言葉を極めてダンカン王弑逆の暴挙を敢てなさしめる、で、マクベスは王位に即いたが、彼は弑逆の疑懼恐怖に苦悶し、忠良なる同僚バンコオを殺し、戦友マクダツフの妻子を殺して、僅かに不安の念を消さうと試みたが、彼の心は益々深い悩みの淵に沈むで行つた。
  魔女の洞窟を訪れて、来るべき我が身の運命を尋ねて見たが、そこでもマクベスは懊悩苦悶をますばかりであつた。そのうちにスコツトランドを逃れ走せにやつて来たマクダツフ、ロス等とイングランドの王宮の前で義軍を挙げる謀をめぐらした。
  マクベス夫人も流石に煩悶苦悩して遂に夢遊病にかゝつた。医者と侍女とが専心に介抱して居るけれど、何の効もなかつた。マルコムの軍は犇々 ひしひし と攻めよせて来る、夫人は病死した。マクベスは愈々戦場に立つた、而して勇猛に戦つたが遂にマクダツフの為めに討たれた、マルコムがスコツトランドの王冠を戴く事になつた。

 背景主任  北蓮造
 電気指揮  秀文逸
 幕内指揮  日疋重亮
 幕内指揮  加藤朝鳥

 管絃楽指揮 竹内平吉
 技芸師導  ヂー、ヴイー、ロシー
 舞台監督  上山草人

 協会顧問  医学博士 文学博士   森林太郎
 協会主宰  上山草人

 観劇料 特等 貮圓 壹等 壹圓五拾銭 貮等 壹圓 参等 七拾銭 四等 参拾銭

 などとある。

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