朝の出勤時って誰もが忙しなく、気が立っているものです。71歳になってもなお会社勤めをしている我が相方も例外ではありません。
「行ってらっしゃい、気をつけて!」この送り出しの挨拶言葉、相方の出勤時にいつも心懸けている私の常套句ですが、
「行ってきます」と、普通なら素っ気ない返事が返ってくるのが定番です。
ところが、その日は珍しく「ハイハイ!」と、軽いノリの意外な返事。
「(今日は何かよいことありそう?!)」気持ちのよい朝の出だしに、そんな予感がしました。
さて、最近の私は放射線治療を受けるため、県立病院に毎日通院中です。
その日も無難に放射線治療を終えて、次の会計では高額療養費の自己負担限度額を超えたとかで90円で済みました。入院に比べ外来通院だと自己負担額の上限も低くなるそうです。
事前に放射線治療なら4千円弱かかるはずと聞いていただけに、大層安く済んだのでビックリしました。お陰で、その日以降は月が変わるまで、会計は只で済みます。
よいことは続くもの。そんな幸運なことがあってルンルン気分での帰り道、病院玄関前のロータリーに沿った歩道でのことです。
病院玄関へと向かって歩いていたご婦人がふと立ち止まって、
「素敵なお帽子! カッコいいわぁ~、とってもお似合いよ~!」
何と、私に声を掛けてきたのです。
歩き始めたら自動的に歩測を始める私です。いつものように無心になっていた頭の中が、この一言で千々に乱れ、それまでの歩数がどこかへふっ飛んでしまいました。
「・・・・・えっ? これ、普通の夏用中折れ帽ですけど・・・。
照れますね~?! いゃ、どうもありがとうございます。」と、
照れ笑いしつつも腹の中では
「(歩測中なのに、何て罪作りな人なんだ!)」と、半分恨めしく思ったりもしました。
ところが、人間誰でも褒められて悪い気はしないもの。めったに言われたことのない褒め言葉は劇薬でした。
それからというものその日は、褒められたときの言葉を何度も反芻しては、ついニヤニヤと口元が緩みっぱなし。褒め言葉一言で、かくも舞い上がってしまった私でした。
医療費の自己負担が安く済んだこと、珍しく外見を褒められたこと、よいことが重なる日って実際あるものですネ。
“始めよければ全てよし”
思えば、この言葉を象徴していたような日でした。朝の出だしが気持ちいいものであれば、その日一日よいことがきっとあります。
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